残業代請求や解雇などを扱う顧問弁護士(法律顧問)

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サービス残業(残業代請求)

2009-08-16 10:36:59 | 残業代請求
今回は、残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

(2)これらの事実からすれば,太郎は,被告に入社して2か月足らずで本件作業所に配属されてからは,上司から極めて不当な肉体的精神的苦痛を与えられ続けていたことが認められる。そして,本件作業所の責任者であるA所長はこれに対し,何らの対応もとらなかったどころか問題意識さえ持っていなかったことが認められる。その結果,被告としても,何ら太郎に対する上司の嫌がらせを解消するべき措置をとっていない。
 このような被告の対応は,雇用契約の相手方である太郎との関係で,被告の社員が養成社員に対して被告の下請会社に対する優越的立場を利用して養成社員に対する職場内の人権侵害が生じないように配慮する義務(パワーハラスメント防止義務)としての安全配慮義務に違反しているというほかない。したがって,この点に関し,被告には,雇用契約上の債務不履行責任がある。そして,同時に,このような被告の対応は,不法行為を構成するほどの違法な行為であると言わざるを得ないから,この点についても責任を負うべきである。もっとも,本件全証拠によっても,被告は,原告一郎との関係で準委任契約を締結したとは認められないから,被告にこの点に関する責任までは認められない。
(3)この点,被告は,Cが太郎に対してポールを投げたのは,Cが太郎に対し,夕方5時ころから測量を始めると言ったところ,太郎がこんな遅くからという感じでダラダラしていたので,Cが嫌ならやめとけと言って測量用のポールを太郎の方に放り投げたところ,弾みで太郎の足に当たったものであると主張しているが,そもそも,太郎が被告が主張するような態度をとっていたと認めるに足りる証拠はおよそないし,いずれにしても,Cが行った行為を正当化する理由となるものではおよそない。むしろ,上記認定事実のとおり,このような事実をはじめ,ガムをズボンに吐きつけられたり,昼休みも休むことを許されず,深夜遅くまで残業させられ,徹夜勤務になることもあったような過酷な職場環境であったことからすれば,太郎は,被告に入社後,間もなく配属された本件作業所において,先輩から相当厳しい扱いを受けていたことがうかがえる。このような扱いは,指導,教育からは明らかに逸脱したものであり,太郎がこれら上司の対応について自分に対する嫌がらせと感じたとしても無理がないものであったというほかない。
 なお,被告は,太郎が足を怪我したことについては,時効が成立しているとの主張をしているものの,原告らは,個々の出来事を取り上げて債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求としての慰謝料請求をしているのではなく,太郎が被告に入社し,本件作業所に配属されてから,本件交通事故により死亡するまでの一連の太郎の上司らによる行為ひいてはそれに関する被告の対応を問題としてとらえていることからすれば,この原告らの請求に関する消滅時効の起算日は,太郎が死亡した平成16年1月13日とするべきである。
6 もっとも,本件交通事故当日太郎を飲み会に出席させたこと及び上司を自宅まで車で送らせたことについては,別途検討を要する。
(1)上記認定事実によれば,太郎は,本件交通事故当日である平成16年1月13日も午後6時半ころから午後8時ころまで,B,C,D及びEとともにお好み焼き屋で飲食し,その後も,C及びEと居酒屋に飲みに行っていることが認められる。
 この点,証拠(〈証拠略〉)によれば,太郎は,新入社員紹介の中で趣味として酒を飲むことを掲げていることが認められるが,これは,通常の健康状態を前提とするものであって,平成16年1月5日から連日のように深夜まで残業が続いた上,同月12日には徹夜勤務となり,2時間程度しか仮眠がとれていない状態で,太郎が酒を飲むことを積極的に望んでいたとは考えにくい面がある。むしろ,これらの飲食は,太郎としては,つきあいとしてやむを得ず出席した面が強いものとも考えられる。
 もっとも,この飲食には,A所長は全く参加していないし,BやDもお好み焼き屋で飲食しただけでその後の居酒屋には行っていないことなどからすれば,上記のとおり,太郎がCらからパワーハラスメントを受けていたとしても,太郎に対して,被告の職務の一環としてこれらの飲食に参加しなければならないといった強制力があったとまでは認めることはできない。太郎がCらからの飲食の誘いを断り切れなかったとしても,それは,被告の職務の一環としてではなく,個人的な先輩からの誘いを断り切れなかったと解するほかなく,太郎としては,あくまで自由意思で参加したものというべきであり,被告の職務の一環として飲食をともにしたということまではできない。したがって,この点に関して,原告らが被告に何らかの責任を問うことはできない。そして,この飲み会が被告の職務の一環であったとまでは認定できない以上,その帰宅方法について,原告らが被告に何らかの責任を問うこともできない。
(2)また,上記認定事実によれば,C,E及び太郎が居酒屋での飲酒後に本件作業所に戻った時点で,太郎がCやEから自宅まで車で送るよう求められたのに応じて自ら運転してCやEをそれぞれ自宅まで送ることにしたことが認められるが,これについても,先輩・後輩の関係から断り切れなかったことは容易に想像されるところであるが,これを被告の職務の一環であったということまではできない。したがって,これに応じて太郎が飲酒運転をした結果,本件交通事故を起こしたことについても,それ自体を被告の職務の一環ということはできず,この点に関して,原告らが被告に何らかの責任を問うことはできない。
7 慰謝料について
 以上によれば,被告は,雇用契約における太郎が健康を害しないように配慮(管理)すべき義務(勤務管理義務)としての安全配慮義務に違反するとともに,被告の社員が養成社員に対して被告の下請会社に対する優越的立場を利用して養成社員に対する職場内の人権侵害が生じないように配慮する義務としてのパワーハラスメント防止義務に違反したことに伴う慰謝料及びこれらに関する不法行為に基づく慰謝料を支払うべき責任があることになる。
 ただ,上記のとおり,太郎が,入社直後からあまりに過酷な時間外労働(残業)を,それに見合った割増賃金を支給されることもなく恒常的に強いられ,その上,養成社員という立場であったことからおよそ不平不満を漏らすことができない状況にある中で,上司からさまざまな嫌がらせを受け,肉体的にも精神的にも相当追いつめられていたなかで,本件交通事故が発生したことからすれば,原告ら太郎の両親が,本件交通事故が太郎の飲酒運転が原因であるから被告には一切責任がないとする被告の態度に憤慨するのも至極当然である。すなわち,このことは,それだけ,太郎が強いられてきた時間外労働(残業)があまりに過酷で度を超したものであり,上司から受けたさまざまな嫌がらせが極めて大きな肉体的精神的苦痛を与えていたと考えられるほど,違法性の高いものであったことのあらわれである。
 したがって,上記雇用契約の債務不履行及び不法行為に基づく慰謝料額を検討するにあたっては,このような違法性の高さを十分考慮する必要があり,本件にあらわれたすべての事情を総合的に考慮すると,太郎に生じたその慰謝料額としては,いずれの請求に基づく慰謝料としても,150万円をもって相当というべきである。したがって,これを各2分の1ずつ相続した原告らの請求は,それぞれ75万円の限度で認められる。


なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。