コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(814) 碧海の彼方

2013-01-30 21:00:10 | 碧海の彼方

トゥパク・アマルは、若武者たちの陣頭に立つロレンソの方へ、まっしぐらに馬を駆り立てていく。

 
その進路に布陣していたロレンソ軍の兵たちが、トゥパク・アマルのための通り道を次々と開いていく。

 
それらの兵たちに眼差しで礼を払いながら駆け抜けていくトゥパク・アマルの周囲では、「トゥパク・アマル様!!」「陛下!!」と、熱狂的な歓声が波のように広がっていく。

 
屋上階から見下ろすアレッチェの目には、広大な湖面が真っ二つに割れて、そこに整然たる道が現れていくかのような光景であった。

 
その道を一気に走り抜けたトゥパク・アマルが、ハッとこちらを振り向いているロレンソに、鋭く頷いて馬を寄せた。

 
「ロレンソ殿、待たれよ!!

 
前進は、ならぬ!」

 
「トゥパク・アマル様、申し訳ございません

 
ですが、わたしは――!」

 
平素の沈着なロレンソとは別人のように、殺気だって血走った目を向ける眼前の若き将兵を真直ぐ見つめたまま、トゥパク・アマルは俊敏に馬から飛び降りた。

 
その力強い手が、ロレンソの肩を、ガッシ、と包むように押える。

 
「ロレンソ殿」

 
「トゥパク・アマル様!」

 
「ロレンソ殿、ここは堪えてくれ。

 
事情は、ビルカパサから聞いた。

 
そなたの気持ちは、良く分かる。

 
だが、あのような強壮な火力により防護された敵陣に正面突撃を仕掛けるのは、あまりに危険が大きい。

 
そなた自身も、そなたの隊の若き精兵たちも、尊い命を散らすことになろう。

 
そなたを失って、一番悲しむのは誰だと思う?」

 
「トゥパク・アマル様……!」

  

【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

ロレンソ(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。
現在、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて、若きインカ兵たちを統率している。

≪マルセラ≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。
アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが

 

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コンドルの系譜 第九話(813) 碧海の彼方

2013-01-29 23:44:59 | 碧海の彼方

マルセラの決死の叫びが終るよりも早く、アレッチェの振り上げた頑強な軍靴が、彼女の柔らかな腹部に思い切り蹴り込まれた。

 
――!!」

 
血を吐きながらむせるマルセラの体が、石床に激しく叩きつけられる。

 
強打のために意識朦朧となっているマルセラの襟首を、むずと掴んで引き摺り起したアレッチェの形相には、はち切れんばかりに青筋が立っている。

 
「下賤なインディオ女め。

 
それほど殺されたくば、願い通りにしてくれよう」

 
今にも手すりの向う側にマルセラの体を放り出さんとしているアレッチェの傍で、サルセードが、けたたましく叫んだ。

 
「あ!!

 
閣下、お待ちを!

 
あれは、トゥパク・アマルではありませんか?!」

 
――!」

 
次の瞬間、アレッチェの手から、マルセラの細い体が、ドサリ、と床に転がり落ちる。

 
アレッチェの全神経は、完全に眼下へ吸い寄せられていたのだ。

 
彼の視線の先では、突如現れたインカ軍騎兵部隊が、砦の射程内に進軍しようとしているロレンソ軍の長大な戦列を、外周から包み込むようにして、蹄音高く駆け込んできていたのだった。

 
「全軍、進軍を止めよ!!

 
断じて、前に出てはならぬ!!」

 
そう厳然と号を発しながら疾駆する逞しい白馬――漆黒の長髪をなびかせ、手綱を巧みに繰るその黒衣の人物に、アレッチェの目は、いやがうえにも引き付けられる。

 
(トゥパク・アマル――!!)

  

【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪マルセラ≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。
アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが

≪ホセ・アントニオ・アレッチェ(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。 
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。

 

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コンドルの系譜 第九話(812) 碧海の彼方

2013-01-26 02:45:14 | 碧海の彼方

「そのことなら、案ずることはない」

 
そう言って、アレッチェは、上空の方をサッと一瞥した。

 
先程まで星が瞬きスッキリ晴れ渡っていた天頂に、今は薄雲がかかりはじめている。

 
遥か遠くでは厚い雲が立ち込め、雷鳴がゴロゴロと低く轟いているのが聞こえてくる。

 
空を見上げているサルセードに視線を戻し、アレッチェが再び口を開いた。

 
「やがて、ここにも雨がやってこよう。

 
しかも、あの様子では、かなり強く降りそうだ。

 
多少の火の燃え広がりは、豪雨がなんとでもしてくれる。

 
それより、我らとしては、天候が崩れる前に、インカ軍を始末してしまうことが肝要だ。

 
焼け爛れた砲弾を浴びた兵たちの惨状を目の当たりにさせれば、インカ軍全体の恐怖心や混乱を煽り、士気を貶め、よい見せしめにもなろう」

 
「ごもっともです、閣下」

 
サルセードは大袈裟なほど首を上下させて頷き、砲主長の方に「準備をしろ!」と目配せしてから、さらに語を継いだ。

 
「あのこざかしい若い将兵にも、よく狙い定めて、ぶっぱなしてやりましょう」

 
その二人の言葉を愕然と聞いていたマルセラが、どこに力が残っていたのかと思われるほどの勢いで、ガバッ、と立ち上がった。

 
と見るや、自ら手すりぎわに走り寄り、眼下のロレンソ軍に向かって渾身の力で叫んだ。

 
「来てはだめ!!

 
熱弾を打ち込むつもりよ!!」

  

【登場人物のご紹介】

≪マルセラ≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。
アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人。
此度の作戦では、昨日の英国艦隊とスペイン艦隊の戦況を陸上のインカ軍陣営に報告するため、少人数の部下と共に沖合の小島に渡っていたのだが

≪ホセ・アントニオ・アレッチェ(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。 
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。

サルセード大佐(スペイン軍)
此度の沿岸部におけるインカ軍及び英国艦隊との決戦において、砦のスペイン軍を束ねている。
当地での戦いにおいて、スペイン軍総指揮官アレッチェの補佐官の任にある。

  

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コンドルの系譜 第九話(811) 碧海の彼方

2013-01-23 20:48:08 | 碧海の彼方

それから、アレッチェは、サルセード大佐に目をやって、手すりぎわにズラリと並んだ要塞砲の群れを顎でしゃくった。

 
「あの青二才のインカ兵どもが十分な射程圏内に入るまでよく引き付け、その上で、我らの要塞砲の威力をたっぷり味わわせてやるがよい。

 
このアンドレス軍とやらの歩兵と砲兵を早々に潰しておけば、後に現れようトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊を叩く上でも有益だ」

 
「はっ、閣下!

 
まこと、仰せのとおりかと。

 
それにしても、さすがはアレッチェ様ですな。

 
何の役にも立ちそうにないと思われた捕虜の小娘を使って、あの頑固に動かぬ敵兵を我らの思う壺にはめるとは」

 
そう言って下卑たしたり顔を向けた視線の先では、アレッチェの猛打によって石床に打ち倒されたままのマルセラが、血だらけの顔に堪えきれぬ涙を浮かべながら、懸命に身を起そうとしている。

 
対するアレッチェは、「いらぬお喋りは謹んでもらおうか、大佐」と、冷たくサルセードを一蹴した。

 
「それより、砲弾を詰め込んだ釜に、大火を焚いておくのを忘れるな。

 
英国艦隊に見舞う予定だった赤熱弾を、代わりに、奴らを逃がしてやったインカ兵どもに引き受けてもらおうではないか」

 
そのアレッチェの言葉に、サルセードがハッとして、たぷついた頬を躊躇いがちに揺らした。

 
「ですが、アレッチェ様。

 
あそこのインカ軍に向かって赤熱弾を大量に放てば、この砦の麓に広がる荒れ野に火災を引き起こす恐れがあります。

 

そうなれば、こちらにまで火の手が回ってくる危険がありましょう」

 

【登場人物のご紹介】

ロレンソ(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。
現在、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて、若きインカ兵たちを統率している。

≪ホセ・アントニオ・アレッチェ(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。 
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。

≪サルセード大佐≫(スペイン軍)
此度の沿岸部におけるインカ軍及び英国艦隊との決戦において、砦のスペイン軍を束ねている。
当地での戦いにおいて、スペイン軍総指揮官アレッチェの補佐官の任にある。

 

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コンドルの系譜 第九話(810) 碧海の彼方

2013-01-23 02:51:51 | 碧海の彼方

ロレンソは、刀身を中空で一閃させると、ビッ、とアレッチェの方角を剣先で鋭く突いた。

 
「これより、砦に向けて進撃を開始する!

 
歩兵機動部隊は、突撃準備隊形にて待機。

 
まず、砲列部隊第一戦列が、砦への砲撃を開始せよ。

 
その間に、砲列部隊第二戦列が砦に向かって、速やかに前進。

 
砦を射程内に収める位置まで前進したら、一旦停止し、その場で第二戦列が砦への砲撃を開始。

 
その隙に、第一戦列が、さらに深く前進し、砲撃を再開。

 
続いて、第二戦列が、さらなる至近距離まで砦に肉薄して砲撃を再開。

 
砦を十分な射程内に収めたら、第一戦列、第二戦列とも、各地点から制圧砲撃を続行。

 
その間に、歩兵機動部隊が一斉前進せよ。

 
砲列部隊両戦列の援護のもと、歩兵機動部隊は砦の真下まで突撃し、そのまま正門を打ち破って、砦内部への侵入を図る!」

 
己の言葉に耳をそばだてながら、眼光炯々として腕を鳴らしている兵たちに、ロレンソも力強く頷き返した。

 
「これまで幾度も訓練を積んできた戦法だ。

 
そなたたちなら、必ずや成し遂げられよう!

 
行くぞ!!」

 
「オー!!」

 
若き兵たちの雄々しい鬨の声が、天に高々と響き渡っていく。

 

 

他方、砦の屋上階では、その声に聴き耳を立てながら、アレッチェが冷笑を浮かべていた。

 
「単細胞な愚か者たちよ。

 
どうやら動く気になってくれたようだな」

 

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ロレンソ(インカ軍)
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現在、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて、若きインカ兵たちを統率している。

≪ホセ・アントニオ・アレッチェ(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。 
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
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