出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

返品可否登録

2006年08月25日 | 返本
来週、久しぶりに見本納品に行く。実に半年ぶりだが、うちとしては普通のペースだ。ただ、たまにしか行かないので、いつまで経っても慣れない。今から緊張している。

おまけに今回は懇意の編集者が作った本で、私は制作には関与していない。なのに配本数に関するプレッシャーとかがあって、ますます緊張する。自分の作った本だと、今までの仕入部の反応とかいろんな経験をもとに、OKになりそうな配本数がわかる。あまり無理も言わずにさらっと見本だけ出して、とっとと退散することができる。

ところで、トーハンは、返品条件を登録することになっている。返品可とか、1年はOKとか、委託以外ダメとか。前の本(半年前)もそうだったんだけど、忘れてしまっていた。仕入部のカウンターで、「すみません、返品可でお願いします」と口頭で登録してもらった。本当は紙を提出しなくちゃいけない。

で、今回、その懇意の編集者にそのことを話すと、考え込んでしまった。この人は、編集は私なんかよりずっとキャリアがある人だけど、流通は詳しくない。とはいえ、私も「こちらで返品条件を決めていい」状況ってのはよくわからない。

前に、知り合いの新参出版社(新参というと失礼だけど、うちと同じく新しいと言う意味)の人に聞いたら、契約の時点でフリー入帳と決められていたらしい。うちはなぜか、巷で言われている「委託は六ヶ月、注文は基本的に返品なし」という条件だった。(とはいえ、書店さんからお願いが来ると、ほとんどOKしている)

で、フリー入帳になってるのに、返品のお願いは来るらしい。その出版社の営業の人は、場合によっては「おたくの店には注文でさえ入れていない。よって返品も認めない」とハッキリ言うそうだ。わけのわからない(悪意の)ケースや、棚ではなくて棚の下の引き出しに入れてあった本は、断るらしい。

うちでは、委託以外であればどの書店から注文が来たか、だいたい頭に入っている。数が少ないから、なんとなく記憶してるだけなんだが、今のところ「おかしな」ケースはない。だから、OKする。

で、返品可否登録である。

昔、右も左もわからなかった頃、2ちゃんか何かで「返品を了承しない出版社の本は売ってやらん」みたいなことを読んで、書店を敵にまわすわけには行かないと思ったものだった。もちろん、敵にまわそうなんてこれっぽっちも思ってない。けど、「もともと返品不可なものを、改めてダメと言う」ことで怒られてもやだなとは思っていた。

今回、その編集者といろいろ話したんだが、やっぱりよくわからない。返品可の時期を過ぎていようが勝手に返してくる書店なら、おそらく取次にとってうちより書店のほうが大事な取引先で、やっぱり返ってくるような気がする。小さい書店で、うちにも返品のお願いFAXを送ってくるような店は、基本的に期限内に返すように気をつけてるだろうから、やっぱり返ってくるような気がする。

最初にこの紙についてお達しをもらったときには、桶川がどうのこうのと説明してあった。でも、桶川できっちりと「こちらの指定した条件」どおりに捌いてくれるんだろうか。

そうだとして、トーハンで条件を入力すると、書店でわかるようになってるんだろうか。でも、例えばPOSとか(よくわからないけど)で探索したら「これは1年はOKだな」とわかるかもしれないけど、棚に差してある本そのものには返品可否情報なんてついてない。やっぱり、「しまった、返しそびれた」ってなこともありそうで、そうなると桶川で引っかかるんだろうか。

で、引っかかったら、やっぱり書店さんから返品のお願いが来て了承印を押すってなことになるんだろうか。それなら今までと変わらないんだけど。。。

ちょっと「条件付き」ってのを試してみたい気もするが、結局は返品可にしてしまう。

第一、返ってきたとしてもうちにとっては大事な商品だ。時事モノの本は出さないので、きれいにしてまた出荷できる。返品手数料以外に何の損もない。

このトーハンの「返品可否登録」で、何か劇的に変わった出版社って、あるんだろうか。だったら何が変わったのか、すごく知りたい。

出版者各位

2006年08月21日 | 出版の雑談
盆休みだったので久しぶりです。

本日、日本図書コード管理センターから、来年1月からのISBN13桁化に伴う新しいマニュアルが届いた。前にもらったのは、厚さ5ミリくらいの簡易製本のものだったけど、今度はファイル形式。今後、あれこれ変更がある(で、差し替えが必要になる)予定なんだろうか。

で、気になったのは、送付状である。出版者各位あて。

昔ISBNコードのリストを受け取って喜んだものだったが、このコードは誰でも取れる。出版社コードじゃないのはそういうわけかと気づいたんだが、今回は「出版者」あて。

いつだったか、国際本部経費分担金のお願いってのが来て、その分担金を払った人に送られたと見られる。そこに、平成18年3月末までに3549出版者が分担金を払ったと書いてある。

出版社はさっさと払うだろうから、18年4月以降に払った出版社はほとんどないのではなかろうか。で、個人で出版物を作る人たちがどのくらいいるか知らないけど、「今後も作ろう」と思ってる人も、多少はいると思われる。

となると、出版社って、3000をちょっと超えるくらいしかいないのか。

4000くらいと記憶してたけど、「きっともう復活しない」と思って分担金を払わなかった休眠出版社が、1000くらいいるってことだろうか。

トーハンのおみくじ棚の場所がたまに移動する。あそこはあいうえお順なので、移動すると「潰れたのかな?」と思う。

けど、出版年鑑とかの数字は確か3549より多かった気がする。となると、取次は、辞めちゃった出版社もしばらく出版社とみなしてるってことだろうか。

うちにはあまり関係ないことなので、これ以上深く考えないことにする。

ただいま、新刊の原稿最終段階。本日は早実の応援をしながら、カバーデザインを考えた。この作業に入ると、いよいよ感が出てくる。

1冊をさっさと

2006年08月09日 | 出版の雑談
先日納品に行ったら、トーハンは14日15日がお盆休みだと張り紙がしてあった。その前におみくじ棚にも、どこそこの部署はいつ休みってなプリントが配られていた。

納品は特別なことがない限りトーハン→日販というルートなので、どっちかが休みならもう片方もどうせ行かない。けど、日販に行ったときになんとなく聞いてみたところ、休みなしだという。

今まで、業界で足並みそろえてることが多いなと感じていたので、ビックリした。けれど、たずねたのが今年初めてなので、日販はいつも盆休みなしだったのかもしれない。ちなみに年末年始は同じようなスケジュールだったように思う。

話変わって、最近入った業界の集まりで、「これからの出版は1冊をさっさと売り切ることを考えなければならない」みたいな話になった。確か、この前行った出版営業のセミナーでも、同じようなことを言っていた。

いつまでも売れる本が増えていけばどんどん経営が楽になると、わかってきたとたんに逆のことを言われたわけである。

セミナーの先生の説明は、在庫維持コストとかいろんな要素を理由にしていて、もちろん理屈はわかった。つきつめると、長期で考えてるとうまくいきませんよという理屈だ。うちでは、新刊が出て数ヶ月で元を取って、あとは売れたら儲け…と考えている。セミナーの先生たちの出版社は、あとの儲けを諦めるほど、在庫維持コストがかかるんだろうか。

コスト云々は別としても、1冊をさっさと売り切る(そして別の本を作る)ってのは、ちょっと悲しい気もする。

それに、新刊がますます増えるだろうけど、それはいいんだろうか。ずっと売れなくてもいいと覚悟を決めてしまうことは、逆に言ったら自分たちの首を絞めるような気もする。

首を絞めるといえば、フリーペーパー。最近はやたら出ていて、変な文章やつまらない記事も多いと思う。広告で成り立つのはわかるんだけど、読むほうが一銭も出さないってことに、少々抵抗がある。どうせ読むなら雑誌のほうがいい。

リクルートみたいなところは放っておくにしても、自分の首を絞めることになってる出版社はないんだろうか。

業界掲示板

2006年08月01日 | 宣伝
出版の人の集まりに行って、面白いことを教わった。彼ら出版の人(私もそうだが)にとって、「朝日新聞は、ニュースを読むための新聞ではない」らしい。

最初、うちの本について「告知をしたらもっと売れるような本だ」と褒めてもらっていい気になってたら、「60万あるか」ってな話になった。朝日に広告を出したら、結構動くのではないかと。

以前読売に記事で出たときの動き方を説明して、朝日はそんなに違うのかときいてみた。そしたら別の人が「売れない、売れない」とどこかの本に書いてあるようなことを言うので、内心やっぱりなと思いながら2人の話を聞いていた。

だんだん新聞そのものの話題に変わってきて、新人の頃に「新聞はどこから読むか」ときかれて、1面からと答えたら怒られたという話が出た。出版人たるもの、1面の下の広告から読めということらしい。

これについては、昔ビックリしたことがある。新聞の下のほうが広告になってるのはもちろん知ってたが、1面から本の広告だという認識はなくて、そう教わって驚いたのだ。なぜかというと、新聞ってのは公器とか何とか言われてて、「決まった場所が決まった業界に割り振られてる」とは思ってもみなかったから。

あと、以前から、なんで出版の人は朝日朝日とうるさいのか、不思議に感じていた。そりゃ、売上への影響と言われればそれまでなんだけど、読売のほうが発行数(というのか?)は多いそうだし、最近はあまり変わらない(どのみち売れない)そうなのに、なんでかと思ってたのだ。

私はもともと朝日新聞はあまり好きじゃなくて、「天下の」なんてこれっぽっちも思ってない。経済ニュースをまず読みたいから日経をとっていて、あとの新聞は他の人のところで読む。そうはいっても本好きだから、一応下のほうも見るけど、それだけのこと。

別に「何はともあれ朝日の下のほう」なんて思ったこともない。新聞はあくまでも「ニュースを読む」ための媒体だと思ってた。

で、60万の広告出稿料は、その本の売上では元取りできるものではなくて、会社について知ってもらうというような効果のために出すのだと割り切らなきゃだめなんだそうだ。

これについても昔ビックリしたのが、まだ潰れていないことを知らしめるために広告を出すということ。潰れていないことをわざわざ知らせるためにそんな高い金を出すのかと、驚いたのだ。

で、2人の会話からわかってきたことは、あの「新聞の1面の下のほう」というのは、出版業界の掲示板になってるということ。

潰れてませんという広告は書店にむけて出してるのかと思ってたが、そうじゃなくて、他の出版社に向けたメッセージらしい。潰れそうじゃないにしろ、「こういう本を出しました」ってのも、他の出版社向け。で、お互いに、「そうか~」、「そういうの出したか~」と情報をアップデートしているとのこと。

とのこと…と言っても、彼らがそうだと説明したわけじゃないんだが、傍で聞いてると、そうとしか考えられない。極端な話、「この前、朝日に出してたね」なんて会話が、挨拶代わりみたいになってそうだ。

ふーん、出版業界の掲示板ね。。。

出版業界のメッセージのやり取りのおかげで、新聞社は新聞を出し続けていられる。かつ、そうとは知らない一般人(知らなかった私も含めて)は、出版業界のおかげで新聞を読み続けていられるというわけだ。

変な話である。