テルサのFantastic Stories

今まで書きためていたとりとめもない物語を少しずつ連載していきます。ファンタジー物が多いです。ぜひ読んでみて下さい。

「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-10 00:54:00 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第12話

「そう言えば,お前がサークレットもアームレットもしていない姿なんて初めて見たよ」
「それはお互い様ですよ」

 マリウスの言葉にラミエルは少し笑ってさらっと応える。滅多に笑顔を見せないラミエルの貴重な瞬間である。
 ハービアも早速ラミエルに迫る。

「何も着ていないラミエルも初めてだよな。ラミエル,男と男の裸の付き合いをしないか?俺はマジだぜ」

 そう言いながら迫るハービア王子にラミエルはちょっと足を出してハービアをこかした。太陽の君はもろに浴槽の中でこけて全身がお湯の中に沈む。

「ぷはぁ・・・な・・・ラミエル,てめえ2度も俺を馬鹿にしたな」
「いつまでも懲りないことをするからですよ」
「ははは,月の君にかかっちゃ太陽もおしまいだな」
「何だと~」

 3人の入浴中のはしゃぎ合いは続く。
 夕食もご馳走になり,キラに通された部屋の広いベッドで3人は眠った。

「何か今までのことが夢のようだな。いろんな事がありすぎて・・」
「うん,でもさすがはラミエルだな。つくづく感心するよ。で,ラミエルは?」
「しっ,眠ってるよ。疲れたんだろう。俺達ラミエルにおんぶに抱っこだったもんな」
「ハービア,寝顔見せろよ」

 マリウスは一番左端で眠っているラミエルを覗き込んだ。

「可愛いなあ。寝顔見るとやっぱりガキなんだって思うね。ずっと見てても飽きない綺麗な顔だ。しかし,お前も信用されてないな。そんだけ離されて眠られてるんじゃあ」
「バカ言え,マリウス。ラミエルは恥ずかしがっているだけだ。フッフッフッしかし今のラミエルは俺の物。もう俺からは逃げられないぜ。寝たふりをしてさりげなくラミエルを抱きしめる」

 ハービアはそっとラミエルを抱きしめた。ラミエルは熟睡中なのか気付く気配はない。

「あっ,いいなあ,お前」
「へへん。いいだろう。月の君は太陽の腕の中で安らかに眠るんだ。お休み」
「きったねえ」

 マリウスの言葉を気にもとめず,ハービアは腕の中で眠っているラミエルをずっと見ていた。本当にいつまでも見ていたい気がする。ハービアは幸せな気持ちで眠りについた。

 翌早朝,ハービアは目が覚めた。ラミエルはもう起きていていなかった。マリウスはまだ夢の中のようだ。
 3人は朝食をとり,パトリック元国王とキラ元第一王子に別れを告げた。

「キラ,ありがとう。本当にいろいろとお世話になりました」
「ラミエル帝,お元気で。またいらして下さい」

 ラミエル帝は丁寧に挨拶をして砂漠の国コル・カロリ王国を後にした。
 元老院からの使者が彼らの元を訪れたのはその後だった。アルハ大王は王位を奪われて逮捕。パトリックが再び王位に就き,キラは第一王子となった。国中は沸き返っている。

「しかし,大老様。なぜ,このような事に・・・」

 パトリック国王に問われ,大老は髭をなでながら静かに口を開いた。

「ファンタジアのラミエル帝がじきじきに来られ,そなたの王位復権を乞いに来られたのじゃ。アルハ大王の数々の悪業の証拠とともに」
「ラ・・ラミエル帝が・・。そ・・・そのような事まで・・・。私達にはそのような事は一言も・・・」
「月の皇子はそういうお方じゃ。故に聖帝と言われておる」
「有り難い。ラミエル帝・・・・」

 コル・カロリ王国ではラミエル帝を救世主とし,真の英雄として称えてやまなかった。

 3人はベテルギウス帝国に寄り,一足早く帰国していたメシエ皇子の無事帰還をアルファルド帝とともに祝福した。

「ラミエル殿,本当に・・・本当に有り難う。そなたならやってくれると信じていたよ」
「仲間がいてくれたからですよ。私一人ではどうにもできないことでした。お役に立てて光栄です」
「ラミエル殿,もう少しゆっくりされても・・・」
「ご好意は大変有り難いのですが,私も二国の主。いつまでも自国を留守にしておくわけにはまいりませんので失礼させていただきます」
「そうであったの。気を付けて行かれよ,ラミエル殿,そしてハービア王子,マリウス皇子も」
「アルファルド帝,メシエ皇子,お元気で」
「ありがとう。本当にあなた方は私の命の恩人です。何か困ったことがありましたらなんなりとお申し付け下さい」

 アルファルド帝とメシエ皇子の見送りを受けて,3人はそれぞれ自国へと戻った。この話はいつのまにか各国へ広まっており,ラミエル帝の噂で持ちきりだった。

「さすがは月の君」
「しかし・・・一国の国王をこうもたやすく追い出すとは・・」
「我々もうかうかしておられませんぞ」
「本当に怖いお方だ。どこまで情報を把握しておられる事やら・・・」
「噂では月の君が聖帝ではないかということだが・・」
「冗談でも運命の輪を廻す者ではないでしょうな」
「それでは下手をすると国を追われるどころか世界が潰されてしまいますぞ」
「恐ろしや,恐ろしや」

 ほとんどの王達はほとほとこの若き皇帝に感心していた。王女達もますますその話を聞いて恋いこがれるようになった。しかし,一部の占いに通じている王達は古くとてつもなく恐ろしい伝説が現実となるのではと一抹の不安を抱えていた。
 ラミエルはそのような動きには一切関知せず,ファンタジアとルナの統治に専念し,自国から一歩も出ようとはしなかった。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-09 00:15:32 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第11話

「ここから地下水路を抜けて泳いでいきます。少し長いですが,自然の洞窟を使っていますからいくつも息継ぎができる中継点があるのです。できるだけ大きく息を吸って・・・いいですね。行きますよ」

 ラミエルが行こうとすると,マリウス皇子が彼にひしっとしがみついた。

「そ・・・そんなに簡単に言わないでくれよ。お・・俺泳げないんだ。水泳なんて大の苦手で・・・・俺,出来ないよ」
「分かりました。では,息だけはとめて下さい。ハービア,私のあとをついてきて下さい」

 ラミエルはそのままマリウス皇子を抱きかかえると水中に潜った。

「よしきた」

 ハービア王子もラミエルの後を追って潜った。追っ手がようやくドアを破って入り込んだ時,中はもぬけの空だった。

「くそっ,どこへ行った?」

 兵士達はあちこちを捜す。しかし3人の姿はどこにもなかった。

「どこにもいません」
「ま・・・まさかこの井戸から・・」
「井戸?あれだけの距離を泳いで逃げたというのか?」
「それ以外には考えられません」
「まさか・・・バカめ。みんな溺れ死ぬのが目に見えておるわ」

 アルハ大王が笑った時,背後から「いや,彼らならできるのじゃ。月の皇子を甘く見てはならぬ」と声がした。

「ばば」
「それより御自分の身を案じなされませ。明日,不吉な影が見えまする。ここを離れるお支度を」
「なぜじゃ」
「元老院の者が来られるからじゃ。パトリック元国王を陥れた証拠を持って」
「そんな馬鹿な・・・。ま・・・まさかあれが手に渡ったと?それも月の皇子がしたというのか」
「さ・・・早く」
「な・・・何という奴だ。あのラミエルという皇帝は・・・。あんな奴が実在するとは・・・。しかもまだ16のガキのくせに」

 アルハ大王は悔しさで握り拳を震わせていたが,仕方なくばばの言うことに従った。


 ようやく3人が出口に辿り着いた時,マリウスは気を失っていた。ラミエルはマリウス皇子を抱き上げると湖から岸に上がった。ハービア王子も大きく息をつく。

「で・・・ラミエル,これからどうするんだ?」

 びしょぬれの姿でハービア王子は少年帝に尋ねた。

「メシエ皇子を助けに行く途中,私は元ここの王子のキラに会いました。彼の館に辿り着けたら大丈夫ですよ」
「キラ?へえ・・・今のアル大王って奴は元々の王様じゃないんだ」
「行きましょう。マリウスの体温が下がってきています」
「つくづくお前ってタフだぜ」

 ラミエルはマリウス皇子を背負うと,歩き出した。
 
 パトリック元国王の館に辿り着いた時,もう真夜中を過ぎていた。

「ラミエル帝,よくぞご無事で・・・。さあ,どうぞ」

 キラは全部用意をして待ってくれていた。マリウス皇子もようやく気付き,3人は入浴をした。

「あ~極楽だあ」

 ハービアははしゃいで広い浴槽の中でバシャバシャやっている。ラミエルは隅の方でつかって何か考え事をしていた。

「おい,ラミエル。何をボーッと考えているんだ?のぼせるよ」

 マリウス皇子が声を掛ける。

「ええ,ちょっと」

 ラミエルは少し笑って誤魔化す。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-08 13:04:42 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第10話

本宮殿に戻ったラミエルは計画通り城の者を一人気絶させて上衣を奪い,そのまま宮殿内に潜り込んだ。見取り図で調べたとおりに二人が捕らわれていそうな牢部屋へ進む。パトリック元国王が隠れ通路を教えてくれていたので多くの見張り兵を相手にせずにすみ,ラミエルは急いで目的地へ向かう。

「おい,こらっ,そこの者,どこへ行く」

 兵士の一人が呼び止めた。ラミエルはすぐに立ち止まる。

「お前・・・新入りか?ここはお前のような新入りが来るところではない。大事な人質を捕らえてあるんだ。あっちへ行きな」

 兵士がそう言った直後,ラミエルは剣の鞘でその男を一突きにした。

「うっ・・・・お・・・前・・・何者・・」

 男の身体が大理石の床に倒れる。ラミエルはそのままさらに食事を運ぶ者にすり替わって地下牢へと降りていった。

 ギーッとドアが開く。

「おい,食事だよ」

 牢番の兵士が言った途端,ドスッという人を殴る音と床に倒れる音。そして,二人の前に黒い人影が見えた。

「ハービア,マリウス。無事でしたか?さあ,早く」

 その声は紛れもなく無愛想で素っ気ない親友の声だった。

「わお,ラミエル。遅かったじゃねえか」

 ハービアは喜んでマリウスを引っ張り起こし,戸口に行って3人の再会を喜んだ。

「いいですか,ここを真っ直ぐに奥に行くとさらに地下に行く階段があります。そちらへ行って下さい」
「行って下さいって・・・ラミエル,お前は?」
「追っ手が来たようです。少し相手をしてから行きますから早く行って下さい」
「いいのか,お前一人で」
「あなたといるよりはましでしょう」
「何だと~!!お前,よくもそんな・・・」
「マリウス皇子をお願いしますよ」

 ラミエルはハービアを奥へ押しやると今度は剣を抜き,ハービア達が逃げていった方向とは反対に向き直った。
 月の君はそこで初めてアルハ大王と出会った。ラミエルはこの上もなく冷たく美しい顔で大王を見た。駆けつけた兵士達はその類まれな美貌に思わず絶句し,動きを止める。

「そなたか・・・月の皇子と言う者は」
「私の大事な友達が随分世話になりました。アルハ王,残念ですがあなたの政権も今日限り・・・。今までの暴君ぶりを反省されることです」
「何だと?ガキの分際でわしに指図する気か?フン,そなたを捕まえてそなたの国を乗っ取ってやるぞ,ファンタジアの皇帝ラミエル・デ・ルーン。そなたが聖帝かどうかわしが確かめてやるわ」
 
 アルハ大王は剣を抜くとラミエルに斬りかかった。カンカンカンと激しく剣のぶつかり合う音がする。アルハ大王とて剣の名手として知られる人物である。そう簡単にはやられなかった。しかし,相手は何と言っても戦神と言われ,剣にかけては右に出る者はいないと言われるラミエル帝である。そのうち,アルハ王の剣が振り払われてガシャッと音を立てて床に落ち,彼の喉元にラミエルの剣先がピタッとつけられた。
「き・・・貴様」
「私もだてに皇帝をしてきたわけではありません。自分の身ぐらいは自分で守れるのですよ。さようなら,アルハ大王。今のうちに元老院に対しての釈明を考えておかれるといいですよ」

 ラミエルは剣をおさめると通路を抜け,地下水路へつながるドアを開けて入ると閉めて鍵をかけた。

「開けろ!!貴様・・・どういうことだ。何をやった?」

 ドンドンドンと言う戸をたたく音を背中に聞きながら月の君は二人と合流して地下水を汲み上げる井戸に出た。

「ラミエル,こんな所へ来てどうやって逃げるんだ?おい」
「ま・・・まさかこの井戸にドボーンなんてことは・・」
「そう,そのまさかです。行きますよ」
「行きますよっておい,ラミエル,ラミエール!!」

 月の君はためらいもせず,そのまま井戸へ飛び込んだ。

「ど・・・どうする?」
「どうするったってマリウス,行かなきゃ一生ここに閉じこめられたまんまだぜ」
「あ~ん,怖いよ~」
「頑張れ~,フォスターの世継ぎ,それ行け~」

 ハービアはマリウスを井戸の中へ突き落とし,自分も中へ飛び込んだ。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-07 02:41:35 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第9話

 本宮殿内で,ハービア王子とマリウス皇子の周りの警備が固められている頃,同じ宮殿の全く違うところに一人の少年の姿があった。
 その少年はパトリック元国王から侵入しやすい所を教えて貰い,二人の王子達に騎士達が気をとられている間に王宮に入り込んでいた。
 
 彼は本宮殿を見上げると,意を決したかのように短剣をギュッと握りしめた。そしてその先についている紐をすっと伸ばすと2階のテラスの手すりにひっかけ,よじ登った。辺りを見回して中に入り,パトリック元国王復権の為の証拠を探す。

「確か,ここが元国王の部屋のはず・・・とするとここに陰謀の証拠がある」

 ラミエルは手早く部屋の中をあちこちさがし,不正を示す証文を見つけ出した。

「あった。偽証書と密約の証文」

 月の君はそれをアームレットの中にしっかり挟み込んで隠すと

「ハービア,マリウス。今少し待っていてくれ。真のコル・カロリの王を立てなければ・・・」

 と呟き,厩舎にいた馬を一頭借りて裏口から出て元老院へ向かった。

 暫くすると厳かな雰囲気の建物が見えてきた。入り口の前で馬を降り,ドアをノックして待つ。

「どなたじゃな」

 暫く待っていると白く長い髭をたくわえた老人がゆっくりとドアを開けた。月の君の顔を見てはっとする。

「そ・・・そなたは」
「火急の用事で参上しました。話を聞いて下さいますか?私はベテルギウスの使いの者です」

 ラミエルはやはり少し悲しそうな美しい顔を老人に向けて訴えた。

「お入りなされ。そなたを待っていたのじゃ」

 老人はそう言うとラミエルを奥の大部屋へ通した。そこには元老院のメンバーと思われる老人達が座っていた。みんなラミエルを見ると頭を下げる。一番奥に座っていた大老が席を勧め,月の君は促されるままそこに座った。

「元老院,院長のエルバじゃ。よう来られた。そなたがおいでになられることは分かっておったのじゃ。救世主たる月の皇子よ」
「救世主?私はそのような者ではありません。ただ,この書類を審議していただき,パトリック王の復権をお願いしに来ただけなのです」

 ラミエルはそう言うと,アームレットから証拠書類を取り出し,院長に渡した。

「おお,ありがとう。そなたはコル・カロリに再び平和の訪れを約束して下さった方。これさえあれば,アルハ大王追放も考えられる」
「では,お願いできますか?」
「もちろんじゃ。月の皇子の依頼を疎かにするとバチが当たります。そなたは恐らく聖帝のお一人でありましょう。その方に生きているうちにお目にかかれるとはこの上もなく光栄なことですよ,ファンタジア帝国のラミエル陛下」
「ありがとうございます。でも,なぜ私の名を・・・」
「占いに通じている者ならそなたのことは誰もが知っておる。運命の輪を廻し,どの占い師をも,その水晶玉でそなたを占うことはできぬ。そなたは,いつも闇夜を照らす美しい月の姿で現れると言われておってな。故に占師達は皆,そなたのことを月の皇子と呼ぶ」
「私はそんなに知られるほど大した人間ではないのです。ですから,どうかそのようなことはおっしゃらないで下さい。では,お願いします。私はこれから大切な友人を助けに王宮へ引き返さねばなりません」

 ラミエル帝は静かに立ち上がると丁寧に一礼して出て行った。

「お気を付けて,森と湖の国の主よ」
「ありがとうございます。では,失礼します」

 月の君は馬に乗ると王宮へすぐに引き返した。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-06 02:00:16 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第8話

-その頃

 本宮殿の離れにある牢の中に二人の青年の姿があった。

「おい,俺達これからどうなると思う?」
「さあな,一生こん中とか・・・」
「ええ?いやだよ~。俺3ヶ月後は結婚式なんだぜ」
「心配するなって。ラミエルが助けに来てくれるよ」
「ますます困るじゃないか。あいつら,ラミエルを捕まえてファンタジアとルナを脅迫するつもりだぜ。のこのこと顔を出したら向こうの思うつぼじゃないか」
「まあ・・・月の君はどこの国でも喉から手が出るほど欲しがっているからな。月の君自体がターゲットになっているなんて,やっぱりあいつはたいしたもんだ。でもね,ハービア,考えてみろよ。あ・の・月の君が考えられるあらゆる想定場面での対策も持たずに行動を起こすと思うか?」
「そう言われてみればそうだな。お前となら絶望的だが,何たって天下のラミエルがついている。やあ,何か見通しが明るくなってきたよ」
「俺達が急に捕まったって事はラミエルがメシエ皇子救出に成功したって事だ。後は月の君を信じるしかない」
「そうだね」

 二人の青年はぼそぼそと話をしながら牢部屋の隅に座り込んでいた

「どうだ?人質の様子は・・・」
「はい。別に異常は・・・。おとなしく二人座っています」
「楽しみじゃのう,ばば。そのそなたの言う月の皇子がどうやって彼らを助けに来るのか。噂に聞くところによると,各国が争って欲しがるほどの人物とか・・。聖帝とまで噂されている皇帝に会えるとは光栄な事じゃ。はっ はっ はっ」

 アルハ大王の豪快な笑いにその占師の老女はあきれ顔で首を横に振った。

「何をのんきなことを・・・・アルハ大王。月の皇子はあなた様を打ち崩す力のあるお方。今すぐあの二人を解き放たねばとんでもないことになりますぞ」
「たかが16やそこらの子供にか?はっはっはっはっ・・・・・それはばばの取り越し苦労じゃ。いくら聖帝と言われる者でもこの私を追い出すことはできん」
「王は月の皇子の恐ろしさを知らぬからじゃ。戦神を敵に回して勝てぬぞえ」
「うるさいぞ,ばば。そんな月など一発で落ち落としてくれるわ」

 アルハ大王は酒を飲みながら豪快に言い切った。

 キラの屋敷では,ラミエルがキラの父であり元コル・カロリ王国国王のパトリック・コン・グレオから本宮殿の詳しい見取り図を教えてもらっていた。

「ありがとうございます,パトリック王。これだけ分かれば私も心強いです」
「ラミエル帝,くれぐれもお気を付けになられよ。アルハ王には占いばばがついておる。そなたが聖帝と呼ばれし者ならば水晶に映らぬと思うが,手の内は読まれているとかかって損はないぞ。アルハ王はなかなかの切れ者じゃ」
「はい。心得ております。今捕らわれている彼らは私の親友にして次代の国王となる者。私の命と引き替えてでも彼らを連れ出さねばなりません。では,キラ・・・メシエ皇子を頼みましたよ」

 ラミエルはそう言うと,剣を持ってキラの家を後にした。

「月の皇子だな,まさしく。まるで異世界から来られた神のようじゃ」

 パトリック元国王は独り言のようにつぶやいた。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-05 03:26:18 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第7話

「お前達,何者だ・・・ウッ」
 
 ラミエルは手際よく一突きで見張りを気絶させていく。

「さあ,行きましょう」

 月の君は剣を持ったまま地下牢に向かって進んだ。キラは思わず「すげえ・・」と呟き,茫然と彼の後ろ姿を見ていた。
 ラミエルは地下牢入り口の扉の前に立つと,アームレットからピンを抜き,鍵穴に突っ込んで鍵を開けた。
 ガチャッ   ギーッ と鈍い軋むような音がする。
 
 二人は地下牢一つ一つを見て回った。

「ここにはいない」

 ラミエルは静かに他の牢を見回していたが,やがて一つの牢部屋を見付けると器用にピンで鍵を開けた。ギギギーッと重く軋む扉を開けると,部屋の奥に一人の青年が座り込んでいた。

「あなたはメシエ皇子ですね」

 ラミエル帝の綺麗に澄んだ声が響く。

「君は・・・」
「アルファルド王の依頼で来ました。さ,早く行きましょう。ここに長居は無用です」

 彼はメシエ皇子を助け出した。

「地下牢からの抜け道ならこっちだ」

 この別宮も知り尽くしている元王子のキラは二人を案内して別宮を抜けた。

「地下水道とは考えましたね,キラ」
「別宮もいつ襲われるか分からないからたくさん抜け道作ってるんだ。地下水道もその一つなんだ。この水路は私と父上しか知らないし,結構便利なんだ。水路は本当に地下に蜘蛛の巣のように張り巡らされているからね。ここが一番安全さ」
「さすがですね。それより,キラ・・・すみませんがメシエ皇子を連れてこのまますぐにベテルギウスに行ってくれますか?」
「ラミエル帝,君は?」
「ハービア達を助けないと・・・。こちらの異常が伝われば彼らの身が危ないですから」
「しかし,君一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。メシエ皇子さえご無事なら。できればラスベスト宮殿の内部を詳しく教えていただけると有り難いのですが」
「いいよ。そうだ,とりあえず私の家に行こう。宮殿のことなら父上がよく知っている」
「ありがとう,助かります,キラ」
「君の勇気に惚れたからさ。ラミエル帝,悪いけど君はもっと冷たくてお高くとまっている奴かと思っていたよ。ごめん」
「一体どんな噂が流れているのですか?」
「聖なる月の皇子は北の国の皇帝で,真冬の星の輝きを瞳に持つ冷たく誇り高い戦神だってね。恐らくは聖帝の一人。剣を持って皇子の右に出る者なし。智と勇気を併せ持つ炎を氷で覆ったような美しい月だと・・・」

 ラミエルはその話を聞いてくすっと笑った。その笑顔にはまだ少年らしい幼さがのぞく。はにかんだような可愛い笑顔だ。

「一体どこからそんな大それた噂が出るんでしょうね。まあ,噂というのは人に伝われば伝わるほど内容が膨らんでいきますからね」

 少し辺りを見回しながらラミエルは少々あきれ顔である。

(本当の事だよ,ラミエル帝。君を見て一目で分かったよ)

 キラはそう思った。

 3人はとりあえず,キラの屋敷に行った。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-04 02:11:28 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第6話

 二人がアルハ大王と緊張の糸をピンとはったやりとりをしている間,ラミエルはコル・カロリ王国の服に着替え,町の中でいろいろと様子を探っていた。そして,メシエ皇子が本宮ではなく別宮にいるらしいことを突き止めた。

(二人に連絡をとらなければ。本宮に長居は危険だ)

 ラミエルがそう思った時,

「お嬢さん」

 と声を掛ける者がいた。ふと振り返ると一人の若者が立っている。

(私を女だと思っているのか?)

 ラミエルはその若者を見た。格好は地味だがどこか品が感じられる男である。年齢は自分より少し上だろうか・・・。

「おおっ,何と美しい娘さん。私はここコル・カロリ王国の第一王子だったキラと申します。誰か人でもお探しですか?」
「私はこちらに来られてから行方不明になられたと聞くベテルギウス帝国のメシエ皇子を探しています」

 ハービアの再来みたいな男だな,と思いながらラミエルは冷たい表情のまま答えた。

「それより・・・・第一王子だったとはどういうことですか?」
「アルハ大王は陰謀を企て,国王であった私の父を王位から引きずり降ろし,王宮から追放したのです。今では父もしがない低級貴族・・・・まあ,そんなことよりお嬢さん,あなたメシエ皇子とどういうご関係で?」
「キラ,私はお嬢さんではありません。これでも一応男なのですが・・・」
「へ?男?」

 キラは目をパチクリとさせて美貌の月の君を見る。

「私はラミエル・デ・ルーンと言う者。アルファルド王と故あってメシエ皇子を探しています」
「これは失礼。でも・・・君・・・騎士ではありませんね。どこの国の王族です?私にだってそれくらいは分かりますよ」

 元王子は先ほどとはうってかわってシリアスな顔つきで言った。ラミエルは暫く黙っていたが,何故かこの男になら話してもいいだろうと思えた。

「私は森と湖の国と呼ばれるファンタジアの者です」

 キラはそれを聞いてはっとなった。

「ファンタジア帝国の・・・ラミエル・デ・ルーン皇帝・・・。噂には聞いている。なるほどね。あなたを見れば納得もいく。あなたほどの方がここに来られるとは余程のこと。私もあなたに協力しましょう」
「いえ,ご心配なく。私達だけで何とかやります」
「ここには道案内がいるでしょう?ラミエル帝,いくら戦神と名高いあなたでも,見知らぬ土地ではいささか不利でしょう。メシエ皇子とか言われていましたね。彼なら別宮に捕らわれているという噂だ」
「ありがとう,キラ王子」
「もう,私は王子でも何でもない。そのままキラと呼んでくれ。それで・・・仲間は?」
「レイクント王国のハービア王子とフォスター帝国のマリウス皇子が今,ベテルギウスの使いの騎士としてアルハ王の所へ行っています」
「そうか・・・なるほど。それは好都合だ。今のうちに別宮へ行きましょう。メシエ皇子を助けられるのは今しかない」

 ラミエルはキラとともに別宮に行き,忍び込んだ。

「占いばばの言っていた月の皇子とはあなたのことですね。ラミエル帝,恐らくは聖帝の一人と噂されている・・・」
「私はそんな大した人間ではないんです。それよりメシエ皇子を・・」
「そうだったな」

 二人は様子を伺いながらそっと歩いていく。地下に降りていくと見張りの数が増える。

「見張りの数がやけに多いな。どうやらここらへんにいそうですね。行きますか?ラミエル帝」
「ええ」

 ラミエルは剣を鞘ごととるとまるで魔性のように妖しく,冷たい表情で答えた。キラの背筋がぞくっとなったほどである。そこには今までの月ではなく,戦神としての彼がいた。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-03 00:49:53 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第5話

 さて,ラミエル達は会議後に更に詳しく打ち合わせをし,後日待ち合わせて出発することにした。
 ラミエル帝はファンタジア帝国をルーラ最上大臣とマリオ最上大臣に任せた。ルナ王国はフィラ国王代理がすでに赴任しているので問題はない。

「それでは,暫く留守にしますがよろしくお願いします」
「お気を付けて,陛下。とめても無駄なことは重々承知しておりますが,本当に陛下に何かあったときは世界が混乱するほどの大事に発展すると言うことをお忘れなきように」
「また大袈裟な・・・。分かっています。それでは行ってきます」

 ラミエル帝は供の者も連れず,一人密かにムーンレイク宮殿を出た。途中でハービア王子,マリウス皇子と落ち合い,砂漠の国コル・カロリ王国に向けて出発する。

「しかし,どんな国かも分からないんだろう?」
「大丈夫だって。大体のことはラミエルがちゃあんと調べてくれているよ。そうだろ?」

 ハービア王子は明るくラミエル帝の方を向きながら言う。ラミエル帝は「ええ,まあ・・・」と答えたにとどまった。

 こうして,3人はコル・カロリ王国に着いた。そして,そのまま王宮を探し歩き,服装も怪しまれないようにベテルギウス帝国のものに着替える。

「いいですね。ここからは計画通りに・・。ハービア王子,マリウス皇子,頼みましたよ。くれぐれも,王宮の者にはばれないように・・・・。何かあったらここを押して下さい。そうすれば私のアームレットに反応するようになっていますから・・・」
「了解」
「OK」
「じゃあな,ラミエル。お前も気を付けろよ」

 こうして,3人は計画の実行に移った。
 ラミエルはメシエ皇子救出の準備をし,ハービアとマリウスはベテルギウス帝国の使者となり,アルファルド皇帝直属の騎士としてメシエ皇子のことをもう一度尋ねる役に立つことになった。

 コル・カロリ王国のラスベスト宮殿では一人の騎士がアルハ国王に報告をする。

「アルハ様。ベテルギウス帝国より使者が2名参っておりますが,いかがいたしましょうか」
「懲りない奴らだ。知らぬと追い返せ」

 アルハ王はつまらなさそうに言ったがふと思い立ったように「いや,待て。通せ」と言い換えた。

(もしや,月の皇子とやらが来ているのかも知れぬ)

 もちろんそれは十分ありえる事だった。
 暫くして二人はアルハ大王の前に通された。

「ようこそベテルギウスの騎士よ」
「アルハ大王様へのお目通りがかない,光栄に存じます」

 アルハ王は二人を見た。ベテルギウスの者でないことはすぐ分かる。しかし,どう見ても月の皇子とは思えなかった。2人とも確かにハンサムで身分が高い者の振る舞いをしているが,ばばの言うようなものは感じられなかった。どう見てもただの少年である。戦神とも思えない。

「先日,行方を断たれたメシエ皇子様のことについて,いろいろとお話をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「うむ。アルファルド帝もさぞご心配の事で御座いましょう。何なりと申してみよ」

 二人は初めてアルハ大王に会い,気を引き締めた。もう適地に乗り込んだのだ。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-02 00:21:55 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第4話

「おそらく,メシエは砂漠の国コル・カロリ王国に捕らわれていると思うのだ。そもそもメシエが行方不明になったのはコル・カロリ王国に大使として赴いた後のこと。コル・カロリのアルハ大王はメシエは帰ったと言っているが私はそれは嘘だと思っている。メシエはあそこにいるに違いないのだ。そして,アルハ王はメシエがいないのを口実に我が国の乗っ取りを企んでいるらしい」

 ラミエルはアルファルド帝から大体の事情を把握すると,
「私には協力してくれる大切な仲間がいます。彼らは口がかたいですからご心配には及びません。願わくば,彼らの援助を求めたいのですが・・・」
と言った。

「それはかまわぬ。本当にそなたにお願いをしても良いのか?」
「はい。承知しました」

 ラミエルは凛とした態度で答えるとその場を後にした。

 ラミエルはいったん霧の館に帰ると,翌日の会議後,ハービア王子,マリウス皇子の悪友二人を集めて事情を説明した。

「なるほどね」
「アイシスがお前のことかぎまわっている奴がいるって心配していたけど・・・。それでか」
「協力していただけますか?」
「OK!!月の君の頼みとあっちゃあ断れないぜ」
「俺達,結構こういうことにかけてはプロだもんなあ」
「マリウスの言うとおりだぜ。ラミエル,大船に乗ったつもりでいなよ。俺達こう見えても結構いろいろ潜り込んだことあるんだぜ」
「それは頼もしいですね」

 3人は今までの情報を元に作戦を練る。

「おい,最近あの3人いつも一緒だな」
「何か相談しているみたいだぜ」

 みんなはヒソヒソと噂している。

「と言うことで・・・。では,私はこの続きを考えることにします」
「よし,ラミエルがそれなら俺は王宮内をもう少し詳しく調べてみよう」
「それなら私はアルハ王について聞き込みをするよ」

 こうして3人は役割を分担し,散っていった。

-その頃-
コル・カロリ王国では一人の占師が国王の前に召し出されていた。

「何じゃと?今,何と申したのか?」
「メシエ皇子をここに置いておかれるのは危険と申し上げたので御座います」
「何故に?ベテルギウス国ごときに負けはせぬぞ」
「占いに出ておるのです。いや,水晶に出ていないから分かるのです。闇夜を照らす者達が流星に導かれてここにやって来ると・・・。そして,恐らくその内の一人は聖なる月の皇子・・・」
「月の皇子?何者じゃ,そやつは」
「詳しくは分かりませぬが,森と湖を照らすそれは美しい月なのです。真の帝にて戦神,炎を氷で覆ったような冷たい月がやがて現れ,メシエ皇子を連れ去って行くであろう」
「そんな者がおるのか?何かの間違いではないのか?」
「いいえ,陛下。水晶の玉にその月の姿が出ているのです。恐らくは・・・この世界で一人出るか出ないかと言われる聖帝であるやも知れぬ。冬の星のような瞳の皇帝じゃ」
「それほどの者がここに来ると?」
「はい,必ず。私はこの者が運命の輪を廻す者でないことを祈るばかりでございます」
「なぜじゃ」
「もし,運命の輪を廻す者であれば,この世は滅びるかも知れぬからです」
「滅びる?その者一人の力で?そんなことあるわけないだろう。ばばの取り越し苦労じゃ。気にするな」
「いずれにせよ,メシエ皇子は他の場所に・・・・」
「分かった。ばばの言うことなら間違いあるまい。メシエ皇子は別宮へ移そう」

 そう言いつつアルハ王は気になった。月の皇子・・・一体何者なのか?

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-03-01 02:42:08 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第3話

 ラミエル帝はアルファルド帝の言葉を聞いて澄み切った瞳を彼に向けた。

「では,母君が結婚するはずだった,母君の初恋の人ですね?」
「そうだよ。アシュラル帝のあまりにも強大な権力にルナは負け,私の最愛の婚約者は彼にとられてしまった。それ以来,一切身を引き,どことも断交していたが・・・。先日,ルナ王国ではシフェラザード女王の一人息子が即位したと聞いてな,ぜひお会いしたくてそなたにおいでいただいたのだ。聞けばそなたはファンタジア帝国の皇帝でもあるとか・・・。アシュラル帝の息子である事を思えばそなたは憎い。しかし,シフェラザードの忘れ形見となれば話は別だ。私はシフェラザード女王に一目も会わせてはくれなかった。これも全てアシュラル帝と大臣達の仕業だ」

 月の君は静かに床に目を落とす。

「母君の口から何度かあなたの事をお聞きしたことがあります。アシュラル帝の目を誤魔化すために,私は母とあなたの子供とされ,あなたは死んだと教えられてきました。でも,私の誕生日から逆算され,私は紛れもなくアシュラル帝の息子だと言われました」
「ラミエル帝・・・そなた・・・結婚をしないと宣言しているそうだが,シフェラザードに言われ,約束をしたのではないのか?」

 その言葉に美しい少年帝ははっとアルファルド帝を見た。

「彼女の性格は私がよく知っている。そなたが本当に母思いで父に反抗していた話も聞かせてもらった。私は嬉しかったよ。だから,そなたは母の遺言を守ってルーンの血を絶やすであろうと思っていた。ルナの世継ぎが月の君だと聞いて,月の君を捜させたのだが・・・。そなたは本当に立派な皇帝だね。さすがシフェラザード女王の血を引く息子だ」
「母君は最後まであなたのことを思い続けていました。その方にお会いできて光栄に思います」

 アルファルド帝はとても優しい眼差しで月の君を見ていたが,ふと表情を厳しくする。

「ラミエル殿,実はそなたをお呼びしたのはそれだけではない。そなたは判断力,決断力,実行力ともに兼ね備えた戦士であると聞いた。どうか,私の国を助けてはくれぬか?」
「助ける?一体それはどういうことです?」
「私の国には一人の世継ぎがおる。メシエという亡き兄帝の一人息子なんだが・・・行方不明となってな。占師に尋ねたら月の皇子しかメシエを助けることができぬと言った。私は最初,何を言っているのか分からなかったが,皇帝の中に月の君と噂が高い人物がいると聞いて,その人の事ではないかと思ったのだ」

 ラミエルは,もしかしたら自分の父となっていたかもしれない皇帝を前に,黙って座っていた。その顔は本当に文句のつけようがないほどに美しく,見る者全てを惑わす。

「無理を承知で協力してはくれぬか?もはやそなたしか頼れる者はおらぬ」

 太陽の国の皇帝に言われ,ラミエル帝は静かに頷いた。

「いいでしょう。母君が大切に思われていた方は私にとっても大切な方です。その方の頼みとなれば・・・」
「有り難い」」
「詳しい事情をお聞かせ下さい」

 こうして月の君は,太陽の国ベテルギウス帝国のメシエ第一皇子捜しに足を踏み入れることになった。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-29 01:37:03 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第2話

 結局ラミエル帝とアイシス姫はダンスを踊るでもなく,二人でひそひそと話をして夜会を過ごした。周囲の者にすれば二人が何を話しているのか気になって仕方がないのだがもちろん内容が分かるはずもない。

「今日はありがとう。部屋までお送りしましょう」
「送って下さるの?嬉しいこと」

 アイシス姫は上品に笑うとすっと席を立った。真昼の太陽の姫君と言われるはっきりとした顔立ちの美姫である。彼女にほのかに憧れを持つ王子も多いが,彼女は好みもはっきりしているので自分のタイプではない王子からの誘いはきっぱりと断っていた。

 夜会が終わり,アイシス姫を虹の館まで送ったラミエル帝が霧の館の自室に戻った時,彼は扉に白い紙がはさんであるのを見付けた。

“夜会後,来てもらいたし  迎えをよこす”

 月の君はこれから何が起ころうとしているのか分からなかった。が,その紙をそっと机の引き出しにしまった。

 夜中,ラミエルが仕事をしていると,来客を知らせるチャイムが鳴った。

「はい」

 彼がドアを開けると複数の男達が立っていた。彼らのマントの留め具の紋章は紛れもなくアイシス姫が見せてくれた例の紋章だった。

「私に何か用でしょうか」

 月の君は静かに尋ねた。

「あなた様をお迎えに参りました。ラミエル・デ・ルーン陛下」
「あなた達は何者です?」
「おいで下さればお分かりになると思います。我が陛下がお待ちしております」
「面会でしたら正式なルートを通して欲しいのですが」
「いえ,それはできませぬ。諸事情がございまして・・・。陛下,どうぞこちらへ。ご心配には及びません。我が陛下はあなた様の母君様に縁の者です」
「母君の?」
「はい。ですからどうぞこちらへ・・」

 ラミエルは一瞬どうしようか迷ったが,亡き母シフェラザード女王の縁の者と聞いてはそのまま放っておくこともできなかった。好奇心もあって月の君は男達についていくことにした。何かまだよく分からないが悪い人たちではなさそうだ。

 霧の館を出て,暫く行くと大きな屋敷に着いた。案内されて中に入る。長い廊下を歩いて突き当たりの部屋に入ると,高貴な一人の男が椅子に座っていた。まだ,あまり歳をとっていない感じである。その男はラミエル帝を見ると椅子から立ち上がり,

「よく来て下さった。ラミエル・デ・ルーン帝」

と声を掛けた。
 ラミエルはその男を真っ直ぐに見つめた。思わずはっとするような美しく冷たい顔だ。
 その男はラミエル帝を向かいの椅子に座らせ,自分も座った。

「私はアルファルド・ミザール・レグルス。太陽の国ベテルギウス帝国の皇帝です」
「ベテルギウス?あの・・・南の神秘に閉ざされた昼の光の都としてみんなから恐れられている国・・・・」
「よく御存知じゃ,ラミエル殿。そなたは本当に、シフェラザードによく似ている」
「母であるシフェラザードの縁の方とお聞きしましたが,母とどういう関係ですか?」

 質問をするラミエル帝をアルファルド帝は優しい眼差しで見つめた。

「私は,そなたの父にそなたの母を奪われた男だよ」

 まだ若々しい皇帝は月の君の質問に静かに答えた。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-28 01:18:03 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第1話

 夕方5時きっかりにラミエル帝は盛装でアイシス姫を迎えに行った。王子・王女達の集う虹の館では月の君の出現に大変な騒ぎだ。

「どなたを迎えにいらしたのかしら」
「今晩は出席されるのね」

 みんなひそひそと噂し合っている。彼は周りの様子を気にとめることもなく,アイシスの部屋をノックする。やがてガチャッと音がして扉が開き,美姫が顔を出す。

「ラミエル様,よく来て下さったわ」
「お支度はよろしいか?」
「ええ」

 アイシス姫は部屋の外に出た。「行ってらっしゃいませ」とお付きの者が頭を下げて送り出す。

「今夜の月のお相手はアイシス姫だぞ」
「お二人が並ぶと絶世の美男美女でお似合いだなあ」
「かなわないや」

 更にみんなはひそひそと噂し合う。そこに偶然居合わせたセイラ姫は胸が締め付けられるような気がしていたたまれなかった。自分はここまでラミエル帝のことを思っていたのだということを改めて思い知らされる。これを嫉妬心と言うのだろうか。そんな思いを抱く今の自分をはしたないと思いつつも,星姫はその湧き起こってくる静かで激しい感情をどうすることもできなかった。

 夜会では二人は目立たない隅のテーブルに座っていた。とは言っても何分目立つ二人なのでどこにいても注目の的になっている。しかし,二人はそんなことおかまいなしで話をしていた。
 アイシス姫は辺りを伺いながら慎重に本題を切り出した。

「あのね,ラミエル様。あなたなら分かるかもしれないと思って・・・。これを見て下さる?」

 そう言ってアイシス姫は一枚の小さな紙を取り出して広げた。そこには何かの紋章が書かれている。

「これ・・・どこの国の紋章かお分かりになるかしら?」

 ラミエル帝はしばらくその紙を手にとって見る。

「これは・・・見たことのない紋章ですね。少なくともこの皇帝会議に参加している国々の紋章でないことは確かです」
「そう・・・・やっぱりね」
「これがどうかしたのですか?」
「やたらとね・・・あなたの事を聞き回っている人達がいて・・・。その人達が付けていた紋章なのよ,これ」
「私のことですか?」
「気味悪いでしょう?得体の知れない者がいろいろと根ほり葉ほり・・・。とても気になったので,それで・・・」
「ありがとう。知らせてくれて」
「気を付けて下さいね」
「ところで良かったら私の何を聞いていたのか具体的に教えていただけますか?」

 ラミエルはアイシス姫に紅茶とクッキーをすすめながら尋ねた。

「ここにいる王子や王女達に『月の君』とは何者か,とか月の君の父君と母君は誰かとか,月の君はどんな人物かとか・・・・あと,結婚しているかどうかとか,何歳かとか・・・」
「そうですか。その内容ではその人達は私とは面識のない人達ですね」

 ラミエル帝は暫く紋章を見つめながら考えていた。

「分かりました。私も調べてみましょう」
「それがいいわ。何かに巻き込まれたらそれこそ大事ですわ」

 二人はヒソヒソと話し合っている。星姫は二人の様子に気が気ではない。もちろん他の王女達もそうである。

 一体何の話をしているのか・・。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-27 02:54:08 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第8話

 それから一ヶ月後,ルナ王国カルナール王の急死とそれに伴うラミエル帝の都合で中途半端に終わってしまった世界皇帝会議の再会議が大地の国フォスター帝国で開催された。今回の会議は各国の貿易の調整や条約の締結等重要な議題ばかりなので再開せざるを得なかったのである。
 ラミエル帝もその頃までにはあらかた目途をつけていて,会議には参加していた。それにしても驚異的な仕事の量をすませて来るあたり,やはりラミエルはただ者ではなかった。

 会議二日目の昼,ラミエル帝は虹の館にあるハービア王子の部屋に招待された。月の君もこの太陽の君にだけは気を許していて仲が良かった。

「ラミエル,エルアとの結婚式には是非出席してくれよな」
「はい。必ず」

 ハービア王子は彼のその返事を聞くと嬉しそうな顔で紅茶を出す。

「あ~あ,俺も18かあ。お前はいいな,まだ16だもんな」
「そうですか?私は早く成人したいと思っているのですが」
「なぜなんだ?歳を取るばっかりだぜ?」
「早く一人前になりたいからです」
「なんだ。それならもうお前は一人前じゃないか」
「でも,みんなは私のこと子供扱いしています」
「ラミエル・・・」
「まあ,そんな事はどうでもいいことですね」
「そうだよ。逆になりたくないって言ったって,4年経ったらお前だって必然的に20だもんな。ところでさ・・」

 ハービアは急に話題を変えた。

「今晩の夜会,誰をパートナーにするんだ?前がアイシス姫でその次がセイラ姫だろ・・・・。いいなあ,美女とばっかり。ま,フリーはやめとけよな。王女どもが殺到するからさ」
「ご心配は有り難いですが,私は夜会に出るつもりはありません」
「もったいない事言うなよ。相手なら探してやるぜ?そんなこと言ったらまたお前狙われるじゃないか」
「もう大丈夫ですよ。武術も習いましたし・・・」
「そう言わずに夜会に出ろよ,な」
「考えておきましょう」

 ラミエル帝は相変わらず物静かだ。

「もう,こんな時間に・・。お昼が過ぎてしまいましたね。私はそろそろ失礼します」
「昼食ぐらい一緒にとらないか?ラミエル」
「すみません。昼食の時間に大臣達と会議を開くことになっているのです。またの機会にでも・・・」

 ラミエル帝はそう言うと帰っていった。
 彼がハービア王子の部屋を出ると一斉に注目の的になる。

「月の君だ・・・」
「ラミエル様よ」

 虹の館の王子や王女達はラミエルを見つめる。彼はそんなこと気にもとめずに歩いていてばったりとアイシス姫に会った。

「ラミエル様」
「これはアイシス姫,こんにちは」
「ご機嫌いかが?それより今夜の夜会,私のパートナーになっていただけないかしら。ちょっとあなたのお耳に入れておきたいことがあるのよ」
「いいでしょう。では夕方5時に迎えに行きます」
「お願いね。ちょっとした事件になりそうなのよ」

 アイシス姫はそう言うと「じゃ」と去って行った。ラミエルはその時,姫君の表情にただならぬものを感じていた。
 一体何を姫君は月の君に伝えようとしているのか。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-26 02:54:45 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第7話

 ラミエル・デ・ルーンは月の国ルナ王国での数々の儀式を終え,正式にルナ国王となった。
 彼はやはり国王代理として,ファンタジア帝国での皇帝代理だったフィラを任命し,ルナ国に派遣して統治させることを公表した。そして,二国の国主として務まるよう徹底的に政務を見直し,合理化を図った。

 暫くごたごたが続いていたがようやく落ち着いた一ヶ月後,ラミエルはイリュージョン帝国デーリー帝の訪問を受けていた。

「大変でしたな,ラミエル殿。もう落ち着かれましたかな?」
「はい。皆様には大変ご心配をおかけしましたが,もう大丈夫です」
「しかし・・・」

 デーリー帝は良い香りのする珈琲をゆっくり味わいながら向かい合った美しい少年帝を見る。

「フィラ皇上大臣がルナに行かれるとなるとファンタジアの方はどうされるおつもりか?」
「フィラがいなくなるのはファンタジアにとって大きな痛手ですが,ファンタジアにはマリオ,ルーラを始めベテランのしっかりした大臣達がついていますからさほど心配はしていません。当面,ルーラ最上大臣を皇帝代理にしようと思っています」
「世継ぎはどうされるのじゃ」
「私はまだ16ですから,第二のフィラを育成しても間に合うでしょう。探しますよ,私の目にかなう者を」
「御自分が結婚して世継ぎをもうけようとは思われませんでしたか?」
「ルナ国に関してはさすがに私もそのことは頭の隅をよぎりました。叔母君一族がこのように断絶してしまうとは私も予想していませんでしたから・・・。でも,私の子供が必ずしも王にふさわしい者になるかどうかは本当に疑わしいのです。もし,暴君になったとしても皇族の血を引いているということになれば,むやみに追放したり罰したりできないでしょう。ファンタジアの皇帝でありながらルナに私の子供が行っても何故ファンタジアではないのだと大事になるでしょうし・・・。そうなればうやはり混乱を避けるためにも私が自分で見付けてきた者に国を任せた方がいいと思うのです」
「そなたの子供なら名君になること間違いなしですぞ」
「そうでしょうか。私は二国を託すのにそのような賭けを信じたくはありません」
「もし,見つからなければどうするつもりじゃ」
「さあ・・・・。その時は私も母君を裏切り信念も曲げなければならないかもしれません。私にはさすがに二国をつぶしてまで自分の信念を貫き通す勇気はありませんから」
「そなたが結婚となればまた各国が賑やかになるでしょうな」
「まあ,万が一にもそのようなことはないと思いますが・・・」

 ラミエルは紅茶を飲みながら静かに答える。

「そのことはあなたの姫君にも言えますよ。私の知人の中には姫君を得るためなら何でもする,と言う王子が数知れずいますからね」
「セイラか・・・。姫は何を考えておるのか私にはさあっぱり分からん」

 デーリー帝は溜息をつく。ラミエル帝は品の良いカップをソーサーに戻すと改めて星の国の皇帝に向き直った。

「デーリー殿,今までのいろいろなお心遣いありがとうございます。でも,私は一人で大丈夫ですからどうぞご心配なく」

 彼は隣国の皇帝との間でも一線を画し,親密になろうとはしなかった。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-25 00:02:15 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第6話

 ラミエル帝が部屋に飛び込むと,ルナ王国の大臣達が集まっていた。

「叔父上のご様子は?」
「これはラミエル様。さ,こちらへ・・・」

 大臣達に案内され,月の君はカルナール王の所へ行った。月の国の王は青白い顔をしてベッドに横たわっていた。ルナ王国の典医ルシルが側についている。聞くとかなり容態は悪いと言う。

「叔父上」

 ラミエル帝の呼びかけにカルナール王はゆっくりと目を開け,甥を見た。起き上がろうとするがそれはかなわない。

「ラミエル・・・すまぬな・・・心配をかけてしまって」
「そんなことはどうでも良いのです。それより,お体の方は・・・痛むところは・・・」
「ラミエル・・・もう良いのだ。それより,私の話を聞いてくれぬか?」

 カルナール王はそう言うとラミエルを側に座らせ,彼の両手を握った。

「ラミエル・・もし,今度倒れるようなことがあれば,私の命は危ぶまれる。なあ,ラミエル・・・私はこうして生きているうちにそなたを正式にルナの世継ぎにしたいのだ。今更反論はできまい?もはやルナ家ゆかりの者はそなた一人。そなたの言うように後添えを持つことはもう私には出来ぬ」

 ラミエルは言い返すことができなかった。今,カルナール王がいなくなれば,本当にルナ王国は国主のいない国になってしまう。

「でも,私にはいくら隣国とは言え,複数の王位を兼ねることは出来ません」
「そなたならできるはずじゃ。そなたは真の皇帝なのだから」

 カルナール王は大臣に合図をした。大臣は深く礼をすると姿を消し,やがて金色の小箱を持って現れた。その小箱には金の豪華な彫刻が施された指輪が入っていた。
 王は大臣からその指輪をそっと受け取るとラミエル帝の右手をとり,その薬指にはめてそのまま彼の右手を握りしめた。本当に弱々しい力でラミエルは叔父君の衰弱を実感した。そして,ラミエルはその行為を拒否することはできなかった。

「ラミエル・・・ルナを・・・そなたの大好きな故国を頼むぞ・・・・ラミエル・・・ラ・・・」

 カルナール王はそのまま意識不明となってしまった。

「叔父上,しっかりなさって下さい。叔父上・・・」

 ラミエルは声を掛けてみたがカルナール王はもう反応しなかった。典医ルシルは
「このまま意識がご回復されなければ危ないです」と言った。
 ラミエルはそのままつきっきりで看病していたが,その翌日早朝,月の国の王は静かに息を引き取った。

「ラミエル様,我が国王陛下は体中悪性の腫瘍に冒されておりました。手の施しようのないほどに・・。それでもなお,仕事は休めぬと無理をされて・・・・」
「叔父上・・・何という無茶を・・・」

 ラミエルは哀しく澄んだ瞳をし,まだ温かい叔父君の手を握りしめた。彼の右手の薬指にはルナ王国の世継ぎの印である黄金の指輪が輝いている。しかし,彼は世継ぎになった途端月の国の王となってしまった。

 その日の会議は中断され,カルナール国王の追悼式が行われた。喪主は甥のラミエルで,彼は喪服の黒い衣装を身につけていた。ラミエルが白以外の服を着ているのを見るのはみんな初めてだった。彼の姿はまるで魔性の月のように妖しく見え,背筋がぞくっとなる者もいた。
 ここでルナの世継ぎがラミエル帝であることが正式に発表され,彼はそのままルナ国王として即位することになった。
 ラミエルは追悼式が終わり次第そのまま会議を早退し,ルナ王国とファンタジア帝国とカルナール王の故国ノスタルジア王国の三国関係者はルナ王国でカルナール国王の葬儀とラミエル帝のルナ国王即位式及び戴冠式を執り行うべくフォスター帝国を後にした。他国の君主達も気にはなっていたが重要会議なので中止するわけにもいかず,引き続き会議を進めることになった。
 そうは言っても三国関係者が出発した後は会議場は騒然としていて会議どころではなかった。

「とうとう月の君は月の国の王になってしまったな」
「二国を支配するとなるといくらラミエル帝でも大変だぞ」
「月の君はどうなさるおつもりか・・」

 フォスター帝国はその話題で持ちきりで会議は一向に進まなかった。

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