森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

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マリオネット・シンフォニー −インデックス−

2011年06月29日 | マリオネット・シンフォニー
最新の話を読む ◇第1話から読む ●『小説家になろう』で読む(挿絵掲載しました)
                         ※ブログが苦手な方はこちらへ

■6/29 … 浮遊島の章 〜後日談〜 ラストエピソードを更新







剣と魔法によって支配されていた時代が幕を降ろし、
世界が新たな刻を数え始めてから二百と数十年。
アイズ・リゲルは閉塞された日常からの脱出を果たし、
念願の大空に飛び立った。
密輸業者の貨物船に忍び込む、という荒技で。

彼女が降り立ったのは、遥か彼方まで続く広大な世界。
彼女が出会ったのは、複雑に絡み合う数多の運命。

世界最高の科学者によって生み出された人工生命体、プライス・ドールズ。
わずか十数人で一国を滅ぼした悪魔の殺戮兵器、クラウン・ドールズ。
少女の身でありながら単身で戦況を覆すまでの力を秘めた、伝説の戦姫。

様々な出会いを重ね、やがてアイズは隠された歴史と真実を知る。



◇フェルマータの章◇




第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
第8話
第9話
第10話
第11話
第12話
第13話
第14話
第15話
第16話
第17話
第18話
第19話
第20話
第21話
第22話
第23話
第24話
第25話
最終話 
エコーデリック
風を操る者
歌唄いの少女
『分解』のカルル
不思議の国のアイズ
紅の髪の勇者
傷痕
風が歌う村
前奏曲<プレリュード>
女神賛歌
カシミール、始動
奪われた歌声
正義と力
L.E.D.&ツェッペリン
戦争[前編]
戦争[中編]
戦争[後編]
解放、そして……
終わらない戦い
間奏<インテルメッツォ> 
決戦
四つの再会
覚醒する者達
心の迷宮
軌跡
エターナルメロディ
…… 04/01 更新
…… 04/08 更新
…… 04/15 更新
…… 04/22 更新
…… 04/29 更新
…… 05/06 更新
…… 05/13 更新
…… 05/20 更新
…… 05/27 更新
…… 06/03 更新
…… 06/10 更新
…… 06/17 更新
…… 06/24 更新
…… 07/01 更新
…… 07/08 更新
…… 07/15 更新
…… 07/22 更新
…… 08/05 更新
…… 08/12 更新
…… 08/19 更新
…… 08/26 更新
…… 09/02 更新
…… 09/09 更新
…… 09/16 更新
…… 09/23 更新
…… 09/30 更新

おまけ マリフォニQ&A



◆浮遊島の章◆


第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
第8話
第9話
第10話 
第11話
第12話
第13話
第14話
第15話
第16話
第17話
第18話
第19話
第20話
第21話
第22話
第23話
第24話
第25話
第26話
第27話
第28話
第29話
第30話
第31話
第32話
後日談
後日談
後日談
後日談
後日談
後日談
後日談
始まりはクラウンの名と共に
断ち切れない糸
情報局を目指せ
閉じられた心
開戦
ブリーカーボブスの戦い −陰謀−
ブリーカーボブスの戦い −因縁、そして邂逅− 
ブリーカーボブスの戦い −絆−
ブリーカーボブスの戦い −交錯−
ブリーカーボブスの戦い −本当の戦い−
ブリーカーボブスの戦い −輪踊曲《ロンド》−
亀裂
多重奏狂詩曲
運命のチェス・ゲーム
幻の島 −暴かれる心の扉−
幻の島 −遺されたもの−
幻の島 −微笑みの理由−
幻の島 −囚われた心−
幻の島 −生きる−
幻の島 −殺す−
幻の島 −名前のない通り−
カエデ、命を賭けた戦い
新たなる参戦者達
アート、狂気の果てに
集結
最後の試練
欠けた者、満ちる者
希望
絶望
チェック・メイト
終わりなき地獄
用意された幕切れ
エピソード.1
エピソード.2
エピソード.3
エピソード.4
エピソード.5
エピソード.6
ラストエピソード
…… 11/04 更新
…… 11/11 更新
…… 11/18 更新
…… 12/02 更新
…… 12/09 更新
…… 12/16 更新
…… 12/23 更新
…… 12/30 更新
…… 01/06 更新
…… 01/13 更新
…… 01/20 更新
…… 02/03 更新
…… 02/10 更新
…… 02/17 更新
…… 02/24 更新
…… 03/10 更新
…… 03/24 更新
…… 04/07 更新
…… 04/21 更新
…… 05/05 更新
…… 07/14 更新
…… 07/28 更新
…… 08/11 更新
…… 08/25 更新
…… 09/08 更新
…… 09/29 更新
…… 10/20 更新
…… 11/10 更新
…… 01/12 更新
…… 01/26 更新
…… 02/16 更新
…… 03/02 更新
…… 03/23 更新
…… 04/06 更新
…… 04/20 更新
…… 05/18 更新
…… 06/01 更新
…… 06/15 更新
…… 06/29 更新




イラスト



◆設定資料◆

ドールズ一覧
キャラクターデザイン
用語辞典




※お読みいただく際の注意点
 この作品では、構成や演出にTVアニメ的な手法を取り入れています。
 また、展開の早さと軽快さを重視して、描写を極めて簡略化しています。
 当ブログで公開している他の小説とは【別のもの】としてご覧いただければ幸いです。

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浮遊島の章 最終話

2011年06月29日 | マリオネット・シンフォニー
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 アイズは夢を見ていた。
 夢の中のアイズは、二十代の落ち着いた女性だった。
 瑞々しい芝生に鮮やかな花壇が彩りを添える、明るい広場。アイズは──その女性は、椅子に浅く腰かけて脚を組み、テーブルの向かい側に座っている男と話をしていた。

 ──私は、この二人を知っている。

「貴方は生命が何なのか、まだわかっていないわ。生命っていうのは、貴方が考えるような蛋白質の集合体じゃないのよ」
「では……蛋白質の集合体と生命の違いは何なんだい? 君は生物と非生物の違いを定義できるのか?」
「難しく考えるからいけないのよ」
 女性は手を上げると、筆を取るような仕草をした。
「例えば、『絵』と『絵の具の塊』がそうであるように。生物と非生物の間に明確な境界線はないわ。ただある一点を超えたとき、絵の具の塊は芸術になり、物質の塊は生命へと昇華する。私の力は、それをほんの少しだけ後押ししてあげるものなの」

 ──誰だっけ? すごく、よく知ってるはずなのに。

「だが……それでは科学にならない。君の力を解明できない」
 男が寂しげに呟く。
「解明するんじゃなくて、感じるの。大丈夫、貴方もそのうちわかるようになるわ」
「そうだろうか?」
「そうよ」
 女性は楽しげに微笑んだ。
「その時が、貴方の研究が完成するときなのかもね」

   *

「こら、お嬢様! ちゃんと起きて下さい!」
 アイズが目を覚ますと、ラトレイアが黒板の前に立っていた。
 周囲には机と椅子が並び、ルルドやカエデ、トトが一緒に授業を受けている。
「ああ、先生……今、夢を見てたよ。何だか不思議な夢」
「はいはい、そういうことは私の授業が終わってからにして下さいね」
「うん……でもね、先生」
 アイズは自分でもよくわからないまま、穏やかに微笑んでいた。
「何だかとっても懐かしい人に会えたような気がするの。それが誰なのかは、よくわからないんだけど……」
「……そのうち、その夢の意味がわかるといいですね」
 ラトレイアが表情を和らげる。
 アイズはにっこりと笑うと、「うん!」と頷いた。
「でもお勉強はちゃんとして下さいね! 遅れてますから!」
「うっ……はぁ〜い」


   /


 そこは小さな部屋だった。
 暖炉には火が入れられ、壁には古ぼけた絵がかけられている。
 簡素なベッドには幼い少女が横たわり、そのそばには長い髪の女性が腰掛けていた。
「ママ……ごめんなさい、あたし……」
『いいんですよ。貴女はよくやりました。立派な子です』
 女性が幼女の手を取る。
 幼女は幸せそうに微笑むと、安らかな表情で目を閉じた。
 間もなく、幼女が眠りに落ちる。
 同時に部屋は消え、辺りは闇に包まれた。
『今はゆっくりとお眠りなさい。私の可愛いエンデ』
 女性は──ロンドは小さく呟くと、闇の中で一人、何かを考え込んだ。
 ……と。

『元気ないわね、ロンド』

 少女の声がした。
 ロンドが振り向くと、何もない空間に一人、白いワンピースを身に纏った長い黒髪の少女が腰かけていた。
『貴女ですか……』
『エンデはしばらく動けそうにないわね。こっちもアミが動けなくなっちゃったし……この調子じゃ、計画の遅れは避けられなさそうね』
『それはありえません』
 ロンドは強い口調で言い切った。
『障害はすべて排除します。そのために……カミオがいるのですから』
『……へえ……』
 少女が楽しそうに目を細める。
『それじゃあ、私もスフィーダを出してあげるわ。カミオとスフィーダ……二人の新しい“代行者”に期待ね』
『そう……ですね』
 ロンドは虚ろな声で呟くと、ふと少女を見つめて言った。
『……どうしてでしょう。いつも貴女の名前が思い出せない。確かに知っているはずなのに』

 少女はクスリと笑うと、弾むように立ち上がって背を向けた。
『三輪って呼んでよ、水葉ちゃん。昔みたいにさ』
 少女は明るい笑い声を残すと、そのまま闇に溶けて消えた。

『……ミズハ?』
 ロンドがしばし考え込む。
 しかし再びエンデのほうを振り向いた時、ロンドは少女から聞いた名前も、その存在すらも忘れてしまっていた。
『エンデ……私の可愛いエンデ』


『ママは必ず、世界を救ってみせますからね……』




 〜後日談〜 ラストエピソード




 ───数年後。

 数多の仲間を得て祖国へと戻った少女の物語が、遠く海を隔てた地にまで届くようになった頃。
 フェルマータを二分する南北戦争の危機は、多くの人々に気づかぬままに回避された。

 世界に一時の平穏が訪れ、数ヶ月の後。
 これは、一人の青年が辿り着いた結末にして、始まりの物語。

   *

 フェルマータ中央部の平原地帯。
 この地で長年農業を営んできた老女は、作業の手を休めて一息ついた。
 作物を揺らす爽やかな風が、汗ばんだ肌を優しく撫でていく。
 腰に手を添えて軽く背筋を伸ばしていると、不意に、こちらに向かって歩いてくる大きな荷物を担いだ男の姿が目に入った。
 痩せた長身の青年は、老女の前に立ち止まると礼儀正しくお辞儀をし……背負った荷物の重さにバランスを崩し、盛大にこけた。
「いてててて……」
「あらあら、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
 青年が荷物の下から抜け出し、恥ずかしそうに笑う。
 まるで生きていた頃の息子の姿を見ているようだ。そんなことを思いながら、老女は汚れた青年の服を力強くはたいた。
「こんな辺鄙なところに人が来るなんて珍しいわね」
「あれ、連絡がありませんでしたか? 僕は新政府の土壌改善委員会から派遣されました調査員でして……」
「あらまあ、貴方が連絡があった人なのね。朝から部屋を用意していたんですよ、どうぞどうぞ」
 老女は青年の荷物の中から一番大きなものを勝手に持つと、家に向かって歩き出した。
 青年が残りの荷物をまとめて抱え、慌てて後に続く。
「……いい所ですね」
 辺りの景色に目を向け、青年が呟く。
 老女は、そうでしょう、と微笑んだ。
「亭主と息子と、3人で切り拓いた土地なんですよ。まあ、今は一人ですけどね」
「あ……」
 青年がはっとした顔をし、表情を曇らせる。
「……そうですか……」
「あらまあ、そんなに暗い顔をして。お役人さんが気にすることなんてないんですよ。もう十年以上も前のことなんですから」
「すみません……」
 青年が深々と頭を下げる。
 老女は苦笑し、それと共に、青年の純粋な心に触れて、久しく忘れていた何か大切な気持ちを取り戻すことができたような気分になった。
 そして、まだ名前を聞いていなかったことを思い出し、青年に尋ねた。
「貴方、お名前は何て仰るの?」

 青年は慌てて姿勢を正すと、明るく答えた。


「ネオ・イーリスです。ネイって呼んで下さい。どうぞよろしく」



浮遊島の章 −完−











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浮遊島の章 〜後日談〜 エピソード.6

2011年06月15日 | マリオネット・シンフォニー
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「うーん、どう考えても変ね」
 ブリーカーボブスの研究室にて。
 ケール博士は一人、モニタに向かって呟いていた。
「イマーニとナルニアのホログラム装置、確かにアタシが作ったものなのに、性能がまるで違う。プライスちゃんが手を加えた? ううん、アタシが最後にケラ・パストルに来てから彼がトトちゃんを連れて脱出するまで半年もない。時期的に考えても、トトちゃんと同時進行でここまでバージョンアップさせるなんてことは……」
 その時、研究室の扉が開いた。
 入ってきた者の姿に、ケール博士が思わず感嘆の声を上げる。
「まあ、アートちゃんじゃない!」
「取り込み中すまない」
「いいのよ! 何処か調子が悪いところでもあるの?」
 嬉々として迎え入れるケール博士。
 アートは少し気圧されながらも、研究室の片隅に設置されているカプセルに目を留めた。
「……あいつの調子はどうだ? まだ何か手伝うことがあれば……」
 途端、ケール博士の眼差しが穏やかなものになる。博士はカプセルの前まで歩み寄ると、軽く手を触れて「心配ないわ」と答えた。
「まだ長時間外に出ることはできないけれど、覚醒時間は徐々に長くなってきてる。これもアートちゃんが色々と手伝ってくれたおかげよ。ありがとう」
「礼など必要ない」
 アートはぶっきらぼうに言った。
「あの時、こいつが幻影で攻撃を逸らしてくれなければ、俺は死んでいた。借りは返す。ただそれだけだ」

「本当に、それだけなのかしらね?」
 研究室から出て行くアートの背中を見送って、ケール博士は優しくカプセルを撫でた。
「貴女はどう思う? イマーニ」

 と、アートと入れ替わりに、ルルドとカエデが研究室に入ってきた。
「ケールおばちゃん、イマーニと話をしていい?」
「おばちゃんじゃなくて、お姉さんよ!」
 ケール博士はカプセルから離れると、再びモニタの前に腰を下ろした。
「面会は一時間だけよ! まだ意識が安定していないんだからね!」
「わかってるって! それにラトレイア先生の授業まで一時間もないもん」
「え? ラトレイア……って?」
「アイズさんの家庭教師の方です」
 既に意識をイマーニに向けているルルドに代わり、カエデが律儀に答える。
「色んなことを教えてくれるんですよ。色々な国の文学とか、歴史とか、文化とか……ちょっと厳しい人なんですけど」
「まさか……ううん、そんなはずないわよね」
「? どうかしたんですか?」
「何でもないわ」
 ケール博士は笑って言った。
「昔の知り合いと同じ名前だな、って思ってね」
「カエデ、早く!」
「わかってるわよ! それよりルルド、ちゃんと“お姉さま”って呼びなさいよ!」
 楽しそうに騒ぐ二人を見ながら、ケール博士は苦笑した。
「ラトレイア、ねぇ……まあリードランスの生まれなら、あいつと同じ名前をつけられた子もいるだろうしね」



〜後日談〜 エピソード.6



「……いい天気ね」
 綺麗に晴れた空を見上げ、パティは大きく深呼吸した。
「久しぶりね、外の空気を吸ってのんびりするなんて」
 場所はブリーカーボブスの中庭。
 パティはカシミール、ジューヌと共に、備え付けのベンチに腰掛けていた。


「南部との話し合いは順調に進んでるみたいね」
「おかげさまでね。まあもっとも、正確には『オリバー提督との話し合い』だけれど」
 カシミールの問いに、パティは苦笑混じりに答えた。
 いかに提督の肩書きを持つとはいえ、オリバーは一人の軍人に過ぎない。ましてや南部独立解放軍が正規の軍隊でない以上、彼の公的な立場は『民間の自警団のまとめ役』程度のものでしかないのだ。本来ならば国どころか、一地方の行く末を協議する権限すら持ち合わせてはいない。
 そしてそれは、情報局長官であるパティとて同じこと。フェルマータ合衆国内に限れば大統領並の発言力を有していると称される彼女とて、一人で国を動かすような突出した権力など持ちうるはずもない。これまで二人の間で交わされた言葉、得られた了承には、何の法的効力もなければ責任も伴わないのである。
「それでも、彼との話し合いには大きな意義があるわ。政府と南部上層部との間に会談を設けるところまで辿り着くにはまだまだ時間がかかるだろうけど、それでも時間が足りないくらい。聞きたいことに言いたいこと、考えておきたいことが山程あるもの」
「言ってる内容はハードだけど、楽しそうねパティ。充実した顔をしてるわ」
「皆がサポートしてくれるからね。私はいい仲間に恵まれてるわ。ジューヌはどう?」
「私?」
 話題を振られ、ジューヌが「そうね〜」と腕を組む。
「まあまあ、かな。音楽教室の生徒も上達してきてるし……そうだ、今度発表会しようと思ってるのよ。都合のいい日があったらホール使わせてくれない?」
「いいわね。後でケイと相談してみるわ」

 ケラ・パストルでの一件が落ち着いて以来、ラトレイアの提案により、ブリーカーボブスでは様々な講座が開かれていた。立案者であるラトレイアの【国と歴史】を始めとして、ジューヌの【音楽教室】やモレロの【地質・土木学講座】、白蘭の【実戦における応急処置】、ナーの【気象天文学】など、個人が好き勝手に講座を開いている。
 一番人気はカシミールによる【磁場における空気振動が生み出すエネルギーとその利用法】──つまりは山脈の村に建てられた発電所の理論についての講座である。メルクの技術者が多数参加しており、特に男性の受講者が多い。
 続く二番人気は【バジルのエレガントな戦略論】──直接戦闘に携わる人数は少ないはずのメルクにありながら、何故か常に活気に溢れており、特に女性の受講者が多いという。

「ルルドちゃんはどう?」
「あの子は凄いわ。流石にアインスとフジノの子供ね。天性のセンスと勘を持ってる。その分、少し気難しくて、基礎を疎かにするところがあるけれど」
「そうね、あの子は感情的になると本当に怖い」
 とカシミール。
「でもルルドは頭のいい子だから、すぐに自分をコントロールしようとするのよ。我侭になりすぎるのは良くないけれど、昔のように完全に自分を押し殺してしまうのも良くないし……難しいわ」
「凄いわね、二人とも。私なんて、アインスの子供だっていうだけで気を遣ってしまうのに」
「パティはアインスにこだわりすぎよ」
 とジューヌ。
「ルルドはルルド。私達にできることは、あの子が持つ素晴らしい可能性を、真っ直ぐに伸ばしてあげることだけ」
「そうか……どうも私はそういうのは苦手だな」

 しばらくの後、スケアが建物の方からカシミールを呼んだ。
「あ、スケア」
「そう言えば、そろそろスケアの【精霊魔法入門】の時間だったわね。カシミールも手伝うの?」
「ええ。それじゃ、パティ」
「私も行ってみようかな、暇だし」
「いってらっしゃい、二人とも」
 中庭から建物に戻っていく二人を見送り、パティは一人、ベンチの上で伸びをした。
「さてと、どうしようかな? 仕事が趣味だと暇なときに困るわね」

   /

「ああ、こちらにいらっしゃったのですか」
「え?」
 少し後。
 声をかけられて振り向くと、そこにはオリバーの姿があった。
「オリバー君。どうしたの? この後は会談の予定はなかったはずだけど……あれ、覚え間違いをしてたかしら」
「ああいえ、そうじゃなくて、ですね。その、実は前から言おうと思っていたことがありまして」
 オリバーは気まずそうに頭を掻いていたが、やがて思い切ったように頭を下げた。
「ケラ・パストルでは失礼なことばかり言って、本当に申し訳ありませんでした。実は俺、メルクのシステムにはずっと前から興味があって……今回の件が落ち着いたら、大学でメルクについて勉強し直そうと思ってるんです。えっと、特に基本システムの第三項なんか素晴らしいと思います」
 それだけ言うと、オリバーは顔を赤らめ、そそくさと姿を消した。
「第三項……って、あれはアインスの原案に私が付け加えた……」
 呆気に取られたまま、呆然と呟くパティ。
「何だパティ、こんな所にいたのか」
 と、ケイがやってきて隣に腰を下ろした。
「いい加減会議ばかりで疲れただろう。大丈夫かい? ところで、今オリバーが真っ赤な顔して走っていったんだが、どうかしたのか?」
「……あ、ケイ」
 パティは思わず相好を崩した。
「ねえケイ、人生って本当に捨てたものじゃないわね」
「??? いきなりどうしたんだ?」
 バティは立ち上がると、ケイの肩をバンバンと叩いた。
「ねえケイ、今度休暇でもとって何処かに行かない? そうね、若くて可愛い子がいっぱいいる所がいいな!」
「それなら僕は家で寝るほうが……」
「だーめよ! ケイ! そんな年寄り臭いこと言ってちゃ! ねえ、思うんだけどね。人の人生って四季みたいなものだって言うじゃない?」
「はあ」
「普通は子供時代が春よね。でも私たちの子供のときって、互いにいいことなかったじゃない。だからあれが冬なのよ」
「冬?」
「そう! だからメルクを作って、ここまでが人生の春なんじゃないかな」
「……そうなのかな」
「そうなのよ!」
 パティはグッと拳を握り締めた。
「私達の夏はこれからよケイ、やっと迎えた季節なんだから思い切り楽しまなきゃ損よ! そして皆で実りの秋を迎えるの!」
 ケイはよくわからなかったが、パティが楽しそうだからいいか、と思った。
「そうだね、バティ。よくわからないけど……たまにはそういうのもいいかな」
「そうこなくっちゃ!」

「でも、やっぱり家で寝たい……」
「ダメ! 命令よ!」











次回、6月29日更新予定
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ノロわれました

2011年06月06日 | Weblog
 起き抜けに嘔吐して会社を欠勤。
 身体に鞭打って消化器科に出向いたところ、ノロウィルスに感染している可能性が高いとの診断を受けました。
 感染力が極めて高いウィルスであるため、会社と相談した結果、完治するまで自宅療養することに。

 試用期間中だというのに……復帰したら席がなくなってたりしなければいいのですが。
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浮遊島の章 〜後日談〜 エピソード.5

2011年06月01日 | マリオネット・シンフォニー
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 レムは夢を見ていた。
 炎と雷に襲われる夢。皮膚が焦げ、髪が燃え落ち、身体が崩れていく夢を。

「────っ!!」

 言葉にならない叫び声と共に、悪夢の檻から意識が逃れる。
 重い身体をぐったりと横たえたまま荒い息を吐いていると、不意に廊下から慌しい足音が聞こえてきた。
「大丈夫か、レム!」
 間もなく寝室の扉が乱暴に開き、血相を変えたバジルが飛び込んできた。
 油断なく部屋の隅々まで見渡した後、安堵の溜息と共に寝台の側へとやってくる。
「……ひどい汗だ」
 バジルは懐からハンカチを取り出すと、レムの額をそっと拭った。
「ありがとう……ございます」
 レムは震える声で礼を言うと、バジルの手を握り締めた。そのまま自身の胸に寄せ、抱き締める。
「レム?」
「少し……このままでいさせて下さい」
 バジルは少し躊躇した顔を見せたが、レムに手を預けたまま寝台に腰掛けた。
「どうかしたのか」

 レムはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げ、ささやくように懇願した。

「──バジル。カルル姉様のところに、連れて行って頂けませんか」



〜後日談〜 エピソード.5



 数分後。
 バジルはレムの車椅子を押して、薄暗い通路を進んでいた。
「大丈夫なのか、レム。最近ずっと無理をしていただろう?」
「いえ……研究所での戦いで、アイズさんと力を同調させて以来、身体の調子はとてもいいんです。もしかしたら、私も生命力を分けて貰ったのかもしれません」
 レムは明るく喋っていたが、不意に声のトーンを落とし、呟いた。
「貴方もご存知でしょう? バジル。私の身体が、実際には何処も悪くないということを。本当は歩くことも、走ることだってできるということを……」
「……まあね。ケール博士の技術は完璧だよ。現に俺の右腕だって二年前に一度吹っ飛んだけど、今じゃそんなことがあったってことさえ忘れてるくらいだ。あの新型君の手足も、あっという間に接合してのけたからな」
「私の身体が動かないのは、能力からくる負担だけが原因ではありません。きっと、私が心を閉じてしまっているから……」
 レムは言葉を切ると、顔を上げてバジルに微笑みかけた。
「前に、私にも罪がある……と言いましたよね」
「……ああ。そんなことも言っていたな」
 研究所での戦いが終わって間もなく。
 トゥリートップホテルの船で開かれたパーティーの席で、レムが零した言葉を思い出す。
「私とカルル姉様は、リードランスを脱出して間もなくフロイド企業に就職しました。当時のフェルマータでも大手の化学・鉄鋼企業でしたから、私達の能力を存分に発揮することができるだろうと、そう考えたのです。ですが、その実態はひどいものでした。劣悪な労働環境と杜撰な管理体制、腐りきった体質……彼らは自分よりも優る者を嫉み、疎んじ、私や姉の存在を認めようとはしませんでした」
「そのことは聞いているよ。フロイドはメルクの提唱する新しい形態の企業とは対極に位置する存在だった。環境のことなど考えず、ただ企業の経済的な利益のみを追求する……確か、例のフロイド企業事故が原因で潰れたおかげで、フェルマータでは環境保全運動が活発になったんだよな?」
 進む先に一つの扉が現れる。
 バジルは歩みを止めると、車椅子の前に移動して扉を開けた。



「……私が起こしました」



「なん……だって?」
 バジルが振り向くよりも早く、レムは自分で車椅子を動かして部屋に入った。
 部屋の中は薄暗く、幾つも並べられた医療タンクの一つ、カルルが入れられたものだけが淡い光を放っている。
 レムは更に進むと、未だ目覚めぬカルルの頬を撫でるように、医療タンクの表面にそっと手を触れた。
「フロイド企業の社長には、一人の息子がいました」
 レムの声色が変わる。
 それはバジルが今までに聞いたこともないほどに冷たく、怒りを秘めた声だった。
「最低の男。実務能力も管理能力もないくせに、ただ社長の息子だというだけで役職についているような男でした。権力にものを言わせて幾人もの従業員を弄び、いつも誰かを泣かせていました……そして、その男は……私達にも目をつけたのです」
 レムの瞳が大きく見開かれ、握り締められた掌に爪が喰い込む。
「吐き気がします! あの男は私達を……この私達をですよ! 新しく自分に与えられた、都合のいいお人形か何かのように考えていた! 人間ではない者など、どう扱ってもいいと!」
「……レム」
 バジルがレムの肩に手を置く。
 レムは一瞬ビクリと硬直したが、バジルの手に自らの手を重ねて話を続けた。
「勿論、私はあんな男に指一本触れさせはしませんでした。私は自分の力を活かし、より効率的に、より完璧に仕事をやり遂げることだけを考えていました。そのために何度企業の方針と衝突したかわかりません。でも……姉様は」
 レムの声から力が消える。
「姉様は優しすぎました。いつも周りのすべての人々のことを考え、どんな状況にも耐え、すべてを収めようとしました。そして、あの男と……っ」
 声が震え、言葉に詰まる。
 やがて、レムは自嘲気味に微笑んだ。
「後から聞いた話ですが……それは私への風当たりを弱くすることが条件だったそうです……」
 レムの目から涙がこぼれ、口調が再び強くなる。
「私は許せなかった! 私達の能力を認めず、姉様を汚したあの男とあの企業が! 私は……!」
 バジルの手に重ねられたレムの手に、震えるほどの力が込められる。
「私は、姉様のように耐える気はまったくありませんでした……」

 歌うように、レムは語った。
 己の復讐劇。
 その準備に費やした日々のことを、計画の全貌を。
 そして、最後の引き金を引いた夜のことを。

「──その夜。私は工場のシステムを誤作動させました。ほんの少し……本当に、ほんの少しです。もしもあの企業が私の提案した管理システムを採用していれば、事故は未然に防げたでしょうね……くくっ……あははははは……!」
 レムは笑った。
 何故こんなに可笑しいのか、自分でもわからない。
 ただ、とても愉快だった。後から後から笑いが込み上げてくる。
 やがて、そのすべてを吐き出し、レムは小さく呟いた。
「計画はうまく行きました……但し致命的なミスが二つ。一つは、事故の規模が予想外に大きくなってしまったこと。私は、上層部に巣食う害虫どもさえ駆除してしまえば、後は管理体制の甘さを世に知らしめることができればそれでよかった。ところが、発生してすぐに消し止められるはずだった炎が、企業が不法に隠し持っていた残留毒性の高い固形燃料に引火……史上最悪の事故へと発展してしまいました。
 そして、もう一つは……火災に巻き込まれ、逃げ遅れた人々を助けるために、姉様が火災の中心へと戻っていったことです。あそこには……私が誘導して一箇所に集めた、上層部の連中がいました。そして、あの男も」
 レムは医療タンクに額を当て、掠れる声で呟いた。
「……姉様……お願いですから、あの男を愛していたなんて言わないで下さいね……」

「レム……」
 バジルが自身の手に添えられたレムの手を、もう一方の手で包み込む。
「わかりますか、バジル……これが私の本性なんです。自分のプライドのためならば、平気で他人を傷つける。姉様さえも……私は……私は、目的のためならば手段を選びません! いつかバジル、貴方さえも犠牲に……!」
「レム!」
 バジルはレムを抱き締めた。
 レムの瞳から、大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
「友達なんだろ? 俺達はさ。……ケラ・パストルでヴィナスって奴に言われたよ。いくら罪滅ぼしをしたつもりでも、俺は決して救われない。一生殺し合いを続けるしかないってね……確かにそうだと思う。俺や君の中には手のつけられない怪物がいる。でも俺達は、そいつに従う生き方をやめたじゃないか。それでもより良い方向を目指して歩いていこうと、そう誓ったじゃないか」
「昔の私は、自分は選ばれた存在だと思っていました。お父様から授かったこの能力さえあれば一人で生きて行けると、信じていました。ですが、実際には何もできない……」
「一人じゃ無理でも二人なら行けるさ。君が道を間違えそうになったら、俺が必ず止めてみせる。君も俺が違う方向に走っていきそうになったら止めてくれ。それが友達ってもんだろう?」
「そう……ですね……」
 レムは頬を拭い、微笑んだ。
「友達って、いいものですね」

「さて。君が身体を自由に動かすことができないのは、心を閉ざしてしまっているからだ」
 バジルはレムを車椅子から抱え上げると、部屋の中にある診療台に運んだ。
「君は自分のために傷ついたカルル君のことを気にかけている。彼女より先に完全な身体を取り戻すことが怖い。そんなことは許されないと思っている……だから自分で自分の身体を動けなくしている。そんなところだろ?」
「……バジル?」
 レムが不思議そうな顔でバジルを見上げる。
 バジルはニヤリと笑って言った。
「友達として、君にキスさせてくれないかな? 更にもう一時間、俺に時間をくれたら、きっと身体が動いたほうがいいと君に思わせてあげられるよ」
 きょとんとしたレムが、やがて意を解して苦笑する。
「バジル、貴方って本当に女ったらしですね」
「やっとわかったのかい? ベイビー」

 二人は互いの顔を見つめあい、やがて我慢できなくなり、どちらからともなく声を上げて笑い始めた。

「いいんですか? オードリーに知れたら大変ですよ?」
「なぁに、バレなきゃいいのさ。これは君のやり方だろう?」
「もう、ひどい言い方……えっ?」
 不意に聞こえてきた小さな音に、レムが驚いて顔を向ける。
 その先には、カルルの医療タンクを制御するパネルが。光と音で、患者の意識が戻ったことを知らせていた。
「ね……姉様!」
 レムが跳ね起き、タンクにすがりつく。
 その彼女の目の前で、カルルは、ゆっくりと目を開いた。

(……レム? 貴女なの?)

 カルルの口がゆっくりと動く。
「そうです、レムです! 良かった……! 見て下さいバジル、姉様が……!」
「あー、そのだな……レム? 言うと悪いような気もするんだが……君、自分の足で立ってるよ?」
「え……あっ?」
 レムが驚いてタンクから手を離した途端、バランスを崩して倒れかける。
 その身体を後ろから支えると、バジルは微笑み、優しくささやいた。
「大丈夫だ。いつかきっと、すべてがうまくいくよ」

 淡く輝く医療タンクの中で、カルルが優しく微笑む。


 レムも溢れ出る涙を拭うと、心から幸せそうに微笑んだ。











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