道端鈴成

エッセイと書評など

日中関係についての麻生発言をFiskeによる社会的関係の四類型から評価する

2006年08月19日 | アジア論
  NHKは8月14日、「どうして人は戦争をするの?」の後に日中関係についての討論番組を行っていた。番組は、後半しか聴けなかったけど、NHKご愛用のカン氏は、あいかわらずのソフトな口調で、おだやかに誘導するような意見を言っていた。私の意見ではその誘導先は泥沼なのだが、泥沼であれ誘導する話術は堂に入っていて、なかなか見事である。番組では、泥沼への誘導にまじって、こわれたレコードの曲も年中行事のように電波を発していた。電波や泥沼への誘導の混じる中で、麻生外相は的確な発言をしていた。例えば、同じアジアの国でしかも前の戦争で迷惑をかけた仲良くしなくてはなどという情緒的な意見に対し、国と国が仲良くすることは外交の目的ではない、外交の目的は互いに利益をえる関係をつくることだ、日中も互いに利益になる関係を持とうではないかと言っていた。
  前に書いた社会関係的人間関係の四タイプからすると、日中の外交関係についての意見は下のようになる。
(1)共同性:日本側による東アジア共同体、一衣帯水などの日中共同体幻想
(2)権威的序列化:日本側による文明の恩人としての中国という思いいれ、中国側による中華的認識と東京裁判史観による、また日本側の思いいれを利用した日本の隷属化と利用
(3)等価交換:日本側では先の大戦で侵略したという負い目、中国側では墓を暴いて骸をむち打ち仕返しをするような復讐を是とする伝統
(4)市場価値:日本側による中国でのビジネスチャンスへの期待、中国側による日本からの投資と技術への期待、海洋進出のもくろみ
   以上大ざっぱに書いたが、(3)の報復のしつこさは、やはりユーラシア大陸の砂漠の民からの影響にさらされるなかで中国が身につけたものだろう。海洋民族、狩猟採集民族のおおらかさとは違うことに十分注意しなくてはならない。(1)共同性は日本側の危険な思いこみである。アジア問答で河端先輩がすこし話されたが、日本と中国は異なる文明圏に属する。問題は、後期モンゴロイドという形質人類学的な特徴の近さではなく、文明の基本原理である。これについてはまた機会をあらためて述べたい。(2)権威的序列化と(1)共同性が結びつくと、日本が隷属化した形での友好関係ということになる。マゾヒストなら満足すべき関係だろうが、そういう趣味は個人だけにしてもらいたい。妙な趣味を押しつけられたら、迷惑である。現在の中国は抗日を自らの存在根拠とする一党独裁の共産政権であり、今後、政権の形が変わることは考えられる。日中関係については、(1)共同性、(2)権威的序列化、(3)等価交換に無自覚にコミットすることは非常に危険である。社会関係の論理を明確に対象化、その根拠を批判的に吟味し、相対化し、別の解を見いださなくてはならない。当座の関係としては、こうした、社会関係の論理の意識化と根拠の批判的吟味を行いつつこれを相対化し、(4)市場価値における、双方損にならない関係をドライにもとめるということになる。麻生氏の日中関係についての発言は、討論出席者やNHKに充満していた(1)共同性の幻想や(2)権威的序列化の無批判な黙認という電波と泥沼を回避し、(4)市場価値の論理で生産的な問題解決の方向を提示したものとして評価できる。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。