風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

舟形山

2010年01月23日 | 
いつも地平線に見慣れた山の青白い姿があった。
舟形山と呼ばれるその山は、文字通りに舟をひっくり返したような台形の山だった。
子供の頃、その姿を見るたびに、何かが胸の中に満ち満ちて何かを表現したくなるのだが、その何かが分からず表現すべき言葉も知らなかった。

今見る舟形山は、それでも昔のままの舟形山のはずだった。
でも、それは全く違う山だった。
青白くもなく、ありきたりの緑に覆われた、普通のなだらかな山だった。
それを見ることによって、胸が熱くなることもなかった。

どうしても今のぼくにとって解せないのはその色だ。
舟形山は、いつ見ても青白かったはずだ。
舟形山は青白い、それが子供の頃に明確に抱いた印象だ。
その山が今では緑に覆われているありきたりの山だ。

それが舟形山だと教えられたのは、ぼくが5歳の頃だったと思う。
フナガタヤマ。
舟というものを見たことのないぼくは、フナガタという言葉に青白いイメージをそのまま託した。

青白く、誰かが何かをたくらんでいて、こちらの世界を見てはくすくす笑っている人たちが住んでいる世界。
それがぼくにとってのフナガタ山だった。

今になって問えば、舟形山はブナの木で覆われているという。
宮沢賢治が好きそうな森だ。
尾根伝いに北に辿れば、イーハトープの森も一日もかからない。
木々が盛んに囁きあっている世界だ。
動物たちが首をかしげて里の人間どもを見下ろしている世界だ。

くすくす笑いが消えた今、舟形山は青白くなくなった。
ただの緑の平凡な山だ。

舟形山を見るたびに、ぼくは耳を凝らす。
くすくす笑いはもう聴こえない。
それでも、何かが聞こえて気はしないかと、耳を凝らす。


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