フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 3か月ごとにテレビドラマへのコメントを書いていますが、そこで書ききれなかったことを付け加えます。
 というのは、気になっている3本のドラマがあったからです。いずれも印象深い作品でした。もっと早くコメントを掲載する予定だったのですが、相変わらずの校務多忙で、掲載がすっかり遅くなってしまいました。

『天皇の料理番』
 TBSの「60周年特別企画」と銘打って放送されている作品であり、それだけの内容を持った良作でした。特別企画ですし、番組宣伝や再放送なども多く、おそらく製作費も大きかったものと推測します。ただし、製作費が大きければ良い作品になるというわけではありません。この作品の場合は、お金も労力も熱意も、すべてが十分に注がれていると感じられます。

 私は、1980年放送の前作(堺正章主演)も見ていました。35年前の作品で詳細には覚えていませんが、それでも両者の違いは明確に感じられます。もっとも強く感じられるのは、前作が主人公の特異性、破天荒さと情熱を強く描いていたのに対して、今作はそれらに加えて周囲の人物たちのあたたかさを重視し、その部分を存分に描いていることです。特に、主人公・篤蔵の妻の俊子と兄の周太郎。さらには、フランスで出会うフランソワーズの形象も前作とは大きく異なっており、周囲に人物たちが支えることで篤蔵が成功していく、その過程に泣かされました。
 間違いなく、4~6期の代表作品だったと言えるでしょう。

『恋愛時代』
 こちらは遅い時間帯枠のドラマで、視聴率はあまりふるいませんでした。しかし、亡くなった野沢尚の原作の世界をうまくドラマ化しており、私は毎回とても楽しみにしていました。

 設定は、離婚しているのに互いを思いあっている男女の話。互いを思いやるからこそ、すれ違ったり、誤解を生んだり。2人は互いの正直な気持ちをあらわすことができません。そのうちに、2人にはそれぞれ気になる相手があらわれ(互いに再婚相手を紹介しあい)、新しい結婚に向かって再スタートするように見えるのですが、そうなることによtって、さらに2人の心は乱れてしまう…という展開になります。
 大人だからこそ、離婚した2人だからこそ、相手を思いやるからこそ、素直に気持ちを表現できない男女の複雑な気持ちの乱れを描いているドラマでした。派手さはありませんが、野沢尚の世界を見事にドラマ化した作品になっていると思いました。

『明日もきっと、おいしいご飯』
 こちらは先月から始まった昼ドラ。昼ドラと言えばドロドロの愛憎劇を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、こちらは実にすがすがしい作品。

 中年のシングルマザーと3人の子どもたち(長男、次男、長女)という家族。しかし、長男の律(りつ)だけが実は養子。子どものいない夫婦が養子を迎えたところ、その後に二人の実子が生まれたという設定です。大学生になった長男が、自分が養子だったことを知り、実母に会いに行ったところ、そこにはネグレクトされている就学前の弟がいた…という話です。
 たいへん重い課題を持った作品ですが、登場人物はみな真面目に前向きに毎日を生きようとしている人たち。幼い子どもをネグレクトしている母親にも、彼女なりの過去と苦しみがあり、それが明らかになる…という展開がありました。昼から重い課題を見せられるドラマですが、登場人物たちのやさしさや思いやりに触れて、「自分の心は今までなんて汚れていたんだろう」と、こちらの心が洗われるようです。
 こうしたすがすがしいドラマが、多くの視聴者に支持されることを願っています。




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