◆ベン・カーソン(キーファー・サザーランド)は、失意のどん底から這い上がろうとあがいていた。ニューヨーク市警の刑事だったベンは、誤って同僚を射殺してしまい、長期停職処分を受けていた。自責の念に押しつぶされ、酒に溺れてアル中状態になったベンは、自分を支えてくれる妻のエイミー(ポーラ・パットン)に当たり散らし、家庭をメチャクチャにしてしまった。今は離婚寸前の別居状態。妻と幼い子供達、デイジーとマイケルの住む家を出たベンは、妹アンジェラのアパートに転がり込んでいた。兄を案ずるアンジェラの元で禁酒を始めたベンは、家族を取り戻すため、新しい仕事を始める。
ベンが見つけた仕事は、メイフラワー・デパートの夜警だった。5年前の火事で多数の焼死者を出し、保険を巡る裁判が係争中であるために取り壊しもされずに残った巨大な建物。そこは、ニューヨーク6番街の一角にありながら、高い塀に囲まれて現実から隔離された別世界だった。多くの人が命を落とした火災現場であり、出火当時のまま後片付けもなされていない。配線が焼損しなかった地下以外は、当然のことながら電気も通じていない。ただでさえ曰くたっぷりの不気味な環境だったが、ベンは勤務一日目から怪異を眼にすることになる。どうやら、デパートの中央に位置する巨大な鏡がその現象の中心であるらしい。やがて怪異は、デパートの中だけでなく、鏡のある場所ならどこにでも現れるようになった。仕事を辞めても、この怪異から逃げることは出来ない。そして、妹のアンジェラが無惨な死体となって発見された。"鏡"の狙いが自分だけでなく家族にも及ぶと知ったベンは、妻のエイミーに警告するのだが、情緒不安定からアル中へと落ちて別居した夫の言葉など信じてはもらえなかった。妻と子供達を守るため、ベンは建物の過去を探り始める。メイフラワー・デパートは、1952年に閉院された聖マシュー病院の跡地に建てられており、地下には一部、病院の施設が残されていた。全ての怪異はそこ、半世紀以上前のある事件に端を発していた。
◆久々にホラーらしいホラー映画を観た。私個人はなかなか満足。ただし、本作はスプラッター系の残酷描写が少しあってR-15指定になっているので、その種のシーンが苦手な方にはお薦めしない。まぁ、年季の入ったホラー好きとしては、この程度の描写でR-15に指定するのは、いささか過敏すぎるとも思うが.....。
本作は、2003年の韓国映画『Mirror 鏡の中』のリメイク。私は本家の方は観ていないのだが、アメリカ資本がアジアン・ホラーのリメイク権を買うという最近の流れの一つのようだ。それなりに良い脚本でなければわざわざ手は出さないはずなので、本家の方もそれなりの出来だったのだろう。
この映画の素晴らしいのは、なんと言ってもその造形。人通りの多い街中にありながら、裁判所の保全命令で手をつけられず、高い塀に囲われて隔離された建物。この設定だけで、廃墟好きな私はワクワクしてくる。さらに、建物が火事で焼けたデパート、しかも謎の病院の跡地とくれば、「新耳袋 現代百物語」の愛読者である私はゾクゾクしてくる。問題は、建物をいかにそれらしく造り上げるかなのだが、実際の廃墟ロケとセット撮影を組み合わせた本作の映像には隙がない。出来ればもう少し、廃墟探索の場面を増やしてほしかったかも。
鏡像反転を使ったオープニングの美しい映像、廃墟と化した建物の内部、R指定の原因となったショッキングな描写、どれをとってもホラーマニアにとってはオーソドックスなものだ。そこに、家族を守るために失意の底から立ち上がって戦う父親、過去の秘密を解き明かす謎解きといったエッセンスを加えることで、物語を上手く転がして行く。『サイレントヒル』からグロテスクな描写を大幅に間引いたような感じで、アメリカ映画としてはこれでいいのだと思う。ただ、ジャパニーズ・ホラーの愛好家としては、残酷描写はいらないが、もう少し不条理で孤独な怖さも盛り込んでほしかったところ。ホラーというのは結局のところ「個」や「孤」の物語であって、家族ものとは馴染みにくいものだ。ついでに言うと、「真の闇」に恐怖する瞬間もワンシーンぐらいは欲しい。とはいえ、ホラー分野が枯渇しつつある昨今の情勢下では貴重な映画のひとつ。
私が観に行ったのは公開二日目、12月27日の16時の回。シネコンでは、時間によって130席の筺と160席の筺があてがわれていた。シネコン側はさしたる集客を見込んでいないということだ。私が観たのは130席の筺で、観客の入りは7割程度。シネコンのロビーが閑散としていたことと合わせて考えると、この種のホラー映画としては異例の好成績だと言える。どうやら、「"24"のキーファー・サザーランド主演」ということでお客さんが集まったものらしい。私はTVシリーズなどは見ないので"24"がどんな物語なのか知らないが、おそらく、こういったホラー映画とはかなり違うものだろう。"24"つながりで見に来られる方、その点だけは注意した方が良いかも。
さて、蛇足の余談だが.....。私も詳しいことは知らないが、日本と違ってアメリカの警察には長期の停職処分がある。その間は無給なので、何らかの職に就くわけだ。だから、停職中の刑事が警備員の職に就くことはおかしくない。ベンが飲んでいる禁酒薬(抗酒薬)は劇薬で、結構危険な薬。抗酒薬だけで幻覚を見ることはないと思うが、抗酒薬が必要な状態、つまり、アル中やアルコール譫妄状態(断酒期の禁断状態)では幻覚を見ることもある。監察医である妻はもちろん、ベン自身も最初は自分の見たものを信じられなかったのは、それなりに理屈の通った話ではある。
重箱ツツキストの私が映画の弁護ばかりしていてもなんなので、ついでに一言。デパートの地下だけに電気が通っていたりするのは演出の都合だろうが、やっぱり変。スチームや水道管ならともかく、あの状態で給電されることはない。ついでに言うと、ベンの前任者がベンの住所を知っていたというのは、タイミング的に考えてもどうかと思う。どうせだったら、前任者のロッカーから資料やメッセージを発見した方が話のツジツマは合うだろう。
ベンが見つけた仕事は、メイフラワー・デパートの夜警だった。5年前の火事で多数の焼死者を出し、保険を巡る裁判が係争中であるために取り壊しもされずに残った巨大な建物。そこは、ニューヨーク6番街の一角にありながら、高い塀に囲まれて現実から隔離された別世界だった。多くの人が命を落とした火災現場であり、出火当時のまま後片付けもなされていない。配線が焼損しなかった地下以外は、当然のことながら電気も通じていない。ただでさえ曰くたっぷりの不気味な環境だったが、ベンは勤務一日目から怪異を眼にすることになる。どうやら、デパートの中央に位置する巨大な鏡がその現象の中心であるらしい。やがて怪異は、デパートの中だけでなく、鏡のある場所ならどこにでも現れるようになった。仕事を辞めても、この怪異から逃げることは出来ない。そして、妹のアンジェラが無惨な死体となって発見された。"鏡"の狙いが自分だけでなく家族にも及ぶと知ったベンは、妻のエイミーに警告するのだが、情緒不安定からアル中へと落ちて別居した夫の言葉など信じてはもらえなかった。妻と子供達を守るため、ベンは建物の過去を探り始める。メイフラワー・デパートは、1952年に閉院された聖マシュー病院の跡地に建てられており、地下には一部、病院の施設が残されていた。全ての怪異はそこ、半世紀以上前のある事件に端を発していた。
◆久々にホラーらしいホラー映画を観た。私個人はなかなか満足。ただし、本作はスプラッター系の残酷描写が少しあってR-15指定になっているので、その種のシーンが苦手な方にはお薦めしない。まぁ、年季の入ったホラー好きとしては、この程度の描写でR-15に指定するのは、いささか過敏すぎるとも思うが.....。
本作は、2003年の韓国映画『Mirror 鏡の中』のリメイク。私は本家の方は観ていないのだが、アメリカ資本がアジアン・ホラーのリメイク権を買うという最近の流れの一つのようだ。それなりに良い脚本でなければわざわざ手は出さないはずなので、本家の方もそれなりの出来だったのだろう。
この映画の素晴らしいのは、なんと言ってもその造形。人通りの多い街中にありながら、裁判所の保全命令で手をつけられず、高い塀に囲われて隔離された建物。この設定だけで、廃墟好きな私はワクワクしてくる。さらに、建物が火事で焼けたデパート、しかも謎の病院の跡地とくれば、「新耳袋 現代百物語」の愛読者である私はゾクゾクしてくる。問題は、建物をいかにそれらしく造り上げるかなのだが、実際の廃墟ロケとセット撮影を組み合わせた本作の映像には隙がない。出来ればもう少し、廃墟探索の場面を増やしてほしかったかも。
鏡像反転を使ったオープニングの美しい映像、廃墟と化した建物の内部、R指定の原因となったショッキングな描写、どれをとってもホラーマニアにとってはオーソドックスなものだ。そこに、家族を守るために失意の底から立ち上がって戦う父親、過去の秘密を解き明かす謎解きといったエッセンスを加えることで、物語を上手く転がして行く。『サイレントヒル』からグロテスクな描写を大幅に間引いたような感じで、アメリカ映画としてはこれでいいのだと思う。ただ、ジャパニーズ・ホラーの愛好家としては、残酷描写はいらないが、もう少し不条理で孤独な怖さも盛り込んでほしかったところ。ホラーというのは結局のところ「個」や「孤」の物語であって、家族ものとは馴染みにくいものだ。ついでに言うと、「真の闇」に恐怖する瞬間もワンシーンぐらいは欲しい。とはいえ、ホラー分野が枯渇しつつある昨今の情勢下では貴重な映画のひとつ。
私が観に行ったのは公開二日目、12月27日の16時の回。シネコンでは、時間によって130席の筺と160席の筺があてがわれていた。シネコン側はさしたる集客を見込んでいないということだ。私が観たのは130席の筺で、観客の入りは7割程度。シネコンのロビーが閑散としていたことと合わせて考えると、この種のホラー映画としては異例の好成績だと言える。どうやら、「"24"のキーファー・サザーランド主演」ということでお客さんが集まったものらしい。私はTVシリーズなどは見ないので"24"がどんな物語なのか知らないが、おそらく、こういったホラー映画とはかなり違うものだろう。"24"つながりで見に来られる方、その点だけは注意した方が良いかも。
さて、蛇足の余談だが.....。私も詳しいことは知らないが、日本と違ってアメリカの警察には長期の停職処分がある。その間は無給なので、何らかの職に就くわけだ。だから、停職中の刑事が警備員の職に就くことはおかしくない。ベンが飲んでいる禁酒薬(抗酒薬)は劇薬で、結構危険な薬。抗酒薬だけで幻覚を見ることはないと思うが、抗酒薬が必要な状態、つまり、アル中やアルコール譫妄状態(断酒期の禁断状態)では幻覚を見ることもある。監察医である妻はもちろん、ベン自身も最初は自分の見たものを信じられなかったのは、それなりに理屈の通った話ではある。
重箱ツツキストの私が映画の弁護ばかりしていてもなんなので、ついでに一言。デパートの地下だけに電気が通っていたりするのは演出の都合だろうが、やっぱり変。スチームや水道管ならともかく、あの状態で給電されることはない。ついでに言うと、ベンの前任者がベンの住所を知っていたというのは、タイミング的に考えてもどうかと思う。どうせだったら、前任者のロッカーから資料やメッセージを発見した方が話のツジツマは合うだろう。