思いがけなく優雅で素朴な民族舞踊を鑑賞するチャンスを得ることができました。
しかも、日本に伝わる民族芸能と似た雰囲気に、すっかり寛いだ気分となり、次に準備を始めた男性陣の様子を見守っていました。
暫くすると、大学生程の年齢の男子が6人、黒の上下に赤いベスト、腰に黄色い布を巻いた民族衣装で広場に出て、先ほどの女性達と同様に馬の形をしたボードに跨り、音楽に併せて踊り始めました。
最初は特に、どうと言うこともなく、演舞のような行為を見せていたのですが、やがて途中から演武する6人の横に、年長の男女が付き添いました。
広場に香のようなものが焚かれ、白煙が風に漂います。
そうこうする内に、6人の踊り手達に変化が現れ、6人とも陶酔したような顔付きへと変り、目が完全に空ろになってきました。
中には女性達が楽器を演奏する場所に駆け込んだり、広場に倒れ込む者もいます。
白い馬のボードに跨った若者は、踊りながら完全に白目を剥いています。
本当に驚きました。
知識としては、人間が「トランス状態になる」、あるいは「何かに憑かれる」、という現象があることは知っていたのですが、今、私の目の前で起きていることはまさに、その言葉以外では説明がつきません。
しかも白昼に、大勢の観客の前でです。
私ももう、何十年も年月を重ね、数多くの様々な事象を見てきましたが、人間のこんな生態を見聞きするのはこの時が全く初めてでした。
様々な人種が集まり国を築くシンガポール、その国のマレー村で、思いがけずに人間の不可思議な行動を実体験することができました。
その光景は、今回の旅の象徴的な出来事として、私の記憶に強く刻み込まれることになりました。
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