テルサのFantastic Stories

今まで書きためていたとりとめもない物語を少しずつ連載していきます。ファンタジー物が多いです。ぜひ読んでみて下さい。

12-6 「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-28 23:08:41 | 「ある国の物語」 第三章
第12節 星見 第6話

「ラミエル陛下は御結婚はされないのですか?」

 アルコン皇子はラミエル帝に対して率直に質問した。セイラはもう気が気ではない。何を言い出すか全く分からない弟である。

「今のところはそういう予定は考えていません」
「今のところということは,もしかしたら御結婚される可能性もあるということですか?」

 アルコン皇子の質問攻めにあっても月の君は顔色一つ変えない。

「ファンタジアの世継ぎがどうしても見つからなければ私も妃を迎えなければなりません。あと・・5年が勝負ですね。とにかく候補を見つけ,一から帝王学を教えなければいけません。もし私のミスでその者が皇位継承者としてふさわしくないと判断されたらおしまいですね。はっきり言って私もこの賭けには自信が持てません」
「今の段階ではいないのですか?だってルナの時は3人ぐらい候補がいたって・・・」
「よく御存知ですね。残念ながら今のところ候補は一人もいません・・・・・いや・・・一人・・・。でもその者はちょっとどうしようかと思っているところです。まあ,早く見付けないとタイムリミットがありますから,少々焦っているのは確かです。最低1年以内には見付けないと・・・・・」

 月の君はアルコン皇子には素直に何でも話してくれる。

「じゃあ・・・いえ,では,もし1年以内に見つからなければその時点で結論が出るということですか?」
「ギリギリで2年ですね。皇家を他人に譲るのにかなり厳しい条件があって,その中に示されている条件全てを満たさなければ譲ることはできないのです。その条件を満たせるよう徹夜で教え込んでも3年はかかるでしょう。フィラに費やしたのが7年ですから,今から考えても頭が痛いですね」

 さすがの月の君もふってわいたこのハプニングに頭を悩ませているようだった。

「このことは内緒にしておいて下さいね。ただでさえ皇位継承者承認式中止すなわち私の結婚と考えてお見合い申し込みの数が日々増えているようです。今は断るのに大臣達が四苦八苦しています」
「大変ですね。でも・・・もし・・・もし・・御結婚されることになったら私の姉君をお妃に迎えて下さいませんか?」

 アルコン皇子の言葉にセイラ姫はびっくりした。

「ア・・・アルコン,何を言い出すのですか?陛下に対して失礼ですよ」

 慌ててアルコンを叱りつけ,顔を真っ赤にする。しかし,その時の月の君はやはり全く動じていなかった。

「考えておきましょう」

 と一言答える。

「よくよく考えて下さい。お願いします」

 アルコン皇子は真剣に頼み込んだ。セイラ姫は恥ずかしくて顔も上げられないまま俯いてしまっている。

「分かりました。よくよく考えておきましょう」

 ラミエル帝は軽く答えるとアデルの様子を見に部屋を退出した。

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12-5 「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-27 23:24:02 | 「ある国の物語」 第三章
第12節 星見 第5話

ラミエル帝は相変わらず黙って座っている。無口な性格はどうやら変わっていないらしい。
 セイラ姫はそんな彼をやはり黙って見ていた。

(彼が成人したらどんな人になるのだろう。この素っ気ないところは変わらないのだろうか)

 星姫はこんなにも月を好きになってしまった自分が少し悲しく思えてくるのだった。

 その静かな時の流れを打ち破ってアルコン皇子が大きな溜息をつく。

「あ~あ,何か面白いことないかな」

 その言葉に月の君はふと顔を少し上げてアルコンを見た。サラッと彼の艶やかな栗色の髪が揺れて何筋か肩から滑り落ちる。

「皇子は何かやりたいことはないのですか?」

 透き通るような声だ。ここでどんどん話を盛り上げないと月はまた固く口を閉ざしてしまうだろう。アルコン皇子もそこは心得ているらしい。

「う~ん,思いっきり一人旅がしてみたい。いろいろな所・・・海の見える所,砂漠,高原・・・・世界中をゆっくり見て回りたい。なのに父上ったらそんなこと言ったら怒るんだ。で,結局,やれ帝王学だの剣術だの乗馬だのとつまらないことをすることになるんだ。俺勉強なんて大っ嫌い。きっと王様とかに向いてないんだ」
「旅は好きなのですか?」
「うん。でもあまりしたことないから本当に好きと言えるのかどうか・・・・・。単なる憧れなのかもしれないし」
「そうですか」
「唯一旅って言えばフォスター帝国へ行く時ぐらいだもん。他は行ったことがないなあ。それはもちろんあなたにもお世話になってファンタジア帝国にも行かせてもらってるけどね・・・」

 ラミエルはアルコン皇子の不満そうな顔を見てふと表情が優しくなる。

「では,あなたは国内を隅々まで見て回ったことがありますか?」
「う~ん,それはないけど・・・・。こことそう変わりがないんじゃないのかなあと思っています」
「旅は遠い所に行くことだけを言うのではありません。国内でも何か新しい発見があるはずですよ。将来あなたが治めることになる国なのですから,一度ずっと回ってみるといいでしょう」
「でもね,俺達の国は小さくてあなたの御国のような地方宮や別宮はあまりないんですよ」
「あなたはこのような立派な宮殿でないと生活できませんか?」
「いえ,そんなことは・・・・でも・・・」
「何にでも挑戦してごらん。私は7歳の時初めて野宿をしたし,一般市民の家にも泊めてもらったことがあります。なかなかの貴重な体験ですよ。ずっと宮内に閉じこもっていたのでは見えないような事が分かってきます」
「すごいなあ。ファンタジア帝国はとても広大な土地を持つからいろいろな所があるのでしょう?」
「そうですね。確かに国内でも地域によってかなり特徴が違っています。私がまだ一度も訪れたことのない都市もたくさんありますし・・・。でもここのイリュージョン帝国もかなり変化の富んだ地形ですから見てみるかちは十分にあると思います」
「はい。分かりました。ところでラミエル陛下」

 アルコン皇子はラミエル帝をまっすぐ見つめると話題を変えた。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-26 23:00:33 | 「ある国の物語」 第三章
第12節 星見 第4話

 そんな4人の目の前を流星が一瞬スーッと尾を引いて飛び去った。

「兄上,兄上・・・・今のは星が落ちてしまいました」

 幼いルナの王位継承者はラミエル帝にしがみついて心配そうに言った。

「そのうちお空から星がなくなってしまいます」

 アデル王子の不安そうな声に月の君は優しく応じる。

「心配はいらないよ。あれはね,流星と言ってお空よりももっと高いところにある小さな小さなゴミがこの星へ落ちてきた時に燃えて,あのように光って流れたように見えるんだ」
「じゃあ星ではないのですか?」
「そうだよ。だから安心していいんだよ」
「ほんと?」
「本当だよ」
「良かった」

 アデル王子は安心して見入り,その星空の美しさに満足していた。

「アデル?もうそろそろ部屋へ戻った方がいいよ」

 ラミエル帝が言ったが,アデルはもう少しここにいる,と言って動こうとしない。少し寒くなってきたので月の君は自分のマントを静かにとると,アデルの身体を覆うようにそっと掛けた。
 その姿はまるで本当の兄弟のようで,月の君がいかにアデル王子を大事に育てているかが分かった。

「アデル,よくお聞き」

 ラミエル帝は静かに自分の膝の上の弟に語りかけた。

「はい,兄上」
「お前の父君と母君はやはりお亡くなりになっていたんだ。墓所がリフ・ムーンの都にあるそうだからルナの都へ帰る時にそこへ寄ることにしよう。分かるね」

 ラミエル帝は幼い弟に両親の死を告げた。

「はい,兄上。ありがとうございます。いろいろとしてくれて・・・あのね・・・私は・・・最初から分かってたんだけど・・・だけど・・・」

 アデルの声がだんだんとうわずってきて,彼の大きな瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
 ラミエル帝はそんなアデルを何も言わず,ただ優しく抱きしめていた。

 どのくらい時間がたっただろう。その小さな王位継承者候補は泣き疲れていつの間にか眠っていた。

「本当に残念でしたね」
 
 アルコン皇子が月の君に話し掛けた。

「はい。でも,消息がはっきりして良かったと思います。アデルにとっても気持ちの吹っ切れる結果が出たでしょう」
「あの・・・・ラミエル様は明日お帰りになられるのですか?」
「はい。公用ではありませんし,ファンタジアの方の仕事もたまっていますから・・」
「そうですか。では無理にお引き留めもできませんね」
「すみません」
「さあ,そろそろ下に降りましょう」

 セイラ姫がそっと立ち上がる。ラミエル帝はアデルを起こさないように静かに抱き上げ,下へと降りた。
 ベッドに彼を寝かせた後,また3人で紅茶を飲む。

「早く春が来るといいな」

 アルコン皇子はふと思いついたようにボソッと呟いた。

 北の国々に春が訪れるのは遅い。4月になってようやく雪が溶け出す。そして短い春と夏の訪れ。北の国の人々はその短いつかの間の日々を心待ちにする。

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テルサ通信 4

2008-08-25 23:30:56 | テルサ通信
みなさまこんばんは。
テルサです^^。
いつもいつも応援をしてくださってありがとうございます。
実は今日は読者の皆様に深く深くお詫びを申し上げないといけないことに気づいたのですToT。

先日私のフレンドから「コメ送るね~」という言葉がありました。
あれ?そう言えば今の今までコメントは0。なんで~と思っていたのですが,見ていて気がついてしまったのです。
「そうだ。私が許可するまで保留だったんだ」ということを・・・・。

それでコメント管理を開いてみたら・・・・・w(゜o゜)w オオー!ー

 何と1年以上も前からコメントを頂いていました。
 みなさま本当にすみません。
 半分中身にそぐわないコメントがありましたので削除いたしました。

純粋に作品に対するご意見のみお願いします。
ということで大ショックなテルサでした。ほんとにほんとにごめんなさい。

リンクは一言言ってくださればOKです^^。
ということで
深く深く反省しつつ,これからもご愛読のほどよろしくお願いいたします。キャラの中で誰が好きか教えてくださると参考にさせていただきます^^。

ということでクリッククリックらんらんら~んの応援クリックお願いしますね^^。

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「ある国の物語」 第三章月の名を冠する者

2008-08-24 19:22:29 | 「ある国の物語」 第三章
第12節 星見 第3話

「ファンタジアの方は・・・中止になったそうだね」
「え?ええ・・・・・いろいろと事情がありまして。また,捜します。アデルのような子供を・・・・・」
「結婚は考えていないのかね?」
「今のところは・・・。ギリギリまで捜します。それでも見つからなかったらその時考えることにします」
「なるほど・・・・」

 月の君はその日,夜がとっぷりと更けてもずっと探し続けていた。静かな室内に時折パラッと紙をめくる音だけが聞こえていた。

 翌日,ラミエル帝は相変わらず書類とにらめっこをし,アデルはアデルなりにラミエルの横でじっと兄の指先を見ていた。

「アデル,お前までここにいなくていいんだよ。アルコン皇子に頼んであるから遊びに行っておいで」

 月の君はまさに月の光のように優しい表情で幼い弟に言う。

「はい。でも,私のために兄君がこうしてがんばっているのに私が・・・」
「いいんだよ。これが私の仕事だ。だから行っておいで」

 ラミエル帝はアルコン皇子にアデルを預けると,ひたすら捜し続けた。
 やがてふとラミエル帝の指が止まる。

(あった・・・。リアス・フランセス,サティ・フランセス・・・・)

 彼の指先は滑るようにゆっくりとその名前が書かれた欄に沿って右へ右へと動いていく。しかし,その最終地点には2人とも『死亡』の文字が書かれていた。そして,長子アデル・フランセスは本籍のあるルナ王国に引き取られ,施設に預けられたこと,両親の墓はルナのリフ・ムーンの都にあることが分かった。

 アデルの祖母にあたる人が両親の遺骨を引き取ったのである。しかし,祖母も自分が入退院を繰り返している身であり,孫のアデルまで面倒が見られないため,やむなく施設に預けたのであった。

(生きていてくれればとも思ったのだけれど・・・)

 月の君は静かに必要な事項を書き留めると,パタンと綴りを閉じた。

「あったかね?」

 その音に気が付いてデーリー帝が尋ねる。

「はい。やはり両親ともに亡くなっていました。帰りにお墓がある都へ寄って行こうと思います」

 月の君は,アデルをがっかりさせることになるな・・・と思い,少し気が重たかった。

「残念だったね」
「ええ,でも墓の所在地も分かりましたし,やはり調べて良かったと思っています。デーリー帝のご協力には感謝いたします。ありがとうございました」

 そっと丁寧に住民票が返される。

 その夜はラミエル,アルコン,アデル,セイラの4人で凍てつく夜空を見ていた。宮殿の端にある高い塔の最上階がガラスのドームになっていて,星がまたたいているのがよく見えた。
 月の君は黙って哀しそうな表情で星々を見ていた。アデルはラミエルの膝の上に乗って珍しそうに「あの星は?」「あの赤いのは?」と尋ね,アルコン皇子やセイラ姫が丁寧に説明する。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-23 23:52:09 | 「ある国の物語」 第三章
第12節 星見 第2話

 ラミエル帝がファンタジアに帰国してから一週間後,彼はアデルや家臣10名ほどとともに星の国イリュージョン帝国を訪れた。
 デーリー帝達はこの時,初めてルナ王国世継候補アデルを見た。まだ5歳でありながらとてもしっかりしていて,さすがにラミエル帝が2年の歳月をかけて探し出しただけあった。

「こんにちは,デーリー殿。この子がルナ王国の王位継承者候補のアデル・ラ・ルナです。昨年,正式にルナ王家の養子として引き取りました。今,5歳で私の義理の弟になります」

 ラミエル帝はまだ5歳という幼いアデルをデーリー帝に紹介した。

「アデル,このお方がイリュージョン帝国皇帝デーリー・エン・マルア様です。ご挨拶をなさい」

 本当の兄のように月の君が優しく言う。

「はい,兄上。初めまして。私はアデル・ラ・ルナと申します。兄上からデーリー様のことはよくうかがっています。今後ともどうぞよろしくお願いします」

 ぺこっと小さい頭を下げてアデルが挨拶をする。なかなか利発そうなかわいい子供だ。

「よろしくアデル王子。幼いのにしっかりしているね。これならルナの国王として立派にやっていけるな」

 デーリー帝にほめられてアデル王子はパッと顔を輝かせ,にこっと笑う。

「はい。私も兄上のように立派な人間になりたいです」
「兄上は好きか?」
「はい,大好きです。あまりお会いできませんがいつも私のことを見ていて下さいます」
 とても嬉しそうな笑顔でアデルは話す。そのしっかりとした返事にラミエル帝はふと優しい表情になる。
 ラミエルにとってアデルは本当に実の弟のように可愛いのだろう。大切に大切に育てていることがデーリー帝には分かった。

(本人もやる気になっている以上,ルナ王国の世継ぎはまずアデルになるだろう。とするとファンタジアはどうなる?ファンタジアだけ実子を立てるというわけにもいくまい・・・・・・・とするとやはり世継ぎ候補を探すつもりなのか)

 デーリー帝はふとそう思った。

 その夜,歓迎レセプションが行われた後にラミエル帝はデーリー帝からポラリスの街の住民票を見させてもらい,1枚1枚丁寧にみていた。

「なかなか賢い子のようだね。5歳とは思えぬほどしっかりしている」

 デーリー帝は感心しながら言った。

「はい。私もこれほどの子供が見つかるとは思いませんでした。一目見たときからこの子だっと思ったのです。だからためらいもなくルナ王家の養子にし,私の弟として迎えました。彼については何の心配もしていません。一刻も早く,承認式を終わらせて,これから時間をかけてルナ王国に関するいろいろなことを身につけさせたいと思っています」     

 ラミエル帝は手をとめてデーリー帝を見ると静かに言った。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-22 23:56:13 | 「ある国の物語」 第三章
第12節 星見 第1話

「陛下,フォスター帝国よりルシファルが戻りました」
「よし,通せ」
「ははっ」

 夜明けの国アレシア帝国では,カザル帝が使者の帰りを待ちわびていた。

「陛下,ただ今戻りました」
「うむ,御苦労であった。それで・・・フォスターのマリウス第一皇子はどのような人物であった?」
「はっ,今は御年19歳で独身。フォスター帝国モンテオール帝の一人息子とあってそろそろ結婚の話が出ているようでございます。亜麻色の髪と瞳で背の高さは・・・そうですね180㎝ぐらいでしょうか。なかなかのハンサムで凛々しい方でございました」
「ふむ,そうか。それで・・・結婚について何か言っておったか?」
「はい。御本人はまだあまり御結婚について真剣にお考えにはなられていないもようでした。ただ,噂によりますと意中の姫君がいてその姫君に片想いということでございました」

 使者の報告にカザル帝は興味を示した。

「ほう?好きな姫君がいるのか。しかし,片想いとは・・・。フォスターの世継ぎの君のところなら玉の輿だろうに」
「それが・・・その姫君が夢中なのは何とあのファンタジア帝国のラミエル帝ということらしいです」
「なるほどな。月の聖帝が相手ではさすがのマリウス皇子の影も薄くなるな。して,その姫君はどこの姫君じゃ?」
「探ってみましたが・・・詳しいところはどうも・・・」
「そうか。で,交友関係はどうじゃ?ファンタジアのラミエル帝とは親しいのか?」
「はい。一番の仲の良いご友人はレイクント王国の第一王子ハービア王子ですが,ここ最近はそのハービア王子のつてでラミエル様ともかなり深い親交があるようでございます」
「そうか。あの月の君と友達か・・・・。うかつに手は出せんな。縁談ともなると必ず月の君の耳にも入るだろうし・・・・。あの男は油断の出来ぬ人物だし・・」

 顎を撫でながらカザル帝は考え込む。

「はあそれが・・・・ドリーミア国,レインボウ国の企みもどうやら月の聖帝ラミエル・デ・ルーン帝の策略にはまり,陰謀が暴露。アルハ元コル・カロリ国王に至っては再び捕らえられ,コル・カロリ国内の牢獄の中にいらっしゃるとか・・・」
「それみたことか。月の聖帝を子どもだと思って甘く見ると痛い目に遭う。くれぐれもラミエル帝には用心せねばな」

 アレシアの皇帝は玉座に座ったまま相変わらず顎を撫でていた。

「何とか娘のデジーをマリウス皇子の正妃とするわけにはいかないだろうか?北西の国々の中枢機関であるフォスター帝国と縁続きになれば北西の国々への道が開ける。何かあってもフォスターの正妃の故国となればファンタジアの月の聖帝とて厳しくはできまい」
「直接お見合いとして話を持っていくよりは偶然の出会いのようにしてお二人を引き合わせた方がよろしいかと存じます。正式ルートでは断られたらもう次はありません。マリウス皇子の心をとらえることができたらこちらのものでございます。月の聖帝とて疑問は抱かれますまい」
「なるほど・・・・それは面白い考えじゃ。よし考えてみよ」
「ははっ」

 引き下がっていく家臣を見ながらカザル帝は少し溜息をついた。

「なかなかうまくいかないものだな。ほとんど国交をしていないはずのファンタジアなのにラミエル帝は必ずどこかでどこの国ともつながっている。不思議な方だ。これも月の聖帝故か・・・・」


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2008-08-21 19:42:38 | 「ある国の物語」 第三章
第11節 追憶 第5話

― その頃
 フォスター帝国ではレイクント王国のハービア王子がマリウス皇子の所に居座っていた。

「あー,うっとおしい。早く帰れよ。奥方が待ってんだろ?」

 世界皇帝会議が終わり,ようやく静かになったフォスター帝国であったが,カラム宮殿はレイクントの世継ぎの君であるハービア王子を招いて相変わらず賑やかだった。

 フォスター帝国のモンテオール帝もにこにこして迎え入れる。一人っ子のマリウス皇子にとってこの明るい太陽の君は良き友達だった。

「何だよ!前はずっといてくれって泣きついてたくせに」
「何年前の話してんだよ。それより何の用だよ」
「う・・・・ん,別に用っていうほどの用じゃないんだけどさ」
「そんなら帰れよ。目障りな奴め」
「何でそんなに冷たくなるんだよ。いくらアイシスに振られたからって・・・」
「誰に振られただって~?」

 マリウスはムッとして太陽の君を睨み付けた。

「じょ・・・冗談だよ。俺が一番応援してるんだからな。実はさ・・・あのお月様のことで・・・」
「ラミエル帝がどうかしたのか?」
「皇位継承者承認式・・・中止したらしいぜ」
「え?ということは・・・」
「そう・・・世継ぎ問題が振り出しに戻ったって訳だ。今度あいつが会議に来るのが3年後の20歳の時だからケリがついてるかな。新しい世継ぎを立てるか自分が結婚するか・・・」
「へ~え,よくスッパリ諦められたな。今のフィラさんに費やした年月は7年って聞いたよ」
「また,縁談が山のように行くぜ,きっと・・・。アイシスも行ったらどうする?」
「何でそこにアイシスが出てくるんだよ!」

 拳をドンとテーブルにたたきつけて大地の国の皇子はムッとなって言った。

「そう怒るなよ。心配してやってんじゃねえか。お前がいつもトロトロしてるからさあ」
「トロトロなんかしてないよ。それにあの姫の意中の人はお月様だ。かなうはずないじゃないか」
「バ~カ。ラミエルはアイシス姫とは結婚できないよ。ただでさえ二国の国主なんだぜ?一人娘の世継ぎの姫君もらってそこの世継ぎも考えたら3人も世継ぎがいるだろが。アタックが足りないんだよアタックが!」
「そ・・・そうかな」

 ポリポリと頭を掻きながらマリウスは呟くように言った。

「でもラミエルも冷たいよな。何も教えてくれなくてさあ」

 頬杖をつきながらハービアが溜息をつく。

「余計なこと言わないことぐらいとうに分かってることだろ?」

「うん・・・・でも自信なくすよ。あいつにとって友達って何なんだ?きっとこっちが声掛けなきゃ永久的に話が出来ないぜ。絶対あいつから話し掛けてこないもん。俺達ってお月様にとっちゃどうでもいい存在なのかもしれないな」

 ふとハービアのふわふわしたブロンドの髪を見ながらマリウスはくすっと笑った。

「何だよ!」
「どうしたんだ?やけに弱気じゃないか。ああいう奴なんだって始めから知ってたはずだろ?」
「だって知り合ってもう3年になるんだぜ?それなのにあいつったらちっとも心を開いてくれないんだもん」
「お前・・・前言ってたじゃないか。ラミエルは不器用な人間だってさ。人間付き合いにはまだ慣れてないんだよ。外交上の・・・表面だけの付き合いならお得意中の得意というお月様もいざ自分の友達となると苦手になるんだろうね。あれじゃあ恋愛も心配だなあ」
「政略結婚になりそうだね。きっと自分にとって都合のいい国のお姫様なら誰だっていいんだぜ,きっと」
「そうならないことを祈ってるよ。星姫という絶世の美女がいるじゃないか。ちゃんとさあ・・・」
「まあね・・・・フフ・・・面白くなりそうだなあ」
「マリウス!ラミエルの苦悩を面白がるとは何事だ?」
「はは・・・ごめんごめん」

 二人は遅くまでずっと話し込んでいた。

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2008-08-20 18:36:36 | 「ある国の物語」 第三章
第11節 追憶 第4話

(しかし・・・何事にも無関心を装っているラミエル陛下も,実は好奇心の強い少年なのではないか)

 マリオ最上大臣は,ラミエル帝が席を外したために不在となった執務主席を見つめながら思いを巡らす。

(森と湖の国ファンタジア帝国をこよなく愛していながら,心はまだ自分が行ったことのないいろいろな国々や自然に思いを馳せているのではないのだろうか)

 ラミエル帝はかつて
「一度,どこまでも広がる青い海を見てみたい」
と言っていたことがある。
 
(一度陛下を海の見えるファンタジア南部にお連れしてみようか。そうすれば,この固く心を閉ざしている少年帝も,少しは子供らしさを見せてくれるかもしれない。陛下が18歳になられる来年の夏・・・・思い切って南部のリフレインの都にお連れし,浜辺で遊ばせてみよう。あそこなら景色もいいし・・ファンタジアでありながら陛下がまだ一度も御足を踏み入れられた事がない都だから陛下もきっとお喜びになるだろう)

 マリオはいろいろと頭の中で計画を思い浮かべていた。

 暫くしてラミエル帝が戻ってきた。どうやら紅茶は入れたもののカップまでは運ばせてもらえなかったらしい。宮仕の者がワゴンに乗せて皇帝の後からいそいそと付き従ってきて皇帝の机上に置き,続いて大臣達の机上にカップを置く。あたりにはついと良い香りが漂う。

「陛下,とても良い香りがしますね。これは何なのでございましょうか」
「私の特製ブレンドですよ。ハーブを使っているのです」
「ほう・・・」 

 大臣達は珍しそうに見る。ラミエル帝はカップを置かせてもらえなかったので仕方なく席に戻って紅茶を飲む。

「失礼いたしました」

 深々と頭を下げて宮仕が退出したのをみると,その美貌の少年は口を開いた。

「私が紅茶を入れることがそんなに変な事ですか?」

 それを聞いたルーラ最上大臣がティーカップを置いてゆったりとした口調で主君に答えた。

「いいえ,陛下。ただ,身分のやんごとなき方がご自分に仕えている者にお入れするのはあまりよろしくないのでは・・・と。皇族の方々はただお望みをおっしゃって下さり,指示を出して下されば良いのです。そのために私共家臣や宮仕,給仕達がいるのですから」
「でもルーラ,私は人形ではありません。誰かに何かをしてもらわなければ何もできないような人間など人形と同じでしょう?誰かに頼っていかなければ一人では生きていけない人間になど私はなりたくありません。私だってあと服さえ縫えたらある程度一人でやっていけるのです」
「お言葉ですが,陛下。ご身分の高い方はあまりそういうことはなさらないのですよ。本当は陛下のお体をお流しし,お召し替えをすることすら世話役のすることでございます。陛下・・・天下のファンタジア帝国の皇帝ともあろう方が宮仕達がするような事をなさる必要はないのです。どうか私共にお任せを・・・」

 ラミエル帝はそれを聞くと,やはり日頃納得のいかないことをこの際言おうと思った。

「自分でしたい事をするだけなのに・・・・。そんなのなら私の世話をしてくれる者なんていらない」

 マリオ最上大臣は月の君のそんな所が好きである。
 絶大な権力を持っていながら本人は全く偉そうにしない。
 彼はそう思いながら二人のやりとりを見ていた。ルーラ最上大臣はそんな事を言い出した皇帝に顔をまっすぐ向けた。

「陛下,陛下のお気持ちはよく分かります。ですから極力,陛下のご意向に沿い,陛下の身の回りのこともお望みのままに我々はしてきたでございましょう?」
「それは・・・そうだけど・・。でも,私だって料理や洗濯や掃除ぐらいやろうと思えばできます」
「陛下,我々家臣や宮仕達や給仕達にはそれぞれの仕事がございます。仕事があるからこそこうして宮殿で働かせていただいているのです。陛下が何もかもご自分でなさることは,その者達から仕事を奪うことになりはしませんか?ですから我々は彼らが仕事が出来るという範囲内で,陛下が御自分のことをなさるのを了解しているのです。陛下とて,御自分の宮殿だからと言って,本宮,別宮,宿泊宮,地方宮全てを掃除したり,地方大臣達の分まで料理をお作りあそばすことは出来ますまい?陛下は二国の国主です。お国を治めるのが陛下のお仕事ですから余計なことまで気をお遣いにならなくてもいいのですよ。もっと我が儘であってちょうどいいくらいでございます。陛下には御自分の望みは何でもしてもらえるという権利があります。それをお使いにならないともったいないでしょう?」

 ラミエル帝がルーラ最上大臣の言葉をどう受け止めたのかは分からない。黙り込んで紅茶を飲んでいる。
 まさか紅茶の話からこんなに言われるとはさすがの月の君も思っていなかったのだろう。ルーラ最上大臣に言い返す言葉も見あたらず,彼はただ紅茶を飲むしかなかった。
 
 こんな生活は慣れているはずだった。生まれた時から世継ぎの君として大切に育てられ,何もかもしてくれるのが当たり前だと思っていた。しかし,ルナへ逃亡を謀りだしてから自分ですることの楽しさを覚え,気楽さを知った。しかし,それは皇帝では許されないことなのだろうか。

 ラミエル帝はそれ以来,自分一人の時や親しい友人を招いた時しか紅茶を入れなくなった。そしてただ静かに仕事を続け,料理や洗濯や掃除まで自分でしたいなどとは二度と口に出さなかった。

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2008-08-20 01:27:13 | 「ある国の物語」 第三章
第11節 追憶 第3話

 マリオ最上大臣はまだ一度もラミエル帝の笑顔や泣き顔を見たことがない。泣きそうなぐらい悲しい表情をするのに,本当に泣いたことはないのだ。
 ラミエル帝がまだ幼い頃,父帝とはよく言い争っていたので怒ったりムッとなったりした顔は時々見たことはあるが,最近はとんとお目にかかったことがない。

 ファンタジア帝国ではラミエル帝が皇帝になってから宮殿内が激変した。貴族がいなくなり,贅沢な飾りが消え,毎日行われていたパーティーもなくなった。彼は少食であまり食べないし,宝石も全然興味がない。宮殿内は一挙に静かな政治だけの機関となり,誰も気軽に入れる雰囲気ではなくなった。


 ー ガチャッと扉を開け,皇帝は執務室に入って行く。彼は何でも一人でやりたがる。それこそやらせれば料理だって作るし身の回りのことだって決して他人にやらせない。部屋も自分で掃除するし馬の世話も洗濯もしようと思えば出来る。どうも自分のことは自分でする主義らしい。
 ただ,正装や盛装の時はラミエル帝が何と言おうとマリオやルーラが着せることになっている。そして,裁縫だけはその少年帝はボタン付けぐらいしかできないので,用意された皇衣を着るしかなかった。その用意はもちろんマリオの役目である。どんなに強情な少年帝でも,自分が気に入らない服を用意されたらその皇衣しか着ることができず,また逆にお気に入りの服でも捨てられてしまうとどうしようもなかった。

 そんな皇帝と一番仲が良く,また一番対立しているのがドクターアロウとルーラ最上大臣である。やはり年の功か自分よりは遙かにラミエル帝の扱い方がうまい。時には諭し,時には叱られ,時には反論させて実の父親のようにラミエル帝を見守り,育ててきた二人である。


 ラミエル帝は椅子に座ると,また書類に目を通し,書状を書き,計画を立てる。ルーラ最上大臣は側の机で仕事をしている。
 月の君は一度仕事に取りかかると物も言わず,政務をこなす。とても話し掛けられる状態ではなく,その部屋からは音が消える。

 暫くして仕事が一段落つくと,森と湖の若き君主はつと立ち上がった。

「マリオ,ルーラ,クォール,実は今日紅茶のいいのが入ったんだ。入れてくる」

 また,とんでもないことを言い出す。

「陛下,お願いですから私どもにお申し付け下さいませ。そういうことは我々仕える者がいたします」

 ルーラ最上大臣が頼み込んで皇帝を引き留めようとする。

「ルーラ,良い紅茶は良い入れ方をしなければならないんだ。それとも,私の入れた紅茶は飲めないとでも言うのですか?」
「い・・・いえ・・・・滅相もございません」
「ならば行ってきましょう。暫く休憩して下さい」

 ラミエル帝はスッと出て行き,ルーラ最上大臣は頭を抱えて溜息をつく。

「陛下は全く皇帝としての自覚がおありなのでしょうか」
「陛下は人に何かしてもらうというのは大嫌いですからな」
「しかし・・・・身分をわきまえて下さいませんと・・・・。あ~陛下が分からぬ。一体どういうお方なのか」

 ルーラ最上大臣でさえ我が君主のことを分かりかねている。月の聖帝と言われ,誇り高く気品に満ちあふれ,その冷厳さは冷たき戦神という異名までつけさせた。限りなく美しく,スキは一切見せず,いつも本心を隠している月の君。かと思えばとんでもない事を言い出し,強情で,給仕達のするようなことまで平気でやってのける。

(しかし・・・・)

 マリオはふと思う。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-19 12:57:26 | 「ある国の物語」 第三章
第11節 追憶 第2話

 マリオ最上大臣はその頃を思い出す。

 その幼いルナの王子は,いきなり見知らぬ所に連れてこられても,泣きも騒ぎもしなかった。一向にアシュラル帝になつかず,「母上様,母上様」とおぼつかない足取りで広い宮殿内を捜し回っていた姿が痛々しく蘇る。
 アシュラル帝はそれでもこの世でたった一人の我が子が可愛く,やがて側妃も追い出してシフェラザード女王に復縁を迫ったが,あっさりと断られた。
 ラミエル王子は7歳の頃からファンタジアを抜け出してルナへ逃亡するようになり,その度に父帝に折檻されるようになった。体中アザだらけになっても彼は痛いと泣くこともせず,冷ややかな目で父帝を見ていた。その時の冷え切った瞳はマリオですら本当に子供なのかと思わせるほどだった。直接ルナへ行くと目立つと考えたラミエル王子は今度はイシュタール国へ逃げてからルナ入りするようになり,大臣達の頭を悩ませた。それ故に今でもラミエル帝とサリオ帝は仲がいい。

 ラミエル帝はファンタジア帝国に来てから明るく笑ったことも涙を見せて泣いたこともない。いつも悟りきったように冷めていて,冷ややかな目でいつも父君を見ていた。最初は父親にくってかかっていたこともあったが,そのうちそういうこともしなくなり,怒ることもなかった。

 ラミエル帝がファンタジア帝国に引き取られた3歳の頃からずっと守り役を仰せつけられ,世話をしていたマリオは,この何を考えているのか分からないラミエル帝に手を焼き,よくうろたえてオロオロしていたことを覚えている。
 脱走したとなれば捜し回り,先帝に命令されていやがるラミエル帝を部屋に閉じこめたり,ファンタジアの皇族衣に着替えさせたりするのも大変なことだった。特にファンタジア帝国の世継ぎの印であるアームレットやサークレットははめようとするとそれを床に投げ捨てられ,途方にくれたこともあった。幼い頃から強情だったラミエル帝は名前もあくまでラミエル・ラ・ルナと堂々と名乗り,アシュラル帝を「父上」と呼ぶことは決してしなかった。今でも彼は自分の父親を「アシュラル帝」と他人のように呼ぶことがある。

 当時のラミエル皇子がルナに逃亡を図りだして1年後,大事な母シフェラザード女王が亡くなった。そのときのエピソードはとても有名である。

 シフェラザード女王の亡骸を前に,ろくに自分から話をしなかったラミエル皇子が一言,隣にいた父帝に「人殺し!」と言ったのである。
 マリオは一瞬背筋がゾクッとした。あの時のラミエル皇子の重く冷ややかな声,責めるような冷たく鋭い目・・・・・とても8歳の子供とは信じられないような行動だった。そして,その亡き母シフェラザード女王の復讐を受け継ぎ,ラミエル帝はルーン皇家断絶をもくろんでいる。
 あの時,ラミエル皇子はルナの王になるのだと言い張ってルナ国から離れたがらなかった。「絶対ファンタジアには行かない」と柱にしがみついていた小さな手を引き離し,抱きかかえて無理に連れ帰ったのは自分である。それからその少年は3日間何も食べなかった。
 それからというもの,その少年は常に父を憎み,父を負かすために猛烈に勉学に励み,剣の腕を磨き,戦神と言われるぐらいに強くなった。

 彼が10歳の時,その憎んでいたアシュラル帝が崩御。その時すら彼は泣きもせず,怖いぐらい冷ややかな目で父帝を見ていた。そしてそのままわずか10歳で大国ファンタジア帝国の皇帝として即位。この時もあくまでファンタジアの皇帝にはならないと拒否する皇子に,大臣達と神官達はあの手この手で結局『騙す・誤魔化す』という卑怯な手で即位を承諾させることに成功した。
 大臣達はその世継ぎの君に「他の者に皇位を譲られたらどうでしょう」と持ちかけた。当時のラミエル皇子はもちろんその話に興味を持った。

「それは良い考えだ。それならファンタジアもつぶれないし,私も即位しなくてすむ」
「ですが,他の者に譲るには一度ラミエル様がご即位されてから改めてご自分の手でその者に帝冠をお与えになることになります」
「そうなのか?」
「前代未聞のことですので,神官達に尋ねたところそういうことでした」
「確かにそうだな。正統な者が一度受け継いでそれからということだな」

 ラミエルはそれを聞いてから,逆に気持ち悪いほど素直に戴冠式に出席し,帝冠を大司祭から授かった。そして,「次は誰にこの帝冠を授けたらいいのですか」と心待ちにしていた。ところが一向に大臣達は言ってこず,聞いても「その者は今病気で・・」とか「周りの準備がまだ整っておりません」とのらりくらりとかわされるようになり,挙げ句の果てには「その者は病状が急変して亡くなりました」と言う始末。

「どういうことだ・・・」
「その・・・・つまりは・・・陛下の跡を継ぐ者がいなくなったということでございます」
「何だって?」

 ラミエル帝がそう言った時,幼帝即位に目をつけた部族がファンタジアに攻め込んできたため,話はうやむやになった。
 
「私をたかが10歳の子供と思って攻めてきたな」

 ラミエル帝はすぐさま自ら馬を引き,先頭に立って相手を迎え打ち,さんざんやり込めて退散させた。

 そして今のラミエル帝に至っている。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-19 00:21:53 | 「ある国の物語」 第三章
第11節 追憶 第1話

 先帝アシュラル・デ・ルーン帝がルナ王国第一王女で世継ぎの姫君だったシフェラザードに一目惚れし,無理矢理恋人と別れさせてまで手に入れて皇妃に迎えた時・・・・・・あの時のシフェラザード王女の悲しそうな,そして責めるような瞳・・・・。
 マリオ最上大臣は,時々ラミエル帝を見ていてそっくりだな,と思う時がある。
 
 それからも皇妃はアシュラル帝を毛嫌いし,部屋から出てくることは滅多になく,「悲劇の皇妃」とルナ国民に呼ばれていた。アシュラル帝は世紀の美女を手に入れたものの,心まで奪うことが出来ず,余計腹立たしくなって毎夜毎夜いやがる皇妃のもとを訪れては夜を一緒に過ごした。
 そんなアシュラル帝が側妃を迎え出してからはこれ見よがしに側妃と愛を語り合った。

 その頃,体調の変化に気付いたシフェラザード皇妃はアシュラル帝の顔をつぶすような振る舞いをして悪妃ぶりを発揮し,離縁されてルナ王国へ帰ってきた。世継ぎの姫君であるためルナ王国女王として即位し,そして,そこで生まれたのが今,自分の目の前を歩いているラミエル・デ・ルーン帝である。
 アシュラル帝はシフェラザード皇妃と別れた後に大病を患い,それが原因で自分が世継ぎの作れぬ身体となったことに打ちひしがれていた。しかし,世継ぎ問題が浮上し,ルーン皇家断絶が囁かれ始めたその矢先,ルナ王国のシフェラザード女王出産の知らせが密かにもたらされた。
 女王は前の恋人が父親だと言い張り,決して我が子ラミエルを手放そうとはしなかった。しかし,ラミエルの誕生日から逆算すれば,その子の父親は紛れもなくアシュラル帝であった。

(あの時・・・)

 マリオは声もなく呟いた。

 あの時,我が先帝アシュラル帝がもっとじっくり時間をかけてシフェラザード女王と話し合い,本当に自分が彼女を愛していたことを伝えていればこんなことは起こらなかったのかもしれない。

 しかし,あの時のアシュラル帝の頭の中は焦りと不安から我が子ラミエルを自分のもとに引き取りたいという願望しかなかった。ルーン皇家直系を引くのは今やラミエルただ一人である。しかし,ルナ王国の第一王子として生まれたので,このままいけばやがて王子はルナ国王となってしまう。

 アシュラル帝は己の強い願望のために,小さな国の小さな宮殿で幸せに暮らしていた母子の間を無惨にも引き裂いたのである。

 ルナ王国の王宮にいた頃,ラミエル王子は笑顔の可愛いやんちゃな子供で,ルナ王宮の中はいつも明るい笑い声が響いていたという。優しい母君シフェラザード女王のもとで,ラミエルは父親は死んだと聞かされていた。

(もし,あのまま大きくなられていたら今でも明るくはしゃぎまわっていらっしゃったのだろうか)

 マリオはふとそんな事を思ってみたりする。

 一体,その頃の誰がこのやんちゃで走り回っていた王子が,やがて,月の聖帝と呼ばれる妙に冷め切った冷たき戦神になると予想しただろう?

 彼が3歳になった時,シフェラザード女王が病気になった。そのお見舞いに花を摘んでいた小さな王子を,ファンタジアの者がほとんど誘拐のようにしてムーンレイク宮に連れてきたのである。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-18 01:19:13 | 「ある国の物語」 第三章
第10節 新たなる陰謀 第14話

 翌日,大司祭はムーンレイク宮殿を訪れ,ラミエル帝に謁見した。

「ラミエル陛下,そろそろ先帝アシュラル様の法要のご準備をと思いましてな」
「もう,そのような時期になりますか?」
「はい。あと2ヶ月で先帝が崩御されてから7年と7ヶ月。七の年の法要が行われます」

 大司祭の言葉にラミエル帝はふと哀しそうな表情を一瞬見せたが,すぐに元に戻った。

「私は宗教的儀式の事はよく分かりません。大司祭の良きように取りはからってくれますか?」
「私でできる範囲のことは精一杯努めさせていただきましょう」
「私がしなければいけないことは何とか自分でやります。また,詳しいことを教えて下さい」
「おおせの通りに・・・・陛下」

 深々と白い頭を下げ,大司祭は敬意を表した。そして,顔を上げると少し険しい顔つきで口を開いた。

「ところで陛下。陛下は『月の雫』なる宝玉を御存知ですかな?」

 突拍子もない質問にラミエル帝は一瞬不思議そうな顔をした。

「月の雫?それは・・・あのクリスタリアにあるという秘宝のことですか?」
「そうです。月の神殿に守られた秘宝。陛下の運命を表す象徴でございます」
「それがどうかしたのですか?」
「その秘宝欲しさに陛下を狙っている者がいるという情報が密かにこちらに入っております。くれぐれもお気を付け下さいますよう」
「分かりました。ありがとう。これから気をつけることにします」

 ラミエル帝の言葉を聞いて,大司祭はまた深々と頭を下げてひれ伏した後,宮殿を後にした。

「月の雫・・・・か。何でそんなものが欲しいのかな」

 自分で独り言を言うように,また,側にいつも控えているマリオ最上大臣に問いかけるように月の君はつぶやいた。

「欲に目の眩んだ者は多いですからね」

 マリオ最上大臣は謁見の間から執務室に戻ろうと立ち上がった少年帝に答えた。

「マリオ・・・人間はなぜそんな石ころを欲しがるのですか?」
「陛下,宝石はただの石ころではありませんよ。陛下のようなお考えを持っていらっしゃる人間ははっきり言って希少価値でございます。これも日頃,宝石が当たり前のように転がっているこの王宮のせいでしょうか」

 頭を押さえて溜息をつくマリオ。どう付き合ってもラミエル帝の物のとらえ方が分からない。どうやらこの少年帝は宝石を権威の象徴と見ていないらしい。事実,彼は宝石を身につけたがらず,唯一のサークレットやアームレットも半分以上削って中にいろいろと細工をしている。皇衣は決められているので白を基調としたものしか身につけられないが,装飾品はほとんど何も着けていない。

 先帝の時はやれ帯留めだの,肩掛けだの首飾りだの指輪だの,と白い皇衣が見えなくなるぐらい宝石や飾り布を身につけていた。側室や女官もいて宮殿は本当に華やぎ,贅沢三昧の毎日だった。きらびやかな世界だった,あの頃・・。
 食卓にはいつも食べきれぬほどの料理が並び,毎晩のように貴族達が訪れてパーティーで踊り,偉大なる皇帝アシュラル・デ・ルーンのご機嫌を伺いに来ていた。

 皇帝の中の皇帝だったアシュラル・デ・ルーン。

 そして,一人息子のラミエル・デ・ルーン。親子でありながらここまでも違うとは・・・。

 マリオ最上大臣は,ラミエル帝の後をついて行きながらずっと過去の思い出の糸をたぐり寄せていた。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者

2008-08-17 14:07:52 | 「ある国の物語」 第三章
第10節 新たなる陰謀 第13話

 ラミエル帝はその日は執務室の机に向かったまま何か考え込んでいた。

「陛下,何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」

 マリオ最上大臣が声を掛けながら様子を伺う。月の聖帝にはその声が耳に入っていないらしい。何か分厚い本を開いたままペンをもて遊んでいる。
 彼が世継ぎ問題のことを考えているであろうことはみんなもうすうす気づいていた。

 マリオ最上大臣はつと立ち上がると,香りの良い紅茶を入れて皇帝の机の邪魔にならないところに差し出した。

「陛下,どうぞ」

 コトッと音がして品の良いカップが置かれる。

「あ・・・ありがとう」

 ふと現実に引き戻されたようにその少年帝は答えた。

「ルーラ,一週間後にイリュージョン帝国に行きますからデーリー帝に確認をとっておいて下さい」
「はい。承知いたしました」

 ルーラ最上大臣が部屋から退出した後,ラミエル帝は紅茶を一口飲んだ。天気の良い日だ。もうすぐお昼が来る。

「マリオ」
「はい,陛下」
「フィラは・・・どうしていますか?」
「はい,体調がすぐれず,部屋でお休みでございます。ルナへ行かれるのは少し遅れそうですね」
「そうですか。彼には本当に負担ばかり掛けてしまった・・・」
「陛下のせいではございません。ご案じなさいませぬように」
「そういうわけにもいかないでしょう。フィラには今まで随分と苦労をかけてしまいました。アデルの王位継承も延期にしましたし,ファンタジアとルナの両方を彼に手伝ってもらうことになってしまって・・・。今はただフィラにゆっくりと休養してほしいと思っています」
「それで・・・どうなさるおつもりですか?皇位継承は・・・」

 マリオは17歳の少年を見つめた。

「まだ,はっきりとは決めていませんが・・・・・23歳までにはあと数年ありますからぎりぎりまでかけてみようと思います」
「これから探されるのですね」
「そうなりますね」
「それで,もし間に合わなかったら御結婚されるおつもりですか?」
「不本意ですが,私は自分の都合で二国をつぶすことは出来ません。ファンタジアはファンタジアであり続けて欲しいし,ルナはずっとルナであって欲しいのです。いい加減な人間にこの二国の冠を譲るつもりはありません」
「陛下・・・」
「そう・・・決めたのです。そしてたとえ立派な人間でも,継ぎたくない者に無理に継がせたらこの国のためにはならないでしょう。その点,ルナのアデルはすっかりやる気でいますから安心なのですが・・・」
「陛下,私はいつでも陛下の味方です。何でも相談事があればおっしゃって下さい」
「ありがとう・・・マリオ」

 マリオ最上大臣は本当に慈しむような眼差しで少年帝を見る。

「陛下、今さら水くさいですよ。私達は陛下が3つの頃からのお付き合いではありませんか」

 マリオ最上大臣の言葉に月の君は少し嬉しそうに笑った。彼が幼少の頃よりずっと側に仕え,守り役だったマリオとルーラ両大臣はラミエルにとっては年の離れた兄と父親と言った感じだった。


 ラミエル帝がムーンレイク宮殿にいると,国民はとても安心する。しかし,最近は外出も多く,また,誘拐もされたとあって国民はますます国主ラミエル・デ・ルーンをムーンレイク宮にとどまらせようとし,ファンタジアから出したがらなかった。もちろん,そんなことでとめられる皇帝でないことは誰もが知っている。

 フィラ皇帝代理の皇位継承承認式中止が伝えられて以来,神殿にはますます多くの国民がラミエル帝の御成婚を願って祈りに来ていた。神殿の司祭達も皇帝の話題につきない。

「しかし,フィラ様をあんなにすっぱりと諦められるとは・・・。7年の苦労が水の泡となったと言うのに・・・」
「世継ぎ候補のメドも立っていらっしゃらないのでしょう?」

 司祭達は大司祭に次々と語りかける。

「つまりは御結婚も覚悟されたと言うことですね」
「陛下とて国をつぶすほどの勇気は持たれていないでしょう」
「また,運命の輪が廻り始めますね」
「陛下の御真意はまだ分からぬ。国民は祈りが通じたと喜んでいるが・・・」
「それで,大司祭殿,承認式中止の件は各国に知らせているのですか?」
「知らせてはいないが,時間の問題であろうな。ファンタジアに承認式の気配なく静まりかえっているとあれば・・。うすうす他国も感づいておるようじゃ。中には早速縁談を持ってきた国もあるそうじゃよ」
「陛下はどうされるのでしょう」
「さて・・・・今はまだ結論は出されまい」

 大司教は静かに窓から見える空を見上げた。

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「ある国の物語」 第三章 月の名を冠する者 

2008-08-16 21:47:27 | 「ある国の物語」 第三章
第10節 新たなる陰謀 第12話

 森と湖の国ファンタジア帝国も今はすっかり雪景色である。

「今日は陛下が御帰還される日じゃ」
「皇帝陛下がお帰りになられる」


 ファンタジア国内は国民達はもちろんのこと,本宮ムーンレイク宮殿内はそわそわしていた。
 国主ラミエル帝が帰ってくると言うことは国民にとってとても安心することなのである。

「今日は陛下御帰還の日じゃ。そそうのないようにな」
「ははっ」

 宮殿内に残っている大臣達は緊張した面持ちで君主を出迎える準備をし,待っていた。若干17歳の少年帝でありながらラミエル・デ・ルーンの威厳はたいしたものである。

 やがてファンタジア帝国に戻ったラミエル帝は本宮殿の自室で少し休み,フィラを呼んだ。
 フィラ皇帝代理はもう言われることが分かっているので表情を硬くしたままかしこまる。

「お呼びでございますか,陛下」
「フィラ・・私が留守の間,世話になりました。本当にあなたがいてくれて助かります。ところで・・・私に何か言うことはありませんか?」

 フィラ皇帝代理は動揺したが,ばくばくする心臓を必死で収め,口を開いた。

「はい・・あの・・・皇位継承承認式の件でございますが・・・・・誠に恐れながら辞退させていただきたいと思っております。私では陛下の跡を継ぐことはできません。私の一族もそうでございます。例え私が予定通り妻を迎え,子供が出来たとしても,ルーン皇家の跡を継ぐことはできません」
「つまりは,皇位継承権を放棄するということですね」

 ラミエルはゆっくりと静かにフィラに語りかける。

「陛下には・・・・陛下には何と申し上げて良いのか・・・。今までの限りない陛下のご恩をお返ししたいのはやまやまなのです。でも・・どうぞご理解下さい,陛下。私は陛下の代わりであっても陛下にはなれないのでございます」

 フィラは頭を床につけたまま,前に静かに座っている皇帝に申し上げた。
 ラミエル帝は少しの間黙っていたが,一切フィラを責めることはしなかった。

「いいのです,フィラ。私の自分勝手な考えのせいで大事なあなたをここまで追い詰めてしまいました。あなたを苦しめることになってしまって申し訳なく思っています」
「陛下・・・・」
「今までの激務で疲れたでしょう。もう,下がっていいですよ,フィラ。ゆっくりと休養をとって下さい」
「申し訳ありません,陛下。本当に申し訳ありません。どうか・・・どうかご理解とお許しを・・・・」

 フィラ皇帝代理は,世話になったラミエル帝の期待に応えることが出来ず,涙ながらにそう言うと,他の大臣達に抱えられるようにして部屋を退出した。

 ラミエル帝は少し溜息をつくと窓の外を見た。闇が世界を覆い,静寂な時が流れている。

「これで・・・私に残された道は二つに一つ。新しい世継ぎ候補を探すか,私が妃を迎えるか・・・・。どうやって探す?これから・・・・この国を継げるであろう子供を。アデルを探すのでさえ4年かかった。もし同じだけかかったとしたら今からすぐ探してぎりぎりだ・・・・」

 月の君は一人静かに思いを巡らせた。

 翌日,フィラ・ライズ・マルキアの皇位継承承認式がとりやめになったことが皇帝より通達された。

「延期ではなく,とりやめになった・・・・ということは」
「陛下はフィラ皇帝代理様に皇位を譲るのを断念されたということじゃ」
「7年かけて皇帝にと仕込んだフィラ様をよくすっぱりと諦められましたね」
「しかし・・・陛下にとってこれは一大決心ですよ。今,めぼしい世継ぎ候補はいないのでしょう?」
「これから探すとなると大変であろうな」
「とすると・・・・ひょっとして御結婚と言うことも・・・」
「あり得るであろうな。陛下とていい加減な人間にこの大国を継がせるわけにはいくまい」

 大臣達は突然の承認式中止の報にひそひそと噂し合った。

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