出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

個性と統一性

2007年11月24日 | 制作業務
多くの方(私にとってすごく多くの方)に読んでいただいているのに、このままでは月に1回の更新になってしまう。なので、新刊データの入稿準備をしている合間にささっと書く。

ミシュラン騒動、今までだったら「へえ~、評判なのか」程度の他人事だったんだが、本屋のバイトのおかげで「実体験」した。本屋は本が売れたら嬉しいのはもちろんだが、妙に面倒くさいのはいかんというのがよくわかった。昔どこかで「ハリーポッターが他の(大手の)出版社から出ていたらどんなによかったか」という書店員のコメントを読んだが、その意味がよーくわかった。

バイトを始めてから、余計な「他とは違うこと」なんか、本当に余計なだけだとわかるようになった。バーコード周りとかオビとか、忙しい本屋では「異質なものに対して一瞬でも考える時間」を取られるのは、ただの迷惑。

それ(異質)で売れるんならしょうがないが、お客さんもそんなに単純じゃないとつくづく思う。どちらかというと、異質が効果を発揮するのは、ミリオンセラーレベルになってからじゃなかろうか。

本屋のバイトで学んだことは多く、今回の新刊ではいろいろ活用させてもらった。とはいえ内容とか装丁などは、「今までは営業嫌いなせいでろくに意見も聞かずに作ってたのが今回はそうでもない」程度の違い。最も大きな違いはスリップかもしれない。POSの書店さんだとあまり関係ないのかもしれないが・・・。

本当は、表紙画像がついているスリップを発見して「うちも次は!」と思ってたんだが、数ヶ月前の日販速報に「特許とりました!」というどこかの出版社の広告が載っていて諦めた。そりゃ、いいアイデアだけど、そんなに他人に真似されるのが嫌だったのか(後続のひがみ)。

とにかく、少しは進歩したんではないかと思う。ただし、ただでさえ「ジャンルはバラバラ」だし「少しずつ学んでいる」のに、いつまで経っても「うちの本としての統一性」が確立できない状態に陥っている。

改良だと本人は思ってるのでしょうがないが、いつになったら読者や本屋さんに「ここの本って○○でいいよね」と言ってもらえるようになるのか。。。

取次搬入日

2007年11月10日 | 注文納品
思いっきりビジュアルの新刊、ようやく形が見えてきた。勢いに乗ってフルカラーにしちゃったので、これは頑張って売らねばならない。

なんか、ここの更新もできないし忙しい気がすると思ってたら、これまで本を作っていたときにはバイトをしてなかったことに気づいた。ほんの3時間を週2日だけなんだが、意外と影響はあるもんだ。ただし、「ノッてるところなんだが本屋に行かなければ…」という時間細切れ感とか、「忙しい忙しいったって、やっぱり夜はさっさと仕事を切り上げて飲みにいく」というわがままのせい。本屋(のバイト)に罪はありません。

その本屋のバイトのおかげで、最近(出版を始めて6年も経ってから)ようやくわかったことがある。

えーと、私はレジ打ちをしてるんだが、お客さんがレジに来ないときは、コミックスの立ち読み防止措置をしたり雑誌の付録組みをしたりする。で、もうひとつ、結構時間つぶしになる作業が、「出版社への注文」だ。社員の人が本と冊数を指定しておいてくれて、それを出版社へFAXなり電話なりする仕事。FAXは店のやり方で送るんだが、今まで受け取っていたFAXのアレはこうなっていたのか~などとわかって楽しい。

電話は、普段受けてるのの「相手のセリフを言う」だけなので、これも簡単(「書店ですが注文お願いします!」とか「番線申し上げます!」とか)。・・・と思ってたら、結構違いがあるんだとわかった。

あまりうちと違いがないのは、中堅というか業界では零細と言われているような出版社の対応。営業部の人なんだろうけど、まあ私が普段答えてるのと大して変わりはない。

大手は、いかにも電話注文センターのおねえさんみたいな人が出て、美しくい声と丁寧な口調でマニュアルどおり質問してくる。老舗は非常にタカビーでムカつくんだが、今回はその話ではない。

取次搬入日。

うちは新刊が出たばっかりとか妙に注文が多いときを除くと、だいたい週1回の搬入である。なので、搬入に行った日の午後に書店から注文電話を受けると、1週間後と答えるはめになって非常に悔しい。遅くてすみません…という気持ちでいっぱいだ。

ちなみに、「えっ、1週間後かよ」という書店と、「全然、構いません、気にもしません。いつかわかればそれでよし」という書店と二通りある。おそらく取寄せ注文した客次第だと思うんだが、ま、いつも責められる感じではない。

とにかく、もっと注文が多ければもっとしょっちゅう搬入に行くことになって、書店やお客さんに早く届けられるのに…とは思っていたわけである。つまり、うちが小さいせいでかけている迷惑という自覚があったということ。

ある出版社の人に聞くと、会社で受けた注文をその日の分ってことで集計して倉庫に連絡し、翌日倉庫が品出しの準備をして、翌々日に取次搬入らしい。つまり、早くても、2日後。うちとの比較では、「あっちが早いときもあるし、こっちが早いときもある」状態だ。

ところが、本屋のバイトで注文をしてわかったのは、「大手の搬入日は常に1週間後(だいたい)」であるということ。

書店に届く時期じゃなくて、大手出版社から取次に納品される時期である。な~んだ、大きいところも1週間もかかってんじゃん。そんなに気にすることないのか…と一瞬嬉しくなった。

大手となると既刊の数が多いから、倉庫から出すのが大変なのかな…とも考えた。しかし、その大手だけでなくほとんどの出版社の既刊を取り扱ってるアマゾンでは、品出しに1週間もかからない。客に届くのが遅いのは、「アマゾンから版元への注文の情報」とか「版元からアマゾンへの納品」に時間がかかるせいだ。

以前、アマゾンに潜入取材した人の本を読んだが、品出しバイトがいっぱいいて酷使されているらしい。

で、出版社の場合、いくら大手でもたかが品出しにバイトをいっぱい雇うことはないだろうから時間がかかるんだろうか。

「本ってのは取寄せるのに何週間もかかる。今どきそんなのおかしくない?」という議論を聞くと、いつもすみませんすみませんという気持ちでいたんだが、問題はうちだけじゃなかったんだ。こりゃ、いくら取次がナントカセンターを建てて頑張っても、「明日には届く」なんて状態はいつまでたっても実現しない。

が、そう思う時点で、「どうしようもないと諦めて努力をしない、業界の甘え」になっちゃうのか。

足を引っ張っているわけではなかったと喜ぶと同時に、反省も感じたのでした。

ちなみにこの電話注文の話には、もっと書きたいこともあるんだが、それはまた別の機会に。