ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

断定版:日本の研究力の国際競争力低下の原因とは?(国大協草案26)

2014年12月22日 | 高等教育

 世間はクリスマス気分で盛り上がっていますが、僕の方は1月28日の国立大学協会での発表に向けての準備で睡眠不足。昨夜も午前2時を過ぎましたが、今日も午前2時を過ぎてしまいました。おまけに、時々あることではあるのですが、うとうとしながらコンピュータを打っていて、ほとんど書き終わったブログを消してしまいました。でも、気を取り直して再度入力。今回の分析では、けっこう明快な結論が出ましたからね。このブログでは、日本の研究面での国際競争力の低下の原因を”断定”しますよ。

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4.大学への公的研究資金と学術論文産生の国際競争力との関係性

 この節では、大学への公的研究資金の増減が学術論文に反映されるライムラグ、および、国際競争力との関係性について、主要成熟国と日本のデータを比較することにより検討した。

 なお、大学への公的研究資金はOECD.StatExtractsによる公開データを用いたが、主要6か国のうちイタリアについては1997年から2004年までのデータが欠損しているので、イタリアを除く5か国(カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、米国)と日本のデータで検討した。

 研究資金の単位は購買力平価実質値(Million 2005 Dollars - Constant prices and PPPs)を用いた。

 政府から高等教育機関への研究資金と非営利団体から高等教育機関への研究資金の合計を「大学への公的研究資金」とした。

 また、日本の研究費については、図表III-61に示すように1995値と1996年値との間に大きな段差がある。OECDの公表する研究資金については、FTE(full-time equivalent)研究者数に基づく人件費を計算して研究資金を計上することになっているが、先にも述べたように、日本の総務省による研究費は、それがなされていない。なおFTE研究者数とは研究時間を考慮に入れ、例えば50%の時間を研究活動に割り当てている教員の場合は、それを1/2人とカウントする方法である。

 日本の1995年以前の値はFTEに基づく値ではなく、1996年以降の値はFTEに近似させるために、補正がなされた値である。この補正値は、研究者の人件費について1996~2001年は0.53、2002~2007年は0.465、2008年以降は0.362の係数を掛けた値となっている。なお、この係数は文部科学省・科学技術学術政策研究所が実施した「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」に基づくFTE換算係数である。

 今回、日本の1995年以前の大学への公的研究資金のデータについても、概略の傾向をつかむ目的で、以下の補正を行った。

 まず、1996~1999年の値より最小二乗法によって得られた直線を延長して1995年の値を求めた。それを1995年の補正値とし、1995年値との比率を計算すると0.64という係数が得られるので、1994年以前の値にすべて0.64を掛けて、各年の補正値を求めた。

 このようにして得られた1995年以前の補正値を含めてプロットすると図表III-62のようなカーブとなる。1995年以前の値については上記の補正がなされており、また、1996年以降の値についてもFTE換算係数が階段状に掛けられていることを念頭において、分析および解釈をする必要がある。

 図表III-63には、日本を含む主要成熟6か国の人口当り大学への公的研究資金(政府および非営利団体から大学への研究資金)の推移を3年移動平均値で示した。

 図表III-64は、主要成熟6か国の人口百万当り論文数の推移を示したものである。

 このようなデータから、日本以外の主要5か国の大学への公的研究資金および論文数の平均値を求め、日本のデータとともに示したものが図表III-65である。この図では、比較がしやすいように、研究資金を国民1人当たり購買力平価実質値(ドル)で、論文数を国民10万人当り論文数で示してある。

 まず、日本の大学への人口当り公的研究資金は、主要5か国の概ね1/2という低い水準である。そして、論文数も大学への公的研究資金と同様に、概ね1/2という低い水準にある。そして、その差がさらに拡大しつつあることがわかる。

 この図から、主要5か国の大学への公的研究資金のカーブと論文数のカーブの関係性を検討すると、まず、1994年~1997年の研究資金の停滞期に5年遅れた1999年~2002年に論文数の停滞期があり、また、1998年からの研究資金の立ち上がりに5年遅れて2003年から論文数が立ち上がっていることが読み取れる。

 日本については、図表III-65からは研究資金と論文数の増減の関係性を読み取りにくいので、日本のカーブを拡大した図表III-66を示す。

 日本以外の主要5か国のカーブほど明瞭ではないが、日本のカーブにおいても、研究資金が停滞した2000年~2003年の4年後の2004年から論文数が停滞していることが読み取れる。

 以上より、日本においても主要成熟国においても、研究資金の増減が論文数の増減に反映されるタイムラグは4~5年と推定する。

 図表III-66は、主要成熟5か国の平均値と日本の比率、つまり日本の国際競争力の推移を、研究資金と論文数について示したものである。

 大学への公的研究資金については、1997~98年をピークとする山型のカーブ、論文数については、2002年をピークとする山型のカーブが描かれており、大学への公的資金の競争力の低下に4~5年遅れて論文数の競争力が低下し始めたことがわかる。

<含意>

 今回、日本と主要成熟5か国(カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、米国)について、大学への公的研究資金の増減が論文数の増減に反映されるタイムラグについて検討したところ、4~5年という期間が推定された。研究資金の増によって研究者数を増やし、研究設備を整え、研究計画を立て、研究を数年かけて実施し、学術論文にまとめ、レフェリーの審査を経て学術誌に掲載されるプロセスを思い浮かべれば、あるいは、大学院学生の年限が、博士前期課程(修士課程)2年+博士後期課程3年、または、学士課程6年制の医歯薬分野では博士課程4年ということを思い浮かべれば、タイムラグが4~5年というのは、妥当な期間であると思われる。

 OECDに公表されている日本の研究資金のデータは、1995年以前はFTEが考慮されておらず、また、1996年以降も、限られたFTEについてのデータによって階段状にFTE係数がかけられた値であり、国際比較等の分析をする上で問題を残している。しかし、概略の傾向をつかむことは可能であると考える。

 今回、1995年以前の値について補正をしたが、これはあくまで参考値として見做されるべきものである。もっとも、日本の研究資金と論文数のタイムラグの算出、あるいは、国際競争力を検討する上で、1995年以前の研究資金の値は必ずしも必要ではなく、仮に用いなくても、今回の結論は変わらない。

 日本の大学への公的研究資金について、2004~2006年にかけて階段状に増加している。しかしながら、少なくとも国立大学の現場においては、2004年の法人化当初に大学への公的研究資金が増額されたという感覚はなく、現場の実態と必ずしも合わないデータのように感じられる。研究費の増減が論文数に反映されるタイムラグが4~5年とすれば、この時期の効果が2008年以降の論文数に反映されてもよさそうに思われるが、論文数の動きは明瞭ではない。2004~2006年の大学への公的研究資金の階段状の増加については、再確認することが必要かもしれない。

 大学への公的研究資金および論文数について、主要5か国の平均値に対する日本の競争力の推移をグラフ化したところ、研究資金の山型カーブのピーク(1997~98年)に遅れること4~5年の2002年に、論文数の山型カーブのピークが観察された。これは、研究資金と論文数のタイムラグが4~5年であることを、いっそう明確に示すカーブである。

 今回の分析により、2002年以降の日本の学術論文産生に関する国際競争力の低下は、1997~98年頃から始まった日本の大学への公的研究資金の相対的減少(研究資金についての国際競争力の低下)によるものと断定してよいと考えられる。

 2004年の法人化以降、国立大学への運営費交付金が継続的に削減されている状況下において、競争的環境の強化(基盤的資金から競争的資金への移行、評価制度の導入など)、重点化または「選択と集中」政策、各種の政策誘導的な事業など、実にさまざまな政策が次から次へと実施されてきたが、大学への公的研究資金の相対的減少によってもたらされた研究力の国際競争力の低下を回復させることについては、現在までのところ、ほとんど無力であったと言わざるを得ない。

<今回のまとめ>

1)学術論文産生における主要成熟5か国(カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、米国)に対する日本の国際競争力は2002年がピークであり、60%まで接近したが、2012年には45%に低下した。

2)大学への公的研究資金の増減が論文数の増減に反映されるまでに4~5年のタイムラグがある。

3)学術論文産生における2002年以降の日本の国際競争力の低下の原因は、1997~98年に始まった大学への公的研究資金の相対的減少である。

 

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