goo

【227】配偶者・代蟻士

 ロッサム社【205】足跡【42】魚【78】のブレンドを担当しているのは、配偶者皇女と崇められる一方で、原文ママとして親しまれているウルストンクラフト女師である。人類最後の配偶者である彼女は、ライムのよく育つラップランドの出身で、ハイスクールに通う十六才の少女だ。八十の手習いとして始めてから、もうかれこれ六十五年近くもこの蟻務を果たしているが、腕が未熟になってきたし学校も忙しいので、そろそろ引退しようかと考えている。という物語だ。配偶者以外の何者でもなかった窮屈な毎日(まあ改竄中毒者【42】たちから代蟻士の先生、なんて呼ばれていい気になったこともあったけれど)から逃れて、無限の可能性の中で手足を広げるのはどれだけ素敵だろう、と女師は心を浮き立たせていた。その時に備えてたくさんの手足を移植してもらっているほどなのだ。蟻より手足が少なくて何が出来るというの?それでも、わたしはウルストンクラフトという窮屈さからは逃れられない、どうしたらいいんだろう、名前をなくして白服【29】になるのも虚しいし、透病【158】生活だってぞっとする、ぞっとするわあのおじさん、いつも一人でぶつぶつ言って顔のぶつぶつをつぶしてる、髪の毛もこってりして、どうしてシャワーを浴びないのかしら、それなのにコーヒー【133】が飲めるなんて、わたしなんてとびっきり熱いコーヒーを浴びてきたんだから、それで今はシャワーを飲んでるんだわ、どこか見覚えがあるのはどうしてだろう、そういえばわたしは高給取りの配偶者、ブレンドしたものの中にいたのよきっと、それにしたってあんな男をわたしがこの手で作ったっていうの?――うっとうしい蚊【206】ね、さっきからまとわりついて――いいえ、いいえ、そんなのありえない、高級ブランド【114】の先端衣料で装っているわたしがあんな男を知ってるわけない――ああ、うっとうしい蚊!――ウルストンクラフト女師は発作的に、い、ろ、は……と名づけた四十八の手の平をテーブルに叩きつけた。そうよ、そうに決まっていたんだわ! 手の平のひとつからアルミのひしゃげる感覚が伝わってくる。
―― 今日もまたドロローサ【201】害虫の駆除【224】に力を貸していたわけである。

リンク元
【205】ロッサム社・出版社・書物【47】靴底の改竄【42】足跡・改竄中毒者

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 【226】無機懲役 【228】驚くほ... »