そうねえ。察するに、その友人って、マザコンの気があるわね。
あっ、それは仕方のないことなのよ。母一人子一人では、それが当たり前なんだから。
それはそれとして、お母さまのことだけど。
恐らくお一人になられて、淋しくなられたんじゃないかしら。
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小原のアパートは、築三・四十年程の古い二階建てだった。
月明かりの下、所々錆びている階段の手摺りを頼りに彼は足下を見ながら上がった。
二階の一番奥だという部屋には、煌々と灯りが点いていた。 . . . 本文を読む
「涼子さん。ちょっと相談があるんです」
真顔で言う彼に、涼子はドキリとしつつも大人の顔で答えた。
「相談事? いいわよ。他人には聞かれたくないわよね。
う~ん、どこかないかしら。
どう? いっそのこと、私のアパートに来る?」
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「やっぱり、あの二人は出来てるわね。まあ、岡田先生も男だしね。
ママだって、まだ女盛りだし。そう思わない?」
小原の何気ない言葉が、彼に母親のことを思い出させた。
体にまとわりつく生暖かい風の不快感と相まって、彼は不機嫌になった。 . . . 本文を読む
「それでね。子供さんが、熱を出したのよ。相当の高熱だったらしいわ。
で、学校に電話が入ったの。夕方の六時過ぎでね、当然のことに授業は終わっているじゃない。
ところが間の悪いことに、女子生徒の相談に乗っていたわけ。 . . . 本文を読む
「御手洗くん。女性には、やさしくしなければだめですよ。今ごろ気が付いた私ですがねえ、やさしい言葉をかけてあげなさい。言わなくても分かるだろうなんてことは、だめです。仕事にかまけてはいけません。 . . . 本文を読む
「そう。スカーレット・オハラだよ。情熱的な女性です。で、御手洗君はその恋人、になる予定の青年です」
塾における岡田とはまるで別人のような饒舌さに、彼は驚かされた。
「岡田先生、冗談が過ぎます。困っていますよ、御手洗先生。ごめんなさいね、少し酔ってらしてるみたい」
彼の肩に手を添えながら、小原は満更でもない表情で彼に謝った。
「とんでもないです、光栄です」
正直のところは、いかり肩でやせ形の小原 . . . 本文を読む