それから暫くの時が流れ、アリスメンディが天幕の中から外へと姿を現した。
入り口の外で護衛をしていたビルカパサが礼を払うと、アリスメンディも無言で礼を払う。
表情を動かさぬ黒衣の僧からは、ビルカパサをはじめ、周囲の衛兵たちの誰もが、彼とトゥパク・アマルとの間で交わされた会話の内容を推察することは不可能だった。
天幕の外で控えていたロレンソが素早くアリスメンディの傍に参じ、僧の天幕へと導いていく。
他方、精悍な横顔で、その二人の後ろ姿を見送っていたビルカパサは、背後から不意に何かの気配を感じて、敏捷に振り返った。
そして、その目を瞬かせる。
「アンドレス様!?」
いつの間にか己の傍に立っていたアンドレスの姿に、ビルカパサは驚いて見入った。
「アンドレス様、いつからいらしたのです?!」
「すいません、驚かせて…!
今、来たところです。
何となく落ち着かなくて。
そろそろトゥパク・アマル様とアリスメンディ殿の話が終わる頃かと思って」
そう言いながら、アンドレスは所在無げに頭をかいている。
ビルカパサは低く息をつくと、誠実な瞳で頷いた。
「確かに、アンドレス様のお気を揉む気持ちは、分かります。
トゥパク・アマル様とお話をされていきますか?
アリスメンディ殿も戻られたところですし、お取次ぎを……」
そう言って天幕の中に入りかけたビルカパサを、「いえ…!そこまでは…!」と、アンドレスの手が、慌てて相手の腕を掴み、引き止めた。
が、その瞬間、二人の前で、天幕の入り口が、すっ、と内部から開け放たれた。
「――!」
ギックリとして見上げるアンドレスを、案の定、中から姿を現したトゥパク・アマルが黙って見下ろしている。
【登場人物のご紹介】
≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アリスメンディ≫
イエズス会に属するスペイン人の高僧。
かつてはペルー副王領で布教活動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け、英国に亡命。
現在は英国王室と近しい間柄にあり、此度の英国艦隊に相談役として乗船している。
≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、4万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との大決戦に向けて、ラ・プラタ副王領への遠征から、ペルー副王領のインカ軍本隊へと帰還を果たした。
≪ビルカパサ≫
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパクと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。
入り口の外で護衛をしていたビルカパサが礼を払うと、アリスメンディも無言で礼を払う。
表情を動かさぬ黒衣の僧からは、ビルカパサをはじめ、周囲の衛兵たちの誰もが、彼とトゥパク・アマルとの間で交わされた会話の内容を推察することは不可能だった。
天幕の外で控えていたロレンソが素早くアリスメンディの傍に参じ、僧の天幕へと導いていく。
他方、精悍な横顔で、その二人の後ろ姿を見送っていたビルカパサは、背後から不意に何かの気配を感じて、敏捷に振り返った。
そして、その目を瞬かせる。
「アンドレス様!?」
いつの間にか己の傍に立っていたアンドレスの姿に、ビルカパサは驚いて見入った。
「アンドレス様、いつからいらしたのです?!」
「すいません、驚かせて…!
今、来たところです。
何となく落ち着かなくて。
そろそろトゥパク・アマル様とアリスメンディ殿の話が終わる頃かと思って」
そう言いながら、アンドレスは所在無げに頭をかいている。
ビルカパサは低く息をつくと、誠実な瞳で頷いた。
「確かに、アンドレス様のお気を揉む気持ちは、分かります。
トゥパク・アマル様とお話をされていきますか?
アリスメンディ殿も戻られたところですし、お取次ぎを……」
そう言って天幕の中に入りかけたビルカパサを、「いえ…!そこまでは…!」と、アンドレスの手が、慌てて相手の腕を掴み、引き止めた。
が、その瞬間、二人の前で、天幕の入り口が、すっ、と内部から開け放たれた。
「――!」
ギックリとして見上げるアンドレスを、案の定、中から姿を現したトゥパク・アマルが黙って見下ろしている。
【登場人物のご紹介】
≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アリスメンディ≫
イエズス会に属するスペイン人の高僧。
かつてはペルー副王領で布教活動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け、英国に亡命。
現在は英国王室と近しい間柄にあり、此度の英国艦隊に相談役として乗船している。
≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、4万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との大決戦に向けて、ラ・プラタ副王領への遠征から、ペルー副王領のインカ軍本隊へと帰還を果たした。
≪ビルカパサ≫
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパクと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。
◆◇◆◇◆ご案内◆◇◆◇◆
ホームページへは、下記のバナーよりどうぞ。
ランキングに参加中です。ご投票頂けると、とても励みになります。