ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

日本の生産年齢人口あたり論文数は世界第何位か?(国大協報告書草案32)

2015年02月07日 | 高等教育

  1月28日の国立大学協会の企画調査会議で報告をした時に、委員の皆さんからいくつかの貴重なコメントをいただきました。そのうちの一つに"人口あたり論文数"という指標では、財務省や国民への説得力に問題があるかもしれない、ということでした。

 今まで人口あたり論文数を基本としてきた理由は、論文数がイノベーション力の指標であるとすれば、高齢者や子供も含めた日本に住む人々全員を支えるのに必要なイノベーション力(≒論文数)を評価するべきである、という考えからでした。

 しかし、世界でも有数の超高齢化社会となり、人口が減少局面に入った日本において、"人口あたり"の指標は、必ずしも適切でない面もあるかもしれません。そこで、生産年齢人口(15-64歳人口)あたりの論文数でも確認してみることにしました。

 つまり、生産年齢人口の範囲に属する日本人が、自分たちの豊かさを維持するために必要なイノベーション力(≒論文数)を評価しようということになります。

 しかし、生産年齢人口の範囲に属する日本人は、増え続ける高齢者を支えるためには、外国の生産年齢人口に属する人々よりも、量・質ともに、より多くのイノベーションを生み出さなければならないと考えられます。日本にとって必要なイノベーション力は、おそらく、"人口あたり"と"生産年齢人口あたり"の中間にあるのではないかと考えます。

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4)日本の生産年齢人口あたり論文数の主要国との比較

  先の分析では、日本の論文数の海外比較においては、人口あたり論文数を基本的な指標として分析を進めてきたが、日本が超高齢化社会である点も考慮することがあることから、生産年齢人口当りの論文数についても国際比較を行った。

 まず、2013年の論文数を図表III-142に示したが、日本は米国、中国、イギリス、ドイツに次いで第5位に位置している。

 図表III-143には主要国における人口の推移、図表III-144には主要国における生産年齢人口の推移を示した。日本の生産年齢人口の急速な減少が伺われる。

  

 

 

 まず、"人口あたり"でもって2013年の論文数の国際比較を行った(図表III-145)。日本は、調べた範囲では世界31位に位置している。まず、ヨーロッパの小国やシンガポール等が高く、次いで米国、ドイツ、フランス、台湾、韓国等、規模的に日本の前後にある海外諸国が第2グループを形成し、日本は東欧諸国のグループに位置している。

 

 

 図表III-146が”生産年齢人口あたり"の論文数(2013)であるが、日本の順位は人口あたりの31位に比較して28位に順位が上がっている。しかし、第2グループとは依然として大きな差があり、東欧諸国と同じ第3グループに属している。

 

 

 図表III-148および149は、主要国における人口あたり論文数の推移をしめしたものである。なお、論文数は3年移動平均値であり、図には中央年を示している。日本は2000年頃までは、第2グループに属していたが、その後、急速に第2グループについていけなくなり、差が大きく開いていったことがわかる。現在東欧諸国を中心とした第3グループに属しているが、このままのカーブが持続すれば、早晩東欧諸国にも差をつけられ、第4グループに転落すると想定される。

 次に”生産年齢人口あたり"論文数の推移を図表III-149および150に示した。論文数は同様に3年移動平均値であり、図には中央年を示している。”生産年齢人口あたり"で表現すると日本の論文数の推移は、やや上昇傾向を示すのであるが、海外諸国の増加に比較して緩慢であり、"人口あたり"で表現した場合と同様に、2000年以降他国との差が開き、東欧諸国の第3グループに入っている。現在は第3グループの中ではトップであるが、生産年齢人口あたりで表現しても、現在の論文数のカーブが続くとすれば、東欧諸国に追い抜かれるのは時間の問題である。

 

 

 

 

 <含意>

 各種指標を国際比較するためには、何らかの標準化が必要であり、従来人口あたりやGDPあたりの指標で比較することがなされてきた。GDPについても、国民の経済的豊かさを示す指標としては一般的には国民一人あたりGDPが用いられている。

 しかし、人口減少社会に突入している日本の国際比較においては、"人口あたり"という標準化が、必ずしも最適であるとは言い切れない。そこで、今回は"生産年齢人口あたり"論文数で国際比較を行った。

 生産年齢人口あたりで表現すると、人口あたりで表現するよりも、多少は論文数の順位が上がるのであるが、大勢には影響しないことがわかった。

 このことは、日本の生産年齢人口の減少速度よりも、論文数の国際競争力喪失の速度の方がはるかに大きいことを意味する。 

 今回比較をした日本以外の海外諸国の2000年から2013年にかけての人口増加率は平均8.6%、日本は0.3%で、その差分は8.3%、生産年齢人口増加率については海外諸国8.2%に対して日本は8.5%で、その差分は16.7%、、論文数については海外諸国125.3%に対して日本6.5%で、その差分は118.8%となっている。つまり、日本は生産年齢人口の減少以上に、研究(論文産生能力)についての国際競争力を低下させているのである。

 なお、ドイツも実は人口が減少している国家である。2000年から2013年にかけて、ドイツの生産年齢人口は4.2%と減少している。しかし、ドイツはこの間に論文数を48.3%増加させているのである。このことからも、日本の研究力(論文産生能力)についての国際競争力低下を生産年齢人口の減少に起因させることはできないし、また、生産年齢人口が減少するから、研究力もそれ相応に低下してもかまわない、ということにはらないのではないかと思われる。

 2060年には日本の人口は約8千万人、つまり3分の2程度に減少し、現在のドイツと同程度の人口になると推計されている。しかし、現時点においてすら、1億2千万人の人口の日本よりもドイツの方が論文産生数が多く、仮に日本が現在の研究力を維持して、人口が8千万人に減って人口あたり論文数の数値が相対的に高くなったとしても、なお、現時点のドイツに及ばないのである。

 ただし、日本の政策決定者は、日本の18歳人口減少に伴って大学、特に国立大学を削減する政策をとると思われ、その一環として国立大学への運営費交付金等の交付金を従来は年1%削減し、あるいは今後はそれ以上削減する政策を継続する可能性がある。そうすると、教育面での規模の縮小と同時に、現在までの状況においては研究力の低下も進行することになり、現在の研究力を維持することは不可能と考えられる。現在も上昇を続けている海外諸国の研究力(≒イノベーション力)は、あるところでプラトーに達すると考えられるものの、今後しばらくは上昇すると思われ、日本との差がさらに大きくなると想定される。イノベーション力の海外諸国との相対的な力関係で、モノやサービスを海外から買うことができ、あるいは売ることができると考えられるので、日本政府が現在の研究力(≒イノベーション力)を縮小する政策をとり続ける限り、日本の困難な状況はますます悪化することが想定される。

 

 

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