昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (十二) 「半分ずつね」

2015-04-28 08:42:16 | 小説
言うが早いか、由香里はカウンターに向かった。
由香里は、フローズンタイプとバニラクリームを両手で大事そうに運んできた。
そして又、「半分ずつね」と、彼に確認をする。苦笑いをしながら、彼は頷いた。
小降りになっていた雨が激しくひと降りすると、程なく上がった。

「やれやれ。それじゃ、出ようか」
「さあて、と。これからの予定は、どうなってる?」
「うん、遊園地にする」

彼の問いかけに対し、小声で答える由香里だった。
新調した水着を楽しみにしていた由香里だったが、タンクトップ姿の麻由美に会ってから、気持ちが萎え始めていた。

〝由香里ったら、あんな恰好でくるなんて。ルール違反よ〟
自分の小さな胸を彼に見られることが、耐えられなくなったのだ。
そんな思いに気付かぬ彼は、
「そうか。そりゃ、残念だ。由香里ちゃんの、セクシーな水着を楽しみにしていたのになあ」
と、軽口を叩いた。

途端に涙ぐみ始めた由香里に、
「ごめん、ごめん。きつい言葉だったかな」
と、慌てて由香里の肩を軽く抱き寄せた。
由香里は、彼の胸に顔を埋めると
タケシさんの、バカ‥‥」
と、小声で呟いた。
「ごめん、ごめん」
彼は、すれ違う通行人の痛い視線を感じながら、軽く由香里の背を叩いた。

遊園地に向かう道中、由香里は終始無言だった。
彼は由香里の気持ちを何とか和らげようとするが、なかなか由香里の機嫌は直らなかった。
由香里としては少し彼を困らせるだけのつもりだったが、あまりに優しく接してくる彼に甘え始めた。
〝不機嫌な顔をしていれば、タケシさんってすごく優しくしてくれる〟
しかし、さすがに彼も疲れ始めた。

〝年頃の女の子は、難しいや。まっ、遊園地に着けば機嫌も直るだろう〟と、途中でさじを投げてしまった。
黙りこくった彼に由香里は不安を感じつつも、きっかけが掴めぬままにいた。
後悔の念にかられたが、如何ともし難い状態になってしまった。
彼の横顔をのぞき見ると、スースーと、寝息を立て始めていた。
"思いっきり抓ってやろうか"と考えてはみたが、いつしか由香里も眠りに入った。


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