昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

 えそらごと (十七)

2018-10-02 09:15:34 | 小説
 それにしても、と誰もが思っている。
もっと可愛いらしいメガネがあるでしょうに、先輩の事務員が声をかけたことがある。

視力が落ちた中学二年生のときに初めて購入したメガネは、小ぶりのものだった。
薄いピンク色がよく似合っていますよと店員に勧められた。

「でも……」と涙目で貴子に打ち明けた。
複数の男子に「目ん玉がとびだしてるぞ」とからかわれて、さらにはその中に初恋の男子がいたことから、メガネを外してしまったという。
以来メガネは掛けていなかったのだが、就職を機に黒縁のめがねを掛けることにしたと打ち明けた。

 貴子の誘導で真理子は後部座席に座った。
助手席に貴子が座ることに対して残念な思いがするが、内心ホッとする気持ちもある。
そんな彼の気持ちを察してか、「あとで席を交代するから、今は我慢しなさい」と、貴子から思わぬ言葉がでた。
「そ、そんなこと。べ、別に……」と、しどろもどろに返す彼だったが、真理子もまた耳たぶまで真っ赤になっている。

 開店して間もないというのに、スーパーの駐車場には多くの車が入り込んできた。
駐車スペースを探す車に気づいた彼は「よーし、行くぞ!」と、グンとアクセルを踏み込んだ。
今度は順調に滑り出した。


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