しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

アシモフのミステリ世界 アイザック・アシモフ著 小尾 芙佐・他訳 ハヤカワ文庫

2013-02-08 | 海外SF
この本は「アシモフ初期短編集」と同じ頃(数年前)ブックオフで見かけて購入。
105円だったので「得した」と思った記憶があります。

105円だけに外観は今一つですが...。

今回のアシモフ読み直しの流れでやっと読めました。
この前に「鏡の影」「日蝕」と若干重めのものを読んでいたので、気楽な(失礼か?)アシモフ博士の作品楽しめました。

内容(裏表紙記載)
月面上で前代未聞の殺人事件が発生した。月世界植民地が建設されてから50年、交通手段の限られた月でわざわざ殺人を犯す者などいなかったというのに。しかも、間違いなく犯人である容疑者には崩すに崩せぬアリバイが・・・・・・「歌う鐘」をはじめ、地球や宇宙空間で起こる難事件を自室から一歩も出ずに解決する地球外環境学者アース博士の活躍を描く連作短編や、デビュー作の「真空漂流」を含む傑作SFミステリ13編を収録!

例によって寄せ集め短編集の感はあるので玉石混交という感じですが、「石」でもきれいな石という感じで全編楽しめました。
わざわざ「ミステリ」としていますが、アシモフ作品は謎解き要素が強い作品が多いので、まぁ普通にアシモフ作品を堪能するということで読めます。
構成としてはこの本もアシモフの一言が各編に添えられているのでそれも楽しめます。

例によって各編感想など。
○歌う鐘-福島 正実訳
 裏表紙記載の月面での殺人事件のお話です。
 この本の目玉である「アース博士」シリーズ第一作です。
 地球外環境学者なのに乗り物が大嫌いで、家の周り以外には殆ど出かけないという、乗り物嫌い、閉所愛好家のアシモフ本人の理想を体現したような人物設定です。
 アリバイ造りは凝っていますが、謎解きは「これでいいのか?」とは感じました。

○もの言う石-田中 融二訳
 エイリアンものかつアース博士もの。
 アシモフの科学エッセイで「シリコン生命体」の可能性を読んだことを思い出しました。
これも謎解き部分のキレは今一かと思いますがシリコン生命体とその展開がアシモフ作品らしい理屈付けで楽しめます。

○その名はバイルシュタイン
 アシモフ本人も言っているように、いわゆる「SF」ではないですが、化学者であるアシモフのいたずら心が楽しめる作品です。
タイトルそのままの結末です。
いたずら心を楽しむにはいい作品です。

○やがて明ける夜-田中 融二訳
アース博士もの。
アシモフ本人のコメントから見ると、ロボットの時代収載の「校正」を書いた辺りの作品。
登場人物の心理がいろいろ書かれ「誰が犯人なんだろう?」という展開を楽しめる作品です。
謎ときはアース博士ものを何作か読んでこの作品を読むと途中で想像がつきます。
科学の進歩で成り立たなくなっている謎解きですが...、前提条件は作中にきちんと書かれているので作者いわく「細かいこと言わないでー」とのことです。

○金の卵を産むがちょう-深町 眞理子訳
タイトルそのままの作品です。
アシモフ版錬金術のお話。
科学的遊び心とSFに対する暖かな愛が伝わってくる作品です。
「鏡の影」「日蝕」の後なのでこの作品が一番ツボにはまりました。
同じ錬金術を扱っていてもある意味一番この作品が「人間」を書いているような気がしました。

○死の塵-浅倉 久志訳
本人いわく、最初はアースもので書こうとした作品。
パターンとトリックはアース博士ものを踏襲している感じ。
よくまぁ同じパターンでマニアックなトリックが出るものだと感心します。
なんだか研究所の実験室にいる気になる作品です。
研究者の描き方がアシモフらしいです。

○ヒルダ抜きでマーズポートに-福島 正実訳
本人いわくジェームス・ボンドもどきの作品。
確かに007もののパロディという感じもする内容です。
(書く前に読んではいないといっていましたが)
編集者に「ラブ・シーンを書くのが苦手」と言われてSF恋愛小説として書いたようですが、恋愛小説としてはどうかなぁ...。
ミステリとしても「???」ですが軽やかな仕上がりが楽しめます。

○真空漂流-風見 潤訳
著者デビュー作(最初に商業誌に掲載されたという意味で)この作品自体はミステリーという感じはしませんでした。
その20年後を(デビュー20周年として書いた)次の「記念日」と合わせて読むとミステリー仕立てになるというお話。
デビュー作だけに冗長な部分がありますが、その部分が次作の伏線になるという凝った仕掛けです。

○記念日-風見 潤訳
前述のとおり真空漂流のメンバーが20年後に集まり、ある謎を解くというもの。
真剣過ぎない軽い仕上がりです。

○死亡記事-田中 融二訳
アガサ・クリスティ風に感じました。
最初から犯行を告白しているのですが、いかにもSF的トリックが楽しめます。

○スター・ライト-風見 潤訳
ショート・ショート風です。
本人いわく「歌う鐘」と似た展開。
言われてみればそうですねという感じ。
これまた大がかりなトリックというかオチです。

○鍵-小尾 芙佐訳
アース博士シリーズ4作目、3作目から10年後に書かれたとのこと。
(作中の設定はそのままです)
アシモフの筆もこなれており、アース博士登場までの仕立てはかなり重くハードな「読ませる」SFになっていますが、アース博士登場後は「あれっ」という程軽い展開になっています。
その辺がひっかけにもなっています。
アシモフはかなり楽しんで書いたんだろうなーというのがわかる作品です。

○反重力ビリヤード-深町 眞理子訳
本人いわく一般相対性理論とミステリを結びつけたのはこの作品くらいだろうとのこと。
この作品集を通じて随所に見られる、ハードSFぶり・科学者心理の描写・軽妙なラストが見事に融合しています。
ビリヤードと相対性理論をこう結びつけるとは....、圧巻です。
いかにもアシモフらしい作品の名作だと思います。

○解説及びアシモフコメント訳-風見 潤

全編通しての感想、この作品集の目玉である「アース博士もの」は執筆年代順に収録されているのだと思いますが、編を追うごとにアシモフの成長が見えて楽しめます。

「金の卵を産むがちょう」が私的にはつぼにはまりましたが、最後の2編「鍵」と「反重力ビリヤード」はアシモフの作品の短編の中でもかなりの出来ではないかと感じました。

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