ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いおやじの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ファースト・カウ

2023年12月27日 | 映画館で見たばっかり篇


『パーフェクト・デイズ』で寝落ちしたあなたは、本作では完落ち間違いないのでよっぽど体調がよろしい時の鑑賞をおすすめする。それぐらい眠気を誘う映画なのだ。基本台詞少な目でヒーリングな劇伴も最小限に押さえられ、かつ、本作に関しては森の中の薄暗いシーンが大変多いため、気がついたら場内が明るくなっていた、なんてことのないように十分な注意が必要な1本だ。

冒頭けたたましいエンジン音をたてながらコロラド川を上っていく一艘の貨物船。本作が『川の研究』(未見)で知られている映画監督ピーター・ハットンに捧げられていることからして、川の“商業物資の運搬”機能に着目した映画であることは何となくわかる。もう一つ、ライカートが三宅唱とのインタビューの中で語っていたのは、“過去と現在”をつなぐ時の流れという意味合も含ませたらしいのである。

犬を連れた女性が掘り起こした、仲良く寝そべったように並んでいる2体の白骨死体。そこから映画は1800年代のアメリカへ時代をいっきにさかのぼるのである。ビーバーの毛皮目当ての狩猟団で👨‍🍳をつとめるクッキーと、同じ目的のロシア人から命を狙われ森に逃げ込んだ中国人キング・ルーの友情物語。その背景にライカートは、スコセッシ監督『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と同じ白人入植者の黒歴史をさりげなく描いているのである。

つまり、英国からもちこんだ血統証つきの🐮からミルクを盗んだクッキーたちと、元々自分達の土地でもない場所でビーバーを大量捕獲して毛皮をフランス貴婦人に売り付ける商人たちを、同列の“こそ泥”として描いているのだ。ビーバーの毛皮だけはいで美味しい?“しっぽ”を廃棄する白人たちに対し、紅茶用にしか使わないミルクから美味しい🍩をこさえて一儲けしたクッキーたちに文句などいえた義理じゃないでしょ、と監督はいいたいのであろう。

前作『ミークス・カットオフ』からの続きで考察するならば、キング・ルーが「まだ歴史が始まっていない」と語るこの森は、おそらく創世記に出てくるエデンのアレゴリー。“イーヴィ”の出すミルクから作り出された🍩は“知恵の実”という位置づけだろう。その知恵の実をおいしそうに食べたアダムたちは、どんな“善悪の知識”を得たのだろうか。ビーバーの毛皮にしても🍩にしても、自然からの恵みに値段をつけるという、ある種神に対する冒涜ともいえる行為をライカートはあまり快く思っていないようなのである。

やがてミルク泥がバレ、権力者たちから追われる羽目になったクッキー&ルーは、🍩や金儲けよりも大切なものに気づくのである。ウィリアム・ブレイクの詩にもうたわれたかけがえのない“友情”こそ、何物にも変えがたいものであることを知るのである。やがて川の流れとともに時が過ぎ去り後世に伝えられたのは、美味しい🍩のレシピやビーバーの毛皮で作った襟巻きなどではなく、2人の友情だけだったのである。

ファースト・カウ
監督 ケリー・ライカート(2023年)
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