宮地神仙道

「邪しき道に惑うなく わが墾道を直登双手
または 水位先生の御膝にかけて祈り奉れ。つとめよや。」(清水宗徳)

「赤い猪亭」

2008年03月11日 | Weblog
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【大魔術師カリオストロ】

カリオストロの出生を知る者は誰もいません。
噂では、カリオストロはキリストの生まれる前から生きていたとも
言われ、モーゼがソドムとゴモラの町を神の雷で焼き払うのを
見たとも言われていました。

そして彼自身、その事を問われるとにこやかに「そう、神の御子は
澄んだ美しい目をしておられたが、もう少し髪の手入れをなさられる
べきであった。
その事は私も何度か申し上げたのではあったが……」と言って
目をつぶり、まるで一月ほど前に別れた友を思うような親しみを
込めた表情をするのでした。

ランツの町の宿屋、赤い猪亭に腰を据えたカリオストロは、集まって
くる人々の相手に忙しくありましたが、彼はとても手際よく相談に
乗って何がしかの礼金を受け取っていました。

ある日の事、その日の相談客の相手が終わりという事になってから、
一人の老婆がコッソリと部屋に入って来て、「カリオストロさま、
お願いでございます。私の願いを聞いて下さい。」と言いました。

彼は疲れていましたが、愛想良く老婆に目を向けました。

「カリオストロさま、お願いというのは娘の事でございます。
私はこんなに年を取って見えますが、生まれた時から乞食同然の
貧乏暮らしのため、こんな姿になってしまいましたが、まだ40を
少し過ぎた所なのでございます。

私には一人娘がおり、三年前にパリで働くと言ってこの町を
出て行きましたが、それっきり何の便りもありません。
私はもう自分の命が長くない事を知っていますから、死ぬ前に
何とか一目娘に逢って言葉をかけてやりたいのです。
是非一目、娘と逢わせて下さいませ。」

「お婆さん、望みを叶えてあげよう。しかしその代わりに何を
くれるね。」

老婆はギョッとしたようになって、
「カリオストロ様、お慈悲でございます。
今お話しした通り、私は乞食同然の身の上、お礼など何もする事は
出来ません。
私に差し上げる事の出来るものがあるとすれば、この消えかかって
いる命ぐらいなものです。」
と涙ながらに訴えるのでした。

「よろしい、その命をもらおう。」
カリオストロはそう言うと、水晶玉を睨み、その中に若い女の姿を
見ました。
その女は老婆の探している娘に違いありませんでしたが、女は
盗賊の一味になっていて、今しも旅人を仲間と襲って金を巻き上げて
いた所でした。

カリオストロは小さなガラス瓶を持って何事もなかったように、
「お婆さん、それでは願い事を叶えてあげよう。
部屋の隅の大きな花瓶を見てご覧、あそこに娘さんが立っている。」

彼は花瓶を指し、老婆に懸命に語りかけると、そこには娘のマリアが
浮かび、老婆に微笑みかけました。
老婆は娘にかけよって両腕でしっかり抱きしめ、
「マリア、会いたかったよ」と心の底から叫びました。
次の瞬間、老婆の命はその肉体を離れ、カリオストロはガラスの小瓶の
フタを開け、それを閉じたのでした。

【火刑場のカリオストロ】

数年後、彼は王の軍隊に捕えれました。
カリオストロは黒魔術師として裁判にかけられ、いよいよ火あぶりに
なるという日、あの老婆の娘マリアも群集の中に混じって見物して
いました。
マリアは母が死んだ事知らずに盗みを働き続け、今日はたまたま
盗人市へ出かけていたのでした。

カリオストロが山と積まれた薪の上に載せられ、火刑柱を負わされて
火がつけられました。
カリオストロは平然として、東の空を睨んだまま地獄の業火に包まれて
いきました。

この時女盗賊のマリアは炎の中に懐かしい母親の姿を垣間見て
目を疑いました。
炎の中の母は優しく微笑みながら、マリアに向かって手を差し伸べて
いるではありませんか。
マリアは思わず「お母さん」と叫んで、その場に倒れました。
マリアはその日から盗賊の仲間を抜けて、故郷に帰ったと言います。

不思議な事に、火刑場の中からカリオストロの遺骸は一片も
見つける事は出来ず、ただ熱に溶けたガラス瓶が一つ見つかった
だけでした。

それからしばらく経って、人々はカリオストロがコルシカ生まれの
若い砲兵士官(後のナポレオン)と一緒にブルゴーニュの森を
散歩しているのを見たという噂を耳にして、不吉な予感に眉を
ひそめました。

ヨーロッパはやがてカリオストロを焼いたと同じ地獄の業火に
包まれようとしていたのでした。

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大魔術師カリオストロの伝承は中世欧州のものですが、彼と非常に
似ている人が唐の貞元年間の揚州にも存在し、この人は自分を
胡媚児と名乗りました。

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ある日朝早く、胡媚児は懐中から一つのクリスタルガラスの瓶を
取り出し、見物人に向かって
「どなたかこの瓶にいっぱいになるほど、お金を下さいませんか。」
と言い、見物人の一人が百銭を投げ入れた所、ビンの中に入って
粟粒ほどの大きさになって吸い込まれるように消えていった。
人々は不思議がった。

もう一人が千銭を投げ入れると、前と同じになった。
更に、一万銭を与えた人がいたが、やはり同じだった。

まもなく物好きな男が来て、十万銭、二十万銭と投げ入れたが、
どれも同じでビンは、少しもいっぱいにならない。
ロバを連れてきてきた者もいたが、胡媚児が瓶の口を傾けるとロバは
吸い込まれ、蝿のように小さくなってやがて消えていった。

その時、税として徴収した品物を山のように積んで運んでいた役人が、
この荷車を全部一度に入れたなら一杯になるに違いないと考えて、
彼に声をかけた。
役人は、「そちはこの車を全部、そのビンの中に入れられるか?」
と訊ねた。
胡媚児は「御許しがあれば出来ます」と答えた。

そこで役人は「やってみなさい」といった。
胡媚児が瓶を傾けると、荷車は御者もろとも全て吸い込まれてしまった。

やがて役人が「見事だった。もう充分だから馬車を返せ。」と言った。
胡媚児は「それは出来ません。」と答え、役人は烈火の如くに怒り、
しばらく言い争っていたが、やがて役人は腰の刀を抜き、
「戻さないというなら斬るぞ!」と胡媚児に斬りかかった。

胡媚児は瓶の中に飛び込み、慌てた役人が瓶を地面に叩きつけて
割ったが、何も出て来なかった。

一ヶ月あまりたってから、ある人が清河の北で、胡媚児が瓶の中に
引き入れた馬車を率いて、東平へ向かって旅している所を見たという。

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