ニューヨークを旅すると、必ずMOMA(ニューヨーク近代美術館)でひとときを過ごす。ここには近現代の貴重な作品がたくさんあるが、私の足はジャクソン・ポロック、バーネット・ニューマン、マーク・ロスコ、ジャコメッティなどの作品の前で立ち止まってしまう。とりわけジャコメッティの人物彫刻が好きである。
ジャコメッティは独特な世界を確立した現代彫刻家である。 針金のように細い人間像は一見現代の不安感を漂わせているかのように見える。何と力強い表現であろうか。どの作品もリアリティーをもって見るものに迫る。ジャコメッティはある時、遠ざかる人間の後ろ姿を見ていて、小さくなっても変わらない人間の本質に気がついたのだという。そして、目に映るものを見える儘に表現することを追求しつづけ、削りに削っても残る人間像の世界にたどり着いたのである。
ジャコメッティの影響を受けた現代作家は多い。実存主義作家サルトルもその一人で、人間の本質に迫る世界を高く評価した。その名前と作品は20世紀美術史に燦然と輝き続けるであろう。