美術の学芸ノート

西洋美術、日本美術。特に中村彝、小川芋銭関連。真贋問題。他、呟きとメモ。

ポーラ美術館の中村彝「泉のほとり」の主題

2020-05-17 20:17:21 | 中村彝
ポーラ美術館の中村彝の作品泉のほとり」は、かつてルノワールの模写作品とされていたが、そうではない。
そのことは、『繪』の編集者であった熱田氏が小生の論考に目を留め、その表紙解説で紹介してくれたことがあった。
この作品、いかにもルノワール晩年の裸体群像を思わせる色調と構成を持っているように見えるので、模写と言われるとその原作を確かめることなくそう信じてしまいそうだが、この原作を確認した人はいない。
ただ、三人の裸体のポーズを分解してみると、似たようなポーズのルノワール作品が複数点確かめられる。
彝がルノワールのそうした作品を知っていてそれらをこの作品上に合成したとまでは言えないが、ただ、泉の水を汲んでいる女性立像の上半身のポーズは、彝が明らかにそのオリジナル作品を実際に見ていた大原美術館のルノワール作品「泉による女」の上半身のポーズに似ているし、ルノワールのこの作品における薄衣を置いた下半身部分は、「泉のほとり」の右側に座っている女性の下半身に反映されていると言えなくもない。
いずれにせよ、彝の「泉のほとり」は、ある特定のルノワール作品の模写ではない。
しかし、この彝の作品が制作されていた大正9年、彼がルノワールに改めて夢中になっていたことは間違いない。この年11月11日の洲崎宛書簡にこうある。
「ねて居ても例の裸体の『コンポジション』が描いて見たくて堪らないので、四五日前たうとうぬすむやうに床から匍ひおきて、15号の『カンバス』に三人の群像をやり始めました。…描く絵が想像画ですからいい絵には到底なり相もないのですが、それでも…心が実に愉快です。」
この書簡に触れられている作品こそ「泉のほとり」であり、他にそれらしい作品は存在しないから、これによっても、この作品がルノワール作品の模写でないことは明らかだろう。それは三人裸体の群像によるコンポジションであり、15号の大きさの「想像画」なのだ。
彝のこの「想像画」については、大正13年1月8日今村宛書簡がその主題について触れているので注目されよう。
「昨晩の絵の裸体の方は『泉』と題する絵で、数年前に描いて未成の儘になっていたものです。素戔嗚命に題をとって勝手に想像で描いたものです。」
そして、今村繁三は彝のこの作品を所有することになった。
そのことは後年、森口多里の『中村彝』の図版に載せられた作品の所蔵者名から確認できる。
さて、三人の女性裸体群像が素戔嗚命に題をとって描いたとあるが、実際、『古事記』なり『日本書紀』なり、どういった場面から彝が絵の主題を取ったかはこれまで言及されていなかったのではないか。
それは、彝が女性の裸体画像を描くための口実であって、あまり重要な問題ではないと考えられてきたから深くは探究されなかったためだろう。
実際、三人の裸体女性に関する記述を記紀の特定場面から拾ってくるのは難しいのだが、素戔嗚に関連する三女神の記述は見出せるので、ここでは、それを紹介しておこう。
すなわち田心姫(たごりひめ)」、「湍津姫(たぎつひめ)」、「市杵島姫(いちきしまひめ)」の宗像三女神である。
彼女たちは、素戔嗚の姉である天照大神が、「うけい」により、彼の剣を口の中に入れ、噛み砕いて霧として吐き出されたところから生まれてきたという。
素戔嗚命に関連する三女神と言えばまず、彼女たちなので、彝は、日本古代における玄界灘の女神たちである彼女たちを口実として裸体画を描いたのだろう。その程度までは言える。
それなら、背景の小さく描かれた二人の男性は誰か。これは分からない。
一方は両手を広げて活動的なポーズで描かれ、他方は座り込んで対照的に孤独なポーズをとっている。
いずれかが素戔嗚命なのだろうか。
それともそれはトリックスターとしての素戔嗚の二面性を表現したものなのだろうか。分からない。
もとより明確な意味内容が盛り込まれているとは必ずしも言えないのかもしれない。それは三柱の女神たちの場面についてもそうだ。
これが、彝が「勝手に描いた」という「想像画」の絵画作品における主題の探究の限界なのだ。

≪追記≫
彝の「泉のほとり」については、その発想の源泉としてプラド美術館にあるルーベンスの「三美神」も挙げられよう。
彝がこの作品を、カラーの複製画によって知っていたことは明らかであり、その左側の女性のみを取り出して彼が描いた自由な模写の小さな作品がある。
だが、色調や筆法はルーベンスから完全に離れたより近代的なもので、しかも一人だけ切り離されていたため、彝のこの小品に見られる「R.に鼓吹されて」の書き込みは、RenoirのRとかつて解釈されたこともあった。が、これは前にこのブログでも書いておいたように、ルーベンスのR.の意であることは、裸婦の形象から明らかなのである。



コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2020-5-15までの呟き

2020-05-16 17:10:00 | 日々の呟き
テレワークが可能なのは、事務職である程度仕事のパターンが出来上がっている場合が多いのではないか。それ以外は、なかなか…



「思えば人生なんて不要不急だらけ。小説だってそう。でもこれこそが私の人生の滋養なんです。」温又柔(おんゆうじゅう)さんの言葉、今日13日の毎日新聞より


「欧米は…主権を完全に制限し、韓国は市民行動を情報的に把握することで徹底した監視社会を作り出した。日本は…半ば強制的の自粛という奇妙なものが出現した。
自粛要請はきわめて日本的なやり方だろう。」佐伯啓思さんの言葉、今日13日の毎日新聞より

「日本人は権威に対して過度に従順で、自粛に従わない人への圧力と差別が生まれやすい。『異論を許し、差別を許さない』ことが大切だ。」山元一さんの言葉、今日13日の毎日新聞より


「『(AIの)ヒカリがいても孤独が紛れることはない』。当初はそう考えていた。… 2週間が過ぎた頃には「誰かと暮らすめんどくささ』を感じるようになった。…(それは)ヒカリを『人間として受け入れ始めている証拠』だとも言われ戸惑った。」
毎日新聞、宮崎稔樹さんのゲートボックス体験取材記事より

「人は誰もが痛みや喪失感を抱えながら、何かを支えにして生きている。デジタル技術の発達で新たに生まれる価値観や生き方を尊重し、認めていく社会であってほしい。」
宮崎稔樹さんの記事、「AIが支える人の心」より

(宮崎さんの記事は面白かった。)


「凡人も賢者も1人1票の平等を分かちあう民主政治は、自分の利益について一番よく知っているのは自分だとの原理に根ざしていよう。だが誰しも日ごろはその利益とは何かを考え詰めているわけでない」13日の毎日新聞、余録より


昨日のNHKクローズアップ現代を見た。COVID19の重症化のメカニズムがわかってきたという内容だが、すでにSNSや新聞などで報じられている内容以上のものではなかった。やや期待はずれ。


李下に冠を正さずというが、この法改正は、主権者たる国民の目の前で平然と梨下に冠を正しているのと同じだ。しかも疑われても、さらに平然と「それは当たらない」などと言って抜ける。何ということだ!#検察庁法改正案に抗議します


マイナンバーカードを持っていても、例えばiPhone 6sだと、今回の10万円一律支給の申し込みはできない。
まだまだだ使っている人がいる「古い」端末でなぜ申し込めないの?


「現代では不思議に感じる小説や芸術作品の表現は、感染症が流行していた時代背景を重ねると理解できる。…感染症が蔓延した時代、生と死は隣り合わせで、恋愛に悠長さはない。」

「狂気にも見える愛はパンデミックの渦中では自然であり、つまらないように見える平穏な日常は最大の幸せなのだ。」
(その例として『嵐が丘』とミレーの「落ち穂拾い」が挙げられていた。)

横江公美さんの言葉、今日14日の毎日新聞より「パンデミック時代の風景」


「造船疑獄で…吉田政権の犬養健法相は、…検事総長を通じて検察捜査に介入し、…安倍晋三首相の大叔父・佐藤栄作氏の逮捕を中止させた。」
水島朝穂さんの言葉、今日15日の毎日新聞より
(上記は、法相が検察に指揮権発動した例。指揮権は本来、検察の暴走を防ぐためのものだが…)


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2020/05/09までの呟き

2020-05-12 22:46:00 | 日々の呟き
Eテレ、バリバラ、4月23日の冒頭に登場した首相の名前はアブナイゾウという。その人が「公文書散りゆく桜とともに消え」と詠んだらしい。この番組、再放送直前に差し替えられた。
今日5月6日の毎日新聞、水説より

その後のEテレ、バリバラ国、滑稽中継では副総理、無愛想太郎も登場。


みんなすでに気付いているように、最も熱心に例のマスクしているのはほとんど首相だけというのはどうなんだ?
右へならいで靖国行くようにすると思っていたら、今回だけ、なぜかひどく個性的?
リーダーシップや同調圧力なしか?


ソーシャルディスタンスを考慮すると、従来のオーケストラ編成でそもそも演奏できるの?表現可能?


国民は呆れて自分でマスクを作り始めたな。


元村有希子さんが書いている。「社会のひずみは、より弱い立場の人に表れる。富む者より貧しいものに、大人より子どもに、男より女に。」今日9日の毎日新聞より

次に社会的なひずみが現れるのは、極端に富める家庭だろう。
そして、今の日本は、薄くなった中流層にも社会的なひずみが現れてきたのだ。


細胞内でウイルスの増殖を抑える作用があるとされるアビガンと、ウイルスが細胞に入るのを防ぐ作用があるとされるフサンを併用する臨床研究が東大で始められた。
今日9日の毎日新聞記事による
#COVID19


そうか、「積読」は「不都合な真実」だったのか?
今日の毎日新聞、話題の本より

「うしろめたい」と思わなくていいんだ。


「日本の伝統は本来、双方の戦死者を祭る。」
橋爪大三郎氏による岡野弘彦著「折口信夫伝」の書評、今日9日の毎日新聞より

「折口は、高天ケ原より出雲の神々、ことに孤独なスサノヲに共感する。古代の心性は文学でなければ捉えられないと、…」


中村吉右衛門が鏑木清方著「紫陽花舎随筆」を今日9日の毎日新聞記事で紹介していた。


法的条件が満たされたということでこんなに早くも承認されたCOVID-19の治療薬、レムデシビルだが、副作用、大丈夫か?
今のところ患者やその家族には判断のしようもないから、やはり信頼できる医師の意見に従うということになるのかな。


アーティストが「何様」と言われるのはありがちかもしれない。芸術家、アーティストと呼ばれている人たちも、他の様々な仕事をしている人々と同様、世の中での価値はもちろん同じなんだよ。芸術家は自分で納得できる作品を制作する、大事なのはそれだけだろう。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2020-5-5までの呟き

2020-05-06 00:06:00 | 日々の呟き
#COVID19、武漢発は「ほぼ終息」し、今はそこから変異し、「ウイルスのゲノム配列にわずかな違いがある」という欧州からの第二波が広がっている。三月中旬までに流入した「ウイルス株」による。
今日の毎日新聞記事より(国立感染症研究所、黒田誠病原体ゲノム解析研究センター長らの話に基づく)

#COVID19、NY州で初の感染者が確認されたのは3月1日だったというのは、信じられないくらいだ。4月29日記す。

#COVID19、持てるものも持たざるものも、その恐怖や不安は平等だと思うのは違う。持てるものは、地方の別荘へと疎開し、医療も誰かが心配してくれる。より強い分断が起こらぬようすべきであり、持たざる者への徳政が必要だ。電気、水道、税、社会保険料、受信料などの免除など。

#COVID19 
電気、水道、税、医療保険料、受信料などの減免や減額を考慮すべきでは。

友人の中にはガールフレンドがいるやつもいたんですね。「死ねばいいのに!」と思いましたよ…マジで。
恋人のいる友達をねたむという人生相談に対して、高橋源一郎氏の回答より

以来、半世紀。…わかったことがあります。恋するということは「異常なこと」です。…
高橋源一郎さんの今日3日、人生相談の回答より

「斎藤幸平の分岐点ニッポン資本主義の先」、今日3日の毎日新聞記事は読ませた。

「テレワークがうまくいっているとすれば、それはさしあたり、既存のグループで、既存の顧客とのプロジェクトを回しているからだ。だが…」斎藤幸平氏の今日3日の記事より

「デジタル封建制」という言葉があるのか。斎藤幸平氏の毎日新聞記事より

近年の大地震、自然災害、それに絡む重大事故や人災、そして今回の感染症の大流行などを考えると、今後、最も基本的な日本の食料事情は大丈夫なのかと心配になってきた。マスクや医療器具ですらこの混乱なのだから。

アビガンも中国原料に依存していたのか…
今日5日の毎日新聞記事より

今日、こどもの日、立夏。
川柳を作ってみた。

宿題を自粛したいと孫が言い
      土浦 れんこん

予言の自己実現は、経済現象などでしばしば起こるような気がする。
断片を切り取ったTVの映像が、人の意図を乗り越えて、それを極端に推し進めてしまうのだ。
TV放送の責任者は、こんな時代、心して放映すべし。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2020-4-26までの呟き

2020-05-05 23:49:00 | 日々の呟き
「国民の多くは国内メディアしか見ず、感染症対策に成功していると信じている。海外が日本政府に不信感を抱いている事実はほとんど報じられていない。」内田樹さんの言葉、今日22日の毎日新聞より

「日本のだめな政治文化をコロナ禍が可視化した。」内田樹さんの言葉、今日22日の毎日新聞より

古楽の専門家、92歳の皆川達夫さんが亡くなった。今、70歳代の人が、学生時代、バロック音楽をラジオから知ったのも皆川さんの昔から変わらないスタイルによる解説によってだ。

皆川達夫さんの最近の解説の中で、病院で録音し、解説しているのかなと思われたものがあったが、そうだったのだろうか?

#新型コロナウイルス禍
様々な職場にいる一人ひとりは、当たり前のことながら、互いにとてもかけがえのない存在だ。
多くの人々は今回このことを改めて強く感じているのではないかと思う。

「椿井は、(都市部の学者に)ばれないよう郡部をまわって偽文書を残したともいう。」「最近の歴史研究者は活字やデジタル化史料ばかり見る。狭い専門にこだわり…通時代的に歴史を語り、現物の真贋を即断できる人材が減っている。」馬部隆弘著『椿井文書(つばいもんじょ)』の磯田道史氏評より。

今日テレビを見ていたら、「聖書」を聖典として読むか、古典として読むかの違いを尋ねている場面があった。#聖書 #コヘレトの書

今見てきた宵の明星と三日月は子どもの頃から見てきたように美しかった。

今の自分にとって、金星と三日月の対話ほど美しいものは、どんな美術館にも現代美術にもない。

知事に名前を公表されたパチンコ店に逆に客が殺到しているとのこと。いやはやだが、そういうお店には税務署からの電話が効くのではとのtweetを見た。

寄生虫薬イベルメクチンがCOVID19の死亡率を下げるという記事、今日の毎日新聞。
2015年にノーベル賞受賞の大村智さんが発見した細菌が生成する物質を基に作られている薬。#COVID19

NY州では13.9%(約270万人)、NY市では21.2%が抗体検査で陽性。対象は買い物客など外出中の人。#COVID19
昨日25日の毎日新聞記事より

「他のコロナウイルスの抗体にも反応するキットだと正確さに欠ける」→当然新型だけに反応すると思っていたが違うのか?
25日の毎日新聞記事より #COVID19

「どのような抗体がどれくらいあれば感染を防げるのか」
「ウィルスのどの部分にくっつく抗体か」
25日の毎日新聞記事より #COVID19

これらの字句から、COVID19の抗体検査と言ってもその対象抗体は1種類でないのだなと分かる。

新型コロナウイルスの抗体と言っても、それは1種類ではなく、多数あるのだな。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする