フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 囲碁の山下敬吾棋聖が囲碁界最高のタイトル「棋聖」を4連勝で防衛しました。
          
 囲碁界最高のタイトルという意味は、賞金額が最高というだけでなく、棋聖が棋士順位の最高位にランクされるという意味で、対局地の決定や上座・下座にもすべてこの棋士順位が関係してきます。というわけで、棋聖タイトル保持者は、伝統ある名人位や本因坊位保持者よりも上位にランクされるのです。
 28歳の山下棋聖が全国に名前を知られるようになったのは、今から20年ほど前。当時の山下少年は、なんと小学校2年生で全国小学生囲碁大会に優勝したのでした。考えてみてほしいのですが、小学校2年生が小学生大会で優勝するという競技が他にあるでしょうか。それくらい、山下少年の天才ぶりはきわだっていたということができるでしょう。
 しかし、私が印象に残っているのは、山下少年が優勝したその対局ではなく、その1年後の同じ大会の決勝で、その後プロ棋士になった6年生に時間切れで敗れた対局です。その対局ぶりと対局後の大粒の涙が今でも印象に残っていますが、それ以上に、テレビで見ていた私には印象に残っている場面があります。
 その場面を語る前に説明すると、囲碁・将棋等の対局の考慮時間には2通りの制度があります。プロの対局のような「秒よみ」制度と、主にアマチュア対局でおこなわれている「使い切り」制度です。簡単に言うと、「秒よみ制度」では時間を使いきった後でも1手「1分」とか「30秒」未満で打てば、持ち時間はそのままずっと残ります。つまり常に「1分」か「30秒」くらいは1手ごとに考えることができます。それに対して「使い切り」制度では、「45分」とかの持ち時間を使いきった時点で即時間切れ負けになります。山下少年が対局した小学生名人戦はアマチュア対局ですから、当然「使いきり」制度でおこなわれたのでした。
 その決勝戦、両者ともに時間をほとんど使ってしまい、残り数十手をすべて1手0.1~0.2秒で打つという離れ業をやってのけていたのです。そんな中で印象に残る場面がおとずれました。その時相手の6年生(黒番)があまりに速く石を碁盤に置いたために、その黒石が盤から落ちてしまいました。その時、山下少年は相手の落ちた石をとっさに拾って盤上に置き直してあげたのでした。
          
 くりかえしますが、その時の状況はすべて1手0.1~0.2秒で打つという極限とも言うべき状況でした。相手の石など放置しておけばよいはずですし、そのために自分の貴重な時間を使うことはない。それどころか、もしかしたら相手が石を拾うために時間を使って、相手が苦しくなってくれるかもしれません。しかし、
そんな極限状況の中で、山下少年は相手の石を置き直してあげたのでした。結局、対局は山下少年の時間切れ負けだったと記憶しているのですが、私にはその場面が強く印象に残っています。
 人は、そういう追い込まれた状況にこそその人の真価があらわれるのだと思います。私はその場面を見てから、ずっと山下少年に注目してきました。そして、2000年に碁聖位、2003年に棋聖位などを獲得し、名実ともに日本のトップ棋士になりました。そして、今回は小林覚九段を4勝0敗のストレートで下し、棋聖位を防衛しました。国会中継のために、防衛の瞬間が衛星放送にも入らなかったのが少し残念でしたが、後で解説を見て、この碁も十分に堪能することができました。今後の山下敬吾棋聖の活躍をぜひ期待したいと思います。



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