small_happiness
   Farsideの過去ログ。




◆幼い頃からバイオリン一筋だった結城桃(福田沙紀)は、音楽学校の指導方針に馴染めず、高校二年であっさりバイオリンをやめてしまう。高校三年の4月、桃は音楽学校をやめ、お嬢様学校として名高い名門女子校の櫻華学園に編入した。中等部からの持ち上がりが多く、一貫した教育方針を持つ櫻華学園では編入は珍しいこと。桃の編入は、母と姉(京野ことみ)が櫻華の卒業生だったことに加えて、これまでのバイオリンの実績が認められての特例だった。だが、伝統を重んじる櫻華の校風にも桃は馴染めなかった。ある日授業を抜け出して、生徒の立ち入りが禁止されている旧校舎に足を踏み入れた桃は、11年前に廃部になった演劇部の部室でチェーホフの「桜の園」の台本を見つける。
 同級生の美登里(大島優子)と奈々美(はねゆり)に誘われて、櫻華の人気者の小笠原葵(杏)と知り合った桃。葵が「桜の園」の台本を気に入ったことで、ただの「なんだか気になる物語」だった「桜の園」は、次第に形を持ち始める。葵の人気のおかげで演劇部を作れるだけの人数が簡単に集まり、桃は担任の坂野先生(菊川怜)に顧問になってくれるようにと頼むのだが、あっさりと断られた上に、「桜の園」の上演禁止まで言い渡されてしまう。それでも、学外での上演を目指して彼女たちは稽古を続けた。高跳び選手で長身の葵は、女らしい自分を見つけるために。気ままな桃と相性の悪かった学級委員の赤星真由子(寺島咲)、最初は葵と一緒にいたかっただけの彼女は、「地味な優等生」じゃない自分になるために。集まった一人一人が、少しずつ新しい何かを見つけ始めたとき、また新たな問題が持ち上がる。


◆中原俊監督が1990年に中島ひろ子・つみきみほ・白島靖代といったキャストで創った『櫻の園』を、自身で再度映画化したもの。単なるリメイクではなく、かつては櫻華学園の創立記念日に上演されていたチェーホフの「桜の園」にまつわるアナザー・ストーリーとして、独立した視点で創られた別の物語になっている。
 私はこの映画が気に入った。リアルタイムでは観ていないが前作の『桜の園』も好きで、DVDで数回観ている。前作と本作は内容も時代も違うし、私自身の精神年齢も違っているので、この二作を同列に並べて比較したり、単純に中身を比べることはあまり意味がないと思う。


 本作『櫻の園』は、過去にワケありで廃部となった演劇部の上演中止になった舞台を、11年後の生徒達が紆余曲折を経て上演するまでの物語。ご都合主義のTVドラマに慣らされた目で見れば、物語に劇的な要素は無い。ただ、名門女子校に通う高校生達にとっては、この映画に紡がれる日常のエピソード全てが[事件]であり、劇的なんだろうと思う。この、「劇的じゃないデキゴト」を「人を引きつける物語」に昇華させて100分にまとめた中原監督の手腕はなかなかのものだと思う。
 この映画に出てくる女子高生からは、途中に深刻なネタを挟みつつも、この年代の女の子が持つ独特の残酷さや醜悪さが注意深く取り除かれている。毒の部分を丁寧に取り払った上で、「新しい何かを掴んで巣立っていく少女たち」という美しい物語に仕立ててあるわけだから、賛否両論があるだろう。「綺麗すぎる」とか、「いかにも男の視点」だという評価もあると思う。だが、きちんとした私立の女子高であれば、要所要所を切り取った映像はこんなものじゃないかとも思う。
 私は女子校に足を踏み入れたことはないが、ビデオ編集などを頼まれる関係で、女子校の映像を見る機会はそれなりにある。私立の女子校では卒業記念に自主制作のDVDを配ることが結構あって、行事などの一年分のビデオ素材+個人個人のコメントという素材がクラス単位で舞い込んでくる。素材の半分は生徒が撮影したものだから、普段の素地が出ているが、真面目な良い子しかお目にかかったことがない。人の習いで悪いものばかりが目につくが、今時の女の子の全部が馬鹿なわけではなく、目立たないだけで、真面目な普通の子もたくさんいる。残念ながら比率までは分からないが、馬鹿なのは一部だけだろう。


 これが褒め言葉になるかどうか分からないが、主役の福田沙紀を含めて、この映画には飛び抜けて綺麗な女の子は一人も出てこないので、そういう意味では映像にリアリティがある。学園の人気者でありながら、劇中で「背が高くて男みたい」と悩む葵を演じたモデルの杏にしても、手足の長いスタイルは綺麗だが、普通に見たら美人じゃないぞ。22歳で高校生を演じたのはリッパだが.....。そんな中、学級委員の赤星真由子を演じた寺島咲は光っていた。映画の重要なシーンで、それぞれが舞台の自分の台詞を引用して気持ちを表現する場面があるのだが、私は彼女の台詞でぐっと来てしまった。将来が楽しみな女優さんだと思う。それに、舞台用のメイクをしたシーンは必見。


 さて、私が観に行ったのは公開初日の土曜日、昼の12時の回。シネコンでは130席ほどの筺があてがわれており、劇場側がそれほどの観客動員を見込んでいないことが察せられた。で、現実の観客数だが、私を含めて6人。全員男性で、年齢からすると前作の『桜の園』を観た世代だと思う。いくら正午の回とはいえ、この映画でこの観客数はもったいない。出来れば大人の女性にこの映画を見て貰いたいものだと思う。


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