藤岡さんは「水」をテーマにずっと作品を描かれている。そんなお話を以前聞いた時、なぜ「水」を選んだのか、いつか伺ってみたいなと思っていました。
チャンス到来。個展を初めて観に行ったのですが、会場にご本人の姿があったのです。他の方とお話をしてらっしゃったので、まずはとにかく鑑賞。どのキャンバスにも、描かれていたのは「水」。といっても、いわゆる透明の水ではない水の姿でした。光の反射、水紋、ゆらぎ、きらめき、水面に映り込む景色など。「水」そのものではあるのですが、風や光や色や季節や肌触りや匂いなど、別の何かを受け止め、受け入れた「水」の姿がそこにはありました。水といえば、蛇口をひねれば棒状に流れ出るものだったり、プールの中に四角く詰め込まれたものだったり、放物線を描きながらしぶきをあげる噴水を想像しがち。けれども思い浮かべてみると、羊水、海水、泥水、清水、雨水……水の佇まいは色々。それは漢字を眺めても分かります。水の流れを表している「三水偏」の文字は1700以上もあるとか。雨を部首に持つものも300以上。あらためて「水」の姿形の限りなさや包容力といったものに思いを馳せずにはいられません。
映画「SAYURI」の冒頭には、こんなモノローグがあります。……私は水の性分だと言われる。水はとめどなく流れ続け、岩に当たっても方向を変えて流れ続けていく……。どんな環境も受け入れて順応していき、さまざまに形を変えながらも確かに存在している、という主人公の運命や生き方を水にたとえています。水の描写も随所に行き届いていた映画だったような気がします。
作品をひと通り見終えた時、藤岡さんは他の方とはもうお話をしていませんでした。でも、なぜ「水」がテーマなのでしょうかなどとご本人に尋ねるのは野暮というものだなー、と感じたのでした。ところで、藤岡さんのお名前「れい」の漢字も、偏は「ニ水」でなくて「三水」。水がたおやかに流れています。(山本理絵)
(ぎゃらりぃサムホール 東京都中央区銀座7-10-11 日本アニメーションビル2階)