goo

【四七】靴底の改竄

 蒸留によって足跡から抽出される暗号【五六】は、琥珀色の液体の中で人の臓器や血管の配置に似た独自の巣を作っていく。巣の構造が意味するところは足跡研究所でもなければ解読できないが、依頼すれば多額の経費がかかるため、一般の改竄者たちは蒸留階級の職人に蟻を抽出してもらい、後は自らの審美眼【五七】を頼りに、時には代蟻士【二二七】に泣きついて、蟻の配置を見かけの上だけでも美しくなるよう間引きや順列の組み替えを行って改竄する。新たな蟻の配列は、靴屋によって靴底(ソール)に潜む蟻たちに逆転写される。これにより改竄者は足縛からようやく逃れることができるのだが、歩くうちに足跡との差異は縮まり、やがては合致に至るため、再び改竄に及ぶこととなる。だが改竄を繰り返せば情報の劣化は免れず、見えないほどにかすれた足跡は足跡を残す存在そのものをかすれさせるようになる。白服にならず更正施設で治療も受けずにそのまま放置しておくと、重度の透病【一五八】を患ったり、ずっと先に行われるはずだった誕生の瞬間を何十年も早めてしまい、ろくに準備をしていない両親にまで多大な迷惑をかけてしまう。いまや改竄中毒は深刻な社会問題なのである。

リンク元【四二】
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 【四六】上陸... 【四八】天使 »