もやしもん~自由になることを~

2011-04-27 18:00:17 | 本関係

この前「もやしもん ゴスロリ女とエロい尻」を書いたが、そのついでに見たamazonの10巻レビューからすると、評価は二つに分かれているようだ。


この原因は、物語重視とキャラ重視という評価基準の違いにあると考えられるが、物語重視の人は、10巻で描かれるアメリカ編についておおよそ「何がやりたいのかよくわからない」「キャラだけで強引に押し切ろうとしている」といった感想を持っているように思える。この評価の問題点と妥当性について簡単に述べておきたい。


まず問題点であるが、アメリカ編に関して「何がやりたいのかわからない」というのはいささか奇妙な評価である。というのは、ここで描かれているのは、フランス編やオクフェスで描かれた「自由になること」というテーマがよりストレートな形で表現されているからだ。詳しく説明しよう。アメリカ編においては、沢木が家を継ぐ話に絡んで、兄の直継は「俺はどこにいても何をやっていても沢木直継だぜ」と言っている。その直継の言葉は、直保はもちろんマリーにも感銘を与えているわけだが、要は「家を継ぎたくなければ継がなければいい」、「何をやっていても俺は俺だ」という選択(の自由)、あるいは自己同一性や固有性の問題についてわかりやすくしゃべっているわけだ。


このような自由の希求は、フランス編について言えば二つの要素がある。一つ、「籠の鳥」だった長谷川が家&許嫁から解放されたこと。二つ、マリーのオヤジには家業と自分の特性の違いで苦悩しており家族内でわだかまりがあったが、それが沢木の能力もあって解消された(ここでマリーのオヤジがワイン=酒を扱わなければならない、という思い込みから解放された点に注意を喚起したい)。


これはオクフェスにおける武藤の変化とも深い関係がある。最初武藤は地ビールを売り込みにきたハナに対して、日本における地ビール生産の内実や売り込み方の問題点について理論立てて完膚なきまでボコボコにしている(日吉のじーさんから「昔地ビール屋の男にフラれでもしたのか?」と皮肉を言われるほどに)。その武藤が、現場を見たりする中で少しづつ態度を変えていき、地ビールを広めるべく農大でオクフェスを企画して見事成功させることになっているが、祭りの時本当に楽しそうにビールを飲む人たちの姿でこの話が締めくくられていることは、理論(偏向)からの自由というテーマが背景にあることを示している(かつて「もやしもん:祭の価値は?」でも言及したが、まあ「美味いから美味いのであって、理論があるから美味いというのは倒錯した考えだ」とか言えばわかりやすいか)。さらに言えば、日吉のじーさんや宏岡は初期の頃から理論偏重をたしなめるような話をしているし、また「理論偏向ぎみ?」で言及した吹き出しの使い方も考え合わせれば、理論からの距離感のようなものは作品全体の基調をなしていると言っても過言ではない。


閑話休題。以上のように、もやしもんでは「自由になること」というモチーフが繰り返し描かれており、その意味ではアメリカ編も首尾一貫していると言うことができるだろう(結城蛍の異性装もそのモチーフと関係するかもしれない)。


しかしそれにもかかわらず、私は「何がやりたいのかよくわからない」という不満が出てくるのは極めて必然的なことであると考える。それはなぜなのか?簡単にまとめると、

(1)もやしもんでなくてもいいから(フランス編と違い沢木の能力が全く生かされていないetc...)

(2)文脈規定が不足しているから(直継とオヤジとの確執のあり方など全く不明)

(3)テーマが時代遅れだから(特に家との確執はね)

の3点(一応最後に注をつけときます)。まあこれだけダメな要因が揃えば読者に届かなくても無理はないだろうし、仮に届いても響きはしない(=理解はされても深い納得はもたらしえない)と思う次第。というわけで、結論から言えば物語的にはアメリカ編単体は失敗であると私は考える。まあ後はここからの展開にどう生かすかだろう。作者の手腕に期待したいところだ。


(注)
いくつか要点だけ。

・選択肢過剰の時代において、「からの自由」では届かない。
・自由の息苦しさにこそ悶える (cf)自由からの逃走
・スローフード・スローライフ運動と生活共同体保護との兼ね合い
・どうなろうが私は私だが、その私が交換可能なものとして使い捨てられるところに問題がある→派遣労働
・自由選択が生み出す過剰な自己責任の幻想
・上記に絡んで。1.全知全能はありえない、2.環境要因、3.多くの偶然性・無意識の扱い
・ホンネとタテマエ・・・親が子供のケンカにしゃしゃり出てくる、犯罪で常に親の責任が問われるという矛盾


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