テルサのFantastic Stories

今まで書きためていたとりとめもない物語を少しずつ連載していきます。ファンタジー物が多いです。ぜひ読んでみて下さい。

3-5 森と湖の国の皇妃 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-31 23:59:35 | 「ある国の物語」 第九章 
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このお話は・・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第3節 森と湖の国の皇妃  第5話

 デーリー帝の部屋を後にしたラミエル帝は,やはり納得がいかず,もんもんとしたまま廊下に出て気持ちを落ち着けていた。

「明日・・・・どうやって説得しようかな,あの石頭の王達・・・」

 暫く考えていた月の君だが,気持ちは晴れない。

「久しぶりにちょっと紅茶でも飲んで寝ようかな・・・」

 月の君は1人屋内テラスに向かって歩き出した。すると,向こうからちょうど友達のウーナ姫と別れて虹の館に向かう星姫が歩いてきた。

「こんばんは。陛下,これからどちらへ行かれるのですか?」

 セイラ姫は珍しい所に月の君がいるので思わず尋ねてしまった。

「え?ああ,久しぶりに紅茶でも飲んでから部屋へ戻ろうかと思って・・・。テラスにはまだ人がたくさんいますか?」
「そうですね。私がいた時はまだたくさん人がいたので,まだ多いと思いますよ」
「そう・・・」

 ラミエル帝は人の多いところに行くのは好まなかった。

「ありがとう,それなら私は部屋へ戻ります。姫君,もしよろしければ私の入れた紅茶でも・・・」

 これまた珍しく,ラミエル帝が用もないのにセイラ姫を誘う。

「あ・・・はい。ありがとうございます」
「では行きましょうか」

 月の君はそのままセイラ姫を連れて自分の部屋へ戻った。

「どうぞ」
「お邪魔します」

 中へ入ると相変わらず整然とした部屋が目の前に広がった。ラミエル帝は隣の部屋で何やらカチャカチャとしていたが,やがてティーポットとティーカップを持って戻ってきた。ちょっとしたお菓子も添えてある。

「これはオレンジティーです」

 ラミエル帝は慣れた手つきでティーポットから香り高い紅茶を注ぐとセイラ姫に差し出した。

「ありがとうございます。いただきます」

 星姫はそっと一口含む。ラミエル帝はテーブルをはさんでセイラ姫の向かいに座る。そして自分のを入れると,紅茶を味わっていた。

「おいしいですね」
「ハーブ系もいいですが,こういったフルーツ系もおいしいですね。今度いろいろと揃えてみようかと思っています」
「紅茶は本当にいろいろな種類がありますね」

 2人は暫く紅茶の味を楽しんでいた。

「会議は長引きそうですか?」

 セイラ姫の問いにラミエル帝は「いえ」と即答した。

「私は明日の会議が終わったらすぐファンタジアへ帰ります。今もなおサラマンドでは激しい戦が起こっているというのに,このような所で悠長に会議なんか開いている暇はないですからね」
「陛下は先頭指揮をとられるおつもりなのですか?」
「私はそのつもりです。今度の相手は少々やっかいですからね。本当は今すぐにでも帰りたい所ですが,あの頑固な王皇集団がやたらと反対して困っています」
「皆様は陛下の身を案じているのでしょう。ファンタジアの皇帝にもしものことがあっては・・・と思われているのですよ」

 ラミエル帝はそんな事では納得していなかった。

「恐らく・・・彼らが考えているような甘い考えではこの件は解決しないでしょう。明日,私が法を破らなくてもいいように,必ず会議の決議を私の案で通します」

 月の君は本気だ。

「もしそうなれば・・・くれぐれも気を付けてくださいね。本当に・・・・御身を大切にしてください」

 セイラ姫は戦に出るというラミエル帝を本当に心配していた。月は少し黙ったまま紅茶を飲み干す。

「もう作戦は私の頭の中にあるのです。ただ・・・それは我がファンタジア軍とルナ軍を想定しているので,他国の寄せ集めでは役に立ちません」
「陛下」
「この機会を待っていました。いつかあの2国はたたかなければいけないと思っていたのです」

 ラミエル帝はカップを置くと,「どうぞ」とお菓子を勧める。

「姫君,アルコン皇子にお伝え下さい。頼まれていた資料が揃ったから後日送ると」
「まあ,アルコンがまた陛下に何かお願い事をしていたのですか?」
「大したことではないのです」
「すみません,ただでさえお忙しいのに」
「いえ,とんでもありません。このような私でお役に立てるのであればいつでも・・・」

 2人がとりとめもなく雑談していると不意に電話の呼び出しベルが鳴った。


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3-4 森と湖の国の皇妃 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-30 23:29:58 | 「ある国の物語」 第九章 
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第3節 森と湖の国の皇妃  第4話

 会議場では,残った国主達が溜息をついていた。

「やれやれ,それにしてもファンタジアのラミエル殿の強情さもピカイチですな。ついに折れることなく帰ってしまわれた」
「ラミエル帝には御自分の身の重要さが全然分かっておられぬのじゃ。あのお方は世界の最重要人物なのだからな」
「しかし・・・・確かにあの月の君にお任せしておけば,間違いはないと思われるが・・・・。きっとそつなく問題も解決されるであろう」
「もちろんそうであろうな。しかし,相手は卑怯な手を平気で使うカックール王国とモント王国だぞ。万が一ラミエル帝に何かあってみろ。ごめんなさいではすまされない。何せあのお方はこの世を黄昏時から黄金の夜明けに変えることができる唯一のお方だからな」
「そうであった。ラミエル殿にはもっともっと重要なお役目がある」


 国主達はあれこれと席に座ったまま話し続ける。その中で議長席に近いファンタジア帝国の席だけがぽっかりと空いている。

「ふむ。だが・・・ラミエル帝が・・・・あのいつも冷静で滅多なことでは関心を示されないあの月の君が,ぜひ自分の手でと言い出すとは珍しいな。軍神とは言われるがあの皇帝は大の戦嫌いではなかったか?」
「カックール王国とモント王国の2国とファンタジア帝国は前にも一度やり合った事があったぞ。ラミエル帝はああいう汚い手を使って野望を果たそうとする輩は大嫌いだからな。この機会にそれこそ2国をたたいて潰してしまいたいのだろう」

 各国の王達のひそひそ話は続く。

 その日の夜,ずっと自室にこもっていたラミエル帝は,1つの書類を持つと部屋を出てイリュージョン帝国のデーリー帝の所を訪れた。

「これはラミエル殿,よくお越し下された。まあ,どうぞ」
「失礼します」

 ラミエル帝は相変わらずの調子で書類をすっと出すと,デーリー帝の目に広げた。

「先日,橋の基礎工事の一部が終了しました。これがその確認書です。我がルナ側は予定通り工事が進んでいます」
「ほほう,もう?こちらはもう5日ほどかかりそうじゃ」
「では,一応控えをお渡ししておきます。そちらの方はいつでも構いません」
「分かった。相変わらず仕事が早くて完璧だな,ラミエル殿」
「私が早いのではありません。工事に携わっている者達が頑張ってくれているのです。私が実際働いているわけではありませんからね」
「相変わらずじゃな,そなたは」

 デーリー帝は書類を受け取ると,さっさと用事だけ済ませて帰ろうとするラミエル帝を呼び止めて飲み物を出した。

「今日の会議で納得いくところまで事が運ばなかったようですな,ラミエル殿」

 ラミエル帝は黙って出された香り高い紅茶を飲んでいる。

「どうしても行かれるおつもりか?」

 デーリー帝の問いにふとラミエル帝はその綺麗に整った顔を上げた。

「たとえ,この会議での決定がどう下されようとも」
「何故そんなに固執するのかね」
「あの2国は以前,この私にもう二度と他国に迷惑を掛けるような行為はしないと誓いました。でも,破ったのです。私との約束を・・・。しかも他国の国内が混乱している時に乗じて占拠するという汚いやり方で・・・。私はあの2国を許すわけにはいかないのです。だからどうしても・・・・自分の手で解決をしたかったのです」
「ラミエル殿」
「特にサラマンド国はファンタジアの味方をいつもしてくれている大恩ある国ですからますます許せないのです。デーリー殿,ファンタジアもルナもすぐに出動ができるように軍の準備は整っています。明日の会議でどのような結論が出ようと私は出陣させていただきます」
「しかし・・・それでは」
「分かっています。でも,例えそれが国際法決定遵守条約に反することになろうとも私は自分の意思決定を変えるつもりはありません」
「制裁を受けても行かれると言うのだな?」
「はい」

 デーリー帝は大きく溜息をついた、

「そなたが一度決めたことはそうそう変えないことはよく知っておる。そこまで言われるのなら・・・明日私もラミエル殿の意見に賛同しよう」
「ありがとうございます」

 ラミエル帝は淡々と話すと,静かに席を立った。

「では失礼させていただきます。また明日・・・」

 深く礼をすると,ラミエル帝はデーリー帝の部屋を後にした。


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3-3 森と湖の国の皇妃 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-29 23:56:06 | 「ある国の物語」 第九章 
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第3節 森と湖の国の皇妃  第3話

 世界皇帝会議が臨時に,しかも緊急に開催されることは滅多にない。ラミエル帝は何か嫌な予感がしていたが,その予感は残念ながら的中してしまった。
 砂の国サラマンド王国にてクーデターが勃発。それに乗じて山の国カックール王国と風の国モント王国が入り込み,国内が混乱していると言うのだ。
 月の君は取り急ぎ大地の国フォスター帝国へと出発した。世界皇帝会議場に北西の国々の国主達が次々と集まる。北西の国々の中でも南方にあるファンタジア帝国はフォスター帝国からは遠く,どんなに身軽にして急いでも他国よりも2日ほど遅れてしまう。みんなはラミエル帝の到着を今か今かと首を長くして待っていた。

「ラミエル帝はまだ来られぬのか?」
「ラミエル殿は?」
「ラミエル帝は今どの辺を行かれているのか」

 彼がいない間は会議が開かれても一向に話が進まない。議長であるフォスター帝国のモンテオール帝も心細げである。

 2日後の夕方,ようやくファンタジア帝国一行が到着。また例の如く国主達がいそいそと挨拶をしに行く。ラミエル帝は今回の会議の内容が内容だけに少しきつい表情で,適当にみんなに挨拶を返してあしらい,そのまますぐ霧の館の自室へこもってしまった。さすがのハービア王子も話し掛けられないほど恐いぐらいの気迫が彼に感じられた。軍神ラミエル・デ・ルーンのもつ威厳である。

 翌日,朝から月の君を交えての緊急会議が行われた。ラミエル帝は黙って今までのサラマンド王国の情勢を聞いていたが,つとその美しい顔を上げると「議長」と一言言った。彼のその凛とした声で議場内にピンと張り詰めた緊張感が走る。それだけの力を彼はもっていた。

「はい。ファンタジアのラミエル帝,どうぞ」

 みんなゴクリと唾を飲み込んでその冷たい月を見る。

「今回のこの件に関しては,すべてファンタジアに一任させてくれませんか」

 その発言にザワッと会場内がどよめいた。

「ラ・・・ラミエル殿」
「このような所で人数ばかり集まってもかえって動きがとれないだけです。どうか,このラミエルとファンタジア帝国軍に任せてください」

 ラミエル帝の提案にみんなは猛反対した。

「し・・・しかしそれでは貴国の負担が・・・・」 
「それは無茶というものですぞ。ただでさえ貴殿は大事な身体。もしも何かあったら世界中大混乱になります」
「ラミエル殿,悪いことは言いませぬ。そなたはお知恵だけお貸し下され。いいですな」
「賛成じゃ。ラミエル殿の出陣はみなが反対しておるぞ。作戦だけ立てて下さらぬか?」

 月の君の想像以上に各国からの反対が強く,ラミエル帝はムッとしていた。しかし,世界一強情と言われる月の君である。ここで簡単に引き下がる彼ではなかった。

「みなさんが心配して下さるのは有り難いことですが,カックール王国とモント王国は一度徹底的にたたいておかなければいけません。私ならファンタジア軍とルナ軍を同時に動かすことができます。ですから・・・・」
「お気持ちは分かるが・・・ラミエル殿,やはりそなたは動かれぬ方がよろしい」

 みんなの猛反対は続く。それでも強情さではピカイチのラミエル帝である。一度言い出したことはまず引かない。

「事は緊急を要します。各国の寄せ集めよりは,やはり一国の軍の方が素早い動きがとれます。ですから,どうぞこの私に一任を・・・」

 ラミエル帝はあくまでも食い下がる。しかし,各国の王達はそろいに揃って猛反対した。結局ラミエル帝と他国の国主達の折り合いが付かず,延期となってひとまずこの日は解散した。ラミエル帝は,なぜ自分の思い通りにみんながさせてくれないのか納得がいかず,冷たい表情のまま誰と話すでもなくふいっと霧の館へ帰ってしまった。


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3-2 森と湖の国の皇妃 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-28 23:55:09 | 「ある国の物語」 第九章 
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第3節 森と湖の国の皇妃  第2話

 新しい年が明け,それぞれの国では新年のお祝いが行われていた。

 ラミエル帝はファンタジア帝国とルナ王国双方の新年の祝賀行事を終えて,いよいよ東国との会談内容の検討に入っていた。会談の名目はもちろん見合いではない。東方諸国の様子を詳しく知りたい,というありきたりの情報交換と親睦を深めるためとして,他国の無用な干渉を避けた。なので,当然ラミエル帝は砂漠の国コルカロリ王国にも立ち寄る計画を立てているし,太陽の国ベテルギウス帝国を訪問する予定であった。

 計画を立てながら,ラミエル帝はふとペンをとめて窓の外を見る。あまり雪が降らないと言われる森と湖の国ファンタジア帝国もさすがにこの時期は雪が降って綺麗な雪景色が広がっている。きっとユウライア王国のような北の端の国々は深い雪で覆われていることだろう。

「それにしても・・・・」

 ラミエル帝は幻想的な風景を見ながら思う。

〈そもそも何故このようなことになってしまったのだろう。私の計画ではこのファンタジアをフェリスが継ぎ,ルナをアデルが継ぎ,私は時間をかけて2人を後継者として育てるはずだったのだ。それなのに,運命の輪を廻すという月の神レイミール・ラ・ルネシス神のせいで大幅に時間が削られてしまった。そもそも何故私が月の神の現身なのか。〉

 全ての計画の狂いは,自分が天帝ノブレス大神の第12番目の神皇子月神レイミール・ラ・ルネシスを封印しているところから始まったのだ。自分には全くその自覚と記憶がないので彼が納得できないのも仕方がない。しかも,自分が我が儘を言えば自国どころか世界そのものが黄昏の時を迎えてしまうと言うのである。

〈ただでさえクリスタリア神皇国行きをけった私だ。それだけでもまだ時間は延びたと言わないといけないのかな。本来なら私がクリスタリアへ連れ去られた時点でこの国はルナもろとも国主を失っていたはずなのだから・・・〉

 月の君はぼんやりととりとめのないことを考えていた。普通の人間で普通の国主であれば,そもそも当初の計画通り結婚など考えなくても良かったはずなのである。

「なんで私が皇妃を迎えるはめになるんだ」

 もう一度地図を見ながら月の君は少し溜息をつく。

 今まで自分の人生設計に結婚の2文字は入っていなかったので,姫君達をその対象として全くみて来なかった。それが急遽前面に出てきたので正直月の君はとまどっていた。
 自分が考えている皇妃としての余りにも厳しすぎる条件にそもそも当てはまる女性などいるのだろうか。

〈私の皇妃になるということはすなわちルナ国の王妃となること。2国の妃として務めるだけでも大変なのに夫となる私はいずれにしてもあと2年足らずの命。その後向き合わなければいけないのは,よりによって神界一の気まぐれ者である月の神だ。当然実子も望めないし・・・・。こんな所に来てくれる姫君などいないだろう。不幸になるだけだ〉

 月の君は考えれば考えるほどもんもんとして,好きな紅茶を気晴らしに入れてもすっきりしなかった。

 そんな新年を迎えて間もないある日,大地の国フォスター帝国からラミエル帝の元に緊急皇帝会議招集の連絡が入った。


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3-1 森と湖の国の皇妃 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-27 23:57:45 | 「ある国の物語」 第九章 
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第3節 森と湖の国の皇妃  第1話

 冬になって仕事が一段落したラミエル帝は,フェリス皇子に付き添い,皇位継承者としての帝王学を自ら教えることにした。剣術の相手もして,フェリス皇子を誰からも文句を言われない立派な世継ぎにしようと力を入れる。まだ幼いフェリス皇子もそういった兄に一生懸命についていこうと努力した。

「フェリス,今日はここまでにしよう。この皇室典範は毎日3回は目を通しておくように。いいね」
「はい,兄上」

 フェリス皇子は元気よく返事をした。兄は優しい表情で弟の柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でる。

「我が陛下は本当にフェリス様を大切になさっている」

 大臣達もほとほと感心している。しかし,中にはラミエル帝を崇拝するあまり世継はぜひラミエル帝の実子を・・・と願っている者も多くいた。
 フェリス様さえいなければ・・・・・そんな恐ろしい考えをもつ者さえ出てきていた。それを知ってか知らずか,ラミエル帝はなるべくフェリス皇子の側にいて宮内の政務にも参加させた。フェリス皇子・・・・まだ8歳の幼い皇子である。
 そしてその傍ら,ラミエル帝は政略結婚の相手を考えていた。南の国は何とかなりそうだ・・・・となると後必要なのは東の国々への足がかりだけである。

 東国一の大国はあの月の君と犬猿の仲で,無謀にも月の君を跪かせようと企んでいた夢の国レインボウ王国である。第一王女であるエオリア姫は月の君を狙っており,リチャード王はラミエル帝の義父となることで権力を握ろうとしていた。
 世界の中でも北西の国々の権威は大きい。中枢国は世界皇帝会議開催国である大地の国フォスター帝国だが,実権を握り会議を動かしているのはもちろん森と湖の国ファンタジア帝国の皇帝ラミエル・デ・ルーンである。つまり,ラミエル帝が世界を動かしていると言っても過言ではない。もし,そのラミエル帝を思い通り動かすことができたとすれば,世界を手中に収めるも夢ではないのである。ラミエル帝を狙う国は相変わらず多い。

 ラミエル帝は黙ったまま地図を広げる。

「どうせ政略ならいっそのこと賭けに出てみるか。父王はくわせ者らしいが・・・北西の中枢国フォスターを狙っていた夜明けの国アレシア帝国・・・・。デジー皇女は私も既に知っているし・・・。それとも朝日の国サンライズ帝国のセレナ皇女か・・・。小国だがオギル帝はレインボウ王国と張り合うほどの切れ者。世継のアーク皇子もあなどれぬ方と聞くが。一度会談してみる価値はありそうだ」

 ラミエル帝はいろいろと調べた上で密かに使者を出す。しかし,ファンタジア帝国の動きに敏感な各国では,少しすると早くもラミエル帝が次の皇妃候補を見つけたらしいと噂が飛び交い,それに伴ってまたファンタジア帝国に見合いの資料がどっさりと送られてきた。お見合い写真の山に大臣達は溜息をつく。
 結婚に興味がないとされてきたラミエル帝だが,フェリス皇子を正式な皇位継承者とするためとなれば,彼の結婚も俄に現実味を帯びてくる。各国のファンタジア国皇妃に関する興味関心は相当なものである。

「やはり今度は東の国の姫君に目をつけたらしいぞ。国名までは分からぬが・・・」
「あくまで政略で通すおつもりなのだな,月の君は・・・。弟君のためにご苦労なことだ」

 あることないこといろいろな噂が飛び交い,北西の国々も南の国も,そして東の国も月の君の行動に強い関心を寄せていた。

 ラミエル帝はアレシア,サンライズ両国とも会談の約束を取り付け,2月にその期日は設定された。ラミエル帝が夜明けの国アレシア帝国と朝日の国サンライズ帝国を選んだことが判明すると,みんなその噂でもちきりである。

「さすがだな。今度は東国の要所を押さえにきたか」

 ラミエル帝が皇妃候補探しに動き出したことでイリュージョン帝国のセイラ姫は気が気ではない。日々沈んでいく星姫に,父帝であるデーリー帝は心を痛めた。しかし,いくら隣国で仲がいいと言ってもラミエル帝のことに口出しはできない。

〈決めてしまわれるのだろうか・・・・その2人のうちの1人に〉

 デーリー帝は深く溜息をつく。





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2-27 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-26 18:11:46 | 「ある国の物語」 第九章 
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第2節 恋の行方  第27話

 翌日,朝食をとった後,月の君はファンタジア帝国へ戻り,デーリー帝一行はそのまま彼と別れてイリュージョン帝国へと戻っていった。あと一週間で新年が来る。1月1日は新年を祝うとともに天帝ノブレス大神の降臨祭が盛大に行われる。みんな天帝大神がこの地に降り立って人界を創造されたことを祝い,尊敬の証として神殿に参る。賛美歌を歌い,各家のドアにはリースを飾り,ご馳走を食べて賑やかに過ごす。しかし,政教分離を謳うファンタジア帝国のムーンレイク本宮殿では一切そういうものは祝わない。普段通りの生活が営まれる。ただ,ラミエル帝は天帝教が国教なので,この日を含む3日間を休日にして大臣達を休ませていた。
 
 実はそう言いながら1人の時間を楽しもうと企んでいるのだが,家族をもたない大臣達が休日返上で付き従うのでなかなか思う通りにはいかない。

「せっかくの休日です。たまには外出して買い物とかしたらどうですか?」

 ラミエル帝は自分は政務をしながら大臣追い出し作戦にかかるのだが,「とんでもございません」と大臣達に拒否されてしまうのである。
 来年こそは有意義な3日間を・・・・とラミエル帝は密かに思っていた。

 そんな降臨祭を5日後に控えた日,ラミエル帝は天帝教神殿の神官や大司教達の訪問を再び受けた。

「これは我が陛下,今日もご機嫌麗しく」
「どうしたのですか?今は新年の降臨祭の準備でお忙しいでしょう」
「はい。しかし・・・どうしても気になりまして。陛下は御結婚の件をどうなさるおつもりかと・・・・」

 代表して大司教が跪いたまま言う。ラミエル帝は静かに神殿側の人たちを見た。

「その件につきましては,まだ返答までに2ヶ月ほどの余裕があるはずですが」
「はい。確かにその通りでございます。しかし・・・先日,ルナの神官から陛下がこちらと同等の条件をルナの神殿側に出されたとお聞きして・・・・ルナの神殿側はお断りのお返事を出されたとかで,陛下がどのように感じられたか少し心配になってこちらへ来させていただいた次第です」

 ラミエル帝はそれを聞いて少し笑った。

「ルナはルナ,ファンタジアはファンタジアですよ,大司教殿。ですから,もし私が結婚したとしてもファンタジア皇妃はいてもルナ王妃はいないのです。ルナ側はそれを選択したのですよ」
「陛下」
「私の結婚についてはまだはっきりと結論は言えませんが,私の条件に合う方がいらっしゃれば,今の段階で前向きに考えていきたいと思っています」
「陛下,承知いたしました。いいお返事を聞かせていただけることを願っております」

 大司教達は深々と礼をすると,神殿の方へ帰って行った。

 やがて,年明けとともに降臨祭が始まり,国中挙げてのお祝いが催された。しかし,宮殿内は静かである。それは,ラミエル帝が自分自身が神の化身でありながら,政教分離を徹底させていたからであった。月の君は今年こそこの3日間を1人で自由にと企んでいたが,今年もまた宮殿内に居を置く大臣達によって実現できなかった。相変わらずお付きの者が付き従い,宮仕達も仕事をし,側近の大臣達も側に控えている。

「せっかくの休日です。今年ぐらいはのんびりとしてはどうですか?」

 ラミエル帝はもう一度試みてみる。しかし,大臣達はとんでもございません,とあっさりと断った。今年もだめか・・・ラミエル帝はうんざりしながら執務室に座っていた。
 新年になって,さすがに雪の少ないファンタジア帝国でも雪がちらほら舞うようになった。これから北西の国々は静かな真冬の時を過ごす。




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2-26 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-25 23:58:45 | 「ある国の物語」 第九章 
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このお話は・・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第2節 恋の行方  第26話

 月の君はもう一度アデル王子の可愛い寝顔を見ると,そっと部屋を退出した。扉を閉め,廊下に出る。彼は静かに歩いていたがフィラ国王代理の部屋の前で立ち止まった。

コンコンコン

「はい。あ,これは陛下。ご用命とあらばこちらからお伺いいたしますのにわざわざ・・・」
「いいのです。ちょっとお邪魔してもいいですか?」
「もちろんでございます,陛下。どうぞこちらへ」

 ラミエル王はソファに座ると少し溜息をつく。

「フィラ,夜に私は神殿に行ってきました」
「そうでございましたか。それで・・・神官達は何と?」
「認めぬとさ。ファンタジアの頑固じじいも曲者ですがルナの神官達の頑固さはそれに輪をかけているようです」
「それはそうでございましょう。ルナ国はファンタジアより王家直系の血統にこだわっていますからね」
「フィラ・・・アデルに対するみんなの様子はどうですか?」
「はい。大臣達はみんな可愛い可愛いとすごく協力的ですが・・・・やはり神官達は行事に関しても何にしてもアデル王太子が参加されることに面白くなさそうにしています」
「そうか・・・やはり欲しいな,あの王位継承を証とするムーンストーンの指輪が」
「陛下,でも神官達は絶対渡さないと日頃から宣言されていましたし,それに何か陛下に対して企まれているようですよ」
「分かっています。おおかた私と世継ぎが産める方との結婚を企んでいるのでしょう。だんだんファンタジアに似てきましたね。やり方が」
「お気を付けなさいませ。この国であれば,思い詰めるあまり陛下に対して強硬手段ということもあり得ます」
「ありがとう,大丈夫ですよ。まあ・・・退屈しなくてすみそうですね」

 ラミエル王はそう言っていたが,急に表情がきつくなり,真面目な顔になる。その研ぎ澄まされた美貌は見慣れているフィラでさえもハッと息を呑むほどである。

「フィラ,王命だ。何が起ころうと絶対アデルを守ってください。支え,励まし,ルナ王国の王位を継ぐ者として良きように導いてあげて下さい。それが,国王代理としてのあなたに私が望むことです。私には・・・・もうアデルを見守るだけの時間がありません」
「はい,陛下。その玉命,確かに承りました。アデル様は陛下の弟君,何が起ころうとこのフィラ,命を掛けてお守りいたします」

 月の君はその言葉を聞くと表情を柔らげ,安心したように笑った。

「ありがとう,フィラ。それではお休み」
「お休みなさいませ,陛下。部屋までお送りいたします」
「いやいい,私はもう子供ではない」

 軽く言うと,ラミエル王は腰をあげ,部屋を出た。

 ラミエル王はそのまま廊下を歩いていたが,ふと立ち止まり,前方を見た。

「アルコン皇子」
「あ,兄上」
「どうしたのです?このような寒い所に・・・風邪をひきますよ」
「へへ・・ちょっとお酒飲み過ぎちゃって・・・・酔いさましです」

 顔を赤くしているイリュージョン帝国の世継ぎの君にラミエル王は溜息をついた。

「皇子,まだあなたは16歳なんですよ。ほどほどにしないと身体のために良くありません。国によっては20歳にならないと飲めないところもあるぐらいなのですから」
「はい・・・それは・・・分かっているんだけどね。どうも・・・おいしくて」
「さあ,部屋へ戻りましょう」

 ラミエル王はアルコン皇子を宿泊部屋に連れ帰った。

「さあ,横になって。お口直しを持ってきましょう」
「いえ,いいんです。兄上,もう大丈夫ですから」
「大丈夫と言われても・・・その様子では・・・」

 アルコン皇子は赤い顔をして目を潤ませていたが,ラミエル王を見つめた。

「ねえ,兄上。これだけは約束してよ。姉上を泣かせないって。姉上のこと大切にしてくれるって・・・。結婚してあげてとは言わない。だから・・・だから姉上のことを・・・」
「皇子?」

 アルコン皇子はそのままクーッと眠ってしまった。月の君はそっと彼に毛布を掛ける。

「ごめんなさい,アルコン皇子。私はもう既にセイラ姫を何回も泣かせてしまっているのです。きっとこれからも泣かせてしまうことになりそうです。残念ながらその約束は・・・守れそうにありません」

 切ない表情でそっと呟くと,彼は静かに出て行った。静かな夜が更けていく。




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2-25 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-24 23:58:28 | 「ある国の物語」 第九章 
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このお話は・・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第2節 恋の行方  第25話

「お帰り~,兄上」

 アルコン皇子がコロッと態度を変えて甘えるように明るく言う。

「もう少ししたら夕食の準備ができると思いますから,迎えの者が来るまで休んでいて下さい。では,また後ほど・・・」

 それだけ伝えると,ラミエル帝は書類を持ったまま出て行った。

「それにしても忙しい人だなあ。まあ・・・二国の国主だもんな~」

 アルコン皇子はふうっと溜息をつきながらソファにもたれこんだ。

 夕食はみんなでとり,ラミエル王はデーリー帝と何やら会談しながらの食事となった。18歳にして二国の国主であり,じぶんよりかなり年配の国主達とも対等に渡り合う。

「それにしても今回崩れてしまった橋もよく使わせてもらったな。かれこれ300年になるのだろう?」
「そうですね。本当にご苦労様と言いたいところです。今度の計画の橋は500年はもつだろうと言われています。アフタル川の氾濫にも強いとか・・・。着工が楽しみです」
「どんどん技術が進歩していいものになっていくな」

 デーリー帝は感慨深く言った。ラミエル王はそんなデーリー帝にお酒を注ぎ,労をねぎらう。

「ラミエル殿は明日,ファンタジアへ戻られるのですかな?」
「はい。明後日に会談が3件入ってしまったので」
「年末だというのに相変わらずお忙しそうですな。身体を自愛せねばのう」
「ありがとうございます」
「では,明日は一緒にここを出立しますかな」
「はい」

 ラミエル王はよそゆきの態度で少し微笑んで隙なく振る舞う。

 その頃,ルナの神殿では神官達が頭をつき合わせて唸っていた。

「一体ファンタジアの神官達は何を考えておられるのか」
「フェリス様を本気で正統な皇位継承者として認められるおつもりなのか?」
「やはり,陛下のご様子からしてまず御結婚を・・・・というつもりなのだろう」
「し・・・しかし,継承の御印を渡してしまえば,陛下が御結婚されても仕方がないではないか」
「何分フェリス様はご病弱の身。一度認めてもその先どうなるか分かりませぬからな」
「我々はどうしたらよいのか」
「陛下の出された条件は,陛下が御結婚される代わりにアデル様を正式なルナ王国の王位継承者として世継ぎの印であるムーンストーンの指輪を渡すこと。しかし・・・・」
「ファンタジアの神官達も愚かな・・・。陛下のこと,妃に世継ぎのできぬ姫君を迎える企みであることは傍目から見ても明らか。それを・・・。世継ぎができぬでは御結婚の意味がないであろうに」
「我々は断固として認めませぬぞ。その気になれば・・・・我が陛下に無理矢理既成事実を作っていただいてでも」

 その夜,ルナ王国の神官達は国王に「陛下の出された条件はお認めするわけにはいきません」と返答した。月の君は「そうですか」といともあっさりと受け入れた。

「ならばその印は生涯神殿の宝物にするといいでしょう」
「陛下・・・」

 月の君はそれだけ言うとくるっと振り返り,神殿から退出してしまった。その後,月の君はアデル王子の部屋にいた。

「兄上,明日はもう行かれるのですね」
「ごめん,アデル。もう少しいたいのだけど仕事があるからね。でも,また近いうちに帰ってくるから」
「はい。それまで待ってます。フェリス兄様によろしくお伝え下さい」
「分かった。来年新年祭が終わったらお前も一緒に別宮まわりに行こう。兄弟3人水入らずでのんびり過ごそう。その間帝王学は私が教える」
「わあ,本当?嬉しいなあ。僕,本当に嬉しいです」
「兄と弟の約束だ。来年まで少し待ってくれるね」
「はい,もちろんです。兄上様」
「いいか?アデル。これだけは言っておくよ。お前は周りがどう言おうと正統なルナ王国の王位継承者だ。国のために役立つ立派な王になるんだよ」

 兄の言葉にアデル王子はまっすぐ月の君を見た。

「はい,兄上様。僕は一生懸命頑張ります。そして兄上のような立派な王様になります」
「良い子だ,アデル。さあ,夜も遅くなってしまった。もうお休み。兄が眠るまでお話を読んであげよう」

 ラミエル王はアデルの頭を優しく撫でると,ルナ王国の民話をゆっくりと読み聞かせた。アデル王子はにこにこしながら嬉しそうに目を閉じる。
 やがてすーっすーっと規則正しい息の音になり,ラミエル王はアデルを見た。

「アデル・・・何があろうとこのルナ王である私がお前を次期ルナ国王にしてみせる。お前はその優しく純粋な心を失わずに大きくなれ。私はもう二度とお前を失いたくはないのだ」

 一度拾った命である。あの時,ラミエル王は心底賢者であり,大占師であるルオウに感謝した。本当にアデルが可愛くて可愛くて仕方がないのだ。




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2-24 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-23 23:08:13 | 「ある国の物語」 第九章 
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第2節 恋の行方  第24話

「兄上のけち」
「けちんぼですからね,私は。さあ,アデル。そろそろ講義の時間です。フィラ,アデルをよろしくお願いします」
「かしこまりました,陛下。さ,アデル様,行きましょうか」

 フィラ国王代理に促されてアデル王子はぴょんと立ち上がり,にこっと笑った。

「はい,ではセイラ姉様,アルコン兄様,兄上,私はこれで失礼します」

 礼儀正しく小さな頭を下げ,アデル王子はフィラと部屋を退出した。ラミエル王はアルコン皇子とセイラ姫に紅茶を入れると,
「これから会議がありますので,暫くこのままここでおくつろぎください」と言い残して出て行った。
 アルコン皇子はその後ろ姿を見送ると,偽の皇印を改めて見た。

「ラミエル帝・・・・今度結婚する時は正式になるんだね。姉上・・俺やだよ。他の人と兄上が結婚するなんて・・・。他の女の人がラミエル帝の皇妃と呼ばれるなんて・・・ラミエル帝が他の女の人と寝食をともにするなんて・・・。嫌だ,嫌だ,絶対嫌だ~~~!!」
「アルコン,そんなことを言ってはだめよ。陛下に迷惑がかかってしまうわ。陛下がお幸せになるのならそれでいいじゃないの」
「姉上!」

 アルコン皇子はキッと姉姫を睨んだ。

「本気で言ってんの?そんなこと。政略に・・・政略に幸せもくそもあるかよ。兄上は国のためなら自分の愛情なんか抜きで結婚できる人なんだ。そんな人に幸せなんてあるわけないよ」
「アルコン・・・困らせないで。私達はこちらの事には口出しすることはできないのよ。分かってちょうだい」

 セイラ姫は熱血漢あふれる若い弟に困ったように言った。

「前に・・・みんなで噂してたの聞いたことがある。あの冷たいファンタジアの皇帝を落としたいならまず心より身体を落とせってさ。ファンタジアの皇室典範によるとさ,皇帝とどんな状況であれ最初に情を交わした女性が第一皇妃になる権利があるんだって。だから何年か前,まだ即位して間もない幼い兄上を襲った人達がいたでしょ?あの時,かなりやばい状態だったみたいだよ」
「や・・・やばい状態・・・・って」
「もう,姉上。決まってるじゃないか。それこそ大臣や騎士達が発見した時,まさに情を無理矢理交わされる寸前だったんだって。これも噂だから本当かどうか分からないけど兄上は薬で意識朦朧となっていて,それこそ発見が遅れてたらいくところまでいってたかもしれないってさ」

 セイラ姫はそれを聞いて少し顔を赤くした。アルコン皇子は姉姫に迫る。

「幸いファンタジアもルナも大臣達はみんな姉上の味方。姉上なんか兄上と情を交わすチャンスいくらでもあるんだか頑張ってよ。一緒に休みました~だけじゃだめなんだから。あ~あ,それでもOKだったら良かったのにな~。それならとっくに姉上は兄上のお妃だよね」
「何・・・何を言い出すの,アルコン。私はあの方に何度も振られているのに」
「そりゃあ,兄上が姉上を好きだからさ」
「え?」

 セイラ姫は意外な言葉に弟を見る。

「姉上・・・・俺より兄上といて分かってないな~。まあ,男の心理って奴は分からないかな~。兄上はね,姉上が好きなんだ。自分でもよく気がついていないけどね。だけど,自分の周りはとーっても複雑な事情がからんでいるし,ましてや前世でもかなりの迷惑をかけてる。だから姉上をこれ以上ごたごたに巻き込みたくないんだと思うよ。姉上のこと大事に思ってるからこそ不幸にしたくないと思って距離を置いてるんだ」
「・・・・・・・・・」

 セイラ姫は黙って俯いてしまった。

「恋愛学なら任せてくれよ。多分兄上や姉上よりは上だと思うな,俺。兄上ってさ,何でもできるすごい人だけど恋愛表現は超へたくそなんだと思うよ。だからしつこく姉上との縁談を断っているんだ。でもさ,そのくせ姉上とよく2人きりでいたがるでしょ?いくら命にかかわるって言ったって姉上助けに1人で他国にもぐり込んだり谷川に飛び込んだりしないよ,普通は。一体今まで何回助けてもらった?それ考えたら兄上が姉上のこと嫌いなわけないし,普通の他の姫君と同じように見てないって分かるでしょ。今度いいムードになったらキスぐらい姉上からしてみなよ。兄上,不器用だから絶対抵抗しないと思うし,いくところまでいっちゃえるよ,きっと」

 アルコン皇子の超大胆発言にセイラ姫はカーッと顔を赤くしてしまっている。

「で・・・できないわ。そんなこと・・・・そんな・・・・陛下に・・・」
「姉上!!そんなこと言ってたら大切な人他の人にとられちゃうよ。一生後悔するよ。それでもいいの?」

 セイラ姫がいよいよ返答に困っていると,ラミエル王が相変わらず美しく格好良い姿で帰ってきた。



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2-23 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-22 23:07:57 | 「ある国の物語」 第九章 
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第2節 恋の行方  第23話

 やがて12月も下旬に入り,そろそろ北西の国々の南方の方でも雪が積もる季節となった。アフタル川新橋の設計も決まり,新年そうそう着工することが決まった。

 その確認をしに月の国ルナ王国を訪れたデーリー帝,セイラ姫,アルコン皇子は歓待を受けた。

「いかがですかな,ラミエル殿。少しは休めておられますかな?」
「ようこそ,デーリー殿。おかげさまで春まではファンタジアもルナも一息つけます。仕事もこの時期ほとんどありませんから,フェリスとアデルに直接私の方から帝王学を教えようと思っています」
「そうか。なかなかのんびりできぬな」
「私には時間が残されていませんから」
「そうだな」
 
 デーリー帝との会談も終わり,月の君は国王代理フィラ,アデル王太子,アルコン皇子,セイラ姫と,若者で集まって話をしていた。

「おっ,アデル王子。元気だったか?俺のこと覚えてる?」
「はい,こんばんは。アルコン第一皇子様。お久しぶりです」
「かっわいいなあ。でもいいな,ラミエル帝と本当の兄弟だなんて」

 アルコン皇子は本当に羨ましそうに言い,アデル王子は「はい」と答えてにこっと笑う。ラミエル王にとっては宝より大切な弟である。一度アデル王子が命を落とした時,自分も心を閉ざしてしまったラミエル。今,彼からアデル王子を取り上げたらただではすまないだろう。
 月の君のフェリスやアデルを見る目は本当に優しい。可愛くて可愛くて仕方がないのであろう。

「私は兄上が大好きです」

 アデル王子のその言葉を聞いて,ラミエルは温かく,優しく,しかし少し哀しそうに笑う。彼のこれからのことを考えると複雑な気持ちになってしまうのだ。

「あっ・・・これ。これってもしかしてあの時の・・・」

 突然アルコン皇子が部屋の棚の上にあった小さな金色の固まりを見つけた。印である。ひっくり返すと確かに3年前セイラ姫との結婚式に使ったアッカンベーをした人形が物の見事に彫られている。

「わあ,これ,前兄上が結婚式の時に押した偽物はんこだね」

 アルコン皇子は嬉しそうにあちこち触っている。月の君は暫く黙っていたが,
「アルコン皇子,良かったらどうぞ」
と,言った。

「え?いいの?」
「我ながら素晴らしい出来だと自負しています。本物とすり替えるのに苦労しましたが・・・・。それ一日で彫ったんですよ」
「え~~~?一日で?いいの?本当にもらって。だってこれ作るの大変だったでしょ。こんな細かい所まで」
「いいんですよ。こっちに持ってきていたこと忘れていたぐらいですから。もうその皇印は私には必要ない物。使うことはないですから」
「じゃあ・・・今度皇印を押す時は正式に結婚する時なんだね」

 アルコン皇子は急に真面目になって言った。ラミエル王は少しとまどったような困ったような顔をしていたが,「そうです」と答えた。

「本当だったんだね,あの噂。神殿からフェリス皇子を正統な皇位継承者として認める代わりに結婚を迫られてるって」
「・・・・・・・」

 月の君は黙り込んでしまった。

「本当なんだね,兄上」
「はい。でも私はそれだけでは終わらないようにするつもりです」
「え?どういうこと?」

 ラミエル王はアデル王子の頭をそっと撫でる。

「私はルナの神殿に対してもファンタジアの神殿が折れたのを機に,アデルの正統な王位継承を要請しました。ファンタジアとルナの神官が正統な世継ぎとしてフェリスとアデルを認めてくれるのであれば,私の結婚など取るに足りぬこと。他の者が世継ぎとなれば母との約束も守れます。その期限は3ヶ月。それまでに結婚するかしないか決めなければなりません」
「3ヶ月・・・か。それで,もう妃候補は決まってるの?」

 アルコン皇子は気になってラミエル王に詰め寄る。しかしラミエル王は「秘密」と言って教えてくれなかった。




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2-22 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-21 23:52:46 | 「ある国の物語」 第九章 
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第2節 恋の行方  第22話

 2人が出発する頃,『てるてる坊主』も悪いと思ったのか雨はだいぶ小降りになり,小宮殿を離れる時には止んでいた。

「雨が・・・」
「止みましたね。ちょうど良かったです。空も明るいですし雲も切れ目が見えてきました。これから天気も回復しそうですね」

 空を見上げながらラミエル帝は呟くように言った。

 森の小道に差し掛かるとぬかるんだ所が増えてきた。セイラ姫は一生懸命ついて行こうとしてそのやっかいなぬかるみに足をとられ,こけそうになった。

「あっ」

 身体がぐらついた時,ラミエル帝がすかさず彼女の身体に手を回して支えていた。

「大丈夫ですか?」
「あ・・・ありがとうございます。すみません」

 自然と顔が赤くなる。彼にばれてはいないだろうか。そう思うと自然に鼓動も速くなる。すぐ側に美しい月の君の顔が見える。

「先の大雨でかなり下がぬかるんでいるようです。滑りやすいですから気を付けていきましょう」
「はい」

 ラミエル帝は星姫を気遣い,2人は手をつないで歩いた。さっきからセイラ姫はドキドキしていた。彼の大きくて温かい手が自分の手と繋がっている。冷たい月の君と言われるが,その手の温もりは安心感とともに彼女に伝わる。

「ライムマイソンの実が雨のせいではじけてしまいましたね」

 月の君が前日実をとったライムマイソンの木を見ながら言った。

「本当」
「昨日とらせてもらっていて正解でした。この実はいったんはじけるとすぐに実が下に落ちてしまうのです」
「そうなんですね」

 2人はそんなことを話しながら歩く。

 暫くしてスターボウ本宮殿が見えてきて,2人は無事に辿り着いた。ラミエル帝はそこで少し休憩し,着替えた後ファンタジア帝国へと帰ることにした。

「気を付けられよ,ラミエル殿」
「ありがとうございます。では,失礼します」

 月の君はルナ王国の大臣達を連れて帰国の途についた。セイラ姫はもう夢の中にいるようでホーッとなっている。これでは世界一と名高い美姫も台無しである。デーリー帝は娘の本当に嬉しそうな姿に心を痛めた。


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2-21 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-20 23:57:23 | 「ある国の物語」 第九章 
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第2節 恋の行方  第21話

 雨はとてもやみそうにない。ラミエル帝はフルーツを食べ終わった後にずっと窓の外を見ていたが,明日はどうしても帰らないといけないから,ということで紙にペンでへのへのもへじを書いててるてる坊主を作り,窓際につるした。月の聖帝がてるてる坊主を作っているものだから,セイラ姫はその意外さに少しびっくりして彼を見た。

 月の君は,たまに少年らしいおちゃめな面を見せる時がある。が,それはいつもと変わらないポーカーフェイスでするものだから周りの者はいつも意表をつかれるのだった。

「陛下・・・それは・・・・」
「『てるてる坊主』というものらしいです。明日は晴れるようにしてもらわないといけないので。南の国ではこういうのを作ってつるすと晴れにしてくれるそうですよ」
「そうなんですか」
「でも・・・こんなので本当に効き目があるのかな」
「可哀想ですよ。御自分でお作りになっておいて」
「それもそうですね。明日は晴れますように」

 月の君が優しくてるてる坊主に話し掛ける。

「きっと晴れますよ。では,私はそろそろ失礼します。お休みなさいませ,陛下」
「ご馳走さまでした。今日はありがとう。お休みなさい」

 ラミエル帝はセイラ姫を送り,また続きの国選びをしていたが,夜中にもう一度泉の間で楽しんだ後,夜着に着替えてベッドの中に入る。
 静かに夜が更けていく。

 2人が小宮殿に出かけた後,本宮ではルナ国の大臣達がこのままセイラ姫と進展があればと密かに期待していた。

「デーリー陛下,我が国王陛下の王妃様にはセイラ姫をとみなの者が願っております。あの2年前の幻の婚礼を今度こそ本物にしていただきたいのです」
「ははは・・・・そううまくいくかな」

 デーリー帝は大臣達を前に苦笑した。

「デーリー様がそのようなことをおっしゃられては困ります。何とか我が陛下とセイラ姫様との仲をとりもってはくださいませんか?」
「あの2人は仲の良い友達という感じだからな」
「デーリー陛下」
「ラミエル殿もいろいろと思うことがおありだろう。そなた達も月を相手に無理をすると余計にうまくいかぬかもしれぬぞ。ここはじっくりと見守ってはどうじゃ」
「はい・・・」

 ルナ国の大臣達ははあ・・・と溜息をつきながらがっかりして肩を落とす。

 翌朝,朝から大雨でそれこそバケツをひっくり返したようにもの凄い音を立てて降っている。ラミエル帝の作ったてるてる坊主は相変わらず窓際にぶらさがっている。

「どうして・・・・」

 ラミエル帝は暫く茫然として外を見ていた。朝食を御一緒にとセイラ姫ととらされた月の君だが,やはり外が気になる。パンを持ったままザーッという雨の音を聞いているようだ。

「陛下?」

 動きが止まっている月の君にセイラ姫が心配して声を掛ける。

「姫君,私はやはり今までの行いがすごく悪かったのでしょうか。すみませんが,後で傘を貸してください。今日はどうしてもせめてファンタジアには帰らないといけないので。ルナに帰るにはちょっと無理があるかな・・・」
「それは構いませんが・・・。では私も御一緒に」
「いえ,姫君はここで雨がやむまで待たれた方がいいでしょう。スターボウ宮殿に着くまでにびしょ濡れになりますよ。私は慣れていますが,女性は身体を冷やさない方がいいのでしょう?」
「大丈夫ですよ,陛下。私はレインコートも着ていきますから。陛下もレインコートを・・・」
「いえ,いいです。動きにくいのはどうも苦手で・・・・。でも・・・まいったな・・・・」

 パンを少しちぎりながらラミエル帝は呟くように言った。

 朝食後は身支度を調え,ラミエル帝は出発することにした。


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2-20 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-19 19:33:43 | 「ある国の物語」 第九章 
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このお話は・・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第2節 恋の行方  第20話

 夜になって,月の君は一室に案内された。よく暖房が効いていてとても落ち着ける色調の部屋である。

「ラミエル陛下,どうぞ今晩はこちらでお休み下さいませ。このような小さな宮殿ですので何かとご不便なところもあろうかと思いますが,何なりとお申し付け下さい。お着替えはこちらに置いておきます。イリュージョンのものしかございませんが,どうぞ。こちらが,御部屋着,そしてこちらが夜着でございます」

 宮殿付きの内官が丁寧に挨拶をし,静かに扉を閉めて出て行った。外ではまだ激しく窓を打ち付ける雨の音がする。ふと壁に掛かっている彫刻が上品に施された時計を見ると,夜の8時。月の君は少し溜息をつくと愛用の剣をテーブルの上に置き,シャワーを浴びに泉の間へ行った。小宮殿にしては造りがとても豪華で,ドラゴンの口から少し熱めのお湯が雨のように降り注ぎ,浴室は大理石。湯船も広く,ラミエル帝は『星の泉』と名付けられているそこがとても気に入って,それこそのぼせる直前まで入っていた。

「困ったな。私には残された時間が少なすぎる。ここで・・・何ができる?・・・・」 

 月の君は無駄な時間を使いたくなくて,あれこれと考えていた。泉の間を出ると,用意してもらった部屋着に着替え,王衣をきちっとたたんでその上に剣を置く。満月,新月でもないので月のサークレットもはずして置く。髪はまだ半乾きのままだったが,彼は椅子に座り,いつも携帯しているメモとペンをテーブルに用意して小さな地図を広げる。

「南の国・・・こっちは何とか血縁関係を結ばなくても足がかりはできそうだ。後は・・・やっかいな東の国・・・か。コル・カロリを足がかりにしても東の国の奥深くまでは把握できないな」

 ラミエル帝はそのような事を考えながら,国交するに有利な国を書き抜く。もちろん,これはすべてフェリスの皇位継承のためである。自分はやがて自分でなくなる。それまでに,フェリス皇子が少しでも国を統治しやすいようにできる限りのことを彼はするつもりだった。
 そうしていると,コンコンコンとノックの音。

「はい,どうぞ」

 ペンを走らせながら彼は無表情に言った。

「失礼します」

 セイラ姫が少し顔をのぞかせる。押してきたワゴンにはフルーツの盛り合わせが乗っている。髪が濡れ,少しラフな部屋着の月は,相変わらず美しく魅力的だ。セイラ姫も自然と顔が赤くなる。

「陛下,お仕事中ごめんなさい。あの・・・フルーツを持ってきたのですが,一休みされませんか?」

 セイラ姫にとっては,これだけでもかなり勇気のいることなのだが,月の君はそれを知ってか知らずか腹立たしくなるほど特別な反応は見せなかった。

「ああ,ありがとうございます。わざわざ姫君が来られなくても良かったのに・・・。ご足労をかけてしまいましたね」

 ふと動かしていたペンを止めて,彼は星姫を見た。

「私にもこれぐらいのことはできますから・・・」

 セイラ姫は静かにフルーツの盛り合わせをテーブルに置く。オレンジやバナナ,リンゴなど様々なフルーツが食べやすく一口大にカットされていて美しくおいしそうに盛られている。ラミエル帝はセイラ姫と少しずつ分け合って食べる。星姫にとっては今がとても幸せな時だった。もし彼の妃になれて,ずっとこうしていられたら・・・・セイラ姫は胸の奥でそのような切ない夢をあたためていた。そんな姫君の想いを知ってか知らずか,月の君は相変わらずの調子で無愛想にフォークで自分に近い方のフルーツを少し突き刺しては口の中に放りこんでいた。

「父から聞きました。無事にマリウス皇子とアイシス姫はお許しをもらったそうですね」

 いつまでも沈黙が続いていそうなので,セイラ姫が思いきって話しかけてみた。

「はい。一時はどうなることかと思いましたが・・・・。マリウスも頑張ったようですね。私も本気で軍を動かすことにならなくて良かったと思っています」
「そうですね」
「そういう姫君もとうとう決着をつけられたそうですね」
「はい。後悔はしていません」
「そう・・・」

 ラミエル帝は静かにその一言だけ言った。

〈後は自分だけか。こんな中途半端なのは・・・〉

 そんなことを思いながらラミエル帝はこれからのことに少し不安を覚えた。



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2-19 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-18 23:53:09 | 「ある国の物語」 第九章 
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このお話は・・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第2節 恋の行方  第19話

 2人はテーブルを囲んで椅子に座り,少し雑談をしていた。

「陛下,少しお待ちくださいね」

 つと立ち上がると,セイラ姫は自ら紅茶を入れた。月の君は今回はルナ国王として来ているので,いつもの真っ白いファンタジア帝国の服装とは違う。ルナ王国独特の色彩豊かな上衣を着ていて,雰囲気が少し違って見える。

「どうぞ,陛下。我が国自慢のハーブティーです」

 星姫はちょっとした茶菓子も添えてラミエル帝に出した。ラミエル帝はそのハーブティーが気に入ったらしく,おいしい,と飲んでいる。セイラ姫は大好きなラミエル帝が側にいて,とても嬉しく幸せに感じていた。 
 一息つき,ラミエル帝がそろそろ時間を気にして「帰りましょう」と言い出した頃,急に天気が怪しくなり,みぞれ交じりの雨がポツポツと降り出したかと思うと,ザーッと降り出した。

「とても冷たい雨ですから,やむまではお待ちになった方がよろしいてですよ」

 宮仕達が帰ろうとする月の君を止めた。ラミエル帝は今回客人として来ている以上無理も言えなかった。セイラ姫と2人で窓の外を見る。だんだん風も出てきて小さな嵐のようになってきている。

「私は何か悪いことをしたかな。思い当たることが多すぎて分からないな」
「私もです,陛下」

 2人はずっと待っていたが,夕方になり,暗くなってきても雨は一向にやむ気配はなく,それどころか風も時折ゴーーーッと吹いて雨を窓にたたきつけている。パラパラと固い音もしているのであられに近いかもしれない。

「ラミエル様,姫様,御夕食の準備が整いました。どうぞ,こちらへ」

 大臣が呼びに来て2人を食堂に案内した。次から次へと心のこもった料理が提供される。イリュージョン側もラミエル帝が少食なのを知っているので,少しずつバラエティーにとんだメニューにして工夫を凝らしていた。給仕側としてはセイラ姫の切ない気持ちを大切にして,2人をおおいに盛り上げようと考えていたのである。ラミエル帝は宮廷料理でありながら,庶民的な料理であるここの料理が大変気に入ったようで,シェフにこれは何か,どのようにしたらこんな味が出せるのかと1つ1つ質問しながら食事をとった。そして,本当においしかったのか彼は珍しくお代わりを所望し,給仕達を喜ばせた。  

 食事が終わってもまだ雨はやむ様子はない。

「今夜はもう遅いですし,このままここにお泊まりくださいませ。本宮へはこちらから連絡しておきますので」

 大臣がラミエル帝を気遣って言った。ラミエル帝は1人なら別にこんな雨どうということなく帰るのだが,せっかく招待してくれたセイラ姫を放っておくわけにもいかず,大臣の言うことに従うしかなかった。

「すみませんが,後から電話を貸してくれますか?」
「はい,どうぞ,ラミエル様」

 ラミエル帝は予定の変更で電話をかける。

「あ,フィラ?ラミエルです。新橋の件,大体のところは決まったから。え?そう。私もできるだけ急いで帰るから一応変更はなしということで話を進めていてください。それから,ファンタジアに連絡を。うん,明後日の会談を一週間後にできないか打診しておいてほしいとルーラに伝えておいてくれませんか?うん,そう,ちょっと明後日は困るんだ。急に予定が入って。ありがとう。それではよろしく。明日の夜にはファンタジアへ着けると思うから,また詳しい連絡はその時にします。うん,分かりました。では」

 電話を切ると,ラミエル帝はまた窓の外を見た。

「明日はやんでくれるでしょうか」

 少し哀しさをたたえた瞳でラミエル帝は独り言のように呟いた。
 

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2-18 恋の行方 「ある国の物語」 第九章 森と湖の国を継ぐ者

2014-01-17 23:45:47 | 「ある国の物語」 第九章 
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第2節 恋の行方  第18話

「陛下?」
「すごい,ここにライムマイソンの実がこんなにたくさん・・・」

 ラミエル帝が嬉しそうに言った。普段滅多に見ることができない少年らしい可愛い笑顔である。彼は時々少年に戻ることがある。

「ライムマイソン?」
「通称マジックボックスと言われる実がとても面白いんですよ」

 月の君はその木からほおずきに似た四角い形の皮で包まれた実を取ると,星姫の手のひらの上に乗せた。

「姫君,この実のてっぺんを押さえてみてください」

 セイラ姫が言われた通りにしてみると,その実はパンッとはじけて箱のような皮が外へそっくり返り,中から橙色の丸い大きな玉がくっついているのが見えた。セイラ姫は一瞬キャッとびっくりしたが,すぐ平常に戻って自分の手の上を見た。

「そう・・・これでマジックボックスって言うのですね」

 セイラ姫は感心しながら見た。ラミエル帝はいくつか実を取ると,パンパンと言わせながら中を見た。

「ほら,中の玉も熟し方によって色が違うでしょう?だから,中の実はレインボーボールとも言われているのです」

 月の君はいろいろな色の中から紫色を選んで皮からはずし,セイラ姫に渡した。

「紫色の実はとても甘いのです。黄色や白色は酸っぱくて,赤やオレンジ色は甘酸っぱいんですよ。この実は熟していなくても十分食べられるので,森の中に迷い込んだ時のいい食糧源になります」

 セイラ姫は月の君に言われるままに紫色の実をそっと口の中に含んでみた。葡萄の実以上に甘く,とてもおいしい。

「これはとてもおいしいですね,陛下」

 ラミエル帝は自分も2,3個口の中に放り込むと,セイラ姫の許可をもらって弟たちの土産にと携帯している袋の中にいっぱい詰め込んだ。日頃の冷たい月の君ではなく,優しい兄としてのラミエルがそこにいた。

「それにしてもよく御存知ですね,陛下」

 星姫はつくづく感心している。ラミエル帝は少し笑って,
「私は逃亡のプロですからね。森の中に何日もいたことがあって,狩人や森を守る人達にいろいろと教えてもらったのです。私は9才の時,森の中に逃げ込んだことがあるのですが,このライムマイソンの実で3日以上生き延びたことがあります。珍しい木で群生せず,そうそう見つかるものではないんですよ。だって,ほら,実の中に種がないでしょう?」
と,説明した。
 つくづく皇帝の中の皇帝と言われながら,それらしからぬ事をしでかしている。本当に不思議な魅力をもっている月の君である。

「これからますます冬らしくなっていきますね。今日はたまたま小春日和でぬくいですが」

 セイラ姫がポツッと呟いた。月の君は森の中の冬の気配を楽しみながら歩いている。

「当分長い冬が続きますね。あまり雪が降らないといいのですが・・・・」

 2人がそんな話をしながら歩いていると,小さな可愛い宮殿に着いた。ファンタジア帝国にあるプチ・ムーン宮殿のような感じのこじんまりとした,しかし気品あふれる宮殿である。

「陛下,ここで一休みしていきましょう」

 セイラ姫が笑顔で言う。月の君は立ち止まってその宮殿を見上げた。

「こんな所にこのような小さな宮殿があったとは知りませんでした」
「最近できたんです。だから,ほら,まだ新しいでしょう?」
「なるほど」
「さあ,どうぞ。陛下にはかなわないけどおいしい紅茶を入れるわ」

 星姫に促されて,月の君は彼女の後をついて中へ入った。

「ようこそ,ラミエル様」

 宮内の者が総出で出迎える。

「こんにちは。失礼します」

 ラミエル帝は軽く挨拶をする。 

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