昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~(十八)起っきろお!

2015-10-25 10:48:42 | 小説
「起っきろお! 目がくさっちゃうぞ!」
茶目っ気たっぷりの由香里の声で、目が覚めた。
布団の上にまたがりながら、由香里がキスをせがんできた。

「こら、こら。悪ふざけが過ぎるぞ」
軽く由香里の頭を小突いた。
「おはようのキスぐらい‥‥」

口を尖らせる由香里は、あからさまに不満そうだった。
昨日のことで、由香里は恋人気分に浸っている。
“まずかったなあ”
後悔の念が湧き起こる彼だったが、時を戻すわけにもいかない。
毅然とした態度を取り続けるしかない、と戒めた。

「おはようございます。昨夜は、アンカをありがとうござました」
「ごめんなさいね、なかなか見つからなくて」
「いえ、助かりました」
そんな会話を交わしていると、陰鬱な表情で父親が帰ってきた。
母親に声を掛けると、奥の部屋で暫く話し込んだ。

「由香里‥‥」
部屋から出て来た父親が、厳しい顔付きで
「お父さんなあ、これから会社に戻らなくちゃいかん。
いや、由香里は帰らなくていい。
ただな、お母さんに送ってもらうから、お母さんも今夜はこちらに戻れないんだ。
お千代さんにお願いしてきたが、一晩だけ我慢してくれ。
今夜は、お千代さんが面倒をみてくれる」
と、由香里に告げた。

「どうしたの?」
不安げに問い掛ける由香里に、「うん、ちょっとな‥‥」と、父親は言葉を濁した。
「とに角、すぐに帰らなくちゃいかんのだ。
先生、由香里を頼みます。明日には、家内を戻します。その間、由香里をお願いしますよ」
頭を下げる父親に、彼は「大変な事が起きたんですね、分かりました」と、答えた。
只ならぬ事態であろう事は、その表情から察せられた。


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