しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

聖者の行進 アイザック・アシモフ著 池 央耿訳 創元推理文庫

2014-01-29 | 海外SF
本年第3段も年末実家から持ってかえってきた本書を読みました。
これまた小中学生のころ愛読した本です。

本書11編の中短編を収載していますが、「バイセンテニアル・マン」(映画にもなったアンドリューNDR114の原作ですね)のイメージが強くロボットものの作品集のイメージがあったのですが、ロボットものは「女の直感」「心にかけられたる者」「バイセンテニアル・マン」「三百年祭事件」の4編しかありませんでした。

またスーザン・カルビン女史が登場していた記憶があったので、比較的初期の作品集なイメージでしたが70年代に書かれた作品をまとめて76年に発刊されていたものでした
(原書の表題作「バイセンテニアル・マン」は76年)
記憶というのは怪しいものですね。

この頃以降のアシモフの他の短編集と同様、アシモフ自身による作品成立経緯など簡単な紹介文付となっています。
これも記憶になかった….。

内容(扉記載)
アンドリュウの彫った木のペンダントは芸術の域に達するほどのものだった。 だが、彼はロボットなのだ・・・・・・USロボット社が彼を作った頃は、地球上にほとんど数えるほどのロボットしかいなかった。まだ実験段階にあったポジトロン頭脳が、およそロボット離れした才能を彼に付与したのだった。やがて彼は“人間”への道を歩みはじめる。法的自由を求め、衣服を求め、そして人間と寸分もたがわぬ体(ボディ)を求めたロボットが人間となるために最後に求めたものは? 表題作ほか11篇、巨匠アシモフの最新短編集。

とりあえずの感想「良くも悪くもアシモフらしい短編集」
アシモフ作品は一昨年かなり集中して読んだので、全体的に新鮮味がなく「いかにもアシモフ」だなぁという感想になってしまいました。
そういう意味では、「がっくり」したというのが正直な感想ではあります。

小六か中一位で初めて読んだとき「バイセンテニアル・マン」読了後しばらくボーとして「こんなSFもあるんだ・・・」と感動に打ち震えた記憶があるのでちょっとさびしいですが…。

でも40代で今回読んだ「バイセンテニアル・マン」も「ちょっとベタだなぁ」とも思いましたがサー、リトルミスとの死別、最後辺りは思わず涙腺が緩みました….。

この作品集では「バイセンテニアル・マン」が飛びぬけた出来で、あとは「まぁそれなり」というように感じました。
アシモフの短編は他にもいえますが、結構当たり外れがある気がします。
結構適当に書いてるんだろうなぁ・・・・・。

解説でその辺の事情がちらりと書いてあり、本人は確信犯だったようです。
それだけに時々出てくる「バインセンテニアル・マン」のような「大当たり」作品を手にした編集者は原稿貰った時うれしいだろうなぁなどというようなことを思ったりしました。

そうはいいながらも「バイセンテニアル・マン」以外もロボットものはそれなりに力作で楽しめるとは思います。
また軽い感じですが「マルチバックの生涯とその時代」もアシモフらしいユーモア精神あふれて好きな作品です。

各編紹介と感想など。

○女の直感 Feminine Intuition
隕石で破壊された直感的にものを考えるように作られた「女性」ロボットが見つけた事実は....?
スーザン・カルヴィン最後の事件。

典型的な(?)陽電子ロボットもの、ミステリー仕立てで楽しめる作品です。
最後にカルヴィン女史が出てくるのは「名探偵登場」という感じで「おっ」となります。
でも最初に飛行機が隕石で破壊されたことについて思わせぶりな「ふり」をしていたのに、謎解きがなかったのが気になりました。

○ウォータークラップ Waterclap
 月世界から深海に来た男の目的は?

「科学者」アシモフらしい作品だと思いますが、消化しきれていないような気がしました。

○心にかけられたる者 That Thou Art Mindful of Him
人間について考え続けたロボットの出した結論は...。

人間がロボットを恐れる対策をロボットに考えさせていく過程は楽しく、その中で「人間」について考えだしてしまうという話ですが、最後の部分はちょっと書きすぎかなぁと感じました。
この作品「ある意味アシモフのロボットものの究極」と言われているようですが、この辺の発想が後のロボットものと銀河帝国ものとの統合につながっていくことは感じられます。

○天国の異邦人 Stranger in Paradise
同じ父、母での兄弟が非常に珍しい未来で顔のそっくりな科学者兄弟は…。

この作品もロボットものに分類してもいいような気もしますがミステリ仕立てではありません。
「兄弟」で何かを成し遂げるという内容は、「ガニメデのクリスマス」収載の「遺伝」(1940年執筆)の焼き直しといっていいい内容。
その辺のイメージがあり「兄弟だからどうした?」という思いが頭から消えずどうも楽しめませんでした。
「前世紀の遺物」「三百年祭事件」でも同じテーマの作品を書きなおした的なことをアシモフ本人が書いていましたのでこの作品も意図的かもしれませんね。

○マルチバックの生涯とその時代 The Life and Times of Multivac
マルチバック反対運動者から孤立してしまった男の成し遂げたことは….。

「小品」といっていい作品で軽く、筋・オチも大体読める作品ですが….。
なんだかツボにはまりました。
人間ってこんな所ありますよねぇ「ほんとにやっちゃったのぉ」という感じ。

○篩い分け The Winnowing
博士が発明した物質は人それぞれ異なる細胞膜機構に作用できる仕組み。
国家は人工飽和状態の世界でそれを活用しようとするが…。

これも短く力が入っていない感じですが、最後博士がキレてしまう所が結構好きです。

○バイセンテニアル・マン The Bicentennial Man
ロボット、アンドリュー・マーチンは木彫りに芸術的才能を示し、その他にもロボットばなれした能力をもち人間化していくが最後は…。

12年ローカス誌オールタイムベスト中編部門第4位のSF史上に残る名作です。

前述しましたが、結構ベタベタな作品で、「アンクル・トム」的なありがちな話ではあります。
ロボットの「人権」は「鉄腕アトム」で手塚治虫が書いているテーマでもあります。
(多分アトムの方が先)
本当にありがちな話だとは思うのですが.....。
要所要所で涙が出そうになりました。
こういう話弱いんですよねぇ。

他の雑誌向けに書かれた本作を読んだ女性編集者は「この作品を嫌いになろうと努力したがどうしてもできなかった」そうです。
アメリカ建国200年記念のアンソロジーのために軽く書いた作品のようですが、ノッたんでしょうね…「アシモフ」時々ものすごい作品が出てきます。

○聖者の行進 Marching In
精神病医からトロンボーン奏者・作曲家が相談を受け音楽を作ることに。

なるほどねぇ…。という作品

○前世紀の遺物 Old-fashioned
小惑星帯で事故にあった二人の男が助けを求める通信手段は….。

作者によると37年前に書いた「ヴェスタの遭難」=「真空漂流」(「アシモフのミステリ世界」収載から宇宙観がどれだけ変化したかを見せたくて同じような状況を書いたとのこと。
アシモフらしいお遊びですが、まぁ作品の出来はそれなりです。

○三百年祭事件 The Tercentenary Incident
建国300年祭りで握手していた大統領が白煙化して消えてしまった….。

これも作者いわく30年前の「証拠」(「わたしはロボット」収載)と同様の主題で書いたとのこと。
「証拠」より手慣れている感じですが、前作の方が緊張感があって…。
でもまぁアシモフ氏いわく「進歩したと思われない限り手紙は下さいませんように」とのことなのでやめておきましょう。(笑)

○発想の誕生 Birth of a Notion
SF愛読者の物理学者は発明したタイムマシンで遡るが、知能が後退してしまいそこで出会った人物は….。

これも小品です。
「SFファン」が知能が後退しても「SFファン」なところが笑えます。

解説で興味深い話が書いてあったのでご紹介。

アシモフは評論などで作品に「自分のスタイルがない」「深みがない」と批判されていて、また一部で「そんなことはなく実は深い意味がある」と反論している意見がることに対し
アモフ自身の自己分析してこんなことを書いています。

1.あまりにも多作であること
いっぱい書いているのに「どうして物語に深みや複雑さを付け加える深遠で複雑な思想にふける時間があろう。」だそうです。

2.あまりにも若かった
最初のロボットものを書いたのが19歳、「夜来る」を書いたのが20歳、「銀河帝国の興亡」を書き始めたのが21歳。
「そのような若さと環境でどうして繊細さなどが生まれよう。」

3.あまりも無知であること
「経済、心理学、社会学、音楽、美術、現代文学などについては何も知らない」

ので作者が意図して隠された意味とか深い意味など書いていないといっています。
これだけだと開き直りとも取れますが…。(笑)

さらに、「たとえ作者が気づいていなくても読者の方には読み取ることのできる」といっています。
(作者も気が付かなかった効果を指摘され「なるほど」と思うことがあるそうです)

1.多作について
「才能を持っているのではなくて、才能に私が所有されて」「私の中の守護神がいて」「守護神が微妙さや複雑さを付け加えているのかもしれない」

2.若さについて
11歳からものを書いていて最初からいつでも物語の語り方だけは知っていた。

3.無知
完全な無知ということはなくいろんなものを読み、抜群の記憶力があれば聞きかじりでなんとかなる。「心理歴史学」など。

ということで、アシモフはあくまで「おもしろい話を書こうとつとめ」「深い意味付けや印象的な微妙さなどは意図的に追わないようにして」「物語ることを忘れたりすることは絶対に起こって欲しくない」そうです。

アシモフの論理的で明瞭な作風を考えるとよくわかる話のような気がします。
それでアシモフ作品はときどき「守護神」が降りてきて「すごい!」作品が出てくる。

ハインラインのように「政治だ!」「宗教だ!」と力いっぱい語られるより好きかもしれない…。

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