菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

個人情報保護と人権

2017-11-12 00:00:00 | 情報法
(1)個人情報保護法の改正
 平成27(2015)年9月3日に成立した改正個人情報保護法は、平成29(2017)年5月30日に全面施行された。また、平成28(2016)年10月5日、個人情報の保護に関する法律施行令(政令)および個人情報の保護に関する法律施行規則(規則)が公布され、同年11月30日には、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編・外国にある第三者への提供編・匿名加工情報編)が公表されている。

 今般の改正は、平成17(2005)年4月の全面施行以来、10年を経ての本格的な改正である。

 改正法では、「匿名加工情報」の定義を新設し(2条9項)、本人の同意なく目的外利用や第三者提供を可能とする枠組みを導入した(36条)。また、現行法では主務大臣が監督しているところ、内閣府の外局として「個人情報保護委員会」を設置し、個人情報保護に関する権限を集約して、監督の一元化を図ることとし、平成28(2016)年1月より、その活動を開始している。さらには、センシティブ情報(要配慮個人情報)の取扱いに本人の同意を要求し(2条3項・17条2項・23条2項)、オプトアウト方式の第三者提供に個人情報保護委員会への届出を義務づけ(23条3項)、小規模事業者も法の適用対象とするなど、実務的に重要な改正がなされている。

(2)改正法の実務課題
 端末識別ID、位置情報、画像情報、SNSでの書き込みなど、他の情報と組み合わせて個人を特定できる「グレーゾーン情報」の増加には実務的に注意が必要である。しかるに、改正法の政令・規則をみても、グレーゾーンの解消が進んだとは評価しがたい。個人情報保護委員会のガイドラインによれば、統計情報が個人情報にも匿名加工情報にも該当しないとされるが、どこまで匿名化すれば本人の同意を得ずに外部提供できるのかが未だに判然としない。

 また、改正法では、外国にある第三者に個人データを提供する場合、原則として本人の事前同意を要求するが(24条)、経済のグローバル化に伴い、他国への情報移転に一律の規制を課すことは、事業者の業務上の支障やサービスの大幅な低下につながりかねない。さらには、訴訟による保有個人データの開示請求を明文で認めたが(34条1項)、このことにより、事業者側の自主解決の努力に水を指すことにならないかも懸念される(35条参照)。

 改正法には、そのほかにも実務的な課題が多い。

(3)ビッグデータとプライバシー
 最近のスマートフォンやSNSの普及により、ビッグデータのビジネス利用のプライバシー侵害や悪評などのリスクが顕在化しつつある。特に匿名加工情報の法制化に伴い、ビックデータとプライバシーとの関係が重要な課題となっている。

 この点、現代的なプライバシー侵害事案では、当該個人の感受性ではなく、「一般人の感受性」を基準としている(最判平成15年9月12日判時1837号3頁「早稲田大学講演会名簿提出事件」)。また、受忍限度を超える場合にだけ、プライバシー侵害が認定される傾向にある(福岡高判平成24年7月13日判例集未登載「ストリートビュー事件」)。

 したがって、事業者の側においても、受忍限度を引き上げるためには、できる限り情報の利用目的・使用状況・利便性等の説明をし、情報主体である本人の納得感を得るよう努力すべきであろう。

(4)われわれ弁護士はどう行動すべきか
 まずは、改正法および政令・規則の内容を理解することである。法の正確な理解なくして、適切な対応はできない。これまで適用対象ではなかった小規模事業者も、改正法では「個人情報取扱事業者」として個人情報保護法を遵守しなければならないことから、われわれに対する個人情報についての法律相談の件数・頻度も格段に増加している。

 たとえば、第三者提供の規制に関しては、大きく改正された。実務への影響として注意すべきは、記録作成義務(25条)、提供を受ける際の確認・記録義務(26条)である。また、匿名加工情報と個人情報の関係や「個人識別符号」(2条1項2号)など、改正法の詳細内容には不明確な部分が残っているため、今後とも具体的なルールづくりに注視しなければならない。

 開示請求権の具体的権利性の肯定により(34条1項)、個人情報の保護が私法的に促進される一方、悪質クレーマー等による濫用的な事例も懸念される。個別具体的な事案に接した場合には、弁護士としての衡平感がより求められるであろう。

 なお、EUデータ保護規則案が欧州閣僚理事会で承認され、2018年の発効が予定されている。個人情報保護の分野では、こうした国際的な視野も不可欠である(24条参照)。

 以上の状況を踏まえれば、個人情報の保護が問題となる場面がますます増えていくものと思われる。したがって、われわれ弁護士としては、これらの救済申立てや交渉について適切に対応していく必要があろう。


最新の画像もっと見る