ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、前国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

応用物理学会にて「日本の大学の研究競争力はなぜ弱くなったのか?」

2016年04月01日 | 高等教育

 2016年3月19日に東京工業大学で開かれた応用物理学会の特別シンポジウム「科学と産業の凋落と再興:応用物理と未来社会」で、幸いにも発表する機会をいただきました。このシンポジウムは、大阪大学大学院工学研究科教授の河田 聡 先生の司会で、ずいぶんと盛り上がりました。

 シンポジウムの終わった後、聴衆のお一人からデータを公開してほしい旨を伝えらましたので、このブログでお示しをしておきます。膨大なスライドの羅列になりますが・・・。なお、本日お示しするスライドの一部は、当日発表したデータの一部を再度分析しなおし、修正したスライドに入れ替えてあります(スライド47-54)。また、適宜、文言の修正もしてあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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日本の大学ランキングが急落した理由とは?その3(ほんとうの理由)

2016年02月21日 | 高等教育

 前回のちょっと気が狂いそうにもなる「被引用数」の話を一応ご理解いただいたものと仮定して、いよいよ、なぜ、タイムズ世界大学ランキングで日本の「被引用数」スコアが急落したのか、という本題に入ります。

 まず図表30を見てください。横軸がタイムズ社の2014年の被引用スコア(以下Citationsと書きます)、縦軸が同じく2015年のCitationsです。

 

 どちらも「累積分布関数」によって表されています。これは、例えば、この値が「80」の大学は、その大学の下に80%の大学が存在することを意味します。その大学の上に約20%の大学が存在するといってもいいでしょう。2014年のタイムズ社Citationsは約700大学で分析されていますので、「80」の大学というのは、その下におよそ700×0.80=560の大学があるということであり、上には約140の大学があるということを意味します。つまり、700大学中約140位。

 それでは2015年で「80」の大学はどうでしょうか?2015年は800の大学で分析されていますので、その大学の下におよそ800×0.80=640の大学があり、上には約160の大学があるということになります。つまり、800大学中約160位。

 この図表30のグラフを見ると、右半分に点が偏っていますね。これは、2014年のタイムズ社のランキングでは分析された約700大学のうち上位400大学の値が公表され、それを下回る大学については公表されていないためです。なお、2015年は800大学の値が分析され、800大学の値が公表されています。

 そして、2014年と2015年の値を比べると、2014年に比べて2015年の方が高くなっている大学が多いことがわかりますね。点の集まりの傾向としては上に凸の三日月型をしています。しかし、赤丸で示した日本の大学は、むしろ低くなっています。なぜ、他国の大学が上がっているのに、日本の大学が下がったのか、これが、今日のテーマです。

 また、グラフをみて他に気づくこととしては、2014年から2015年にかけて大きくCitationsの値が低下した大学が、ぱらぱらと散在していることです。このような、集団から大きく外れた値を「外れ値」といいますね。

 図表31には、タイムズ社世界大学ランキングにおいて、2014年から2015年にかけてのCitationsの変化に影響したかもしれないと思われるデータ処理工程の違いをまとめてみました。

 

 まずは分析担当機関がトムソン・ロイター社からエルゼビア社に代わり、そして、学術文献データベースが「Web of Science」と呼ばれるデータベースから「Scopus」と呼ばれるデータベースに変更されていることです。データベースの変更により、扱っている論文数は大きく異なっています。なぜ、論文数が大きく異なっているかということについては、「Web of Science」の方はトムソン・ロイター社が一定の質の評価を与えた学術誌のみを収載していることが一つの理由として考えられます。

 データベースが代われば、Citationsの値が違って当たり前、と言ってしまえば、それまでなのですが、それでは身も蓋もありませんね。全く同じ結果を期待するのは無理としても、異なるデータベースにおいても、よく似た結果が出ないことには、「被引用数」や「被引用インパクト」なるものが、大学ランキングの普遍的な指標として認められにくくなりますからね。

 データベースの変更以外にも、いくつかのデータ処理工程の違いがあります。

 まず、分析対象大学の数が約700~800に変わったことです。これは、上にも少し触れましたが、累積分布関数表示をする時に影響してきます。それから、対象とする論文の発行年が異なります。2014年では2008-12年の5年間の論文、2015年では2010-14年の5年間の論文が分析されています。この2年間の経過の間に、被引用数が変わる可能性がありますね。

 また、論文種が変更されています。論文には、原著論文、総説論文、会報論文などいくつかの種類があるのですが、2014年は[原著+総説]で分析されており、2015年は[原著+総説+会報]で分析されています。「会報」という論文種が加わったことにより、被引用数が変化する可能性があることは、前回の頭の痛くなるようなブログでご説明しましたね。

 もう一つ大きな変更点がありました。地域調整の変更です。

 トムソン・ロイター社が担当していた時には、被引用インパクト(正確には分野調整被引用インパクトCategory Normalized Citation Impact CNCI)が、国や地域によってかなり違うので、その差を弱めるために、高い国が低くなるように、そして、低い国が高くなるように、係数をかけていました。具体的には、その国や地域全体の被引用インパクトの平方根の逆数です。

 それが、エルゼビア社に代わった2015年は、係数を掛けない生の値と、掛けた値を等しくブレンドしたと書かれています。つまり、地域調整の程度を半減させたということですね。

 このように、データベースの変更という大きな変更以外にも、いくつかのデータ処理工程の変更がなされています。今回の検討では、図表32および33に記しましたように、トムソン・ロイター社のInCites™のデータを用いて、2014年~2015年にかけて行われたデータ処理工程の変更と類似のデータ処理工程(図表33の1-6)をたどって分析し、データベースが異なる2015年のタイムズ社Citationsを推定することを試みました。

 

 

 

 この方法には、限界があります。それを、先ほどの図表32に記しました。特に、 現時点でInCites™を使って分析できるのは、その論文が発行された時から現在までの被引用数であり、それは、タイムズ社の分析がなされた時点の被引用数とは異なる、ということにも注意が必要です。

 全く異なるデータベースで、しかも、分析当時の被引用数とは異なる被引用数で、分析担当機関が代わったことで各指標の算出方法が同一であるという保証もない状況で、果たして使用に耐えうる確度で推定ができるのでしょうか?

 ちょっと無謀と感じられる試みですが、とにかくやってみることにしました。

 

<外れ値の検討>

 データ分析をする際には、まず外れ値を検討するのが定石とされていますので、それに従ってみました。

  図表30にもどっていただいて、三日月型の点の集まりの下に、ぱらぱらと散らばっている点が、外れ値と考えられます。その中で、特に2014年のCitationsが90以上で、25ポイント以上低下した6つの大学について、毎年の被引用インパクト(CNCI)を調べてみました。すると、図表34の左図のように、どの大学にも急峻なピークが観察されます。これは、小規模大学にしばしば見られる、被引用数のブーストです。被引用数が非常に高い論文が1個あるとこのようなことが起こります。

 

 ここには、日本の首都大学東京(前回のブログでご紹介しましたね)が含まれています。また、最も極端に下がった米国のフロリダ工科大学(Florida Institute of Technology)も含まれています。

 この被引用数のブーストが、外れ値に何らかの関係があったのではないかと推測しています。図表34の右図は、図表30について、2008-2012年の論文数が6000以上あった大学、つまり大規模大学だけをプロットした図です。そうすると、図表30で見られた外れ値の大学は、ほとんど除かれてしまいます。

 

 図表35左図は、InCitesで求めた2014年のCitations推測値と2015年のCitations推測値の関係性を調べた図です。InCites™で求めた値どうしでも、パラパラと外れ値が観察されます。これらのほとんどは被引用数のブーストがみられる大学です。例えば、2015年Citations推定値で非常に高い値となり上に外れた大学は、2008-2012年の間にはブーストが起こらず、2010-2014年の間にブーストが起こった大学です。

  図表30のタイムズ社Citationsの2014と2015の相関図では、右半分の上に凸の三日月型の集団になりましたが、推定値では、このようにS字状になります。2014年のタイムズ社のCitationsにおいても、400大学だけではなく700大学のデータをプロットすれば、このようなS字状になるはずです。このS字状カーブから、2014年のCitationsが概ね半分より高かった大学ではより高く、低かった大学はより低く変化しているということが感じ取れますね。

 赤丸で示した日本の大学は、軒並み低くなっています。ただし、最初から低い大学は、それ以上低くなりようがないので、低いままです。また、右上に一つ赤丸がありますが、これが首都大学東京です。InCites™の推定値では高いままなのですが、タイムズ社Citationsでは、大きく低下しています。このように、InCites™による推測と、タイムズ社のCitationsが大きくずれる大学が一部にあり、これが今回の方法の限界(つまり、データベースが変わったからということでしか説明できない部分)と考えています。

  2008-12年の論文数が6000以上の大学に限ると、右図のように外れ値がほとんど観察されなくなります。首都大学東京も除かれてしまいます。

  外れ値を示す大学の中には、必ずしも被引用数のブーストを示さない大学もあります。そのような大学は、どうも特定の国に多いように感じられました。そこで、国・地域を図表36に示したように、3つに分けて、2015年推定値と2015年タイムズ社Citationsの相関を調べてみました。

 

 グループAは、英・独・北欧・北米・イスラエル・豪・ニュージーランド、グループBは東・東南アジア、グループCは、仏・南欧・東欧・ロシア・中東・南米です。そうすると、グループAとBは、左図に示したように比較的集団がまとまっていましたが、グループCは右図に示したようにばらついており、推定の確度がかなり落ちることがわかりました。

 なぜ、グループCで推定値と実際の値との相関がばらつくのか、という理由については、例えばグループCの諸国を中心に、Web of Scienceにはあまり収載されていなかった種類の論文や学術誌(例えば英語以外の言語で記述された論文・学術誌やトムソン・ロイター社による評価の低い学術誌など)がScopusに多く収載されている等の可能性もありうるのではないかと考えていますが、確認をしておらず、詳細は不明です。

 

<2014年タイムズ社Citationsの推定>

 2014年のタイムズ社のCitationsはトムソン・ロイター社によって行われたので、同じ会社の同じデータベースに基づいているInCites™によって、簡単に推定できるはずと思われるかもしれませんが、先に限界のところで触れましたように、分析した時点が違うことにより異なった被引用数を用いて分析をしているので、必ずしもそうは言えないのです。

 幸いInCites™には、CNCI-country adjという指標が参照できます。これは、トムソン・ロイター社がタイムズ社のCitationsを計算した時に使った指標であり、当時の分析時点の値と考えられます。図表37にこの、CNCI-country adjと2014タイムズ社Citationsの相関を示しました。両者は良く相関し、ほぼ同等の指標であると考えられます。

   一方、InCites™により、現時点でのCNCIから求めた2014年Citations推定値と、タイムズ社2014Citationsとほぼ同等とみなせる2008-12CNCI-country adjの相関をみると(図表38)、先ほどの図よりもばらつきが大きくなります。これは、分析時点の違いにより、異なった被引用数を用いているために生じる差であると考えています。しかし、まずまずの相関を示しているので、InCites™による現時点(2016年1月27日データ抽出)での被引用数を用いて評価可能と考えます。

 

<分析対象大学数の増加の影響>

  タイムズ社のCitations算出において、2014年と2015年とでは、分析対象大学数が約700から800に変更され、700大学の一部は800大学に含まれておらず、一部入れ替わっています。

  仮に500大学の分析で、Citationsが累積分布関数値で80だったとしましょう。これは、上位20%の位置にあることを意味し、順位としては100番目ということです。これに、その下位の大学が500加わり1000大学になったと仮定して計算しますと、この大学の順位は100番目で変わりませんが、上位10%に位置することになり、累積分布関数値は90に上がります。

  これを、今回のタイムズ社Citationsで約700大学から800大学に変わったことで、どの程度累積分布関数値が変化するかをInCites™のデータで計算したのが、図表39です。85程度の大学では約2%上昇し、15程度の大学では約2%減少することがわかります。

 

<地域調整係数について>

 次に地域調整係数について説明します。

   図表40に、計算方法を記しました。2014年では国・地域全体のCNCIの平方根の逆数。2015年では、それと「1」との平均値が地域調整係数と考えられます。

 

 右端の表に主要国の二つの地域調整係数と、その増減率が示してあります。もともとCNCIが高かった国ほど高くなり、低かった国は低くなることがわかりますね。日本は-3.9%とわずかに低くなっています。

  高々-3.9%ですが、他の多くの国が増えているので相対的に順位が下がり、累積分布関数で表示しますと、けっこうガクッと下がります。

  このようにして求めた地域調整係数をCNCIに掛けて、2015年Citations推定値を求めますが、実際のタイムズ社Citationsと比較すると、なお、国・地域ごとにずれが観察されます。

  図表41の右図は、米国の大学において、累積分布関数値を標準化値に変換して(平均0、標準偏差1)、2015年推定値とタイムズ社Citations値の相関を見たものですが、かなりきれいな直線相関関係が得られ、回帰直線はほぼ原点を通ります。

 

  一方、左図に韓国と日本の大学を示しましたが、特に韓国の2015年推定値と実際の値とでは、回帰直線が原点を通らずに、少し上にずれています。これは、InCites™のデータで求めた地域調整係数と、実際にタイムズ社が使った地域調整係数のずれであると考え、補正を加えることにしました。

  ただし、この方法は、推定値と実際の値とがばらつくグループCの国々では使えません。

  ちなみに、米国で最も大きく外れ値となっている大学はフロリダ工科大学(Florida Institute of Technology)、日本は首都大学東京です。

 

<はたして推定値はどの程度実際の値を推定できたのか?>

  さて、このようにしてInCites™によって求めた2015年Citations推定値と、実際のタイムズ社2015年Citationsは、どの程度合致したのでしょうか?

   例によって、2008 -2012年の論文数が6000以上ある大学だけに限ると、図表42にお示しするように、まずまずの直線相関関係が得られました。また、グループCの諸国では、推定値と実際値とはかなりばらついていましたが、論文数6000以上の大学に限ると、グループAとBの大学の集団のばらつきの範囲に収まりました。

  このデータから、規模の比較的大きな大学に限れば、InCites™によって、タイムズ社2015年Citationsを、ある程度の確度をもって評価可能であると判断しました。

 

<日本の大学のタイムズ社Citations急落の原因は何か?>

  最後に、今回の分析の最終目的である、2014年から2015年のタイムズ社Citationsで、日本の大学が急落した原因についての分析をお示しします。

 

  図表43は、各データ処理工程におけるCNCIの累積変化を国・地域ごとの平均値を示したグラフです。

  累積分布関数の性格上、両端の大学は、変化が少ないので、中ほどにあるCitationsが25~75の大学についてだけお示ししてあります。2008-2012CNCI-country adj(2014タイムズ社Citationsとほぼ同等と考えられる)から出発し、InCites™で求めた2014年Citations推定値、そこから地域調整を解除した値、大学数を変更した値、経年被引用インパクトの変化を加えた値、論文種を拡大した値、そして、再度半地域調整を適用した値、そして、地域調整係数の補正を加えた値をプロットし、最後に実際の2015年タイムズ社Citationsの値を示しました。

  全体としての傾向は、上位(50より上)にある国では、地域調整の解除で上がり、各国によって、各工程での変化に多少の違いが見られ、半地域調整の適用でやや低下しています。下位の国(50より下)では、地域調整の解除で下がり、半地域調整の適用でやや上昇しています。つまり、上位にある国は、さらに上位になり、下位にある国はさらに下位になって、その差が広がる傾向がありますね。

  赤で示した日本は、地域調整の解除でガクッと落ちて、その後の工程でさらにわずかに低下し、半地域調整の適用でやや戻っています。

  国によっては、地域調整以外の影響が大きい国もあります。例えばイタリアは、地域調整よりも経年的な被引用インパクトの上昇が大きくなっています。米国の大学(ここに含まれる大学は上位大学ではありません)では経年の被引用インパクトが低下していますね。その結果、最終的なCitationsの米国の順位がヨーロッパ諸国に比べて低下しています。中国は、論文種拡大によるマイナス効果が大きく出ています。韓国では、Incites™では推定できない地域調整係数の上昇がみられます。タイムズ社の本拠があるイングランドの大学は、順調にランキングを上げていますね。

  日本の場合は、地域調整の解除以外のファクターはほとんど影響しておらず、日本の大学のタイムズ社Citations急落の原因は地域調整の減弱化であると断定していいでしょう。

  図表44は、国・地域別に、半地域調整を適用した場合の推定値、およびそれにさらに補正を加えた推定値と、実際のタイムズ社のCitationsの値との相関を見たものですが、当然のことですが、補正を加えた場合の方が、相関が良くなっています。

  図表43と同じことを日本の各大学別に示したのが図表45です。一番上にある大学が東京大学ですが、地域調整の解除でガクッと落ちて、あと、若干の低下がありますが、半地域調整の適用である程度回復しています。東大、京大は、推定値が実際のCitationsの値に近い値となっています。しかし、東北大学ではずいぶんとずれています。このずれについては、InCites™のデータでは説明できず、現時点ではデータベースが違うから、ということでしか説明できません。

 

  今回の検討の結論を図表46にまとめました。

 

<おまけ、その1>

  日本にプラスの地域調整係数が掛けられていた理由は、そもそも、日本全体の分野調整被引用インパクト(CNCI)が低かったからです。その優遇措置が今回半分に減らされたことにより日本のCitationsが急降下し、大学ランキングの低下の主要因となりました。

  もしも、今後、優遇措置が完全に外されることになると、日本の大学のCitationsのランキングはどのようになるでしょうか?

 「2014年→2015年→優遇措置が完全に解除された将来」の順に示しますと、

  • 東大   約175位→約320位→約400位
  • 京大   約300位→約420位→約520位
  • 阪大     約360位→約500位→約570位

 となり、さらに惨憺たる結果が待ち受けています。

 

  なお、タイムズ社のランキングでは、被引用数に関連した指標としてCategory Normalized Citation Impact(分野調整被引用インパクト)が用いられているのですが、実は日本の大学は「分野調整」を適用されると、低い被引用インパクトがいっそう低くなるのです。このことについては、次回にお話しすることにいたします。

 

<おまけ、その2>

  つい最近、タイムズ社が規模の小さい大学(学生数が5000未満)のトップ20位ランキングを発表しました(The world’s best small universities 2016)。その中には、日本の東京医科歯科大学(タイムズ社大学ランキング2014年276-300位→2015年401-500位)、横浜市立大学(400位圏外→601-800位)、東京海洋大学(400位圏外→601-800位)が含まれています。

  そして、その中にはInCites™のデータでは説明のできないCitationsの大きな低下よって大学ランキングが大きく低下した米国のフロリダ工科大学(Florida Institute of Technology)(タイムズ社大学ランキング2014年200位→2015年601-800位)もちゃんと含まれています。

  InCites™では説明のできないCitationsの大きな低下をきたした日本の首都大学東京(大学ランキング226-250位→401-500位)は、残念ながら含まれませんでした。学生数が5000を上回っていますしね。

   昨年、タイムズ社の世界大学ランキング担当機関から外れたトムソン・ロイター社は、2015年9月15日に世界で最も革新的な大学ランキングを発表し(The World  Most Innovative Universities)、その100位以内に、大阪大学を筆頭に日本の大学が9大学含まれていました。今度は、2016年1月16日にタイムズ社が小規模大学の世界ランキング20を、申し訳的な感じがしないでもありませんが発表し、その中に日本の大学が3大学含まれていました。

  これは、ランキングなるものが、評価軸の設定によって、全く異なる結果をもたらすものであることを如実に示しています。

  今回、世界的に大きな影響を与えているタイムズ社とトムソン・ロイター社が相次いで従来の評価軸とは全く違うランキングを発表したことは、大いにけっこうなことであると僕は思います。

  これによって、大学ランキングなるものの無意味さを感じる人の割合が増えたかもしれませんし、また、大学ランキングにそれなりに意味を感じている人々にも、少なくとも評価軸が複数存在するということが分かっていただいたのではないでしょうか?

  ただし、この大学ランキングシリーズの最初のブログで書きましたように、「第一次安倍内閣の時、平成19年6月の教育再生会議第二次報告では「世界の上位10校以内を含め上位30校に少なくとも5校が入る。」と書かれており、また、第二次安倍内閣の平成25年6月の日本再興戦略に「今後10年間で世界大学ランキングトップ100位以内に10校以上を入れる。」と書かれています。なお「世界のトップ100大学に10校」は、平成25年1月23日の第一回産業競争力会議において竹中平蔵議員が提出した資料の中に書かれています。

  つまり、日本国家は、大学に関係したほとんど唯一の数値目標として、大学ランキングを掲げているのです。この現実は、国民や関係者が心して受け止めておかねばなりません。

  今までは、日本の財政状況が厳しいことから、今後はそれに加えて人口減少への対応として、引き続き行政活動や公的予算の縮小がなされていくと考えられますが、その時に何から切り捨てていくかの意思決定に、一面的な評価軸に基づいたランキングの下位から切っていくということがなされる可能性があります。実際、平成19年には、教育再生会議第二次報告に大学への「選択と集中による重点投資」や国立大学の「運営費交付金の大幅な傾斜配分」の文言が書かれ、小規模大学の切り捨てがなされようとしました。

 このような一面的な評価軸による選択と集中政策や意思決定は、日本の歩むべき道を誤らせる危険性を常にはらんでいると思われます。

 トムソン・ロイター社の革新的大学ランキングにおける日本の9大学と、タイムズ社の小規模大学ランキングにおける日本の3大学を合わせると、10大学を超えることになり、一応100位以内に10大学という目標を達成していることになりますが、果たして産業競争力会議の皆さんは、これをどう評価されるのでしょうか?

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日本の大学ランキングが急落した理由とは?その2(被引用数とは?)

2016年01月23日 | 高等教育

 今回は「被引用数」についてお話をしていこうと思いますが、その前に前回のブログでお話をしたタイムズ社の世界大学ランキングにおける、「評判(Reputation)」スコアの急落について、少し追加しておきます。

  トムソン・ロイター社からエルゼビア社にデータ分析担当機関が変更になったことに伴って、日本と韓国の大学の「評判(Reputation)」のスコアが急落したのですが、タイムズ社世界大学ランキングのウェブ・サイトには、変更点としては以下のようなことが書かれています。

1)回答者数

 2014年は2013年の3月から5月にかけて調査がなされ、10,536の回答が133か国から得られた。2015年は2014年の11月~2015年1月にかけて調査が行われ、10,507の回答が142か国から得られた。

2)回答者の学問分野のバランスの見直し

 Engineering and technology (工学) 20%(←22%)

 Social Sciences (社会科学) 19%

 Physical Science  (自然科学(生命以外)) 17%(←18%)

 Life Science   (生命科学) 15%(←13%)

 Preclinical, clinical, and health related discipline  (医療・保健) 13%

 Arts and Humanities  (芸術・人文学) 16%(←9%)

3)回答者の地域の見直し                   

 北米18.2%(←25%)

 つまり、回答者総数にはあまり大きな違いはないと考えられますが、回答者のバランスが変更され、一つは芸術・人文学分野の回答者の比率が上がったことや、北米の回答者が減ったことなどが日本や韓国の大学の評判に影響した可能性は否定できません。

 また、図表17に教育の評判(Reputation)スコアと研究の評判(Reputation)スコアの相関をお示ししましたが、両者は強く相関しています。研究の評判には学術論文等からもある程度客観的な評価が反映されていると思われますが、教育の評判というのは、アンケートの回答者が何をもって高い点数をつけるのか、なかなかわかりにくい面があります。

 このデータからは、研究の評判の良い大学は、教育も良いと思われていることがわかります。ということは、研究面で劣っている大学が、しからば教育面だけでも上位大学を追い抜こうと、一生懸命教育に精力をつぎ込んでも徒労に終わり、教育の評判は変わらないということでしょうかね?

 2.  タイムズ世界大学ランキングで、なぜ日本の大学の「被引用数」スコアが急落したのか?

 それでは、今回のタイムズ社世界大学ランキングで日本の「被引用数スコア (Citations)」が急降下したのはなぜか?という話を始めたいと思います。ただし、「被引用数」という指標は「論文数」に比べると格段にその扱いが難しくなります。

 タイムズ社世界大学ランキングのウェブ・サイトにも“ It is one of the most sophisticated indicators in the modern bibliometric toolkit.” 「これは、現代の計量書誌学のツールキットの中で、もっとも洗練された指標の一つである。」と書かれています。

 読者のみなさんには少し我慢をしていただいて、まずは、この「被引用数」なるものの基本的な性質からご理解いただかなければなりません。これはちょっとついていけないね、とお感じになる皆さんもいらっしゃると思います。どうしてもついていけない方は、今回はスキップして、次のブログから読んでいただいてもいいかもしれません。

 なお、今まで僕は、論文数の分析にはずっとトムソン・ロイター社のInCites™を用いていますが、最近バージョンアップされ(ニュー・ジェネレーション)、高度な分析が簡単にできるようになりました。今回の「被引用数」の分析も、ニュー・バージョンによって可能となりました。

 

1)被引用数の基本的な性質

(1)「被引用数」の性質 その1

<被引用数は他の研究者からの「注目度」を反映する。>

 「被引用数」とは、先にもお話しましたように、その論文が、他の研究者の論文に引用された回数をいいます。数多くの論文に引用されるということは、それだけ自分の研究が他の研究者から「注目」されたということであり、これは一種の「質」を表すと考えられます。論文をたくさん書いても、他者から顧みられない論文であっては、ほとんど価値がありませんからね。タイムズ社の世界大学ランキングでは「被引用数」の指標の意味を「Research Influence(研究の影響力)」と表現しています。

 ブログですと「閲覧数」や「訪問者数」、あるいは。各種検索エンジンで検索した結果、リストの上位に表示されるかどうかが「注目度」を示していると考えられます。これらは「被引用数」とは違う指標ですが、「注目度」を反映するという点では同じような趣旨になると思います。

 ツイッターの「リツイート数」も、ツイートを見た人が、その情報をさらに他の人たちに拡散する価値があると判断した数ですので、「注目度」を表す指標ですね。これはかなり「被引用数」に似通った指標であると感じられます。

 もっとも、「リツイート」の場合は、批判の対象として拡散されることが時々あり、これは「炎上」と呼ばれていますね。学術論文の場合も、批判の対象として引用されることもありますが、ほとんど良い評価に基づいています

 

 「被引用数」を学術論文の「質」を示す指標として使うことについては、以前から議論があります。タイムズ社世界大学ランキングの2010-2011版の説明には、以下のような文章が書かれています。

 「「被引用数」を質の指標として使うことについては議論がある。イギリスにおいて「被引用数」を用いて、「新たな卓越研究の枠組み」における15億ポンド以上の研究資金の配分を決めようとしたが、長い話し合いの後に、大幅に縮小された。しかし、「被引用数」は、研究のパフォーマンスと強く相関するという明確な証拠がある。」

 タイムズ社の世界大学ランキングでは、「被引用数スコア(Citations)」の重み付けが30%もあり、単独の指標としては最も重視されています。他の大学ランキングにおいても、「被引用数」に関係した指標は何らかの形で必ず取り入れられおり、「被引用数」が難しい、あるいは議論があるといっても、軽視することはできません。

 

(2)「被引用数」の性質 その2

<「被引用数」は、最初は少ないが年が経つと多くなる。>

 たとえば、あなたが論文を書いたとしましょう。その論文が他の研究者の論文に引用されるまでには、少し時間がかかります。そして、時間が経つと次第に引用される回数が増えていきまず。ただし、普通はしばらくするとあまり引用されなくなります。累積の「被引用数」のカーブを書くと、最初は急激に増加して、次第に穏やかになっていくカーブが描けます。

 ブログの「閲覧数」や「訪問者数」についても同じことが言えますね。ただ、ブログなどでは、論文よりも変化が急激です。僕のブログでは、書いたその日からアクセス数が増え始め、翌日くらいがピークになり、その次の日には下がってきます。しかし、けっこう時間がたってもアクセスする人もいます。

 もっとも、一回も引用されない論文もけっこうあるのですが、この場合は、年月が経っても被引用数は「0」のままということになります。

 

(3)「被引用数」の性質 その3

<「被引用数」は「論文数」を増やすと多くなる。>

 あなた自身の「被引用数」を増やそうと思えば、論文を一つだけではなく、たくさん書けば「被引用数」は増えていきます。

 大学や国という単位では、どのような被引用数のカーブが描けるのでしょうか?

 図表18に、主要6か国の1990~2004年にかけての「論文数」と「被引用数」のカーブをお示ししました。左は、今までにも何度も見ていただいた「論文数」のカーブです。繰り返しになりますが、諸外国の論文数は増えていますが、日本だけが停滞しています。また、中国の伸びには目を見張るものがありますね。

 図表18の右図が「被引用数」です。「論文数」と違って、どの国のカーブも山を形作り、最近になるほど急激に少なくなっています。この図の見方は、たとえば2000年の値というのは、2000年に公表された論文が、現在までにどれだけ引用されたか、という数値を示しています。

 最近書かれた論文から逆にたどっていきましょう。2014年に書かれた論文は、まだ1年ちょっとしか時間が経っていないので、引用される回数も少ないわけです。2013年に書かれた論文は、現在までに2年ちょっと経っているので、それだけ多く引用されています。しかし、2000年頃に書かれた論文では、引用される回数がしだいに減り、また、当時の論文数は今よりも少ないのでそれだけ「被引用数」も少ないわけで、この両方の影響でカーブが緩やかになってきます。そして、頂上に達し、さらに年を溯るとカーブが下がってきます。

 中国の「被引用数」の山の頂上は、他の国よりも年が浅く、2009年頃ですが、これは、中国の論文数が2000年頃から急激に増えだしたことが反映されていると考えられます。

 このように「被引用数」は「論文数」にも影響され、また、論文が公表された年からの経過年にも大きく影響されるので、大学と大学、あるいは国と国や、研究者と研究者の間の単純な比較が難しいですね。

 そこで、「被引用数」を「論文数」で割ってやり、「論文数」の影響を除いた指標が考え出されました。この「被引用数/論文数」は、Citation Impact(被引用インパクト)とも呼ばれ、その大学(あるいは国や研究者)が、いかに効率よく注目度の高い論文を産生しているか、ということを表しています。

 この「被引用インパクト」を先ほどの主要6か国で図表19にお示ししました。

 

 そうすると、論文数や被引用数の順位とはやや違った順位になります。2000年頃の順位は、「米国―イングランド―ドイツ―日本―韓国―中国」なのですが、たとえば2014年の順位を見ようと思うと、カーブが急峻に低下してくるので、このグラフでは読みとりにくいですね。実は2014年の順位は、拡大して調べてみると「ドイツ―イングランド―米国―中国―日本―韓国」になっているんです。

 このように「被引用数」に対する「論文数」の影響を除くために、「被引用数」を「論文数」で割った「被引用インパクト」が考え出されましたが、でも、まだ、年が経つことによる影響のために、比較が困難です。

 そこで、年毎(あるいは数年間毎)に世界全体の「被引用インパクト」を基準にして、それと比較して何倍なのかを見よう、という指標が考え出されました。これが、「Impact Relative to World(対世界相対インパクト)」です。

 

 図表20の左図が主要国における「対世界相対インパクト(Impact Relative to World:IRW)」の推移を示しています。この指標ですと、「被引用数」や「被引用インパクト」のように、年を経るにしたがって急激に低下することはありませんので、比較しやすいですね。

 

(4)「被引用数」の性質 その4

<「被引用数」は論文の種類(Document type)によって異なる。>

 先ほどは、年毎に世界全体の「被引用インパクト」を基準にすると言いましたが、ここで、注意をしないといけないのは、「被引用数」は論文の種類(Document type)によっても、違った挙動をすることです。

 論文の種類には、原著論文(Article)、総説論文(Review)、会報論文(Proceedings Paper)、書簡(Letter)、など、いろいろとあります。このうち、「原著」は、研究者のオリジナルな新しい発見や発明を、しっかりとした科学的根拠を示しつつ公表するものであり、原則として査読がなされ、最も基本となる論文種と言えます。「総説」は複数の先行研究を体系的にまとめた論文です。「会報(Proceedings Paper)は学会等における発表に基づいた比較的簡易な報告であり、査読は必ずしもなされていません。

 実は、図表20の左図で基準にしているのは、データベースに収載されている世界の全論文の「被引用インパクト」を基準にしています。ということは、すべての種類の論文を含んでいることになりますね。

 図表20の左図では、日本の「対世界相対インパクト」の値は1.5前後を推移しているので、 “世界平均に比較して日本の論文は1.5倍も注目されている”と、思っていただいてはいけないのです。ここで分析をしようとしているのは原著論文(Article)だけに限った論文ですので、世界の全種類の論文を含めた被引用インパクトを基準にするのではなく、世界の原著論文だけを取り出した場合の被引用インパクトを基準にした方がより適切です。それが図表20の右図です。

 そうすると、日本は「1」前後を推移していますので、注目度は世界の平均程度ということがわかります。なお、日本が最近中国に追い抜かれたこともわかりますね。日本の論文の注目度は、先進国に比較してあまり芳しくないことがわかります。

 

 図表21は、同じことを総説で示した図です。総説の「対世界相対インパクト」は各国とも高い値を示しており、「総説」は論文種の中では最も引用されやすいことがわかります。右図の全世界の総説だけの「被引用インパクト」を基準とした場合は、「1」前後の値になっています。総説の日本の注目度は、この6か国の中では最低で、中国、韓国よりも低くなっています。

 

 図表22は、同じことを会報論文(Proceedings Paper)で示した図です。左図は各国とも非常に低い値となっています。会報は、他の論文種に比べて、引用される機会が非常に少ないことがわかります。全世界の会報だけの「被引用インパクト」を基準にした場合は、やはり「1」の周辺を推移しています。

 

図表23は、総説(左図)と会報(右図)の論文数の推移を示した図ですが、会報は非常に不安定な動きをしていますね。

 

 以上をまとめますと、論文当たりの被引用数(被引用インパクト)は論文の種類によって異なり、総説>原著>会報の順であること、会報については、被引用数は少なく、また、論文数も不安定な動きをすることがわかりました。

 このようなことから、研究力の評価においては、原著論文だけを取り出して比較するか、もしくは[原著+総説]論文で分析することが妥当と考えられます。

  

(5)「被引用数」の性質 その5

<「被引用数」は研究分野によって異なる。>

 

 「被引用数」は研究分野によっても随分と異なります。研究分野の分類はおおまかな分類から細かい分類まで、いくつかの種類があります。

 また、それぞれの研究者が行っている研究を、既存の研究分野にきれいに分類することはしばしば困難であり、一つの論文を複数の研究分野に割り振ることもなされています。研究分野の分類というのは、なかなか難しい面をもっています。

 

 図表24には、InCites™で分析に用いることのできる研究分野スキームのいくつかをお示ししました。それぞれのスキームの由来等の説明については長くなるので省略させていただきます。InCites™のヘルプ(Help)などを参照願います。

 GIPPと名付けられた研究分野スキームは、全研究分野をわずか6つに分類する最も大まかな分類です。

 図表25には、Essential Science Indicators(ESI)と呼ばれる22分野に分ける分類から7分野を選んで、その全世界の「論文数」(左図)と「被引用インパクト」(右図)を示しました。なお、ESIという分類では人文学が含まれていないことに注意する必要があります。

 

 まず、各研究分野によって全世界の「論文数」に違いがあることがわかりますね。「被引用インパクト」についても、研究分野によって違いがありますし、そのパターンについても生命科学分野などは、年を逆にたどるとかなり早く立ち上がっていますが、経済・経営学や数学は、徐々に被引用数が増えていく傾向が伺えます。なお、論文の種類は「原著+総説」で分析をしています。

 図表26の左図は、ESIから選んだ7研究分野の全世界の[原著+総説]論文の「対世界相対インパクト(Impact Relative to World)」を示しています。基準にしているのは、全世界の全分野(人文学を除く)の全論文種の「被引用インパクト」です。分野によって、その「対世界相対インパクト」の値や、パターンが随分と違います。

 生命科学分野などの研究者の数が多い分野では、数学などの研究者の数が少ない分野に比べて、1つの論文を公表した場合に他の研究者から引用される確率が高くなります。つまり、「被引用数」は研究者コミュニティーの規模に左右されます。

 そうすると、研究者コミュニティーの大きい分野(例えば生命科学や物理・化学など昔から学問として確立されている分野)の研究を中心にやり、研究者コミュニティーの小さい分野(例えば数学・エンジニアリング・人文学などや、まだ、学問として確立されていない新しい分野)をやらない大学の方が、有利な値になってしまいます。

 ご存知のように大学にはいろいろな種類があり、総合大学もあれば単科大学もありますし、理系中心の大学もあれば文系中心の大学もあります。総合大学といっても、それぞれの学問分野への比重のかけ方は、各大学で違ってきます。

 そこで、そのような研究分野の違いから生じる「被引用インパクト」の不公平を調整するために「Category Normalized Citation Impact(CNCI):分野調整被引用インパクト」という指標が考え出されました。これは、研究分野毎に、その分野全体の「被引用インパクト」を基準にして、それぞれの大学や国の「被引用インパクト」がどの程度かを示す指標です。年別に、研究分野別に、そして、論文の種類別に、調整がなされます。

 「分野調整被引用インパクト(CNCI)」の値が「1」ということは、その年(または数年間分)の、その研究分野の、その論文種に限って比較をした「被引用インパクト」が世界平均レベルということになります。

 

  図表26の右図を見ていただきますと、各分野とも各年にわたって「1」が、ずっとつづいています。これが「分野調整被引用インパクト(CNCI)」です。(データベースに収載されている)全世界の各年の[原著+総説]論文種における各分野の「被引用インパクト」を、同じく、全世界の各年の[原著+総説]論文種における各分野の「被引用インパクト」で割っているので、つまり、自分自身で割っているので、どの分野も、どの年も、「1」になるのです。

 このあたりで、読者の皆さんの頭の中は、かなりこんがらがっているかも知れませんね。

 ここで、皆さんの頭をいっそうこんがらがらせるかも知れないことをお話ししますと、実はこの図表26ではESIという研究分野スキームを選んでいるがために、「分野調整被引用インパクト(CNCI)」が各研究分野で「1」になっているのです。これを他のスキーム、たとえばGIPPという研究分野スキームを選んで同じことをしても「1」にはなりません(図表27)。

 

 その原因は、ESIという分類では、各論文を各研究分野に重複なく1個ずつ割り当てているのに対して、GIPPという分類では、1つの論文を複数の研究分野に割り当てているケースが相当数あることに基づいています。

 では、複数の分野(仮にA分野とB分野にします)に割り当てられた1つの論文の「分野調整被引用インパクト(CNCI)」はどのように計算されているかというと、「1つの論文の被引用数」を世界全体で見た場合にA分野に期待される「1論文当たりの被引用数」で割った値と、同じく「一つの論文の被引用数」を、世界全体で見た場合にB分野に期待される「1論文当たりの被引用数」で割った値、の二つを足して2で割った値(つまり平均値)で求められているのです。

 なかなかややこしいですね。

 図表27の左図は、分野調整がなされていない「対世界相対インパクト」を示しており、右図はGIPPという分類を使った場合の「分野調整被引用インパクト(CNCI)」が示してあるのですが、右図はESI分類を使った時のように「1」にはなりません。しかし、左図に比べると分野間の違いは小さくなり「1」に近づいていますね。

 実は、タイムズ社の世界大学ランキングで使われている「被引用数指標(Citations)」は、この「分野調整被引用インパクト(CNCI)」に、さらに国別の調整を加えた「CNCI-country adjusted」が使われています。

  この国別調整は、英語で書かれた論文の被引用数が多いという有利性を弱めるために、非英語圏国の大学の「分野調整被引用インパクト(CNCI)」に係数をかけて調整したものとされています。

 

(6)「被引用数」の性質 その6

<「被引用インパクト」には、論文数の比較的少ない大学や分野でブースト現象が見られる>

 小規模大学では、とびぬけて「被引用インパクト」が大きい論文が一つ産生されると、それが大学全体の被引用インパクトを大きく引き上げる現象(ブーストboost)が観察されます。

 これは、注目を集める論文の「被引用数」は、他の論文に比べて、圧倒的に多くなりやすいということと関係しています。つまり、論文を「被引用数」でもって分布させると、「被引用数」が圧倒的に多いごく一部の論文と、「被引用数」が極めて少ない大多数の論文という偏った分布になり、平均値よりも中央値が低くなります。

  このような現象は、ベストセラーになった本や歌でも観察されますね。

  大規模大学ですと全体の論文数や被引用数が多いので、一つの論文の「被引用数」に全体が引きずられる程度は小さくなります。

  図表28は、研究分野スキームGIPP、原著+総説、1995-2014論文数4000以上という条件で日本の大学を抽出し、2014年の「分野調整被引用インパクト(CNCI)」が上位の大学6つのCNCIをプロットした図です。

 

 2014年に公表された論文のCNCIのランキングは、藤田保健衛生大学、帝京大学、東京大学、首都大学東京、総合研究大学院大学、京都大学の順となっています。

 東京大学や京都大学のような大規模大学の経年の変動はそれほど大きくありませんが、他の大学は尖った山があり、変動が大きいことがわかります。

 特に首都大学東京は、非常に大きなピークが数年おきに生じています。このような、CNCIのブーストは、スーパースター研究者がいらっしゃることを想像させます。Incites™を使えば、そのような研究者を簡単に特定でき、Tamura, Koichiroさんであることがわかります。

 藤田保健衛生大学及び帝京大学の2014年の突然の上昇については、両大学とも被引用数が非常に多い一つの糖尿病についての多施設共同国際共著論文に名を連ねていることによると考えられます。その論文は140名の著者からなる論文であり、日本人が7名含まれています。このようなホットな国際共著論文に名前を連ねることができれば、仮にスーパースター研究者がいない場合でも、その大学の「被引用インパクト」が、ブースト効果で引き上げられることになります。

 なお、現時点でのCNCIの計算では、国際共著論文の被引用数が共著者に分けて割り当てられるのではなく、分けずにそのまま割り当てられているはずなので、国際共著論文にたくさん名を連ねることは、「被引用数」を(見かけ上?)増やす上で、けっこう有利になると思われます。

 このようなブースト効果のある評価指標は、中小規模大学にとっては、大規模大学と対抗できうる数少ない評価指標であり、それなりに存在意義があると考えられます。しかし、小規模大学ばかりが上位に名を連ねるようになっても、ちょっとおかしなこといなりますね。

 それで、タイムズ社の世界大学ランキングでは、ブースト効果があまりに極端になりすぎないように、いくつかの処置をほどこしています。

 まず、論文産生が年間200未満の大学は、最初から除外しています。それから1年間のデータではなく5年間にわたって公表された論文の被引用インパクトで比較しています。これで小規模大学の極端なブースト効果はある程度除けます。しかし、それでも、小規模大学のブースト効果はかなり見られます。

 図表29は、2010-2014年の[原著論文(Article)+総説論文(Review)]で、この5年間に1000論文以上産生している大学(n=1641)を抽出し、横軸に論文数、縦軸に「被引用インパクト(Citation Impact)」をプロットした図です。

 

 全体の傾向としては、論文数の多い大学ほど、つまり大規模大学ほど、「被引用インパクト」が高いことがわかりますが、論文数の比較的少ない大学の中に飛び抜けて「被引用インパクト」の高い大学があり、そして小規模大学ほど、この頻度が高くなる傾向が伺われます。

 この1641大学のうち、日本の大学は101ありました。図では、それを赤丸で示してあります。まず、日本の大学が、全体的には低めの位置に分布していることがわかります。しかし、一つだけぽつんと「被引用インパクト」が飛び抜けて高い大学がありますね。これが首都大学東京です。

 

 さて、さて、今日のブログでは、「被引用数」という指標の基本的な性質についてお話ししましたが、読者の皆さんのがまんの限界を超えてしまったかもしれません。まさに「sophisticated」(洗練された、精巧な、きわめて複雑な)という形容詞が実感される指標ですね。

  このあたりでいったん区切りをつけて、次回のブログでは、いよいよ、タイムズ世界大学ランキングで、日本の大学の「被引用数スコア(Citations)」がなぜ急落したか、という分析結果についてお話をします。

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日本の大学ランキングが急落した理由とは?(その1)

2016年01月02日 | 高等教育

 新年あけましておめでとうございます。

 気がつけば昨年の10月からブログを更新していませんでしたね。11月29日に鈴鹿医療科学大学で開催され、多くの皆さんに参加していただいた第二回日本薬膳学会での会長講演を初めとして、その前後に毎週のように全く別のテーマで講演をさせていただき、猛烈な忙しさでした。本来は去年の間に書いておくべきテーマであったのですが、お正月休みに入ってやっと書くことができたという状況です。日本の研究力の低下について書籍の執筆も頼まれているのですが、進捗がずいぶん遅れています。すみません。

 でも、このブログも、その書籍の一部にしますからね。

 さて、平成15年は日本人のノーベル賞連続受賞の喜ばしいニュースとともに、タイムズ社(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション、Times Higher Education、以下THEと略します。)による世界大学ランキングで日本の大学の順位が急落し、200位以内に2大学しか残らないという惨憺たる結果が報道され、関係者に激震が走った年でもありました。下村博文前文部科学大臣も昨年の10月2日の記者会見で日本の大学の順位の急落について記者の質問に答えておられます。

 日本政府は日本の高等教育政策の中で、以前から世界大学ランキングを目標に掲げています(図表1)。第一次小泉内閣の時、国立大学が法人化される前夜の平成13年6月に出された「大学(国立大学)の構造改革の方針」(いわゆる遠山プラン)には、ランキング何位とまでは書かれていませんが、「国公私トップ30を世界最高水準に」と書かれています。

 

 第一次次安倍内閣の時、平成19年6月の教育再生会議第二次報告では「世界の上位10校以内を含め上位30校に少なくとも5校は入る。」と書かれており、また、第二次安倍内閣の平成25年6月の日本再興戦略に「今後10年間で世界大学ランキングトップ100位以内に10校以上を入れる。」と書かれています。なお「世界のトップ100大学に10校」は、平成25年1月23日の第一回産業競争力会議において竹中平蔵議員が提出した資料の中に書かれています。

 僕はこのような大学ランキングを政策目標に設定することは良いとは思いません。大学のミッションは多面的であり、1つの評価軸では適切な評価ができないということが一つの理由です。もう一つは、現在の日本のように財政状況が厳しく大学への公的資金総額が削減されている状況では、上位大学だけを重点化する政策が掲げられれば、すでに世界の中でも最も急峻な大学間傾斜がいっそう急峻となり、スカイツリーのような超急峻な大学間傾斜になって、多くの大学が弱体化し、結果的に国家全体としての大学力が低下するからです。

 目標としては国家全体の高等教育や研究力の数値目標を、その前に掲げるべきであると考えます。なお、大学間の「選択と集中」政策は、公平な機会を与えて競争させる「競争原理」とは対極の概念であり、持てる者を上から選び、公平な競争に人為的に決着をつける政策であると考えます。したがって競争原理によって期待される大学間ランクの交代は起こりにくくなります。

 法人化以降の高等教育政策(国立大学)の潮流は、大学への公的資金の総額削減、「選択と集中(重点化)」、基盤的資金の競争的資金への移行、ということであり、その結果、まず中下位の大学の弱体化が起こりました。今回の世界大学ランキングの低下は、「選択と集中」政策の恵みを享受してきたはずの上位大学だけの問題であり、今まで、地方大学の存在意義を訴えつづけてきた僕としては、あまり関心はありませんでした。しかし、中下位大学のみならず、上位大学の国際競争力も低下していることは、日本の大学が総崩れ状態であることを意味するとも考えられます。

 また、大学ランキングには、常に批判がある一方で、世界の人々に大きな影響を与えることも事実であり、留学生の大学選択や国家のブランド力にも関係してきます。どの国でも、政治家や報道機関や国民の大きな関心事になっています。

 このような理由で、今回、あまり気が進まなかった大学ランキングについても考察してみることにしました。

 今回の日本の大学ランキングの急落について、新聞報道やネット上でも、なぜ日本の大学ランキングが急落したのか、また、それをどう捉えるべきなのかについて、さまざまな意見が飛び交いました。そのほとんどは的を射たご意見であると思います。一部は、皆さんのご意見の繰り返しになるかもしれませんが、今回は、自分自身で分析した結果に基づき、僕なりの考察を試みたいと思います。

 まず図表2に示したTHEの世界大学ランキングにおける日本の大学のランキングの推移を見ていただきましょう。タイムズ社が大学ランキングを始めた当初、QS社という会社がランキングのデータを分析していましたが、2010年からトムソン・ロイター社に代わり、その時点でいったん日本の大学のランキングは急落しています。そして、今回、2015年にトムソン。ロイター社からエルゼビア社にデータ分析担当会社が代わり、再度、日本の大学の順位が急落しました。

 

 THEの世界大学ランキングにおける2010年と2015年の日本の大学の異常と感じられる急落は、データ分析を担当した会社の評価方法の違いによるものと考えられます。今回のTHEのホームページには、評価方法が変更されたので、それまでの結果と、2015年度の結果とは連続性がなく、継時的な比較をすることは無意味であると書かれています。

 THEのホームページには、ランキングのもとになる評価項目について、その方法や重み付けが解説されており、日本の大学の順位急落の要因をある程度推測することができます。

 それによると、ランキングは大きく5つの大きな指標と、さらにそれを細分化した13の指標で点数が付けられます(図表3)。その5つあるいは13の指標について、重み付けがなされた上で、その合計点でランキングが決まります。「教育」「研究」「被引用数」のそれぞれが30%であり、この3つで90%の点数が決まってしまいます。このうち「被引用数」は、実は研究力の指標です。また、「教育」の評価項目の中にも、研究に大いに寄与する博士に関する項目の重みが8.25%あり、企業からの収入2.5%や国際共同研究2.5%も研究に寄与すると考えられますので、これらを合計すると73.25%が研究に関連する評価と考えられます。

 

 なお、「被引用数」は、その論文が他の研究者の論文に引用される回数であり、その回数が多いということは「注目度」が高いことを意味します。「注目度」は、論文の「質」を表す一つの指標(代理変数)と考えられています。

 さらに、各指標の重みづけは、研究分野によって調整がなされます(図表4)。たとえば被引用数(Citation)を見てみると、「Arts & Humanities」では15%、一方「Clinical, Preclinical & Health, Life Sciences & Physical Sciences」では35%の重みとなっています。

 

 いずれにせよ、「研究力」がランキングの最も大きな評価指標になっているということであり、国立大学法人化以降、学術論文数の停滞や、分野によっては減少するなど、研究力の指標で海外の大学にどんどんと引き離されている日本の大学のランキングが低下してもおかしくありません。

 各指標の点数(スコア)は累積確率スコア(cumulative probability score)で示されています。これは、例えばある大学のスコアが60ならば、その大学の下に60%の大学があるということを意味します。つまり、相対的な値ということであり、日本の大学が従来の研究力を維持していたとしても、海外の大学に対して相対的に研究力が低下すれば、日本の大学のスコアは低下して、ランキングも低下することになります。

 図表5、6、7を見ていただきますと、日本の大学が顕著に低下している評価項目としては「教育」「研究」「被引用数」がありますが、その中でも「被引用数」の低下が大きいことがわかります。「教育」「研究」については従来から徐々に低下しており、その延長線上で今回も低下したように感じられますが、「被引用数」については、それほど低下していなかったものが、今回突然大きく低下したという感じですね。

 

 

 

 

 

 「国際化」のスコアはそもそもの点数が非常に低く、また、今回わずかに低下しているようですが、重み付けが7.5%しかないので、全体の点数にそれほど大きな影響は与えなかったのではないかと考えます。もちろん、今後日本の大学のランキング低下を防ぐためには大学の国際化にいっそうの力を入れる必要がありますが、今回の急落の直接の原因ではないということです。

  また、今回、日本と同様に、韓国の大学も順位が急落していますが(図表8)、200位以内に4大学が残っており、図表9、10、11に示すように、「被引用数」は1大学を除いて、3大学ではあまり低下しておらず、日本の大学の順位の急落とは少し異なっています。韓国は「教育」と「研究」で急激にスコアが低下しています。

 

 THE以外の大学ランキングも見てみましょう。THEのランキングの最初の時代を担当していたQS社は、その後もランキングを公表しています(図表12)。THEのランキングのような2度にわたる急降下はみられませんが、多くの日本の大学のランキングは毎年低下し続けており、今までに200位以内にランクインしたことのある大学は14大学ありましたが、2015年は8大学となっています。

 

 上海交通大学による大学ランキングでは、100位以内に日本の4大学が残っています。ただし、このランキングでも日本の大学は徐々にランクを下げています(図表13)。

 

 THEに限らず、どの大学ランキングでも、日本の大学はその順位を下げていますが、今回のTHEの世界大学ランキングにおける日本の大学の順位の急落や「被引用数」の急落は、ちょっと急峻すぎますね。

 法人化以降の日本の大学の研究力の相対的低下に基づいて、当然の帰結として生じる大学ランキングの低下以外に、どうも被引用数の評価方法の変更が、日本の大学に対して大きく影響したようです。

 昨年の12月3日に、国立大学法人の電気通信大学において研究大学強化促進事業の一環として開催されたシンポジウムで、僕は「日本の研究力はなぜ弱くなったか」というテーマで講演させていただいたのですが、その時に同じく講演をされた岡山大学理事の山本進一さんが、THEのランキングについてもお話になりました。山本さんによれば、今回の評価方法の変更により日本のランキングが急落することについて、THEの責任者があらかじめ日本を訪れて、説明をされたそうです。そして、岡山大学が幹事校、自然科学研究機構が世話役をしておられる「大学研究力強化ネットワーク・大学ランキング指標タスクフォース」がTHEに対して申し入れを行ったとのことでした。その内容はネット上で公開されています。

https://www.runetwork.jp/images_activity/20151030_pdf_01.pdf

 図表14に「大学ランキング指標タスクフォース」がTHEに提出した申し入れの要点を僕なりに10項目にまとめてみました。これらの項目は、日本の大学にとって有利になると考えられる申し入れであると考えられます。

 

 この10項目の中で1~6までは、何らかの形で「被引用数」と関連して掲げられた記述であると思います。今回のTHEの評価で日本の被引用数スコアの急減が、ランキング急減の主因と考えられますので、この申し入れでも重点的に書かれていますね。

 7番目のreputation(評判)という、曖昧さを感じさせる評価項目について、申し入れでは「現行の方法では、多くの研究分野をカバーする有名大規模総合大学等の一部上位校に集中する傾向があり、指標としての弁別性は悪い。弁別性が悪い指標であるが故に、全指標に対して Reputation の比率をいまよりも下げることを要望する。」と書かれています。

 THEの今回のランキングで大学のReputationがどのように変化したのかということについては、「World Reputation Rankings」を見るとわかります。

 図表15に日本と韓国の大学の「World Reputation Rankings」の推移を示しました。100位より下位のランキングについては記載がありません。また50位より下位のランキングは10点刻みなっており、グラフではたとえば51-60位の場合「55」の値にプロットしてあります。

 

 東京大学と京都大学のReputationランキングは、2015年に低下をしたといっても僅かの低下ですが、他の日本の大学は今回のランキングで一気に100位より下位になってしまっています。図表5に戻っていただいて、「教育」と「研究」のスコアをもう一度みていただきますと、東大と京大はそれほど変わっていませんが、東大・京大以外の大学は、それまでの延長線上の低下とはいえ、大きくスコアを下げており、これには今回のReputationランキングの低下が大きく影響していることを感じさせます。

 また、図表15の韓国のReputationランキングの推移を見ていただきますと、いずれの大学も大きく低下しており、韓国の「教育」と「研究」スコアの低下に大きく影響したことが考えられます。

 僕も「大学ランキング指標タスクフォース」の「Reputation(評判)の評価指標の重み付けを小さくすべきであるという申し入れに賛同します。ただし、東大、京大は、このReputationランキングがそれほど低下していなかったために、「被引用数」スコアの大幅低下をカバーできて、全体のランキング低下を多少なりとも抑えられた可能性があるのではないかと思っています。

 図表14に示した申し入れの8と9は、2015年9月16日にトムソン・ロイター社によって発表された「The World  Most Innovative Universities」(世界で最も革新的な大学)を念頭に置いた申し入れであると思われます。

http://ip-science.thomsonreuters.jp/ssr/news/20150930/

 トムソン・ロイター社のサイトにおける説明では「この、ランキングでは、大学の業績としてあらわれる学術論文と特許を組合わせて分析を行った新しいランキングです。大学と企業の共著論文による産業界への貢献度なども加味することで、大学の業績を多面的に俯瞰することができるものです。特許においては、特許の数量、特許出願に対する登録率、グローバル性や引用数を、また学術論文においては大学と企業の共著論文、引用数などの項目を総合的にスコアリングしてランキングを決定しています。」と書かれています。

 図表16に示しましたように、このランキングですと、日本の大学が世界100位以内に9校入っており、他のランキングよりも日本にとって有利になります。日本では東京大学ではなく大阪大学がトップになることも面白い結果です。韓国も8大学入っており、日本のトップ大学よりも上位に2大学も入っています。THEのランキングで、分析担当がエルゼビア社に代わったとたんに、日本の大学も韓国の大学も順位が急落しましたが、トムソン・ロイター社が全く別の評価指標で今回新たに発表したランキングで、日本と韓国の多くの大学がランクインしたことは、大学のあるべき評価軸は一つではいけないことを如実に示しています。

 日本にとって、トムソン・ロイター社は様様ですね。

  今後、このイノベーションを評価軸とする大学ランキングで日本の順位が上がるように、大学も頑張り、政府も支援をすればいいのではないかと思います。逆に、このランキングの次回以降において、日本の順位が下がるようでは、もう日本は救いようがないと思います。

 地方大学は「地域イノベーション」の評価軸で頑張ればいいのではないかと思います。今の世界大学ランキングの評価軸では、地方大学はランクインしてきませんが、それならば「地域イノベーション」を評価軸とした世界ランキングを作ればいいのではないかと思います。一度、トムソン・ロイター社に、そんな評価軸の大学ランキングができないかどうか頼んでみますかね?

 国の政策としては、今までの「総額削減+大学間の選択と集中」政策ではなく、「大学総活躍政策」をとっていただきたいと思います。それが地方を含めて日本全体を元気にする最も効果的な政策であると信じています。

 次回のブログでは、今回のTHE大学ランキングで日本が最も大きな影響を受けた「被引用数」スコアの急落について、もう少し詳しく考察を進めたいと思います。

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はたして日本は今後もノーベル賞をとれるのか?

2015年10月09日 | 科学

 2015年の自然科学分野のノーベル賞は、昨年に続いての日本人の連続受賞、しかも生理学・医学賞と物理学賞の2部門同時受賞という快挙でした。生理学・医学賞の大村智さん、そして、物理学賞の梶田隆章さん、ほんとうにおめでとうございます。

 今回の日本人のノーベル賞受賞については、いくつかの点で話題がありましたね。

 まずは、昨年に続いての連続受賞で、しかも2部門同時受賞。最近、日本人の受賞が増えているなと感じていたら、2000年以降の16年間に16人も受賞しています。1901年から数えて自然科学部門の日本人受賞者は21人(外国籍も含む)なのですが、そのうち実に16人が、この16年間に受賞しました。これは、長年デフレ不況に苦しんできた日本人に、大きな自信を与えていますね。

 もう一つ、今回受賞したお二人とも、旧帝大のご卒業ではなく、いわゆる地方大学(山梨大学、埼玉大学)のご出身であること。2000年以降の自然科学分野のノーベル賞受賞者のうち旧帝大卒業者が10人、それ以外が6人となっています。政府は、世界的な研究という面においても、地方大学を低く見てはいけないと思います。(政府は現在世界的な研究を行う一部の大学と、そうでない大学に分ける政策をとっています。)

 日本人の受賞が相次いでいることについて、2008年のノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんが記者団の質問に応じ、「ノーベル賞は毎年9人か10人なので、毎年1人ぐらいでるのは当たり前」と話したと報じられています。

 この、ノーベル賞受賞者の1割は日本人がとって当然という”益川理論”は、何を根拠にそんなことが言えるのでしょうか?2000年以前については日本人受賞者は少なく、”益川理論”を当てはめることができないのは、どうしてなのでしょうか?そして、今後もはたして日本はノーベル賞を1割とり続けることができるのでしょうか?

 毎年、ノーベル賞の発表が近づくと、過去の受賞歴や、論文の被引用数(どれだけ他の研究者から論文が引用されるか)などから、受賞者の予想がなされます。それが当たることもあれば、しばしば予想外の研究者が選ばれることもありますね。ノーベル賞の受賞の予想は、不確定要素があってなかなか難しく、一筋縄ではいかない面があります。

 でも、論文数や被引用数などがまったくあてにならないかというと、そうとも言えず、トムソン・ロイター社の論文の被引用数などから毎年発表している予想も、ある程度は当たるわけです。

 そこで、日本人のノーベル賞受賞者が最近増えていることについて、論文数や被引用数から、何か言えないか、すこしばかり調べてみました。

 日本人がノーベル賞をよくとる分野は物理学と化学であり、生理学・医学賞は受賞者が少ないので、まずは2000年以降のノーベル物理学賞・化学賞受賞者と、主要国(米国、中国、英国、ドイツ、フランス、日本、韓国)の物理・化学分野の論文数および被引用数の関係性について調べてみることにしました。

 トムソン・ロイター社のInCites™という簡易型の学術文献データベースを用いて、essential scientific indicators22分野のうち「物理学」および「化学」の論文数および被引用数を調べようとしたのですが、ノーベル物理学賞・化学賞受賞者の研究分野と、トムソン・ロイター社22分野の「物理学」「化学」とは、必ずしも一致しないので、少し範囲を広げて、「生物・生化学」「物質科学」「宇宙科学」を加えた5分野で調べることにしました。この5分野以外の研究でノーベル物理学賞・化学賞を受賞している研究者もいると思われ、また、今回選んだ5分野の中に、ノーベル賞と関係のない部分も含まれている可能性があり、必ずしも厳密なものではありませんが、およその傾向はわかるのではないかと考えます。

 ノーベル賞という数の決まった賞を受賞できるかどうかは、論文数の絶対値よりも、相対値(シェア)の方が強く影響すると考えられます。また、ノーベル賞は、論文の中でも注目度の高い論文が選ばれるわけですから、注目度を反映する被引用数のシェアについても調べることにしました。シェアの計算は、その年の論文数または被引用数を、同じ年の世界全体の論文数または被引用数で除して%で表しました。

 そして、ノーベル賞の受賞の対象となった研究は、たいていは受賞した年から遡って10~30年前くらいの研究が多いので、受賞対象となった研究が行われたおよその時期を推測して、その頃の日本の論文数や被引用数のシェアがどういう状態であったかをみることにしました。

 また、日本人の受賞者の中で、主として海外で研究された研究者は、カウントから除くことにしました。具体的には南部陽一郎さん、下村脩さん、根岸栄一さんです。白川英樹さんのノーベル賞受賞対象研究はアメリカでなされているようですが、日本での研究も関係していると考えられます。

 まずは、物理・化学関連5分野の論文数の推移です。今までに報告した通り、2004年頃から日本だけが減少に転じていますね。

 

 

 

 次は、論文数のシェアの推移です。

 

  ここ10年ほどの間に、物理・化学関連5分野について中国、韓国が論文数のシェアを増やし、他の国は米国も含め、すべてシェアを減らしていますが、日本の2002年ころからのシェアの減少は、他の国に比べて非常に急速でドイツに追い抜かれ、韓国にも追いつかれそうになっています。これ以前の時期については、日本は論文数シェアがおよそ10~13%であり、世界第2位という位置で健闘していたことがわかります。

 次の図に被引用数のシェアを示します。

 

 

 被引用数についても、中国と韓国がシェアを増やし、他の国が減らしているのは論文数のシェアと同じような傾向ですが、1980年代の米国の被引用数シェアは40~45%と高いこと、ヨーロッパ諸国はそれほどシェアを減らしていないこと、日本は2002年ころまでは10%前後のシェアでドイツや英国とほぼ同様でしたが、2002年以降に急速にシェアを減らし、中国、ドイツ、英国に抜かれてフランスと同程度となり、韓国に追いつかれそうになっています。

 次に、論文数のシェアのグラフに、日本の自然科学ノーベル賞受賞者が、その受賞対象となった研究を行った時期に合わせて名前を貼り付けてみました。日本で研究を行った受賞者だけを貼り付けてあります。欄外に張り付けた受賞者は、トムソン・ロイター社のデータベースが始まった1981年以前に受賞対象研究が行われたことを意味しています。また、参考までに生理学・医学賞を受賞したお2人についてもグラフに貼り付けました。

 

 

 このグラフをみると、ノーベル物理学賞・化学賞の受賞者は、日本の論文数シェアが10~13%、被引用数シェアが10%前後の時期に、受賞の対象となった研究をしていることがわかります。論文データベースが始まる1981年までの状況は今回の検討では不明ですが、グラフのカーブから、70年代はある程度の論文数シェアに達していたと思われますが、それ以前になると第二次世界大戦後の廃墟の中から、欧米諸国に追いつけ追い越せを掛け声に高度経済成長の段階にあった日本の状況を考えると、しばらく前の韓国や中国と同様に、日本の論文数シェアは、かなり低かったものと想像されます。

 2000年以降のノーベル物理学賞・化学賞受賞は82人(物理学賞42人、化学賞40人)、うち日本で研究を行った日本人が10~11人(物理学賞7人、化学賞4人)ですので、論文数や被引用数のシェアに近い確率で、ノーベル賞をもらっていることがわかります。

 この、論文数や被引用数のシェアに近い確率でノーベル賞を受賞できるということが正しいならば、この先10年間くらいは、過去の遺産で日本はノーベル賞を”益川理論”どおりに10人に1人くらいの確率で獲得できるかもしれませんが、それ以降になると、日本がノーベル賞をとれる確率はかなり小さくなると予想されます。また、今回初めて中国の研究者がノーベル生理学・医学賞を受賞されましたが、10年後には中国の研究者がノーベル賞を受賞するケースも増えてくるものと想像され、韓国の研究者についても、ノーベル賞受賞者が出てもおかしくない状況であると思われます。そして、今回取り上げなかった国々(インドなど)のシェアの拡大も予想され、日本の論文数および被引用数のシェアがいっそう縮小することが考えられます。

 日本政府が現在の科学技術政策、あるいは大学への公的資金削減政策を継続するならば、10年後以降には、日本のノーベル賞受賞が相当難しくなる、つまり”益川理論”は適用できなくなるというのが僕の予想です。

 

 

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これはやばすぎる:日本の工学系論文数はすでに人口5千万の韓国に追い越されていた!!

2015年09月09日 | 高等教育

 更新がままならず、僕のブログは科学技術の「選択と集中」についての考察の最中でピタッと止まってしまっているのですが、この事実はやはり日本国民の皆さんに知っておいていただかいといけないと思い、キーボードに向かいました。

 この5月に国立大学協会に提出した報告書では、日本の学術論文数が惨憺たる状況になりつつあり(人口当り論文数の国際ランキングは35位以下)、その最大の要因は、大学の研究従事者数および研究時間が海外諸国に比べて少なく、かつ減少していること、そして、財務的には大学への基盤的な公的研究資金(特に国立大学への基盤的運営費交付金)の減少の影響が大きいことを示しました。

 僕の国大協への報告書は、8月24日のJBpressの記事「研究力が低迷、日本の大学がこのままではダメになる」でも取り上げられ、そこでは「豊田レポート」と名付けられています。

 「豊田レポート」では、学術分野別の論文数について、特に「工学系」の論文数が著しく減少していることをお示ししました。国際競争力が強く、今までがんばってきた分野ほど落ち込みが激しい。

 工学系の中でも「物質科学(matearials science)は、日本のお家芸的分野であったと思うのですが、その論文数が急速に減少し、そして、実は、人口5千万の韓国にすでに追い抜かれていたのです。2002年ころはアメリカと肩を並べて世界1,2を争っていましたが、その後急速に論文数が減少、韓国とインドに追い抜かれて、国別では第5位になってしまいました。


 それでも論文の「質」や「注目度」が上がれば、まだ救いがあるのですが、論文の被引用数(注目度の指標)の相対的な多さを示す「相対インパクト」でも、世界平均の「1」に至らず、韓国よりも低い値なのです。つまり、人口5千万の韓国の方が、論文の「数」においても「質」においても、人口が約2.5倍の日本よりも上回っている。


 それでは「物質科学(matearials science)」以外の分野ではどうでしょうか?トムソン・ロイターの「Essenntial Science Indicators」22分野別に、主要14カ国の2012-2014年3年間の平均論文数のランキングを調べてみました。

 韓国が最近急速に国際順位を上げた分野として「物質科学(matearials science)」(世界3位)、「エンジニアリング(engineering)」(世界4位)、「コンピュータ科学(computer science)」(世界4位)の3つがあり、いずれも日本を上回っています。

 また、「経済・経営学」および「社会科学」でも、日本を上回っています。

 



 「エンジニアリング」と「コンピュータ科学」の論文数のグラフも以下に掲げておきます。

 

 

 

 「コンピュータ科学」の論文数の推移については注意が必要です。2002~2006年の論文数については、その前後の論文数に比較して急峻な「山」があります。これは、おそらく、データベース管理者であるトムソン・ロイター側の、学術誌の取捨選択やキーワード検索の定義の変更などによる、人為的な原因によるものと考えられます。2007年以降のデータ(グラフでは2008年以降のデータ)を読んでいただければいいと思います。

 「コンピュータ科学」の論文数は、日本は人口5千万の韓国どころか、人口2千300万の台湾にも負けています。

 最後に、過去のブログでもお示ししてありますが、「物理学」および「全分野」の論文数のグラフも再度あげておきます。

 

 

 

 「物理学」や「全分野」では、まだ、日本の方が上回っているとは言っても、人口当り論文数を計算すれば、韓国の方が上回っていることを考えなければいけません。人口当り論文数で、日本が明確に韓国を上回っているのは、「地学」と「宇宙科学」、ほぼ同じ程度なのが「植物・動物学」と「神経学」であり、あとは、すべて韓国の方が上回っているのです。

 資源の少ない韓国は、教育研究に国の資源を投入し、研究分野では、特に「工学系」、その中でも、イノベーションやGDPに直結しうる分野に「選択と集中」したことが読み取れます。そして、人口が2.5倍の日本を凌駕しました。

 今まで、ややもすると日本企業は韓国企業に技術を取られたために負けたというような言われ方がされてきましたが、韓国は、研究の基盤力においても量的・質的にすでに日本を上回っており、日本が負けるのも当然と思われます。そして、今後、工学系の研究基盤力を高めない限り、日本が韓国に追いつくことは不可能であると思われます。

 また、最近インドの論文数ランキングが急速に上がっていることも注目されます。インドは、中国と同じように人口が多いので、論文数が増えるのも当たりまえといえば当たりまえなのですが、いよいよ世界のイノベーション競争に参入してきたということであり、日本の競争しなければならない相手がさらに増えたことになります。

 それにしても、日本の工学系論文数の急激な減少、つまり工学研究の基盤力の劣化は、尋常のカーブではありませんね。人口当りにすれば貧弱な日本の大学の研究規模をいっそう縮小するという、今の政府の科学技術政策がこのまま続けば、日本は早晩先進国から脱落し、二度と這い上がれないことが目に見えます。

 これ、すっごくやばくないですか?

 

 

 

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民間企業人は科学技術政策の「選択と集中」をどう考えているのか?ーーーNISTEP定点調査より(その2)

2015年07月07日 | 高等教育

  最近ブログの更新が滞っているのですが、そうすると、しばらくすると必ず読者のDさんからメールが届きます。

「豊田先生 6月21日のブログ拝読いたしました。私にはよく分かりませんが、民間企業を考える場合、企業の業種、規模、地域といったことは、どうなんでしょうか?お忙しい中、ブログの作成大変だと存じますが、是非お続け下さい。今後も勉強させていただきます。D拝(6月29日)」

  Dさんの質問のおかげで、学長の仕事がどんどん増える状況ですぐに滞ってしまいがちなブログ、特に論文数に関する分析が、何とか今まで続けられたと感謝しています。

  また、国立大学協会に提出した論文数のデータについても、一般の方々にわかりやすく書いた本を書いてほしいという要望をある出版社のかたからいただいていますので、なんとかもう一頑張ってブログを、そしてまとめの本を書きたいと思います。

  このような、僕自身の毎日の時間の使い方も、何かをしようと思えば何かをあきらめなければならないという、ミニ「選択と集中」の繰り返しということになるのでしょう。


  さて、前回は、NISTEP定点調査の貴重なデータから、民間企業人の科学技術政策に関する「選択と集中」についての意見をご紹介しましたが、僕の個人的な意見も含めて、再度まとめておきたいと思います。

  実は、僕自身の意見については、以前にも「選択と集中の罠」というタイトルのブログを書いており、グーグルなどで検索をかけていただくと、読むことができます。

  まずは、Dさんのご質問に対してですが、前回お示しした民間企業のみなさんの自由記載については、民間企業名とその回答者氏名については、NISTEP定点調査の「データ集」の最後にリストアップされています。ただし、残念ながら、どなたが、どの自由記載をされたのか、特定できません。

  参考までに、民間企業のうち、社長・役員クラスの回答者の所属企業名をNISTEPのリストから抜き出した表を示しておきます。なお、民間企業等(民間企業および病院その他の組織)の回答者は全体で284名となっています。(一部、複数の回答者が存在する企業があります。)

   この表をご覧いただきますと、大企業からベンチャー企業まで、さまざまな企業が含まれていることがわかります。ただし、先にもお話しましたように、どの地域の、どのような種類の、どの程度の規模の企業の皆さんが、どのような回答をされたのかということはわかりません。

 

   ところで、経営戦略としての「選択と集中」は、アメリカのGE社のジャック・ウェルチ会長が、傾きかけていたGE社を立て直すために、大規模なリストラと、シェアが1位・2位になりえない事業を売却して、1位・2位になりうる事業だけを「選択と集中」して成功を収めたことから広まったコンセプトであると聞いています。赤字の事業を切り捨てるような「選択と集中」は、ずっと昔から普通に行われてきた経営手法なのではないかと思いますが、GE社の場合は、黒字の事業であっても、シェア1位・2位を狙えなければ切り捨てたという、思い切った「選択と集中」をしたことで有名になったと思われます。

  ただし、ここで注意しておかなければならないことがいくつかあると思います。まず、ジャック・ウェルチ氏の「選択と集中」は、多角経営を行っている大企業に当てはまるものであり、多くの中小企業やベンチャー企業においては、最初から「選択と集中」した一つの事業で勝負をしているわけで、必ずしも当てはまりませんね。もっとも、近年では持ち株会社(ホールディングズ)が増えて、グループ企業全体としては多角経営をしているわけですが、それぞれの子会社は「選択と集中」をした一つの事業で勝負しているわけで、これを、多角経営というのか、「選択と集中」というのか、経営学者ではない僕にはよくわかりません。

  もう一つ注意しておかなければならないことは「選択と集中」の成功事例の代表とされているGE社ですが、現在でも多種多様な事業で成功しており、多角経営をしています。つまり「選択と集中」が成功する企業は、その前提として、一部の事業を捨てても、他の複数の事業で世界と勝負できる「多様性」を持ちあわせている、と言えるのではないでしょうか。


  一方、日本のシャープは一時期は「選択と集中」の成功事例の企業としてもてはやされましたが、主力の液晶テレビや太陽電池で国際シェアは低下し、「片肺飛行」の会社として揶揄されました。三重県亀山市にシャープの工場が建設された当時、僕は三重大学の学長職にあったのですが、当時の文科省の某課長さんが、「シャープが来たのだから三重大学も液晶で選択と集中をしてはどうか」とおっしゃったことを覚えています。今では、三重大学を液晶に「選択と集中」をしなくて良かったと胸をなでおろしています。

  この7月6日の日経新聞に「シャープの道、カシオの道 明暗分かれた電卓の双璧」という記事が載っていました。記事の要旨を僕なりにまとめてみますと、

"60~70年代、シャープはカシオ計算機を相手に激烈な「電卓競争」を展開。80年代から液晶の大型化を進め、2000年ころから「液晶の次も液晶」を唱えた。しかし、今年5月に報じられたLGディスプレイの55型有機ELディスプレーは、厚さ0.98ミリ、重さ1.9キロ。やはり、「液晶の次は有機EL」ではなかったか。カシオは、設備投資がかさむデバイス内製化を断念、機能開発に絞り、 「止まれば陳腐化する」と、ゲーム電卓、関数電卓、プリンター付き電卓などの新機種を出し続け、電子辞書でも過半のシェアを占める。

  経営指針を「選択と集中」とする企業は多いが、産業用ロボットを新規事業で立ち上げたヤマハ発動機は「発散と自立」を説く。他社がやらぬいろんなことを、ニッチ市場で、自らの体力に見合う範囲で試す。ニッチ市場は次第にメジャーになり、人員が増えて安定事業になるという経験則だ。

  カシオのデジタル腕時計は74年に参入、セイコーやシチズンと互角に戦う。耐衝撃腕時計の「Gショック」は、16年3月期に過去最高の800万台出荷を想定し、連結純利益も過去最高の330億円を見込む。「選択と集中」で液晶に大きく依存したシャープの15年3月期決算は最終損益が3300億円の赤字。経営信条に「誠意と創意」を掲げ、「創意は進歩なり」と定めていながら「液晶の次も液晶」戦略を推進し、強い新規事業を育てられなかった代償である。"


  前回のブログでご紹介した科学技術政策の「選択と集中」についての民間企業人の「慎重な」ご意見は、この記事と同じようなご意見であり、的を得たご指摘であることがわかりますね。再掲しますと、

 ・科学技術政策においては、「適切な選択と集中」をさらに推し進めるべき

・「選択と集中」の目的やビジョンを明確にし、その必要性を見直す必要

 ・実用化研究(主に民間企業の役割)においては「選択と集中」は有効であるが、基礎研究や全く新しい技術の開発(主として公的研究機関の役割)においては多様な幅広い自由な研究や研究費の適度の「バラマキ」が必要

 ・過度の「選択と集中」はリスクを伴うので、リスクヘッジを考える必要

 ・大型研究プロジェクトに過度に集中しすぎ。地方大学の研究機能を維持・向上するべき。

 ・研究費総額を増やすべき。

 

  これを僕なりにさらにまとめますと、

・基礎研究、イノベーションの種まき(主として公的研究機関)・・・・・・ 多様な幅広い研究に対し、研究費の適度の「バラマキ」

・「芽」が出たら実用化の目利き→適切な「選択と集中」(主として民間企業)→イノベーション

  適度の「バラマキ」と適切な「選択と集中」のバランスをとり、産学官連携をいっそう有効に進めて「多様な種まき→発芽→目利き→成長→イノベーション」という一連の流れの最大効果を目指す、ということになるのだと思います。以前から、言われている当たり前のことですが・・・・。

  次に「選択と集中」をする対象についても、いくつかのご意見がありましたね。これについては、ブログが長くなってしまうので、次回に回すことにしましょう。




  

 

 



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民間企業人は科学技術政策の「選択と集中」をどう考えているのか?ーーーNISTEP定点調査より

2015年06月21日 | 高等教育

前2回のブログでご紹介した、文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による「科学技術の状況に係る総合意識調査(以下、NISTEP定点調査)」は、研究現場の研究者のみなさんに、回答者を固定して毎年同様の質問に回答していただき、研究現場における実感やご意見をモニターすることによって日本の科学技術の状況の変化を知ろうとする調査です。この調査はたいへん貴重な資料であり、数値化された状況指数とともに、自由記述欄をお読みいただければ、現在の日本の研究現場の状況がひしひしと伝わってきます。

また、この報告書には2011年度~2014年度の調査について、210万字に及ぶ膨大な自由記述の簡易検索データベースが公開されており、誰でも簡単に利用できます。今回は、このデータベースを用いて科学技術政策の「選択と集中」(重点化)について、特に民間企業の研究開発関係者や管理者の方々が、どのように考えておられるのか調べてみました。

民間企業人に限った理由は、もちろん大学や研究機関の研究者や管理者のみなさんの「選択と集中」に対する考え方も重要なのですが、「選択と集中」が大学や政策に導入するべき民間経営手法の一つとして位置づけられている面もあるので、「選択と集中」の本家本元である「民間企業」のみなさんのご意見の方が、説得力があると考えたからです。ただし、民間の方々は、大学や公的研究機関の現場に精通されていない面があるかもしれないので、両方のご意見を参考にする必要があることは言うまでもありません。

定点調査の数多くの質問項目の中で、次の3つの質問項目に絞って、自由記載を調べてみました。3つの質問項目とは

Q2-18 科学技術予算の状況について、ご意見をご自由にお書き下さい。

Q2-28 我が国の大学・公的研究機関における基礎研究の多様性や独創性を確保するために、どのような取り組みが必要ですか。ご意見をご自由にお書き下さい。

Q3-6 重要課題の達成に向けた推進体制を構築するために、どのような取り組みが必要ですか。ご意見をご自由にお書き下さい。

の3つです。ただし、年度によっては質問に追記的な記載が加わっており、また、2012年度の調査では、このような質問項目の自由記載が利用できません。

また、Q3-6の自由記載の少し前の質問項目には「Q3-3. (意見の変更理由)国は、重要課題達成に向けた研究開発の選択と集中を充分に行っています か。」があり、点数化されています。この項目自体には、前年度の点数を変えた場合の変更理由の記載欄はありますが、自由記載欄はありません。

簡易検索データベースを用いて、「選択と集中」「重点化」「地方大学」というキーワードで検索し、3つの質問項目についての自由記載に絞り、その中で民間企業の研究開発にかかわる方々のご意見を整理してまとめてみました。

「選択と集中」や「重点化」をさらに推進するべきという立場が推察される場合を「推進」、行き過ぎている、多様性を保つべき、あるいは地方大学への配慮が必要という立場が推察される場合を「慎重」、「選択と集中」や「重点化」するべき対象を主張されている場合を「対象」と分類させていただきました。これには、僕の主観が入っています。

なお、自由記載については、趣旨を損なわないと思われる範囲で、短文化させていただきました。(回答者のご意図が適切に反映されていない場合は陳謝いたします。)

また、質問項目が異なる場合、あるいは年度が異なる場合は、同じ回答者が回答しているかもしれないことに留意しておく必要があります。

 

 

 

 

さて、上表よりわかることは、民間企業人の科学技術政策における「選択と集中」について、「推進」と「慎重」の意見が、ほぼ同数であったということです。僕は当初、民間企業人の場合は、大半が「推進」というご意見であると予想していたのですが、必ずしも賛成ではないというご意見がけっこうあったことは、予想外の結果でした。

ちなみに、大学や研究機関の研究者・管理者の場合は、「推進」対「慎重」は、約2割対8割の比率になりました。そして、この比率は、大規模大学も中小規模大学も同じ程度でした。「選択と集中」の恩恵を最も享受しているはずの大規模大学においても「慎重」な意見が大半を占めるという結果も、意外な結果でした。

限られた資源の分配が、あらゆる経済・経営活動の基本的なプロセスであるということからすると、個人も、行政も、民間企業も、何にお金を使うかということについては、大なり小なり取捨選択や重点化を日常的に行っていると考えられます。したがって、「選択と集中」や「重点化」そのものが正しいか間違いか、ということよりも、その「適切性」が問われているということだと思われます。

上表にお示しした、民間企業のみなさんのご意見は、「選択と集中」の適切性を考える上で非常に参考になります。以下にみなさんのご意見を僕なりにまとめてみました。

・科学技術政策においては、「適切な選択と集中」をさらに推し進めるべき

・「選択と集中」の目的やビジョンを明確にし、その必要性を見直す必要

・実用化研究(主に民間企業の役割)においては「選択と集中」は有効であるが、基礎研究や全く新しい技術の開発(主として公的研究機関の役割)においては多様な幅広い自由な研究や研究費の適度の「バラマキ」が必要

・過度の「選択と集中」はリスクを伴うので、リスクヘッジを考える必要

・大型研究プロジェクトに過度に集中しすぎ。地方大学の研究機能を維持・向上するべき。

・研究費総額を増やすべき。

実は、これらのご意見は、「推進」と「慎重」の比率が異なるだけで、大学や公的研究機関のみなさんのご意見とも一致するのです。

また、「慎重」なご意見は、僕の論文数と運営費交付金の関係性を調べた研究結果とも、きわめて整合性のあるご意見となっています。

次回のブログで、もう一度「選択と集中」について僕なりに考えみることにいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 



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研究現場の感覚と論文数はどれだけ一致するか?ー文科省科学技術・学術政策研究所定点調査より

2015年05月11日 | 高等教育

前回のブログでは、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2014)から、大規模大学の研究者の多くが望んていることは何か?と題して、定点調査の一部をご紹介しました。

今回は、それをもう一歩僕なりに深めて、研究現場の感覚と論文数を直接突き合わせることを試みました。

定点調査でアンケートを実施した大学および公的研究機関のうち、トムソン・ロイターInCites™で論文が分析できたのは、次の表に黒字で示す機関です。公立大学では会津大学、私立大学では龍谷大学が、論文数を分析できませんでした。公的研究機関では6機関が分析できませんでした。

 

次に、Part1の質問と、その質問に対する国公私立大学および公的研究機関の指数を示しました。Part1の質問は、大学や公的研究機関における研究開発の状況についての質問であり、産学官連携やイノベーションに関する質問は含まれていません。

この結果をグラフで示したのが次の図です。

 

定点調査報告書では、指数の絶対値よりも指数の変化を重視していますが、ここでは、指数の絶対値にも着目します。絶対値の場合、たとえば、研究者が仮に劣悪な環境に置かれていても、その環境に慣れてしまってあたりまえと感じるようになっておれば、比較的高い値になるかもしれませんし、逆に、恵まれた環境に置かれていても、それがあたりまえと感じるようになっておれば低い値になるかもしれませんので、指数の変化よりも、鋭敏ではない可能性があると思います。

指数値が高かった質問は、

Q1-5「長期的な研究開発のパフォーマンスの向上という観点から、今後、若手研究者の比率をどうすべきですか?」

Q1-20「研究費の基金化は、研究開発を効果的・効率的に実施することに役立っていますか。」

であり、指数値が低かった質問は

Q1-4「海外に研究留学や就職する若手研究者の数は充分と思いますか。」

Q1-21「研究時間を確保するための取り組み(組織マネジメントの工夫、研究支援者の確保など)は充分なされていると思いますか。」

Q1-22「研究活動を円滑に実施するための業務に従事する専門人材(リサーチアドミニストレーター)の育成・確保は充分なされていると思いますか。」

でした。

また、国立大学の指数値が最も低い質問は

Q1-18「研究開発にかかる基本的な活動を実施するうえで、現状の基盤的経費(機関の内部研究費)は充分と思いますか。」

でした。

次に、各質問の指標について、国立大学と、公立大、私立大、公的研究機関との差の大きさを調べました。

 

 

上の図に示すように、国立大学が他の大学・研究機関群に比較して際立って低い値を示したのは、Q1-18の基盤的経費の状況についての質問でした。今までの僕のOECD諸国および日本の国立大学の論文数の分析からは、論文数と最も強く相関するのは、FTE研究従事者数、およびそれに密接に関係する基盤的研究資金であったので、この国立大学、公立大学、私立大学、および公的研究機関における基盤的研究費の状況についての意識レベルの大きな差が、果たして論文数(またはその変化)の差に反映されているのかどうか確認をすることにしました。 

大学グループ別の基盤的経費に対する意識レベルの推移をみると、第2グループと第3グループが低い値が継続しており、第1グループが2011年から2014年にかけて、指数値が明らかに低下して第2、第3グループに近づきました。第4グループは絶対値は比較的高い値を示していますが、徐々に低下しています。

国公私立大学・公的研究機関別では、私立大学が最も高い値を示しており、次いで公立大学、公的研究機関、国立大学の順でした。私立大学、公的研究機関、国立大学では2011年から2014年にかけてわずかに低下傾向が認められますが、公立大学の低下は明瞭ではありません。

第2、第3グループには国立大学以外の大学が含まれており、報告書にそれを除いた国立大学だけのデータも示されています(上図)。第2、第3グループの指標値はさらに低い値となっています。

 

次に、基盤的経費についての1~6の回答(指数化する前のアンケートの回答)について、回答者の分布を調べました。

 

 

上図左図の第4グループの回答者の分布は1と4の二峰性を示し、異質な集団からなることが示唆されます。右図の私立大学の分布も3と4の二峰性の分布を示し、異質の集団からなることが示唆されます。そして、私立大学が多く含まれている第4グループの4のピークは、私立大学の4のピークにもとづくものと推測されます。

 

参考までに科研費の基金化についての質問では、各大学グループおよび公的研究機関とも高い評価をしていますが、特に第1グループの大学の評価が高くなっています。国公私立大学および公的研究機関別では、それほど大きな差はないようです。

 

また、研究時間確保の取り組みについては、各大学群とも低い指標値となっていますが、公的研究機関はやや高い値を示しています。公的研究機関の研究者は研究に専念できるはずなので、大学よりも高い値であることは当然だと思うのですが、それにしては低い値ですね。そして、各群とも徐々に状況は悪化しているようです。

次に、各群の論文数を検討しました。

まずは、大学グループ別の論文数の推移です。

大学グループ別の比較では、上の右図に示した2004年を基点とする比率の推移は、各グループ間でそれほど大きな違いは無いようです。ここで、以前にもお話しましたが、論文数の増加傾向については、共著論文の影響を考える必要があることを再度説明しておきます。

次の図は、トムソン・ロイターInCites™で「国立大学論文数」というセット項目があるので、その論文数と、国立大学個々の論文数を足し合わせた論文数合計を比較したものです。国立大学のセット項目では、国立大学間の共著論文は重複カウントされませんが、各国立大学論文数を足し合わせた論文数合計では、国立大学間共著論文が重複カウントされ、実際の論文数よりも多く表示されます。さらに、大学間共著論文数が近年増加傾向にあるので、一見、論文数が増えているように表示され、実際の論文数は増えなくても、10年間で最大約10%増加したように表示されることになります。

また、国際共著論文の影響も考える必要があり、わが国の国際共著論文数は10年間で約10%増えているので、仮に10%論文数が増えていても、実際の論文産生能力はその半分の5%以下と考える必要があるかも知れません。このような理由により、多少論文数が増えているように見えても、それを差し引いて考える必要があります。論文数が停滞しているように表示されれば、実際は減少していると考えられます。

以下に、国公私立大学・公的研究機関別に、全大学・機関の2004年を基点とする論文数の推移を示します。国立大については、各大学グループ別に示します。

この中で、公立大学群については、大学数が少ないことに加えて、大きく論文数が減少している大学と大きく増加している大学が混在しているために、必ずしも公立大学全体を代表するサンプルになっているとは限らないことに注意する必要があると思います。論文数が大きく減少している公立大学は、予算カットが大きくなされた自治体の大学と考えられます。

 

次の図は、国公私立大学・公的研究機関別に、論文数の推移を示したものですが、右の2004年を基点とする比率の推移では、私立大学、公的研究機関、公立大学、国立大学の順となっています。また、私立大学の直近の減少傾向、公的研究機関や国立大学の増加率の鈍化に対して、公立大学の増加率が最も良好となっています。

これは、先に示した基盤的経費の状況についての指数値の順位や増減傾向と、整合性のある結果であると考えます。

 

 

下の図は、国立大学を第1グループ、第2グループ、第3グループ、第4グループに分けて示したものですが、全体の傾向としては上図と同様ですが、国立大学の第4グループが非常に低い値となっています。

以上、研究現場の基盤的経費の状況に対する意識レベルと論文数の推移を突き合わせてみたところ、ほぼパラレルに対応していることがわかりました。今回の検討は不完全な部分があり統計学的分析もできないので今後のさらなる検討が必要ですが、研究機能に大きな影響を与える適切な指標(KPI)を選べば、それに対する現場の研究者の感覚をモニターすることで、研究機能の動向を把握できる可能性を示唆するものではないかと考えています。

なお、今までは、国立大学の論文数が停滞から減少しているのに対して、私立大学の論文数は順調に増加していたのですが、ここにきて、私立大学の論文数が腰折れしてきたことについては、日本全体の研究面での国際競争力について、懸念材料がさらに増えたことになります。

 

 

 

 

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大規模大学の研究者の多くが望んでいることは何か?ー文科省科学技術・学術政策研究所定点調査より

2015年05月10日 | 高等教育

OECDおよび国立大学における論文数等の分析から、学術論文産生面でのわが国の国際競争力喪失の最も大きな要因が「FTE研究従事者数(研究時間を加味した研究従事者数)」の不足および、それと関連する「基盤的な公的研究資金」の不足であることが示唆されることをお示ししたところですが、今日は、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)から最近報告された重要な報告書について、ご紹介することにしましょう。そのタイトルは「科学技術の状況に係る総合的意識調査」(NISTEP定点調査2014)と言います。大学・公的研究機関および企業の研究者約1500名(今回の回答者1252名)から集められたアンケート調査の結果です。

副題に「定点調査」とついているのは、同じ研究者に対して、毎年同じ質問票を送って回答していただいていることによります。この定点調査は、現場の各層の研究者の主観を継続的にモニターすることにより、各種研究状況の動向の変化を一早く察知しようという主旨であり、経済の指標で言えば、「日銀短観」に似ているかもしれませんね。

実は、僕はこの定点調査にアドバイスをする「定点調査委員会」の委員をさせていただいています。

非常に貴重な調査だと思うのですが、膨大な調査報告なので、あまり多くの皆さんに読んでいただけないという面があるかもしれません。それで、この膨大な調査を1枚にまとめた「インフォグラフィクス」が作られています。ぜひ、ご覧ください。

このブログでは、僕なりの視点で、膨大な報告書のごく一部を読者の皆さんにご紹介することにいたします。今回は「大規模大学の研究者の多くが望んでいることは何か?」という視点でお話をします。

まずは、この報告書の表紙からです。

 

 

この次の何枚かのスライドは、この調査の基本的な情報についてです。

 

 

 

 

ここで、注意をしていただきたいのは、論文数のシェアでもって大学のグループ分けがなされているのですが、特に第4グループについては、回答者の属性が、国立大学以外に公立大学や私立大学が多く含まれるなど、多様であるということです。

アンケートの内容は、下の表に示されているように多岐にわたっています。

 

 

アンケートの多くは「充分」から「不充分」を6段階に分けて、選んでいただく形式です。その6段階の回答を、下に示す方法で10点満点の指数に変換して、集計がなされています。そして、指数の値の範囲をマークで対応させて、例えば、指数2.5未満は「著しく不充分」と認識して、稲妻マークとし、視覚的に理解しやすいように配慮されています。

 

 

調査票には、前年から点数を変更した場合には、その変更理由を書かなければならないようになっており、また、自由記載欄では、改善意見を書いていただくようになっています。回答される方の労力もたいへんと思われ、ご協力いただいた先生方に心から感謝いたします。

そして、下のように、科学技術状況サブ指数が算出され、それを合計して科学技術状況指数が算出されます。

 

まず、下に示す「科学技術状況指数」ですが、この4年間で全体的に悪化していることがわかります。

 

 

ただし、先にも触れたように、大学グループによって、多様なタイプの大学から構成されていることに注意する必要があること書かれています。

 

次に、サブ指数である、研究人材状況指数、研究環境状況指数、産学官連携状況指数、基礎研究状況指数の変化を示しました。少なくとも、大学や公的研究機関の指数は、概ね悪化傾向を示しています。

下の表は、2011年からの指数のマイナス変化が大きかった質問を示しています。最も大きかったのは「基盤的経費の状況」でした。僕の分析では基盤的研究資金の多寡が、学術論文数に大きく影響することをデータ的にお示したわけですが、それが現場の研究者の主観とも、一致しているわけです。

 

 

最も大きく改善したのは、科研費における研究費の使いやすさでした。これは、基金化等による改善を現場の研究者も高く評価しているということだと思われます、

 

 

下の図は基盤的経費の状況についての指標の変化の詳細が、各属性別に示されている図ですが、いずれの群においても、悪化しています。特に注目したいのは、第1グループの大学、つまり日本を代表する大規模4大学の指標が急速に悪化している点です。第2グループと第3グループは、このシリーズが始まった2011年以前にすでに悪化していた状況であると思われます。なお、第4グループが比較的高い値であることについては、次回のブログで分析します。

 

 

 

研究費の基金化、および研究費の使い安さについての質問については、いずれも改善しています。

研究時間を確保する取り組みについては、低い値が、さらに低くなっているという感じですね。

 

 

 

ただし、研究者の研究時間の確保にもつながるリサーチアドミニストレータの確保については、低いながらも、指数が改善傾向にあります。

 

ここで、基盤的経費の状況、および研究時間の確保についての変更理由を第1グループの回答者についてのみ、まとめてみました。

最後に、研究開発に集中できる環境を構築するための改善案についての自由記載を、やはり、第1グループの回答者に限って、まとめてみました。各回答の分類および、文中の赤字は、豊田が行ったものです。

 

 

このような大規模大学の研究者の記載を見て、皆さんはどう思われましたでしょうか?いろんな感じ方があろうかと思いますが、僕は、地方大学からすれば非常に恵まれているはずの大規模4大学の多くの研究者たちが、競争的資金よりも基盤的資金を確保してほしい、教員数や研究支援者数を増やしてほしいと訴えていることは、最初はちょっと意外でした。運営費交付金の削減は、まず、地方大学のような体力のない大学の機能を低下させたわけですが、それが、ここに至って、いよいよ大規模大学にも及びつつあるということでしょう。基盤的資金の削減と競争的資金への移行は、大規模大学の研究者も含めて、研究現場のほとんどは歓迎していません。

たとえ、現場の研究者が歓迎していなくても、基盤的研究資金の削減とそれに伴うFTE研究者数の減少、および競争的資金への移行と重点化(選択と集中)が、大学全体としての、そして日本全体としての研究機能を向上させるのであればまだいいのですが、それらが日本の学術論文産生機能を停滞(または減少)させ、国際競争力を失わせた最も大きな要因であるというのが、僕の論文数分析の結果でした。データの分析結果と現場の感覚が驚くほど一致している。現場の感覚というのはけっこう信頼できる指標であると思います。

ある先生が自由記載で「意見が何も生かされていない不適切なアンケートも多い」とお書きになっているわけですが、この膨大なアンケートにご協力いただいた研究現場の皆さんの声が何とか政策決定者に届いて、適切な政策に生かされることを切に願います。

次回のブログでは、この定点調査の結果を一歩進めて、現場の感覚と論文数の突き合せを試みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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いったい日本の論文数の国際ランキングはどこまで下がるのか!!

2015年05月01日 | 高等教育

 日経新聞の記者から、日本学術振興会理事長の安西祐一郎先生と、コマツ会長で経済同友会副代表幹事の野路國夫さんの対談記事(たぶん日本の科学技術に関する内容と思われます)が近々掲載されるとのことで、それに僕のブログの論文数のデータを載せてもいいか、という問い合わせがあったので、OKと返事しました。ただ、せっかく載せていただけるのなら、最新のデータのほうがよいと思ったので、僕が分析している学術論文データベースであるトムソン・ロイターInCites™を確認してみると、2014年のデータが掲載されていたので、新しいデータを日経新聞にに送りました。

 実は野路さんとは、この4月25日に三重県でご講演をお聞きしたばかりです。「待ち兼ね会」という阪大に関係した方々の会が三重県で発足したのですが、僕の阪大の先輩で、この3月まで三重大学長をお勤めになった内田先生(医学部卒)と野路さん(基礎工学部卒)は、阪大の同級生で、ワンダーフォーゲル部でごいっしょだったとのことです。そんなご縁で、「待ち兼ね会」で野路さんのお話をお聞きし、ご挨拶をさせていただきました。野路さんは盛りだくさんのお話をされましたが、その中で、コマツが先端的なイノベーションを開発する上で、日本の企業はものつくりについては優れているが、画像処理については海外企業に頼らざるをえず、数学者の育成の面で国際競争に負けてしまっているというような趣旨のお話をされたと思います。僕の分析したデータでも、日本のコンピュータ・サイエンスの論文数は、人口が日本の5分の1しかいない台湾に、絶対数で負けているくらいですからね。

 日経新聞にはG7諸国と日本との論文数の推移のデータが掲載されるようですが、日本の国際ランキングがどうなっているかも気になったので、確認してみました。

  まず、論文の絶対数についてです。3年移動平均で表示しているので、2013年の論文数は2012-1014年の3年間の平均の論文数になります。幸いにも昨年と同様に世界5位で順位は変わっていませんでした。ただし、人口が半分のフランスに接近されており、このままのペースが変わらないと仮定すると3年後にフランスに追い抜かれて6位になります。

  次に人口当り論文数では、3年移動平均値の2012年値から2013年値にかけて、日本が新たに追い抜かれた国は、ルクセンブルグ、ポーランド、スロバキアの3か国でした。国立大学協会に報告したデータでは、2013年時点で単年度人口あたり論文数世界31位と記載しましたが、この時点ですでにクロアチアとセルビアには追い抜かれており、3年移動平均値では世界33位、単年度では世界35位の間違いです。(報告書を提出したばかりで、間違いにきづき、まことに申し訳ありません。間に合えば国大協報告書の修正を試みます。)

 今回は、国ではありませんが香港を加えますと、国際順位としては37位、香港を除けば36位となります。(万が一、さらに見逃している国があれば、日本はこの順位以下となります。)

 

 

 

 

  下の棒グラフは、3年移動平均値ではなく、単年度の人口当り論文数を示したものですが、2014年の国際順位は2013年3年移動平均値と同様に37位でした(香港を含む)。

 

 

 

 あとは、日経新聞に掲載されるかもしれない、G7諸国との比較です。G7諸国との論文数もそれまでの傾向と同様に広がり、国際競争力は継続して低下しています。

 

 

 

  国立大学協会への報告書の総括で、このままの政策が継続されれば、さらに国際競争力が低下する旨を書いたのですが、少なくともこの1年間については、予測が当たったことになりますね。あと何年間予測が当たることになるんでしょうかね?当たらないことを切に希望します。

 なお、文部科学省内のコンピュータからは、一部を除いて、セキュリティーのために外部のブログにアクセスできないようであり、僕が今までブログに掲載した情報も政策決定者に届いていない可能性があります。ブログ等で情報が届かないとなると、何らかの別の媒体を考えなくてはいけませんね。

 

 

 

 

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運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究(下)

2015年04月30日 | 高等教育

 

 

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運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究(上)

2015年04月29日 | 高等教育

 すでにアップしている原稿とほぼ同じで、かなり重複することになりますが、「ダイジェスト版」という言葉をとった国大協報告書の原稿をアップしておきます。ダイジェスト版から変更した点としては、論文数とGDPとの相関のデータを少し加えて、それらを「研究教育指標と経済成長について」という章を新たに設けて移しました。あとは、誤字などの小さな修正です。

 当初は、本格的な論文形式の報告書をまとめるつもりにしていたのですが、大論文を書いても皆さんに読んでいただかなければ意味がないと思い、ちょっと型破りなのですが、"1図表1メッセージ"を心掛けたダイジェスト版と同じ形式にして、これを"報告書"にしてしまうことにしました。

 なお、このブログでは、一度にアップできる画像枚数に制限があるため、2回に分けます。

(5月1日、スライド8、9、11、12、22、139、142を修正しました。いずれも、アイスランド、セルビア、クロアチア、ルクセンブルグの論文数が抜け落ちていたことによる日本の人口あたり論文数の順位の変更によるものです。)

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運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究(ダイジェスト版)(その3)

2015年04月15日 | 高等教育

国大協報告書のダイジェスト版の最終ブログです。なお、国大協はこの報告書に「ダイジェスト版」という表現はつけないかもしれません。ダイジェスト版にしては、スライド枚数130部という大部な報告書になってしまいましたからね。

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運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究(ダイジェスト版)(その2)

2015年04月14日 | 高等教育

前回のダイジェスト版の続きです。スライド原稿の羅列になっていますが、前回お話をした理由によります。

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