昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(二十二)

2024-05-12 08:00:18 | 物語り

 一応「オーバーしてましたか?」と確認してみるが、若い警察官の事務的な言葉が冷たく耳に入る。
「73キロだよ、ここは50キロだからね」
「けど……100キロから落としている最中だったから、もう少し待ってもらえれば、キチンと法定速度……」
「おいおい。料金所を過ぎたら、ゼロからスタートだろ? それは通らないよ」
 彼から見るとお爺ちゃんに見える警察官があきれ顔を見せながら窘めた。
そうなのだ、一旦は停止しているのだ。
料金を払うために停止しているのだ。
言い訳になっていないな、と彼も思った。
思ったが、それでも「車のメーターがおかしいのかなあ」と呟いてみた。

「23キロオーバーだから。はい、ここに署名をして」
 彼の言葉に耳を貸す風も見せずに、切符を差し出してきた。
グズグズと署名をためらう彼に対して「後がつかえているんだ、早くして」と、若い警察官の荒い声が飛んだ。
渋々の彼に対して
「運が悪かったなんて思わないように。事故らずにすんだかもしれないんだからね」
 と、老警察官の柔らかい声で観念させられた。

(今日は堤防を行けばよかった)と後悔しつつ、長良橋通りに入りドライブウェイ入り口の麓にたどり着いた。
ふたりのいぶかる視線を背にしながら彼は車を降りた。
念のために冷却水の確認をしたかったのだ。
今朝確認をしているので心配はないのだが、クネクネとした山道を登るのだ、しかも三人乗車の状態で。
馬力の小さい軽自動車なのだ、万が一にもエンジントラブルに見舞われてはならない。
特に真理子の前で恥をかくわけにはいかない。



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