池のなかをぼんやりと眺めていた。
鯉がいる。今日こいつを活け締めにしなくちゃならない。オレは仕留めるところを想像した。自然殺気立ったらしい。鯉もオレの目を見据えてきやがった。
「やれるもんならやってみやがれ」そういわれている気がした。
こいつは、オレがこの料理店に弟子入りした15のときすでにここにいた。最古参の鯉で、体格も申し分ないほどでかい。「権ザ衛門(通称:ゴンザ)」と呼ばれている。
ゴンザは、「この若僧が」といってオレをみて、舌なめずりしたようにみえた。最後に「フン」と鼻で笑いもした。
と、そのときだった。
この辺一体のボス猫、ハナが鋭く右爪でゴンザをねらった。
ゴンザは、ハナの右フックを横目でみながらかわし、更に左前足に備える余裕がある。更にオレをちらりとみる余裕さえあった。
今までだったらこれで終わりだった。ハナは空振りするといつもそのまま去った。
が、今日は違った。池のまわりをゆっくりと歩き始めた。
池のなかの鯉たちが中央に集まり、おびえていた。
今まで何匹の鯉が、ハナの刃にかかったかしれない。
ゴンザをこの池の主たらしめたのは、まさにこのハナの襲撃をかいくぐってきたという事実だったろう。
しかしさすがのゴンザも、ただならぬ決意をハナに感じたらしい。
「なんだよ、ハナ、オレをやるにはスキをねらうしかなかったはずだ。オレが何かに気をとられているときか、考え事をしているときか。。。じゃなきゃ、オレはとれねぇ。一番よく知ってるはずだぜ。」
「ふん」とハナは笑って歩をとめた。
「なんだよ、その目は。時間の無駄だ、とっとと失せな」とゴンザ。
ハナはもう一度「ふん」といったあと牙をみせていった、「ケントー違いなこといってんじゃねえよ、今まであたいが一度しかやらなかったのは人間の目があるからさ。あんたが怖いからじゃない。」
「クックク・・・」ゴンザは笑いをかみ殺していった、「強がりいうなって、わかってるはずだ、スピードの違いをな」
「ふん」とハナ。「あたいにゃ、足は四本あんだよ。全部使えばあんたのスピードなんざ目じゃねえさ。。。しかもきいたぜ、今夜喰われちまうそうじゃねえか。」
「ハハ、オレの相手はあの若僧だろ。」とオレをみやりながらいった、「あいつじゃ無理さ、あんな若いのじゃな」
ハナもオレをみていった、「かもな」
「お前知ってんだろ、この店の親方とオレが1回タイマンはったことを。それで今こうして無傷で生きてんだぜ、オレは」
「しかしあんた、水抜かれたらおしまいじゃないか」
「まあな、それだけはオレにはどうにもできねえ。だがな、最後に思い知らせてやるさ。あの若えのにゃ二度と包丁握れなくしてやる。」権ザ衛門は、オレにガンを飛ばして、目を細めた。
「ゴンザ、残念ながら人間と勝負はできねえよ。」
「あ?」
「あたいが喰っちまうからさ」
「なんだと?」
「哺乳類がいつまでも魚類にでかい顔させとくわけにゃいかないのさ。あんた、魚の分際でホントに猫に勝てると思ってんのかい?」
一瞬権ザ衛門が冷や汗をぬぐったような気がしたが、気のせいかもしれない。
「マジらしいな、ハナ。いいだろう、かかってきな。」とハナにいって、全身のウロコが震え太陽を反射した。金色になった。
「はじめから全開でいってやる、ありがたく思えよ、ハナ。」
ハナが突っ込んだ。水しぶきが上がる。オレはやつらを見失ったが声が聞こえた。
「さすがだな、権ザ衛門」ハナはさっきいたのと反対側の淵にいた。
「お前もな」とゴンザは位置を変えていない。「しかしその速さじゃ無理だ」
「ふん、今使ったのは前の左足と後ろの右足だ。今度は四本全部使うさ」
「おう」と気合をいれて、鯉の仲間たちにいった、「オレの最後の飯は、猫の肉か。最後の晩餐には最高の食事だぜ!」
「だまれ!」といってハナが池に飛び込んだ。
今度は水しぶきだけでなく、鮮血が飛び散った。
みると、権ザ衛門の半身が池の外に打ち上げられいている。その目は虚空をさまよい、唖然としている。もう一方の半身は池の中にあった。
ハナは右手を舐めながら、「やったぜ」といった。
しかしなんとなく変だと思ったら、ハナは鼻と左前足がなかった!
権ザ衛門が半身のままいった、「勝負は水だったな、オレも水がねえところでも動けたらお前にはやられなかった」
「ケッ、運命にケチつけるんじゃねえよ、いつも水の中深く隠れるくせしやがって・・・」といってハナは、白目をむき、倒れた。ハナの右手からは噴水のように血が噴き出した。
追伸1:友人Uの書いた小説の偽本です)
追伸2:Fictionシリーズ1の「差別と区別」はこちら。
鯉がいる。今日こいつを活け締めにしなくちゃならない。オレは仕留めるところを想像した。自然殺気立ったらしい。鯉もオレの目を見据えてきやがった。
「やれるもんならやってみやがれ」そういわれている気がした。
こいつは、オレがこの料理店に弟子入りした15のときすでにここにいた。最古参の鯉で、体格も申し分ないほどでかい。「権ザ衛門(通称:ゴンザ)」と呼ばれている。
ゴンザは、「この若僧が」といってオレをみて、舌なめずりしたようにみえた。最後に「フン」と鼻で笑いもした。
と、そのときだった。
この辺一体のボス猫、ハナが鋭く右爪でゴンザをねらった。
ゴンザは、ハナの右フックを横目でみながらかわし、更に左前足に備える余裕がある。更にオレをちらりとみる余裕さえあった。
今までだったらこれで終わりだった。ハナは空振りするといつもそのまま去った。
が、今日は違った。池のまわりをゆっくりと歩き始めた。
池のなかの鯉たちが中央に集まり、おびえていた。
今まで何匹の鯉が、ハナの刃にかかったかしれない。
ゴンザをこの池の主たらしめたのは、まさにこのハナの襲撃をかいくぐってきたという事実だったろう。
しかしさすがのゴンザも、ただならぬ決意をハナに感じたらしい。
「なんだよ、ハナ、オレをやるにはスキをねらうしかなかったはずだ。オレが何かに気をとられているときか、考え事をしているときか。。。じゃなきゃ、オレはとれねぇ。一番よく知ってるはずだぜ。」
「ふん」とハナは笑って歩をとめた。
「なんだよ、その目は。時間の無駄だ、とっとと失せな」とゴンザ。
ハナはもう一度「ふん」といったあと牙をみせていった、「ケントー違いなこといってんじゃねえよ、今まであたいが一度しかやらなかったのは人間の目があるからさ。あんたが怖いからじゃない。」
「クックク・・・」ゴンザは笑いをかみ殺していった、「強がりいうなって、わかってるはずだ、スピードの違いをな」
「ふん」とハナ。「あたいにゃ、足は四本あんだよ。全部使えばあんたのスピードなんざ目じゃねえさ。。。しかもきいたぜ、今夜喰われちまうそうじゃねえか。」
「ハハ、オレの相手はあの若僧だろ。」とオレをみやりながらいった、「あいつじゃ無理さ、あんな若いのじゃな」
ハナもオレをみていった、「かもな」
「お前知ってんだろ、この店の親方とオレが1回タイマンはったことを。それで今こうして無傷で生きてんだぜ、オレは」
「しかしあんた、水抜かれたらおしまいじゃないか」
「まあな、それだけはオレにはどうにもできねえ。だがな、最後に思い知らせてやるさ。あの若えのにゃ二度と包丁握れなくしてやる。」権ザ衛門は、オレにガンを飛ばして、目を細めた。
「ゴンザ、残念ながら人間と勝負はできねえよ。」
「あ?」
「あたいが喰っちまうからさ」
「なんだと?」
「哺乳類がいつまでも魚類にでかい顔させとくわけにゃいかないのさ。あんた、魚の分際でホントに猫に勝てると思ってんのかい?」
一瞬権ザ衛門が冷や汗をぬぐったような気がしたが、気のせいかもしれない。
「マジらしいな、ハナ。いいだろう、かかってきな。」とハナにいって、全身のウロコが震え太陽を反射した。金色になった。
「はじめから全開でいってやる、ありがたく思えよ、ハナ。」
ハナが突っ込んだ。水しぶきが上がる。オレはやつらを見失ったが声が聞こえた。
「さすがだな、権ザ衛門」ハナはさっきいたのと反対側の淵にいた。
「お前もな」とゴンザは位置を変えていない。「しかしその速さじゃ無理だ」
「ふん、今使ったのは前の左足と後ろの右足だ。今度は四本全部使うさ」
「おう」と気合をいれて、鯉の仲間たちにいった、「オレの最後の飯は、猫の肉か。最後の晩餐には最高の食事だぜ!」
「だまれ!」といってハナが池に飛び込んだ。
今度は水しぶきだけでなく、鮮血が飛び散った。
みると、権ザ衛門の半身が池の外に打ち上げられいている。その目は虚空をさまよい、唖然としている。もう一方の半身は池の中にあった。
ハナは右手を舐めながら、「やったぜ」といった。
しかしなんとなく変だと思ったら、ハナは鼻と左前足がなかった!
権ザ衛門が半身のままいった、「勝負は水だったな、オレも水がねえところでも動けたらお前にはやられなかった」
「ケッ、運命にケチつけるんじゃねえよ、いつも水の中深く隠れるくせしやがって・・・」といってハナは、白目をむき、倒れた。ハナの右手からは噴水のように血が噴き出した。
追伸1:友人Uの書いた小説の偽本です)
追伸2:Fictionシリーズ1の「差別と区別」はこちら。