ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

国大協草稿(9)「主要国における研究開発資金と論文数の相関分析」

2014年05月19日 | 高等教育

 さて、前回のブログでの国大協報告の草案は、研究費の国際比較についての悩ましい問題点についての話でしたが、今回から、OECDのデータにもとづいて、研究開発費と論文数の相関分析の本論に入っていきます。

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2)主要国における研究開発資金と論文数の相関分析

 OECD・StatExtractsのデータに基づき、主要国(13か国)にいて、論文産生に大きく影響すると考えられる政府供給研究開発資金の支出先別内訳、および大学研究開発費の供給源別内訳と論文数の相関分析を行なった。必要に応じて科学技術指標統計集のデータを参考にした。

 今回分析した政府供給研究開発資金支出先別内訳、および大学研究開発資金供給源別内訳は、以下の通りである。

・政府科学技術予算

・政府供給研究開発資金(科学技術予算とは一致しない)

・政府から企業への研究開発資金

・政府から公的機関への研究開発資金

・政府から非営利団体への研究開発資金

・政府から大学への研究開発資金

・企業から大学への研究開発資金

・大学から大学への研究開発資金(大学自己負担分)

・非営利団体から大学への研究開発資金

・海外から大学への研究開発資金

・大学研究開発費(大学自己負担分を含む上記5つの研究開発資金の合計)


 さらに、上記各種研究開発資金(費)に基づき、以下の項目を独自に計算して分析に用いた。

・外部(政府を除く)から大学への研究開発資金(企業、非営利団体、海外から大学への研究開発資金の合計)

・自己負担分を除く大学研究開発資金(政府、企業、非営利団体、海外から大学への研究開発資金の合計)

・公的大学研究開発資金(政府と非営利団体から大学への研究開発資金の合計)


 また、合わせてGDP(購買力平価換算名目値)および人口との相関も検討した。

 

 これらの、研究開発資金(費)の内訳のうち、国によっては計上していない場合があり、これらの項目については、論文数との相関分析から除いた。また、年度によってデータが欠損している場合があり、各国のデータが最もそろっている2009年のデータを用いた。なお、オーストラリアについては2009年のデータが欠損しており、2008年のデータを用いた。論文数は2008-2010年の3年平均値(オーストラリアは2007-2009年の3年平均値)を用いた。

 図31に、各国の政府が供給する研究開発資金の支出先別内訳を対GDP比(%)で示した。

 

 韓国、米国、フランス、台湾、ドイツ等の国が上位に並ぶ。日本は13か国中11位となっている。大学への研究開発資金と公的機関への研究開発資金の比率は各国で大きく異なり、オーストラリア、オランダ、カナダ等の国は、公的機関への研究開発資金が少なく、その代わり大学への研究開発資金が手厚くなっている。日本政府の大学への研究開発資金は、中国を除いては最低となっている。


 図32に、各国における大学研究開発費の供給源別内訳を対GDP比(%)で示した。

 多くの国において大学研究開発費の供給源の大半は政府からの研究開発資金である。国によっては非営利団体からの研究開発資金がある程度を占め、政府からの研究開発資金と合わせて、公的研究開発資金と見做せる。

 企業からの研究開発費の占める割合は、中国の39.1%を除くと、イタリアの1.1%からドイツの14.2%の範囲にある。日本は2.5%とイタリア、フランスに次いで低い値である。

 総大学研究開発費の上位には、オランダ、カナダ、オーストラリアといった、公的機関に対する資金を絞って大学に資金を投入している国が並ぶ。日本は、ほぼ中ほどに位置しているが、大学から大学への研究開発資金(大学自己負担分)が突出して多いためであり、この自己負担分を除くと、大学の研究開発資金は中国を除いて最低である。


 表12に、各種研究開発資金(費)内訳と論文数の相関係数を示した。

 0.690と最も相関係数が小さかった企業から大学への研究開発資金を含めて、すべての内訳項目ついて論文数との間に有意の正相関が認められた。また、人口と各項目との相関係数が低い要因として、中国が外れ値的な位置にあることが考えられるため、中国を除いた12か国で相関関係を検討したところ、表13に示すように、良好な正の相関関係が認められた。

 特に相関が強かった内訳項目は、政府及び非営利団体から大学への研究開発資金(公的研究開発資金)、自己負担分を除く大学研究開発資金、政府から大学への研究開発資金であった。

 論文数は人口やGDPなど国の規模を反映するパラメータとすべて相関するので、次に、人口当りおよびGDP当りの相関関係を検討した。


 

 人口当りの各種研究開発資金(費)内訳と人口当り論文数の間で相関係数の高い項目は、上記と同様に、政府および非営利団体から大学への研究開発資金(公的研究開発資金)、自己負担分を除く大学研究開発資金、政府から大学への研究開発資金であった。図33に人口当りの政府および非営利団体から大学への研究開発資金(公的大学研究開発資金)と、人口当り論文数の散布図を示す。

 GDP当りの各種研究開発資金(費)内訳とGDP当り論文数の間においても、相関係数の高い項目は上記と同様であった。図34にGDP当りの政府および非営利団体から大学への研究開発資金(公的研究開発資金)とGDP当り論文数の散布図を示す。

 

 企業から大学への研究開発費については、人口当りの場合は相関係数0.6095と統計学的に有意の正相関を認めたが、GDP当りでは有意の相関関係は認められなかった。

 なお、GDP当りの政府科学技術予算や政府から公的機関への研究開発資金については、相関係数が負となったが、統計学的に有意ではなかった。

 以上の結果から、主要各国間で論文数の差異を生じさせている上で最も大きく寄与している研究開発資金の種類は、大学への公的研究開発資金であることが示唆される。

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今日は、ここまでで、次回、次々回で研究開発資金と学術論文数の相関分析の話を完結させる予定です。

(5月19日OECD.StatExtractsよりのフランスのデータの転記ミスに基づく集計データの誤りを修正しました。結論には影響ありません。)

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