コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(570) 碧海の彼方

2011-07-07 02:27:31 | 碧海の彼方
今、アレッチェの冷徹な思考が、軋みを上げながら、ゆっくりと動き出す。

(インカ軍本陣周辺には、奴らの援軍となりうるような兵力は決して存在しなかったはず。

にもかかわらず、我が軍の兵たちが遁走するほどの大規模なインカ軍の「援軍」が出現したというのは、一体、どういうことだ?

もし本当にそうであったのならば、考えられること、それは……)

彼の獰猛な眼が、殺気を帯びて、血走った閃光を放つ。

(――あのトゥパク・アマルが苦し紛れの策を弄して、それらしく見せかけた、偽装の援軍だったに相違あるまい!

そのような見掛け倒しの小細工に引っかかるとは、何たる…何たる……!)

新たに押し寄せ、激しく燃え上がる、憤激の炎。

その苛烈な炎が全身を焼き尽くして通り過ぎていくのを堪え、待ちながら、アレッチェは二本目の葉巻に火をつけた。

重く濃密な煙を深々と胃の底に落とし込み、懸命に心を鎮め、精神統一しようと試みる。

(だが、トゥパク・アマルが何らかの手を打って、本当に「援軍」の幻を見せようと謀ったのだとしても、夜間とはいえ、あのガルベスに鍛えられた我が軍の兵たちが、そう簡単に本物と見誤るだろうか?

もしそのようなことが起こったのだとしたら、その幻を本物と見誤るほどに、我が軍の兵たちが混乱した状況に追いやられていたということになる。

ミカエラや息子たち、そして、訓練の浅い義勇兵たちが大半を占めていたはずのインカ軍の本陣で、何ゆえそのような事態に陥ったのか?)


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)。
植民地支配における多大な権力を有する。
ペルー副王領の討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵。


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