出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

社名の認知

2006年12月20日 | 宣伝
この春にある団体に参加したんだが、うちと前後して会員になった出版社があった。新人が自己紹介をしたことがあって、「おっ、同じく新興出版社か」と思ってなんとなく記憶に残っていた。記憶に残っていると、いろんなことが目に付く。別に動静を追いかけてるわけじゃないんだが、結構新聞広告を出していることは知っていた。ちなみにその団体では新人だが、うちみたいなみそっかす出版社ではない。

昨日はその団体の忘年会で、ちょうどその出版社の社長と席が近くなった。新聞広告だけでなくて書店でイベントもするそうで、席が近かった別の人とその話をしていた。

で、この際だからといろいろ質問をした結果、新聞広告の値段(まあ、これは以前から知っている)と、書店でのイベントの採算なんかを教えてくれた。

値段を聞いてやたら「ヒエ~」と驚いていたら(酒も入っているので大げさな反応になる)、真顔でこう言われた。「広告は、本の売上で元をとろうとは思っちゃいかん。あくまでも、自社の存在の告知であると認識せよ」

この理屈というか考え方自体は、前から知っていた。が、「資金があるところは違うなぁ」なんて、まるっきし他人事だった。

昨日、すごい真顔で「元とりという感覚でいるのは、全然ダメ」みたいに言われたので、ちょっと考えてみた。「うちという出版社を、より多くの人に知ってもらう」ということに、そんなに大きな意義があるんだろうか。

よく聞くのは、新刊委託の前のFAX営業なんかで、「おっ、この出版社の本はいつもXXXX(面白いとか売れるとか通好みとか?)だから入れてみようか」などと書店さんが考えてくれるということ。で、聞いたこともない版元だと、「まあ、他にもほしい本はあるし、やめとこう」となるという理屈。

で、うちの場合、やめとこうと思われてどのくらい損してるかというと、どう考えても「あまり損はしていない」。そりゃ、日本全国のほとんどの書店でドーッと平積みしてくれたら売上も違うだろうが、そういうことはありえない。うちだから平積みしてもらえないということじゃなくて、大手中小みんなが棚取り合戦をしてる中、全国の書店がうちの本だけで埋まるなんてことはまずないと思う。

全国の書店を回れない以上、たかがFAX営業で書店に「聞いたことない」版元だと思われても、並ぶ数自体にあまり違いは出ないのではなかろうか。

逆に、今までどおり少量を取次に配本してもらって客注でマメに売っていく場合。聞いたことない版元だから客注を無視するという本屋さんはいないだろう。取次の取引先名簿には載ってるしISBNだってあるんだから、版元は知らなくても「とりあえず、このお客さんに売れる本」として普通に注文してくれるだろう。

続いて読者の立場から、どこかで本について知って「あ、これ読んでみよう」と思った場合。調べてみたら聞いたことない出版社から出ているといって、「やっぱり買うのやめよう」とは思わないんではなかろうか。本屋さんで注文してみたら、流通してない自費出版とかで店員さんから「(そう簡単に)入らない」と言われない限り、諦めるってことはないと思う。少なくとも読者としての私は諦めない。

大手という意味ではなくて、何か気に入る要素がある贔屓の出版社がある場合、そこの本はとにかく読むってことはあるかもしれない。でも、そんなふうに認知されていないからと言って、めちゃくちゃ売上が減るとも思えない。

となると、存在の告知にどれほどの意義があるのか。

書店員が集まる2チャンネルのスレとかを読んでいると、タイトルや著者名もわからずに尋ねてくるお客さんは多いらしい。タイトルと出版社名がわかれば検索はしやすいと思うが、買う側からしてみたら「どこの版元の本か」なんて、意外と覚えてないだろうと思う。私も、最近はISBNとかも控えて書店に行くけど、ただの読者だった頃は出版社名なんか気にしたことなかった。どちらかというと、著者名のほうが、「わかってないと探せない要件」だと思っていた。

よーく考えてみると、例えばペットボトル入り飲料を買うときも、名前とかラベルのデザインは覚えても、どこから出てるかなんか気にしない。

広告を見て「むむっ、これは試しに飲んでみなければ!」と思ったとして、仮にメーカー名も覚えていたとする。飲んで美味しかったから「よし、このメーカーは常にチェックしよう」とか、不味かったから「このメーカーの商品は(別のものでも)絶対買わない!」と、思うだろうか。

やっぱり、商品そのものに顔があるわけであって、よほど大きい会社でない限り、メーカー名の認知自体が問題になることはないような気がする。

まして本は、出版社のものではあるけど、著者という看板もある。「どこから出てようが、この著者の本は…」と考える人は多いかもしれないが、「誰の本だろうが、この版元の本は…」という読者は少ないと思う。

大手の版元や雑誌はともかく、あまり「ブランド」ということを気にしないでも構わないと思う。「ブランド」より「個別の商品」。となると商品別に売り方があるわけで、出せば儲かる広告なら出したいし、元も取れないような広告は出さない。

昨日、すごい真顔(いや、ホントに怒られてるみたいな)で言われて再考したんだが、やっぱり結論は変わらない。

8 コメント

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同感です (キタミ)
2006-12-20 18:37:47
お久しぶりです。

それぞれの規模や考え方で本の造り方も販売の仕方も変わるとおもいます。

広告はそれこそ一回や二回ではただムダにお金を捨てるようなもので、継続してはじめて効果(?)を発揮するものなのでよほどの大手でない限り、やめた方が良いと僕は思っています。

というよりも僕の方はあまりに特殊なので広告以前ですが。

P.S.
涼しくなってからお伺いするつもりがいつのまにか年末になってしまいました。
機会をみつけて是非遊びに行きますので、その節はよろしくお願いします。
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広告効果 (アリタロ)
2006-12-20 19:11:18
うちは一応、新刊出すと、新聞広告も出してます。
といっても、
サンヤツなんかは夢みたいな話で、
A新聞のサンヤツなんかは夢のまた夢ですけど。
まあ、安いところを厳選して(笑)やってます。
全国紙でも5万円くらいで出せる場合もあります。

でも、結局はタミオさんと同じ意見です。
出せば出したで反響はありますけど、
費用対効果があるかというと、、、
わかりません。
ファクスDMならすぐ数字出ますけどね。

ただ、ファクスDMなんかで注文取れるかどうかは
その内容(セールスレター)の出来如何だとは思います。
無名なら無名を活かす手もありますし。

PS
こっちの言い分飲ませたというより
ただ、ふつうにやってください
って言っただけなんですが、、、
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読者の立場しか知りませんが (pega)
2006-12-20 22:10:57
こんにちは^^ 
 う~~~ん、同じ著者の本ばかり買うことはあっても、コミックを含めても出版社を気にしたことはないです(コミックの発刊予定一覧表を見るときに「ほしい本はどこの出版社だったっけ?」と既刊の本を見に行くほどです)。
 逆に「ここの出版社だから」という理由で本を買うことは皆無です^^;
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はじめまして (記述師)
2006-12-22 00:55:33
はじめてコメントさせていただきます。
版元営業をしている記述師と申します。いつもブログ拝見しております。私は書店営業中心のため、経理に関する記事などとても勉強になります。
トラックバックさせていただきました。なんだかとりとめのない記事になってしまい、トラックバックする必要があったのか・・・という感じですが。
宜しくお願いいたします。
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皆さま、コメントありがとうございます (タミオ)
2006-12-22 10:28:37
キタミさん、こんにちは。こちらこそご無沙汰しております。
>継続してはじめて効果(?)を発揮するものなのでよほどの大手
継続したと言える頃には、投入コストはすごいことになってますよね。
それに見合う効果って一体なんなんだろうと思います。特に出版業の場合・・・

アリタロさん、
決してアリタロさんの会社に文句をつけるわけではないのですが、以前どこかの出版社の人から、「サンヤツより小さいと、もうほとんど意味なし」と聞いたことがあります。なんていうんですか、広告の閾値ですか。その話を聞いて、「それでも出す人がいるから広告費が下がらないんだよな~」と思いました。
FAX営業みたいに工夫できないことと言い、広告主をなめてると思えてきちゃいます。

pegaさん、この出版社だから買うというより、どうしようかと悩んだとき「この出版社なら間違いはなかろう」と買うってのを聞いたことあります。理解はできたけど、「すごい記憶力だぁ」と思ったのを覚えてます(笑) よほど知ってる版元でない限り、社名で判断するのも怪しいと、今では思います。

記述師さん、はじめまして。あの~、このブログは「何も知らないで始めちゃった」アホな私の恥さらし記録なので、勉強になるなどと言われると緊張します(笑) 新聞信仰の方たちって、効果が高かった昔を引きずってるってことでしょうか。。。
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はじめまして (ケン)
2006-12-23 08:39:52
はじめまして。
私は、この10月に出版社を創設しました、ケンともうします。

コメントがずれてしまいますが、お許しください。

会社は10月に登記しました。事務所探しやらその後のあれこれをしているうちに年末になってしまい、本格的な始動は来年ということになってしまいました。
私は出版社に長年勤めていましたが、専門誌の出版社でした。私がこれからやろうとしていることは、これまでとはまったく違う分野でその分野にはコネも何もなく、まさに徒手空拳です。当面はひとりで全業務をやります。毎日、正確に言えば、毎夜、布団に入って、「明日はどうするのだ」と不安で頭がいっぱいになりますが、神経質な割りにのんきな性格でもあるので、その不安になんとか押しつぶされずにいる、という状態です。
貴ブログには、検索で「取次」で探していてたどり着きました。私はといえば、取次ぎで口座を持つのはいったいいつになるやらという状態です。そんな私にとり、貴ブログは大変参考になることが書かれています。

ところで、2005年2月以前の記事は、拝読することができないでしょうか。大変読みたく存じます。

今後とも、よろしくお願い申し上げます。
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新聞広告って (アリタロ)
2006-12-23 19:58:05
タミオさん

新聞広告が効果あるかどうかは、その本のジャンルにもよると思いますね。
実際に効果があるかどうかは、書店員に聞くとわかるかもしれません。

なぜかというと、版元の営業が書店で注文をとるさい、何月何日に○○新聞に広告を打つので、といった「材料」を使ったりする場合があるよくからです。とくにサンヤツでなくてもいいみたいです。
FAX DMにも新聞広告の告知が書かれていたりします。

そういったことを聞いて・見て、書店が発注するのだったら、やはり、広告見て買いに来るお客さんが少なくはないということなのかもしれません。

某店では、その日の主要紙に出た、新聞広告(サンヤツと書評欄の下など)を目立つところに張り出したりしています。

確かに、新聞広告は制約がめちゃ多くて頭に来ることもありますが、自分は、逆に、そういった制約の中で、いかに目立つように、訴求力があるものにするかといったことが最近は楽しくなりつつあります。

他の新聞広告見ても、「この会社は空間の使い方がうまい」とか「こんなレイアウトもあったのか」とか、「文字の変化の付け方が見事」とかいった目で見てます。

でも、だいたいは、ぎゅうぎゅう詰めで、たくさん情報を詰め込んだだけっていうのが多いとは思いますが。

あとは、まあ広告代理店の営業マンと仲よくしておくと、タダ同然で出せたり(今思い出しましたが、それでサンヤツに出したことが一回ありました)、業界のことで裏情報とか教えてくれたりすることもあるんですが。

ケンさん
私も立ち上げ当時はそんな感じでした。
「毎夜、布団に入って、」-- まさにそうです。
たぶん、時間と経験が解決してくれると思います。
私も今では随分図太くなりましたし。
お互い(他のみなさんも)頑張りましょう。
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Unknown (タミオ)
2006-12-25 11:06:12
ケンさん、はじめまして。
>当面はひとりで全業務を
うおっ、仲間ですね! いろいろご存知だと不安になる…ということ、最近ようやくわかってきました。私は最初に委託した本が山のように返ってきて初めて「ギョッ!」としたので、結果オーライみたいなもんです(笑)

それまでに10回ほどメールマガジンで流していたものを、2005年の2月にバックナンバーとして転載してブログを始めました。なので、2月頃の記事は、実際は2002年の頃の出来事です。それ以前は、出版にはまったく関係ありませんでした。それに、当時はこんなもん誰が読むんだろーと思ってました(笑)

アリタロさん、本のジャンルによるのって、すごくそうらしいですね。
どうも、「広告より記事のほうが効果大と聞いていたのに、記事で出てあの程度か」という経験があって、広告に対してますます懐疑的になっているかもしれません。それにほら、広告どころかオビの文句でさえ苦労してるような状態なので、訴求力なんて先の先の課題でもあります(^^; 
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