昨日、自分の
脊髄感覚について書いたのですが、そういえば、ウルトラジャンプ連載中の荒木飛呂彦「スティール・ボール・ラン」では、主人公ジョジョがイエス・キリストの脊椎を手に入れました。例によってジョジョは脊椎を自分の体内に取り込んで新たな能力を手に入れるわけですが、異物を体に入れるわけですから、眩暈がして気分が悪くなってしまいます。
あ、こういうシーンってどこかで見たことあるなぁ。と思ったんですが、それは手塚治虫の時代劇漫画「どろろ」でした。四十八匹の妖怪によって体の殆どのパーツを奪われた究極の不具者、百鬼丸が、妖怪を倒すごとに体のパーツを取り戻していくという筋立で、取り戻されたパーツが再び百鬼丸の体に取り込まれ同化されるとき、彼は決まってもがき苦しむのです。百鬼丸の場合は、体に同化されるのは異物ではなく、かつて自分自身の一部だったわけですが、どこかエロティックなものを感じました。
前にブログで「スティール・ボール・ラン」は、下半身不随の身体障害者と死刑執行人が主人公というコミック史上たいへん珍しい設定であることを指摘し、「どろろ」の百鬼丸についても触れましたが、迂闊にも、体の一部を体内に取り込むという点で共通性があることは見逃していました。
「どろろ」のストーリーは、まさしく障害を抱えたヒーロー百鬼丸の復讐劇なのですが、彼の復讐の道行きに同行するどろろという子供の名がタイトルに選ばれています。百鬼丸は真の主人公に違いないのですが、人物設定が少年漫画としては非日常的であまりに重く陰惨なので、手塚は、明るい性格で若い読者が親しみの持てるどろろを配して、主人公を敢えて二人にしたのだと思います。目的が違うかもしれませんが、結果的に主人公が二人に落ち着いたのは「どろろ」と「スティール・ボール・ラン」の共通点でもあります。
荒木は長大なる「ジョジョ」サーガに多くの女性を登場させていますが、ジョリーンなど男性と互角に戦え、容貌以外はほぼ男性といってよいタイプが多かったと思います。男女間のロマンスに至っては、第一部・第二部で、少年漫画にお馴染み、申し訳程度に語られただけで、以降は殆ど取り上げられてもいません。掲載誌が少年ジャンプだったため限界があったのかもしれませんが、第六部まで荒木は「キャラの立った」女性を描けていないといえます。
思えば「ジョジョ」第三部の前半、香港からの船旅に、家出少女が(承太郎にすぐに見破られますが)「男装の少女」として登場します。彼女は危機を救ってくれた承太郎に淡い思いを寄せつつ、その後も承太郎の旅に従います。シンガポールでも重要な役割を果たし、一度別れた後にパキスタンでも再登場しています。てっきり彼女を準主人公に格上げするのかと思いましたが、結局名前も明らかにされず物語の舞台から降ろされてしまいます。彼女が準主人公としてうまく描かれていれば、「ジョジョ」は一味違ったストーリー展開になったのではないかと思います。
「スティール・ボール・ラン」の掲載誌が、読者対象年齢の高いウルトラジャンプに移されたことをきっかけに、荒木は今度こそ制約なしに「キャラの立つ」女性を描こうとしているように思えます。ひとりはルーシー・スティール、14歳にしてレースのプロモーターの妻であり、大統領の陰謀を知ってしまいます。もうひとりがホットパンツという意味ありげな名前の「男装の少女」。この二人が今後のストーリー展開上で重要な役割を担うのではないかと思います。
「どろろ」を印象深くしているのは、男の子と思われていたどろろが実は女の子だった、つまり「男装の少女」だった事実が最終話で明かされることです。手塚は「リボンの騎士」などでも「男装の少女」を取り上げ、倒錯的なエロスをも醸し出す「偽りの性」を描いていることは有名です。注目すべきは、荒木が「スティール・ボール・ラン」で、ホットパンツという「男装の少女」を登場させたことです。手塚賞受賞でキャリアをスタートした荒木の描くホットパンツとは、もしかすると手塚へのオマージュなのかもしれません。
蛇足ですが、話題の「DEATH NOTE」に続いて、なんと「どろろ」も実写版で映画化され、「
どろろ DORORO」来年頭に公開されるそうです。配役はというと、百鬼丸が妻夫木君というのは、身長が足りないところは目をつむりまあ許してあげます(ホントは首の長い色白のハーフ顔が似合うと思います)が、子供のどろろが
柴咲コウというのはどうなんでしょう? 最初からどろろが女性なのが丸分かりだし、主人公通しは私生活でも優香を失恋させたくらいいい仲と聞きます。柴咲コウがフェロモンを抑えつつ「男装の少女」を演技してくれることを希望します。ホントは小学生高学年の子役がどろろを演じた方がいいと思いますが。