考えるための道具箱

Thinking tool box

ロスト・イン・トランスレーション、薄暮の東京。

2005-04-26 12:59:29 | ◎観
箱庭のように囲われた暮らしのなかでの意識の流れ。その孤独感と寂寥感。ときに、おいおい、とも感じられる異文化の齟齬への不快感は、じつはボブとシャーロットが感じているものと同じ不快感・不安感であり、それを見る日本人に擬似体験させたという、なかなかに巧みな撮り方。なにより、こんな他愛もないドラマを、睡眠不足でトロトロの僕を眠らさずに見せた緊張感。…てなことを、僕が、しかもいまさら書いてもしようがないので、この映画が気に入った少し別の視点を投入してみよう。いや、そんなにたいそうな話ではないんですけどね。

それは、東京というか都市の空の撮り方。なんだかATGの映画のようなフィルムの、画面の上のはじのほうにときたま顔をだしてくる、薄暮の空。これが、なんだろう、もの凄く都市の夕景なんだ。すでに地上では夜を迎え、いかがわしいネオンや、ヘッドライト&テールライト、ビルの航空障害灯がしっかり輝きだしている。パークハイアットの眼下で、室内の灯りがつきはじめた高層ビルは眺める夜景としては秀逸だ。

しかし、視線を空にうつせば、夜はまだ明るい。もちろんそこにある雲は夕陽の逆光で暗黒の不気味さを帯びているんだけれど、合間を縫う空はまだ底が抜けるように白く明るい。そして、静謐だ。この空をどこかでみた記憶はなかったか。

たとえば夜が早く街が低い京都のような街にあるビジネス街の空に似ているかもしれない。仕事なんて夜遅くまでするもんじゃないよと、人々が早々にひきあげたあとの、誰もいなくなった街の空。ウィークデーにもかかわらず、日曜の夜のように閑散とした街でふと視線をあげると、そんな空がみえてくる。もしくは大自然と隣接したバンクーバーや、小自然と隣接した仙台のような市街の夜の空?そこには確かに澄んだ匂いがあったはずだ。この匂いの記憶が、あるはずのない東京の空で、久しぶりによみがえった。

コッポラはもともと写真家?だから、こんなていねいな「静」の撮りかたを指揮できるのかなあ。それとも35mmだから?まったくうまく表現できないけれど僕にとってはとても懐かしい感じのする空である。そして、この異国譚において日本のエキセントリック感がさほど露悪的にならなかったのは、風景の多くがこれら夜ないしは薄暮っぽく見えるの「静」の空に限定されていたから、という効果も見逃せない。たくさんの映画を見ているわけではないので、えらそーなことをいえたもんじゃないんだけど、映画も文学同様にそれを動かしていくのは物語だけではないわけで、こういうちょっとした絵が、なんともいえないお得感をもたらしてくれる。

『ロスト・イン・トランスレーション』でもうひとつお得なのは音楽で、こちらも自明。ほんとうのセンスよさというのはこういうことなんだろうなあ。意識的に聴いていたわけではないので、「良い」という以外の意見はないけれど、ロック好きなのでフェニックスとかはっぴいえんどが巧い使い方をされているのには関心した。サントラでも借りてみようかと思わせる。もしくは、DVDを買って保存版にしておくっていうのもいいかもしれない。


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