昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(二十一)

2024-05-05 08:00:18 | 物語り

 小さな店舗の並ぶ忠節橋通りに入った。
道路にひさしを延長した形状の片側式アーケードになっている。
原型は江戸時代に出現したという。
町並みの景観を整備するために、町屋の前面に設けられた半私半公の空間で、幕末には商業空間としても利用されるようになった。
 買い物客には好評で、多くの人が行き交っている。
しかし時として、その買い物帰りを迎えに来た車が駐車することがある。
中央を市内電車が通るために、駐車中の車の後方で通り過ぎるのを待たされることがある。

 路面電車のレールの上を走ると、車の振動がはげしくふたりの会話を邪魔してしまう。
やむなくのろのろと走る車の後ろに付かざるを得ない。
彼のイライラする気持ちがクラクションに手を伸ばさせた。
「やめなさいって、それは。お年寄りじゃないの、前の車は。ほんとに短気な子ねえ、あんたは」
 貴子のたしなめる言葉に、
「だってさっき、遅いって文句を言うから」と反論した彼に、
「さっきと今では状況が違うでしょ。お年寄りを急かせてどうするのよ」と、コツンと頭を軽くこずかれた。
「いてえ! 運転してる人間にそういうことをしちゃダメなんだからな」
「分からず屋のあんたにはいいの!」
 ルームミラーに映る真理子が貴子に同調するがごとくに頷くのを見て「わかりましたよ」と速度を緩めた。

 忠節橋手前の通りで右に折れ、北税務署を左に見ながら少し走ると美江寺観音の交差点に出る。
その斜め前には、忌々しい裁判所が現れる。
つい先日に速度違反の切符を切られ、反則金を支払う羽目になっていた。
(隠れてるんじゃねえぞ、汚えぞ)。
取り締まりの警察官に猛烈な怒りを感じたものの、そこで逆らえば青切符が赤切符に変わってしまう。
赤切符に変われば、簡易裁判所に呼び出されベルトコンベア式に判決を言い渡される。

 違反回数が多くなった一時期に保護観察処分となり、保護司を務める住職の寺に月一回の訪問をさせられた。
(あんなことはもうごめんだ)。以来、速度違反だけは犯すまいと決心した、はずだった。
それが、高速道路を出てすぐの一般道で、通称ネズミ捕りの速度取り締まりに御用となってしまった。



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