仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

読書録 2024年3月中旬

2024-03-20 20:54:00 | 読書録(備忘)
以下、長文失礼!

『明治文学小説大全』 (全50篇)

3月12日
明治24年(1891年)
『五重塔』 幸田露伴

初読。
大工仲間から「のっそり」と渾名されている十兵衛と、大工仲間からも慕われている親方の源太郎。
谷中感応寺の五重塔の建立に二人が名を挙げる。
のっそり十兵衛は源太親方には恩があるものの、どうしても我が手で五重塔を建てたい。
朗円上人が二人を呼び出して、小川を渡る兄弟の逸話をひいて二人を諭す。源太親方は十兵衛の職人としての腕を認めており、その腕を振るえぬ十兵衛の悔しさも汲み取った上で、二人で一緒にやろうと持ちかける。いい男なのだ、源太親方は。
しかし、その親切な申し出を、それは嫌でござりますと無愛想な一言で退ける十兵衛。それを聞いた女房のお浪は十兵衛を諫めるが、十兵衛それを遮って、自分は上人さまのお諭しを聴いて諦めた、源太親方が建ててくだされと云う。
源太は源太で、それでは源太の侠気か廃ると云って、さらに十兵衛が主で自分が副でも良いから二人で一緒にやろうと、なんとも有難い申し出。しかし、それでもうんと云わぬ十兵衛にさすがの源太も匙を投げ出すのだった。
結局、上人様が十兵衛に任せることとなり、十兵衛はあっぱれ見事に塔を建てたが、落成式を前に未曾有の暴風雨。さて。

3月12日
明治24年(1891年)
『文づかい』 森鷗外
初読。
いま読んでいる『『明治文学小説大全』、どうにも気になって仕方ないのが仮名遣い。例えば、この作品の題名だが、本来なら『文づかひ』だろう。どうせなら原典通り歴史的仮名遣いに統一して欲しかった。
「姉君憎むちょう鳥」は「姉君憎むといふ鳥」の意だが、この表記ではすぐには分かり難い。やはり「姉君憎むてふ鳥」と表記して貰いたい。
さて、これは若き小林大尉のドイツ駐在時の想い出話。ザックセン軍団の演習視察のおり、宿舎にあてられたビュロオ伯のデウベン城で出会ったイイダ姫から一通の手紙を預かるのだった。

3月13日
明治27年(1894年)
『大つごもり』 樋口一葉

初読。短篇。
まともに歴史的仮名遣での表記で読みやすい。
伯父の借金を返済するためにお峰は奉公先の金に手をつける大晦日。
いざ露見するかとしたところが…
いいね、これ。確かに名作。
後の事しりたや。

3月15日
明治27年(1894年)
『瀧口入道』 高山樗牛

初読。中篇。
これもまた文学史に名高い作品。高山樗牛の唯一の小説とは知らなんだ。
ありがたいことに、正字、歴史的仮名遣で、しかもルビ多くしてそれも歴史的仮名遣!
擬古文ながら読みやすいが、漢語が難しくて意味がわからないことが多く、また色彩や衣服などもこちらが無知なためわからない。いちいち調べていては話の流れが途切れてしまうのでスルーして読み進める。
若き六波羅武士で武骨者の齋藤瀧口時頼が中宮の曹司・横笛を見初める。しかし、時頼の恋は実ることなく時頼は出家…。横笛もまた髪をおろし、はかなくなりぬとぞ。
旧主重盛が没し、平家の凋落、最後は維盛の入水。盛者必衰か。

3月18日
明治28年(1895年)
『たけくらべ』 樋口一葉

初読。題名だけなら誰でも知っているであろう名作だけど、読んだことのある人は少ないかも。
ん?信如?美登利?
なんで名前を知っているのか…と、しばし記憶をまさぐると…
あ、そうか、
学生時代にに読んでいた漫画で知ったのだった。マヤの美登利が目に浮かぶ。
あの漫画、さすがに完結しただろうと調べてみたら、今もって未完らしい…
さて、表町と横町、それぞれに住まう少年少女たち。
祭りの日に横町の長吉たちが表町の三五郎を襲い、止めようとした美登利の額に長吉が泥草履を投げつける。
美登利は屈辱のあまりその翌日から学校へ行かなくなってしまう。
長吉の乱暴の裏で信如が糸を引いていると思い込んだ美登利であったが…
明治の下町情緒漂う風情も、勝気でおきゃんな少女、美登利が信如に寄せるほのかな恋心もせつない物語。こんな少女は絶滅してしまったけれど、それもまたせつなし。

3月18日
明治28年(1895年)
『にごりえ』 樋口一葉

初読。短篇。
これもまた有名な作品ながら、これまで読んだことがなかった。
「にごりえ」を漢字で書くと「濁り絵」だとばかり思っていたが、「濁り江」らしい。確かに「ゑ」ではないから妙だと思っていた。
銘酒屋菊の井の看板私娼お力。
結城朝之助という何やら裕福な客との関係が展開するのかと思いきや…
なんとも後味の良くない物語だった。

3月19日
明治28年(1895年)
『十三夜』 樋口一葉

初読。短篇。
原田勇に請われて齋藤家から嫁に入った阿関(おせき)。家柄の違い、育ちの違いははなからわかっていた筈だなのに、子供が出来ると手のひらを返したような扱いを受ける。
十三夜の夜遅くにとうとう実家に戻って、父母に離縁したいと訴えるのだが…
現代なら文句なしに離婚一択だね。

3月20日
明治28年(1895年)
『夜行巡査』 泉鏡花

初読。短篇。
初めて読む泉鏡花。惜しむらくは略体字、現代仮名遣。
八田義延巡査は職務に忠実ながら苛酷で邪険非道なところがある。
この夜も、老車夫の股引が破れているのを叱責、寒風を避けて軒下で赤子を抱いて寝ている女を叩き起こす。
そんな八田巡査が、職務、職掌のため命を落とす物語。
地の文は擬古文ながら、会話は完全に言文一致なのが特徴的だった。 
 


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