ドーヴァーを離れ、幹線道路A20を西へ進むと、道路の左手に、白亜の壁を突き抜けて、海の方角へ下る奇妙なトンネルを見かけました。
トンネルの入り口は、秘密の軍事基地に通じそうな雰囲気を漂わせていました。
私はそのトンネルに、素通りにはできない何かを感じたので、掲示物に注意しながら、車一台ほどの幅の、傾斜の強いトンネルを恐る恐る降って行きました。
何だかドキドキしましたが、軍事基地から守衛が出て来て、何か聞かれたら、訳が分からずに迷い込んだことにしようと決めていました。
トンネルを出て振り返った様子が下の写真です。
無機質で機械的な印象を受けます。
しかし予想に反し、トンネルの先には「サムファイア ホエー(Samphire Hoe)」と名付けられた公園が、河岸段丘の海辺に広がっていました。
見学を終えて、断崖の上から、この「サムファイア ホエー」を見下ろしたのが下の写真です。
視界の先に、ドーヴァー港が見えています。
帰国してから調べると、この公園は、1987年に掘削を始めたユーロトンネルからの土砂を埋め立てて作られたのだそうです。
「サムファイア ホエー」にはトイレとキオスクを備えた小さな管理棟がありました。
丁度、お昼時だったので、私はキオスクでサンドイッチとジュースを買って、海を見ながら早目のランチを摂ることにしました。
爽やかな青空にすじ雲が浮かび、その下でホワイトクリフが左右に連なります。
海岸にサムファイア タワーと名付けられた青い塔が建っていました。
中は伽藍堂ですから、モニュメントなのでしょうが、絵になる光景です。
さて、下の写真は駐車場に停めた私の相棒、日産クァシュカイです。
私はこの駐車場で、車の後部座席が、前方に折り畳めることを発見しました。
そして後部座席がトランク部分と一体となり、殆ど平らになることを見出したのです。
「オオ! ラッキー!」 これは予期せぬことでした。
実は今回、昨年のアメリカ横断旅行のような廉価なモーテルが使えません。
イギリスで安価な旅を想定すると、一般的にB&Bと呼ばれる民宿を利用します。しかし、B&Bであっても一泊約50ポンド、日本円に換算すれば6500円程の費用がかかり、二週間だと宿泊費だけで9万円程の費用がかかります。
ガイドブックによれば、B&Bを利用する場合は、遅くとも16時ぐらいまでにチェックインしたほうが無難だとか、B&Bは個人経営でクレジットカードが使えない所が多いので現金を用意すべきとか、田舎ではシングルルームを探すのに苦労するのだそうです。
更には、ボリュームたっぷりの朝食が用意されて、それを1時間以上かけて食べる、とも記されていました。
特に、私のように気の弱い性格だと、親切を断りきれないでしょうから、そんなことをしていたら、間違いなく、出発は9時を過ぎます。
9時に出発して、16時にチェックインしてたら、どう考えたってイギリスを二週間で一周するのは無理です。
そこで今回、私はキャリングケースの中にテントと寝袋を持参していました。
日本で入手したイギリスのロードマップを見ると、ほぼ50Kmに一ヶ所程度のキャンプサイトを認めたので、キャンプを主体にユースホステルを組み合わせれば何とかなると考えました。
それがダメならB&Bを利用し、いざとなればホテルへ飛び込めば良いのです。
もしも宿泊に費用が掛かって現金が足りなくなれば、カードを使ってATMからキャッシュを引き出せることも確認していました。
二重、三重の安全策を準備し、キャリングケースに寝袋と携帯用コンロまで詰めて日本を出発してきたのです。
しかし車の後部座席に就寝できれば、雨露を凌げる場所が、最低限確保できたことになります。
私は「サムファイア ホエー」の駐車場で、すっかり気が楽になりました。
「よーしこれで、本当に何とかなる!」
最大の不安を解消できた視線の先で、暖かな陽射しを浴びたクサイチゴが、ホワイトクリフに負けぬ白さで花を咲かせていました。
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