フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 




 さて今年もあとわずかとなりました。
 今年も、専門の小説はもちろんですが、テレビドラマ・映画・演劇など多くのフィクション作品に接しました。中でもこの時期になると、9~12月期のテレビドラマが終了していくので、そのことでいろいろと思うことがあります。
          
 たとえば、『僕の歩く道』(草なぎ剛主演、橋部敦子脚本)。『僕の生きる道』『僕と彼女と彼女の生きる道』に続く3部作完結編で、過去2作も評価の高い作品の続編です。今回の作品も最終回前に視聴率20%越えを記録しました。いつも書くように、私は視聴率をあまり重視しませんが、このような地味な内容のドラマが高視聴率を記録することはたいへん珍しいことです。
 
この作品のいいところはたくさんありますが、私は、主人公以外の人物それぞれの気持ちがていねいに描かれているところがとてもよいと思っています。
 主人公で自閉症の青年・大竹輝明がこの作品の中心であることは間違いないのですが、彼の母親・兄・妹それぞれが自閉症の家族を持つ悩みや迷いを持っていて、それが輝明の行動とともに描かれています。また、輝明の幼なじみで彼の理解者である都古(みやこ)や輝明の勤める動物園の園長や飼育係の古賀たちも、それぞれの悩みや思いがあって、それもていねいに描かれています。もちろん、都古の結婚相手である河原の描き方が他の人々に比べてあまりに平面的であるとか、結末の輝明の自立への道が安易すぎるとか、批判はいくらでもできます。それでも私は、映画や他のドラマに比べて多くの人物それぞれの思いを描こうとしているところを評価したいと思います。
           (←輝明は自転車が大好き)
 私が、どちらかというと映画よりもテレビドラマが好きなのは、こういう周囲の人物まで描くことのできる時間的な余裕を持っているからです。というか、そうしないと10~12回持たないという意味もありますが、それでも映画では2時間という枠組みの中でどうしてもストーリー中心の作り方になってしまう面があります。映画に比べると、テレビドラマはわかりやすく作らないといけないために、ジャンルとしてはレベルが低いというイメージを持たれますが、そのような人間のていねいな描き方という点で、私はテレビドラマの良さに愛着を持って見ていきたいと思っています。



コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


« Jリーグ入れ... HIVの現在 »
 
コメント
 
 
 
ドラマから違和感を見る (Tom)
2006-12-22 19:11:41
初めての投稿で失礼致します。
ドクター・ロマノが死んでしまいました。ドラマ『ERⅩ』の話です。アメリカドラマにはしばしば息の長いシリーズ物がありますが、それらは多く群像を描くことで、様々な人物の物語を輻輳させる作りになっています。日本では余り見られない作りなのかなと思います。群像を描くドラマでは主人公格の人物がしばしば姿を消したり死んだり、新しく主人公格の人物が作られたりします。ある場を中心に集散する人物達によって物語が紡がれる、『ER』はそんなドラマです。ロマノはそこで決して端役ではありませんでした。それが突然死んでしまいました。『ER』シリーズでは他にも重要な人物が死んだことはありますが、それは一つの物語を形成していたと言えます。日本でも脇役や主役の人物の死が描かれますが、それは極めて重要な物語を形成します。『僕の生きる道』は典型です。死は極めて重大な出来事として描かれる。しかし、ロマノは落下するヘリコプターの下敷きになるという事故で亡くなります。それはあまりにも唐突でした。物語どころか45分ドラマの5分位の時間が割かれている程度のものです。あまりの急さに裏の事情(ギャラ交渉etc.)を勘ぐりたくなる程です。
加えて驚いたことはその次の回でロマノの死の扱いの杜撰なことでした。何事も無かったように日常生活に戻る他の人物。「ロマノ可愛そうね」「天罰だよ」とかいった触れ方で終わり。追悼式の出席を皆で押しつけ合って、しまいには誰も出席しない始末。ロマノは腕利きの外科医で高い自尊心を持っていました。それが、ヘリコプターの事故で腕を失って以来周囲に皮肉や嫌がらせを強めてしまう。その点で大きな闇を心に持っていた人物でもありました。そんな人物に対してあまりに冷たい対応、日本ではこんな描き方まずしないだろうなと思います。
でも寂しい話、そういう他者性が剥き出しの人間関係も一面の真実を衝いている気がします。また偶然的な事故も、それを描くことが残酷であるだけで、実は我々の日常なのでしょう。日本以外のドラマを見ていると奇妙な違和感に出会うことがしばしばあります。そんなところがドラマを見る醍醐味なのかなと思っています。長々と失礼いたしました。
 
 
 
Tomさん、ありがとう (宇佐美毅)
2006-12-23 02:34:20
 Tomさん、コメントありがとうございます。
 私は「ER」は数回見たことがあるだけですが、同じシカゴの病院を舞台にした「シカゴ・ホープ」をずっと見ていたことがあります。あのドラマでも、主要な人物の一人(アリー my loveでジョン・ケージ役をしている人)が突然死んでしまって、「あれ?」と思ったことがありました。
          
 あと、「ビバリーヒルズ高校白書」「青春白書」でも、アンドレアが引っ越してしまったり、ブレンダが留学していなくなってしまったり、主要人物が途中からいなくなることがありました。
 日本のドラマのように10回前後で完結するのと違って、長く続くドラマは途中で人を入れ替えながら、何かの姿(病院の救命医とか青春群像とか)を描くようにできているのかもしれませんね。
 また何かあったら書き込んでください。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。