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【244】この部屋を元通りにしてほしい

 管理人はそう言ったが、俺はそれだけで終わらせるつもりはなかった。天井へ歩いていって腐臭を放つ彼女の死体を調べはじめる/この作業には管理人から送られてきたメッセージの芋虫【243】が役にたった。ありがたいことにオプションつきだったのだ/彼女の顔はいつか戦記で読んだ蝶々夫人【199】にどことなく似て儚げで美しかったが、頭は何か固い物質で殴られたらしく砕け散っている/確実に死んでいた。とどめ【174】を預けておかなかったのだろう/傷口から手を差し込んで内部をまさぐってみる。なんだこの柔らかい感触は。どういうことだ。彼女は海馬がない!【249】/奪われたのだろうか。いや、海馬のための空間すらない/死体には蛆虫が湧いていたので、一匹だけつまんで――モノラルだからな――耳に詰めてメッセージを聞こうとしたが、何も聞こえてこなかった!【250】いよいよきな臭くなってきやがった。どの蛆虫を耳に入れても駄目だ/部屋中の色に聞き込みをしてみたが(色話については色彩賢帝のギョエテ師【125】を参照のこと)、怯えているのか「おやようござるませ」「いかにいい天気ですね」などとはぐらかすばかりでらちがあかない/連中は何を恐れているのか/俺は彼女をゴミ袋に入れ、天井の血だまりを拭き取り、こびりついて取れない色にはライターの炎を近づけて脅した。色が剥落していくのを眺めながらタバコ【39】をくわえて一服すると、ゴミ袋を担いで雨【251】の降りしきる六面にあるアパートに帰った/ゴミ袋は二日後の普通ゴミの日に出しておいた。

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【240】柱にもたれかかったまま語り続けている

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