shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Continent Bleu / Clementine

2010-05-30 | World Music
 2002年のアルバム「30℃」以降はすっかり “オシャレ系フレンチ・ポップス” 路線が定着した感のあるクレモンティーヌだが、それ以前の彼女はライト感覚のジャズやボッサを取り上げた盤が多かった。特にデビューから90年代中盤までの彼女はジャジーな盤を次々とリリースしており、ベン・シドラン・プロデュースの「スプレッド・ユア・ウイングス」、「パリス・ウォーク」、「ソリータ」を始め、ジョニー・グリフィンをゲストに迎えた「コンティノン・ブルー」、ケニー・ドリュー・トリオと競演した「メ・ニュイ・メ・ジュール」、そして2000年以降でははアンリ・ルノー監修による「リル・ダーリン」など、かなりの数のジャズ・アルバムを出している。個人的には愛聴曲満載の「ソリータ」が断トツに好きなのだが、一番有名で世評も高いのは多分「コンティノン・ブルー」だろう。
 彼女のヴォーカルは強い吸引力で聴く者をグイグイと引きつけながらスイングするタイプではない。ジャズを歌う時はその柔らかい声質でアンニュイなムードを醸し出し、ヴォーカルをも含めたサウンド全体の雰囲気で勝負するスタイルだ。だから旋律が薄味だと私のような “曲聴き派” はちょっとツライものがある。
 私はジャズのスタンダード・ナンバーで “コレが入ってたら買う” レベルの愛聴曲が160曲ほどあるのだが、この盤にはそれらが1曲も入ってない。辛うじて②「イージー・リヴィング」と⑫「ガール・トーク」が “そこそこ好き” レベルで、マイルスの⑦「オール・ブルース」やコルトレーンの⑭「ジャイアント・ステップス」のようないわゆるひとつの “モード曲” はハッキリ言って苦手である。モードってどちらかというと “リスナーが聴くための曲” ではなく、 “ミュージシャンが演奏するための曲” という感じがして全然楽しめないのだ。
 しかしどんなに疎遠な曲だらけに見えても彼女のアルバムには “未知の名曲” が潜んでいることが多い。このアルバムにもそんな宝物のような曲があった。アントニオ・カルロス・ジョビンの④「オウトラ・ヴェズ」である。ボッサ・ファンの方には有名な曲なのかもしれないが、ボサノヴァをほとんど知らない私にとっては新鮮な出会いであり、この1曲が入っているだけで十分満足、と言いたくなる軽快なメロディーがめっちゃクールでカッコイイ(^o^)丿 名曲は名演を生む、の言葉通りのウキウキするようなグリフィンのテナー・ソロも絶品だ。
 このように、このアルバムのもう一つの魅力はバックのインストの素晴らしさにある。テナー・サックスの大御所ジョニー・グリフィンとピアノのパトリス・ガラスを中心に、ジミー・ウッディ(ベース) & ベン・ライリー(ドラムス)とニールス・ペデルセン(ベース & ボビー・ダーハム(ドラムス)という別のリズム・セクションを起用した2つのセッションでレコーディングされたこのアルバムは、時には主役のクレモンティーヌが霞んでしまうぐらい見事な演奏が楽しめるのだ。
 中でも弾むようにスイングする③「ライン・フォー・リヨン」(←“ライオンズ” っていう誤表記が多いけど、サファリ・パークじゃあるまいし...笑)なんかノリノリやし、スローに迫る②「イージー・リヴィング」も瀟洒なブラッシュに絶妙なピアノのオブリガート、歌心溢れるテナーに彼女の脱力系ウィスパー・ヴォイスが絡み合いってジャジーなムードが横溢しており、私的にはこの曲の名演トップ3に入れたい素晴らしさ。他のトラックもアンニュイで洗練された彼女の世界が展開されており、青緑色のタイトル文字が映えるシックなジャケット(←躍動感を感じさせる彼女の不思議なポーズが印象的だ...)と相まって、彼女を語る上で欠かせない1枚になっている。
 青山あたりのオシャレなカフェで流れていそうな(←あくまでもイメージです...笑)このアルバム、強烈なインパクトを持ったトラックが無い分、小音量で BGM として軽く聴き流すのにはかえって最適な1枚と言えるかもしれない。尚、この「コンティノン・ブルー」はソニーお得意の DSD マスタリングで高音質化された2000年の再発盤(SRCS-9628)の方が1989年に出た初盤(CSCS-5026)よりも断然狙い目だ。

オウトラ・ヴェズ

Soleil / Clementine

2010-05-29 | World Music
 私は CCCD (コピー・コントロールCD)が大嫌いで、このブログでも “アホバカCCCD” とか “ゴミ同然” とか言って徹底的にコキおろしてきたが、CDプレイヤーのピックアップ部を痛めて故障を引き起こすのだからゴミどころか有害物質扱いが妥当だろう。ビニールに貼ってあるシールには細かい字で “これはは音楽CD規格に準拠していない特殊ディスクで、音響機器での動作・音質を保証できません。再生できた場合でも、音響機器の寿命を縮める可能性があります。再生できなかった場合でも返品・交換はできません。音響機器の故障などの不具合が生じたとしても一切補償いたしません。” という趣旨のことが書かれている。例えるなら “この有毒ガソリンはエンジンを痛める可能性がありますが、車が壊れても一切責任は負えませんので自己責任で給油して下さい...” と言っているようなもの。消費者をナメとんのか!!!
 この音楽ソフト界最低最悪の詐欺商品は今では完全に駆逐されたようだが、2004年~2005年あたりにリリースされた作品の中には CCCD 汚染された盤が結構存在しており、中古で買う時なんかは特に注意が必要だ。この CCCD の爪痕はクレモンティーヌのディスコグラフィーの中にも唾棄すべき汚点として残っており、ファンにとっては頭の痛い問題になっている。具体的に言うと2004年にソニーから出た「ソレイユ」と2005年に東芝から出た「メイド・イン・フランス」がそれである。「メイド・イン・フランス」の方はeBayで中国盤 CD を $7 でゲット、コピー天国な中国に感謝感謝だ(^.^) 消費者無視のアホな日本のレコード会社なんか潰れたらエエねん!
 「ソレイユ」の方はアマゾンで調べると、不思議なことに CCCD と CD の両方が存在しており、どちらも2004年リリースとなっている。何なん、それ? 色々調べてみると、どうやらソニーは2004年7月に “レーベルゲート CD” という呼称で発売(←どっかの国のルーピー総理なみの姑息なやり方やねぇ...)した CCCD 版「ソレイユ」(ESCL-2563)を1年後の2005年7月に廃盤にし、その面替商品として CD 版(ESCL-2687)として再発したというのが事の顛末らしい。あまりのバカさ加減に笑うしかないが、アマゾンの中古価格が CD 版は2,100円なのに対し、CCCD 版は1円でも誰も買わないという事実がすべてを物語っている。私は状態の良い中古 CD を300円で買えて超ラッキーだった(^o^)丿
 ジャケットの右下隅に“No Cle, No Summer” とあるように、夏にピッタリの開放感溢れる10曲にボートラ2曲を加えた全12曲収録で、一般ピープル向けの目玉は TUBE のカヴァー①「シーズン・イン・ザ・サン」だろう。TUBE に何の興味もない私ですら CM か何かで聞いたことのある夏向け J-Pops をクレモンティーヌが歌うというだけで話題性は十分、といったところか。確かに面白いけれど私はすぐに飽きてしまった。ベン・シドランとのデュエット②「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」も悪くはないがあまりにも予定調和に過ぎるというか、聴く前に予想した通りのワン・パターンなアレンジで、この二人の組み合わせはマンネリ化してきているように思う。興味津々で聴いた⑦「ベサメ・ムーチョ」は何か喉を絞めるような歌い方で、この曲は彼女に合っていないと感じた。
 シャルル・トレネの名曲③「ラ・メール」はポール・マッカートニーの「カリコ・スカイズ」を想わせる爽やかなアレンジが夏の日の午後にピッタリ。夕暮れ時には「ショコラ・エ・スイーツ」収録のスロー・ヴァージョンがオススメだ。⑤「もしも」は彼女のウィスパー・ヴォイスとスインギーなバックのサウンドが巧く溶け合ったナンバーで、初期の彼女を想わせるようなジャジーな雰囲気が横溢だ。ミディアム・スローな⑧「みんなが言うの」はヴァイブが良い味を出しており、マッタリした気分が味わえる癒し系ナンバーだ。
 しかし私が一番気に入ったのは何と言っても⑨「Garasugoshi ni kieta natsu」である。何やコレ、ローマ字やん、と思って解読すると「ガラス越しに消えた夏」... 初めて聞くタイトル名だ。誰か日本人のカヴァーか書き下ろしかな...と思って YouTube 検索すると、鈴木雅之と大沢誉志幸という名前が出てきた。鈴木雅之って確かシャネルズのリーダーやん。大沢某は知らんけど、彼が作曲したらしい。中々エエ曲やとは思うが、クレモンティーヌはスローな原曲を一気に高速化することによって曲の魅力が倍増、実に軽快で爽やかなヴァージョンに仕上げている。もちろん歌詞はフランス語だが、唯一 “サヨナラ~♪” の部分を日本語で残したのは慧眼と言うべきだろう。言葉をサウンドの一部として捉えるセンスの良さに脱帽だ。パリのエスプリを感じさせるアレンジも絶品で、まさに洗練の極みと言えそうなこの1曲に出会えて大ラッキー。やっぱり祭りはオモロイなぁ...(^o^)丿

Garasugoshi ni kieta natsu

Lumiere / Clementine

2010-05-27 | World Music
 確か去年の今頃、901さんご紹介の映画「デス・プルーフ」をきっかけにエイプリル・マーチやマレーヴァといった “ネオ・フレンチ・イエイエ祭り” で盛り上がっていたが、速いものであれからちょうど1年が経ち、今度は “クレモンティーヌのフレンチ・カヴァー祭り” である。この時期にフレンチにハマるのは単なる偶然なのだが、爽やかな風が吹き抜けていくようなクレモンティーヌのフレンチ・ボッサは確かにこれからの季節にピッタリだ。
 ジャズの正統派スタンダード・ナンバーからトンガリ系アシッドジャズ、そしてフレンチ・ボッサに至るまで様々な顔を見せてきたクレモンティーヌの作品で私が一番好きなのがポップスのフレンチ・カヴァーである。何故かは知らないがネットで色々調べてみても彼女のディスコグラフィーで完全・正確なものが見当たらなかったので(←ウィキペディアにもいくつか間違いがあったので要注意!)仕方なく自分で作り、カヴァーを中心に曲目をチェックしていて一番気になったのがこの「ルミエール」だった。
 何と言っても曲目が凄い。ビーチ・ボーイズの①「ココモ」に始まり、超有名スタンダード②「ムーン・リヴァー」、シンディー・ローパーの③「タイム・アフター・タイム」、ビー・ジーズの④「メロディ・フェア」、ビートルズの⑩「トゥ・オブ・アス」、シャンソンを代表する名曲⑪「愛の賛歌」と、とにかくめちゃくちゃ豪華なカヴァー集である。彼女の公式サイトには “クレモンティーヌが初めて挑む映画音楽カヴァー集” とある。なーるほどね、「カクテル」、「ティファニーで朝食を」、「小さな恋のメロディ」、「レット・イット・ビー」というワケか... でも「タイム・アフター・タイム」ってサントラやったっけ?
 クレモンティーヌは何を唄おうが確固たる自己の歌唱スタイルを確立しており決して期待を裏切るようなことはないので、とにかくアルバムに知ってる曲が一杯入っていればそれだけで買いである。このアルバムでも上記の名曲群が彼女のエレガントなヴォーカルで楽しめて言うことナシなのだが、特にアップテンポで軽やかに歌う④はリズム・ギターとハンド・クラッピングが実に効果的に使われており、音楽の愉しさがストレートに伝わってくる素晴らしいカヴァーに仕上がっている。①もリラクセイション溢れる曲想と彼女の優しく包み込むようなヴォーカルが絶妙にマッチしており、いきなりアルバムの冒頭からリゾート気分が全開だ(≧▽≦)
 ③は「ミルク・ボッサ」や「イン・ボッサ」シリーズで80'sポップスの名曲を次々とボッサ化しているブラジル・ボッサ界の重鎮ロベルト・メネスカルのプロデュース。ワン・テイクで完成したということだが、フレンチ・ブラジリアン・ボッサの逸品と言っていい出来栄えだ。生粋のパリ・ジェンヌ、クレモンティーヌが歌うシャンソン⑪には言葉の壁を越えた説得力があり、これにはもう平伏すしかない。
 未知の曲では⑦「ソング・オブ・ザ・ヴァガボンズ」が断トツに素晴らしい。このメロディーはどこかで聞いたことがあるなぁ... と思ってよくよく考えてみたら映画「蒲田行進曲」のテーマ・ソングにそっくりだ。ネットで調べると、1925年にオペレッタの曲として作られた「放浪者の唄」に日本語詞を付けてあの映画の主題歌にしたのだそうだ。なるほどね(^.^) このクレモンティーヌのヴァージョンはめっちゃクールなアレンジが施され、オペレッタの原曲とも映画の日本語ヴァージョンともまったく違う雰囲気の超カッコ良いキラー・チューンに仕上がっている。この1曲に出会えただけでも今回の “クレモンティーヌ祭り” をやった甲斐があったというものだ。下にアップしときましたので、興味のある方はぜひ聴いてみて下さいね。

ソング・オブ・ザ・ヴァガボンズ
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Chocolats et Sweets / Clementine

2010-05-25 | World Music
 先週クレモンティーヌの「ソリータ」を取り上げた時に書いたように、彼女のマッタリ・ヴォイスが今の気分にピッタリなので、これまで聴いたことのなかった彼女のアルバムをネット上で色々と試聴し、気に入った盤を通販で何枚か手に入れた。私の買い物はその殆どがアマゾンかヤフオクなのだが、日曜日は天気が悪くてずっと家にこもっていたので時間がたっぷりあり、地方のCD屋さんの通販リストなんかも丹念に見れて、めっちゃ良い買い物が出来た。
 まず「イパネマの娘」や「おいしい水」といった初期の傑作ボッサを集めた「アーリー・ベスト」が600円、レオン・ラッセルの「ディス・マスカレード」やバカラックの「雨にぬれても」、キャロル・キングの「イッツ・トゥー・レイト」といった正統派アメリカン・ポップスのカヴァーが光る「30℃」が320円、TUBE のフレンチ・カヴァーが面白い「ソレイユ」(←もちろんアホバカCCCDじゃない方の面替再発盤)が300円、バーシアの「クルージング・フォー・ブルージング」を彷彿とさせる名曲名唱「マリズィナ」1曲で買いの「イル・エ・エル」が200円と、4枚買って1,500円でお釣りがくるのだからもう笑いが止まらない(^o^)丿 というか、最近は1枚数百円のCDばかり買っている。ホンマにエエ時代になったものだ。
 そんな中、私が最も気に入ったのが2008年にリリースされた5曲入りミニ・アルバム「ショコラ・エ・スイーツ」である。これは新品未開封ということもあってさすがに780円もしたが、それだけの価値は十分にある素晴らしい内容だ。世間では J-Pops の槇原敬之書き下ろしのタイトル曲①が目玉らしく、どうやら日本語ヴァージョンまで制作されたらしい。確かに悪い曲ではないが、かと言って取り立てて騒ぐほどの名曲でもない。まぁ私のような J-Pops 嫌いはごくごく少数派で、大多数を占める一般ピープルに対しては “あのクレモンティーヌが J-Pops アーティストと夢のコラボ!” で十分話題作りになるのだろう。
 このアルバムの真の宝は②「ユーアー・マイ・サンシャイン」、コレである。私がこの曲を好きになったきっかけはTVシリーズ「スタートレック・ヴォイジャー」の中でセヴン役のジェリ・ライアンとドクター役のロバート・ピカードという二人の役者さんが聞かせてくれた見事なデュエットだった。聞いてて心がウキウキしそうなそのハモりはプロ顔負けの素晴らしさで、それ以降すっかりこの曲が気に入ってしまったのだ。ここではクレモンティーヌの軽やかな歌声が粋なムードを醸し出していて気持ちエエことこの上ないのだが、特に彼女の一人多重唱のパートなんかもう鳥肌モノだ。
 ③「ウララ」はまさにタイトル通りのウキウキワクワクするようなポップ・チューンで、これぞまさに正統派フレンチ・ポップス!と言いたくなるような佳曲に仕上がっている。④「愛の夢」は以前このブログでも紹介したマレーヴァ路線のチープなエレクトロ・ポップ・サウンドが楽しい “ヌーベル・イエイエ” ナンバーで、こういうのって案外クレモンティーヌの声とバッチリ合っているように思う。エンディングにもう一工夫欲しい気もするが、このトラックは結構気に入っている。⑤「ラ・メール」はシャルル・トレネが作ったシャンソンの名曲で、2004年のアルバム「ソレイユ」ではアップテンポなアレンジで処理されていたが、ここではテンポを落として演奏の重心を下げたのが大成功。寄せては返す波のようなリズムを刻むギターが心地良い。彼女の歌声を優しく包むヴァイブ、ストリングス、そしてバック・コーラスと、そのすべてが絶妙に溶け合ってレイド・バックした雰囲気を醸し出すサウンド・プロダクションが癒し効果抜群だ。
 “大切な人と過ごす至福の時間” をテーマにしたシリーズの第1弾としてリリースされたこのアルバム、ゆったり気分のドライヴやマッタリ過ごす午後のBGMにピッタリの爽やかな1枚だ。

ユーアー・マイ・サンシャイン
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Cle / Clementine

2010-05-23 | World Music
 昨日クレモンティーヌの「ソリータ」を聴きながら記事をアップした後、無性に他の盤も聴きたくなって(←よくあることです...)手持ちの残り2枚も聴きまくり、彼女のウィスパー・ヴォイスにすっかり萌えてしまった(笑) まぁ自分で仕掛けたワナに自分でハマるようなモンで、このブログを始めてからこういう “ミイラ取りがミイラに” パターンがやたらと多いのだが、それはそれで結構楽しい。ということで今日もクレモンティーヌである。
 彼女のスタイルは(1)アンニュイなライト・ジャズ→(2)打ち込みをメインにしたクラブ系アーバン・ヒップホップ→(3)アコースティックな味わいのフレンチ・ボッサ、という流れの中で変遷してきているように思えるが、ヒップホップ嫌いの私にとって(2)は論外、彼女の軽やかな歌声にはやはり(1)か(3)がピッタリだ。(1)ではテナーのジョニー・グリフィンが参加したアンニュイな雰囲気横溢のジャズ・ヴォーカル・アルバム「コンティノン・ブルー」(1989年)を持っているが、惜しいことに選曲が私の趣味とはかけ離れており(←「ジャイアント・ステップス」とか「オール・ブルース」とか...)、曲中心に音楽を聴く私にとっては “BGM として軽く聴き流す1枚” でしかない。やはり自分の好きな曲をクレモンティーヌのメロウな囁きヴォーカルで聴かせてくれる盤がいい。ということで今日は2003年にリリースされたアルバム「クレ」でいこう。
 私がこのアルバムを買ったのは一にも二にも中島みゆきのフレンチ・カヴァー④「悪女」が入っていたからである。私は昔から中島みゆきが大好きで、洋楽的な下地をあまり感じさせずに他の誰にも真似の出来ない日本的なメロディーを書くその作風は日本の音楽界の中でもある意味異端というか孤高の存在だと思うのだが、そんな彼女の代表曲の一つをオシャレなヨーロピアン・ポップスを得意とするクレモンティーヌが取り上げているのだからこれはもう興味津津だ。実際に聴いてみると原曲は見事に換骨堕胎され、軽やかなボッサ・アレンジによって洗練されたカフェー・ミュージック(←もちろん良い意味です!)へと生まれ変わっている。イースト・ミーツ・ウエストというか、私はこういうカヴァーが大好きだ。それにしてもこのマッタリ感、たまらんなぁ... (≧▽≦) 
 ②「男と女(グランディス・ミックス)」は1994年のアルバム「イル・エ・エル」に収録された大胆不敵なクラブ系サウンド・ヴァージョンをリメイクしたもので、オルガンバー・サバービア・テイストの強かったオリジナル(←ハッキリ言って苦手です...)よりはかなり聴き易くなっているようには思うが、クレモンティーヌ版「男と女」なら何と言っても2008年の「スウィート・ランデヴー」収録の “スウィート・ジャズ・ヴァージョン” がベスト。彼女の持ち味であるウィスパー・ヴォイスの魅力が存分に発揮された名演だと思う。
 ⑪「コム・ダビチュード(マイ・ウェイ)」は長い間シナトラがオリジナルだと信じて生きてきた(恥)のだが、ロック以外のジャンルも聴くようになって “フランス人のカヴァーがやたらと多いなぁ...” と不思議に思い(笑)調べてみるとオリジナルはフランスのクロード・フランソワという人で、それにポール・アンカが英語の詞を付け、シナトラで世界的に大ヒットしたとのこと。なーるほど、あの品格溢れる曲想はシャンソンからきたものだったのか!と納得したものだ。この⑪もそこはかとなく漂う哀愁に涙ちょちょぎれるヴァージョンに仕上がっており、絶妙なタイミングで入ってくるフルートも雰囲気抜群で言うことナシだ。
 これらの有名曲カヴァー以外ではゴンチチとのコラボがエエ感じの③「シュール・ル・クイーン・マリー」や⑥「アン・アヴリル」、ブリリアントな午後にピッタリのライトなボッサ⑤「マリアナ」、サウダージ感覚溢れる⑦「6 P.M.」、クレモンティーヌの歌声とバックの多重コーラスが溶け合って不思議な浮遊感覚を生み出す⑧「過ぎ去った恋」なんかが気に入っている。
 クレモンティーヌは基本的にどれを聴いても似たようなボッサ・スタイルがベースになっているので、世評とかに関係なく自分の好きな曲の入っている盤から入門するのが一番だ。特に私のような中島みゆきファンにはぜひともこのフレンチ版「悪女」を聴いてクレ(笑)と言いたい。

Akujyo

Solita / Clementine

2010-05-22 | World Music
 その名前だけは知っていても実際にはちゃんと聴く機会がないまま放置(?)してきたアーティストというのが私には何組もいる。1988年にデビューし、ジャズやボッサのアルバムを数多くリリースしてきたフランスの女性シンガー、クレモンティーヌも最近まではそんな一人だった。
 私が初めて彼女の存在を知ったのは1990年代後半のことで、何かの雑誌で “フランスのオシャレなライト・ジャズ・ヴォーカル” として紹介されているのを目にしたのが最初だったように思う。当時の私はペギー・リーやジュリー・ロンドンといった50年代の女性ヴォーカルにハマッており、このクレモンティーヌもどうせカフェバーあたりでタレ流されているエセ・ジャズ・ヴォーカルの類だろうと誤解し、それほど気にも留めなかった。だからその後ツタヤやゲオでレンタルするチャンスがあったにもかかわらず、いつもスルーしてしまっていたし、ごくたまにラジオか何かで耳にすることがあってもイマイチ馴染みのない曲ばかりであまり印象に残らなかった。
 そんな私が彼女に開眼したのが去年のこと(←遅いっ!!!)、超愛聴曲「サニー」をネット検索していると彼女のアルバム「ソリータ」が引っ掛かってきたのだ。 “へぇ~、あのクレモンティーヌが「サニー」歌ってるんかいな...” などと思いながらトラックリストを見ると、彼女の他のアルバムとは違って知っている曲、それも結構好きな曲が多い。彼女の場合ウィスパー系ということでヴォーカルそのものはかなり淡泊なので、曲が地味だとどれを聴いても単調でみな同じに聞こえてしまうのが難点だったが、好きな曲ならまったく問題ない。同じウィスパー系のベン・シドランとのコラボレーションになっているこの「ソリータ」、早速アマゾンで試聴してみると二人の持ち味がうまく溶け合っていて中々エエ感じ。値段を見ると中古で200円... ほとんど定価の9割オフである。というか、レンタルするよりも安いやん(笑)... これはもう買うしかない。
 収録曲は全部で14曲。この盤を知るきっかけとなった⑦「サニー」はクレモンティーヌならではのソフィスティケーションが新鮮に響く。こんなオシャレな「サニー」はちょっと他では聴けないだろう。超愛聴スタンダード・ナンバー②「ジーズ・フーリッシュ・シングス」は私の大好きなジャネット・サイデルがアルバム「コム・シ・コム・サ」の中で英語とフランス語を自在に切り替えながら歌っていたのが印象的だったが、このクレモンティーヌ版は何と完全フランス語ヴァージョンだ!言語が変わるだけで曲の雰囲気が微妙に変わるというのはこれまで何度も経験してきたが、何を言ってるのかサッパリ分からない「ジーズ・フーリッシュ・シングス」も中々オツなもの。彼女のコケティッシュなウィスパー・ヴォイスがマッタリした曲想と絶妙にマッチして実にエエ味を出している。
 リッキー・リー・ジョーンズの⑨「恋するチャック」はリッキー・リーとクレモンティーヌの声質の類似性を見抜いた選曲の勝利と言うべき1曲で、これもすべてフランス語で歌われており、オリジナルに勝るとも劣らない素晴らしいヴァージョンに仕上がっている。私的には②と並ぶキラー・チューンだ。③「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」は正直言って苦手な曲だったのだが、このクレモンティーヌとベン・シドランのデュエットは少しテンポを上げてポップなアレンジを施してあるせいか、実に聴き易くてすっかり気に入ってしまった。大嫌いなはずのフェンダー・ローズのエレピ音ですら全然気にならないのだから私的には凄いことなのだ(笑) ジャジーな雰囲気横溢の①「ドンチャ・ゴー・ウェイ・マッド」やノリノリの⑩「ユー・ガット・ホワット・イット・テイクス」で聴けるクレモンティーヌの萌え萌えヴォーカルも吸引力抜群だ。
 現時点で彼女の CD は3枚しか持っていないが、コレを書きながら聴き直してみて改めてその素晴らしさを再確認できた(^o^)丿 母国フランス以上に日本で人気者の彼女、CD は全部で20枚近く出しているようなので、好きな曲の入っている盤を狙ってみるとしよう。

ジーズ・フーリッシュ・シングス


サニー
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Again / Eddie Higgins Trio

2010-05-21 | Jazz
 昨日仕事から帰ってきて届いたばかりの CD を聞こうとするとスピーカーから音が出ない。よくよく見ると愛器マッキン240(パワー・アンプ)の真空管に火が灯っていない。昨日までは何の問題もなく元気にアルテック・ヴァレンシアを駆動していたというのに、うわぁ... 又壊れたんか... と凹む私。2年前もやはりこんな感じで何の予兆もなく突然音が出なくなってしまったのだが、あの時は真空管が逝ってしまっていたし、その前に壊れた時はヒューズがとんでいた。そう、ウチのマッキンは2年周期で壊れる(←なぜかいつも5月!)のだ。それならばとヒューズを換えたりタマを換えたりしてみたが、スピーカーはウンともスンとも言わない。
 ヴィンテージ・オーディオは最新の機器では出せない濃厚な音が楽しめる反面、どうしても壊れるリスクが大きいので、クラシック・カーに乗るようなモンだと頭ではわかっているのだが、やはり実際に音が出なくなるとめっちゃ淋しい。この何ともしがたい喪失感は音楽ファンなら分かってもらえるだろう。私はとりあえず接点復活剤を使って自分で整備してみることにした。
 プリアンプからコンセントを抜き、ネジを外してカヴァーを開けると中はもう埃だらけだ。こんなんじゃあ音も出んようになるわなぁ... などと反省しながら丹念に掃除機で埃を吸っていく。中身がキレイになったところで今度は真空管をすべて抜いて差し込み口をエアー・ダスターで洗浄し、最後にピン・プラグのジャックをクリーニングして作業終了だ。コンセントを手近にあったタップに挿すとタマがほのかなオレンジ色に光り始めた。へぇ~効果あったんや... と感心しながら今度はコンセントをプリアンプの連動電源に挿すと電気が来ない。コレってひょっとしてプリアンプの差し込み口が壊れとったん?あ~アホくさ(+_+) もう面倒くさいのでパワー・アンプはスイッチ付きのタップに挿すことにして一件落着!私はこのようにオーディオをいじった後は必ず何枚かのアルバムで音質チェックをするのだが、今日はそんな中の1枚、エディー・ヒギンズ・トリオの「アゲイン」を取り上げたい。
 私はこれまで何度も書いてきたようにガツン!とくるピアノトリオが大好きなのだが、そんな私にピッタリのレーベルが日本のヴィーナス・レコードだ。その生々しい音作りが迫力満点な “ハイパー・マグナム・サウンド” シリーズの中でも私が最も愛聴し、しばしばオーディオ・チェックに使うのがこの「アゲイン」の3曲目に収められた「祇園小唄~京都ブルース」だ。前半部は静謐なピアノ・ソロなのだが、2分28秒あたりから剛力ベース&ブラッシュがスルスルと滑り込んできて、軟弱そうなジャケットからは想像もつかないようなエネルギー感溢れるノリノリの演奏が楽しめる。ムンムンするような好旋律を連発するヒギンズのクリアーなピアノ、重厚でありながらよく弾むレイ・ドラモンドのベース、あらゆる技巧を駆使して巧みにリズムを作り出していくベン・ライリーのブラッシュ... 組んず解れつしながら疾走する三者の絡み合いがまるで手に取るように目の前で展開される様は実にスリリングで、オーディオ雑誌でも “リスニングルームにヒギンズ・トリオが出前に来たようなリアリティー(←ピザ屋かよ!)” と大絶賛されていたが、私もまったく同感だ。以前ヴォリュームを上げ過ぎたせいでスピーカーの上に置いてあったサッチモのペーパーウエイトが振動で床に落下して突き刺さったのには本当に驚いたものだ。
 私はコレを最初通常盤で買い、その後ゴールド CD が出た時に買い直したのだが、2枚を聴き比べるとゴールド CD の方が音の透明度がアップしている半面、野放図なエネルギー感はやや後退しているように思える。これは他レーベルのゴールド CD でも共通して感じられる傾向で、少なくとも私のような猥雑な音を好む人間にはゴールド CD は向かないようだ。とにかく躍動感溢れるリズムがたまらないこのアルバム、いつか SACD で聴いてみたいなぁ、と思わせる現代ピアノトリオ・ジャズの傑作だ。

エディ・ヒギンズ・トリオ

Lester Leaps In / Lester Young

2010-05-19 | Jazz
 前回カウント・ベイシーをアップした日の晩、901さんから電話があり、 “ブログに貼ってあるベイシーの動画、見れへんでぇ!” とのこと。今まで何回か音声を無効にされたことはあったけど、見れへんなんてことはなかったのに... 早速自分のパソコンで調べてみるとちゃーんと音が出る。 “見れますよ...” と私。 “ウチのパソコンでは「この動画はもう見れません」って出とるでぇ!” と901さん。試しにログオフしてから検索してみると、アップしたはずのベイシー動画が出てこない。もう一度ログインして “マイ動画” をチェックしてみてビックリ... “あなたの動画は全世界でブロックされています” って、何やそれ...(゜o゜) ということで、心の広~い WMG さん(ワーナー・ミュージック・グループ)がライセンスを所有しているコンテンツは YouTube では見れません。ムカついたので YouTube のベイシーは削除して、代わりにニコニコ動画で再アップ。こーなったら今日もベイシーで行ったるわい!盤はレスター・ヤング名義の「レスター・リープス・イン」。今回のコンテンツ所有者は... SME(ソニー・ミュージック・エンタテイメント)さんか... 無事アップ出来るかな(笑)
 このアルバムは1936年から40年までの、レスター・ヤング在籍時代のカウント・ベイシー・オーケストラの演奏を集めたもので、いずれも超の付く名演揃いだが、まずは何と言ってもジャケットに注目だ。これはウイリアム・スタイグの “エピック猫ジャケ・シリーズ” のうちの1枚で、ジャズを聴き始めた頃に今は無き大阪の名店 “しゃきぺしゅ” の壁面を誇らしげに飾る猫ジャケLPたち...「ホッジ・ポッジ」、「ハケッツ・ホーン」、「デュークス・メン」、「テイク・イット、バニー」、「チュー」、そしてこの「レスター・リープス・イン」という6枚のアルバムを見て、ジャケットの醸し出す雰囲気の重要性を痛感したものだ。 “音楽が聞こえてくるようなジャケット” とはこういうのを言うのだと思う。昨今流行りの “楽曲ダウンロード購入” なんて私には到底考えられない。
 そのような素晴らしい器に入れられた珠玉の名演奏12連発の中でも私が断トツに好きなのが②「タクシー・ウォー・ダンス」だ。まずは何と言ってもオール・アメリカン・リズムセクションが生み出す凄まじいまでのドライヴ感、コレに尽きる。私なんかこのリズムが聞こえてきただけでもうウキウキワクワクしてしまう(^o^)丿 しかも各ソロイストの自由闊達なプレイがこれまた出色の出来で、スイングの究極奥義を惜しげもなく開陳するベイシー(←マジで凄いです!)といい、淀みなくメロディアスなフレーズを紡ぎ出すレスター(←特に「オール・マン・リヴァー」のメロディーを裏返しにしたようなアドリブからリズムへ切り込んでいくソロは絶品!)といい、ベイシーのソロのバックで絶妙なリズム・カッティングを聴かせるフレディー・グリーン(←たまりません!)といい、この時期のベイシー・バンドの充実ぶりが伝わってくる素晴らしいトラックだ。
 レスターがガーシュウィンの「アイ・ガット・リズム」のコード進行を元にして作ったというリフ・ナンバー⑦「レスター・リープス・イン」も彼の代表的名演の一つに挙げられる逸品で、滑らかなフレーズを連発しながらまるで流動体生物のように変幻自在のプレイを聴かせるレスターには言葉を失う。他にもレスターの流麗なソロに耳が吸いつく④「12番街のラグ」やバンドのノリノリの演奏に圧倒される⑤「クラップ・ハンズ・ヒア・カムズ・チャーリー」など、この時期のベイシー・バンドの充実ぶりが伝わってくる名演揃いだ。又、⑩「シュー・シャイン・ボーイ」、⑪「オー・レディ・ビー・グッド」、⑫「ブギー・ウギー」の3曲はレスターの初録音と言われるもので、この時点で既に彼のユニークなアドリブ・フレーズが完成されているのが凄い。
 人によって好みの違いは色々あると思うが、私は歴代ベイシー・バンドの中ではやはりレスター在籍時の演奏が一番好きだ。特に前回のブランズウィック盤とこのエピック盤はそんな彼らのベストの演奏を収めたビッグバンド・ジャズの金字塔だと思う。

追記:YouTube、今回もブロックされてしまいました(>_<) よってコレもニコニコ動画でどーぞ↓

Count Basie

2010-05-16 | Jazz
 カウント・ベイシーといえばデューク・エリントンと並ぶビッグ・バンド・ジャズの巨星として知られている。私がまだジャズのジャの字も知らなかった時でさえ、スティーヴィー・ワンダーの「サー・デューク」の歌詞に出てきたこともあって、この二人の名前だけは知っていたが、マイナーな音楽ジャンルであるビッグ・バンド・ジャズだから、たとえベイシー、エリントン級のビッグ・ネームであっても “名前は聞いたことあるけどその音楽は聴いたことない” という昔の私みたいな音楽ファンは結構多いんじゃないかと思う。
 前回クレア・マーティンの時に書いたように、私はヴォーカルもインストもスモール・コンボが好きで、手持ちのビッグ・バンド盤というのは数えるほどしかない。オーケストラの予定調和っぽいアンサンブルよりも各ソロイスト達の個性溢れるプレイを聴く方がずっと面白いからだ。そういうワケでジャズを聴き始めてからもしばらくの間は私とベイシーの接点はなかった。
 そんな私が初めて買ったベイシー盤が「ベイシーズ・ビートル・バッグ」、タイトルからも分かるようにビートルズ・ナンバーをベイシー流ビッグ・バンド・ジャズで料理してみましたという、丸ごと1枚ビートルズ・カヴァーのアルバムだった。ビッグ・バンドは苦手やけど大好きなビートルズの曲なら馴染めるかも、と思って買ってみたのだが、これがもう全然面白くないヘタレ盤で、大好きな「ヘルプ」も「ハード・デイズ・ナイト」も「オール・マイ・ラヴィング」も原曲の良さをことごとく殺すようなトホホなアレンジが施されており、ベイシーの魅力である “弾けるようなノリの良さ” が全く聞かれず、私はすぐに中古屋に売り払い “やっぱりビッグ・バンドは肌に合わんわ(>_<)” と諦めた。
 その後何年かが過ぎて私はテナー・サックスのレスター・ヤングにハマり、彼のレコードを求めて大阪中のレコ屋を廻っていた時に、 EAST の佐藤さんに “レスター聴かはるんやったらデッカのベイシーがいいですよ(^.^)” とこのブランズウィック盤「カウント・ベイシー」をススメられ、A面1曲目「ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド」を聴かせていただいた。私はレスターのリーダー作ばかりを追っており、初期のベイシー・オーケストラ在籍時代はノーマークだったが、この「ジャンピン...」の彼のソロはまさに天衣無縫というか、変幻自在というか、もう言葉で表現できないくらい素晴らしいものだったし、何よりもバンドが一体となって生み出す強烈無比なスイング感に完全KOされた。この1曲だけでも3,200円の価値があると思った私はその場で即買いを決めた。
 この盤をフル・ヴォリュームで聴きたいと思った私は速攻で家に帰り、ワクワクドキドキしながらターンテーブルに乗せた。1曲丸ごと “ノリの塊” のようなA-①「ジャンピン...」は大音響で聴くと更に魅力倍増、オール・アメリカン・リズム・セクションが生み出すステディーなリズムに乗って目も眩むような必殺のソロが続出する。アール・ウォーレンのホットなアルト・ソロから最小限の音数で最大限のスイングを生むベイシー・マジック炸裂のピアノ・ソロ、そして歌心溢れるバック・クレイトンのトランペットと続き、いよいよレスターが登場、意表を突いたソロの入り方がめちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) このように一騎当千のツワモノが集まったベイシー・バンドのドライヴ感溢れるサウンドは圧巻と言ってよく、漲るパワーに圧倒されて気持ちエエことこの上ない。
 ①以外も聴いてて思わず身体が揺れてしまうようなノリノリのナンバーが続く。まるで一筆書きのように流れるようなレスターのソロに頭がクラクラするカンザス・スイング・ナンバーA-②「エヴリ・タブ」、ズート・シムズが名盤「ダウン・ホーム」で取り上げたA-⑥「ドッギン・アラウンド」、ザクザク刻むフレディ・グリーンのリズム・ギターが快感をよぶB-①「テキサス・シャッフル」、ハーシャル・エヴァンスのウォームなテナーが心にグッとくるスロー・バラッドB-②「ブルー・アンド・センチメンタル」、心地良いスイング感がたまらない超愛聴曲B-③「チェロキー」、アドリブ・コーラスを先行させテーマのメロディーを曲の半ばまで出さずにじらすというビッグ・バンドとしてはユニークなアレンジが面白いB-④「トプシー」など、バンド・アンサンブルと各人の名人芸の両方が十分に堪能できる素晴らしい内容だ。
 単純明快なフレーズと躍動するリズムがめっちゃ気持ち良いこのアルバム、単体ではCD 化されていないが、デッカ時代のベイシー作品を集大成した3枚組CD「黄金時代のカウント・ベイシー ~The Original American Decca Recordings~」に完全収録されているので、初期のベイシーを聴くならそちらの方が手軽でいいかもしれない。




Old Boyfriends / Claire Martin

2010-05-13 | Jazz Vocal
 ジャズの女性ヴォーカルというのはインストを受け持つバック・バンドのフォーマットによってかなり雰囲気が違ってくる。私はいくら好きなシンガーであっても、ストリングス・オーケストラをバックに切々と歌い上げるパターン(ジューン・クリスティーのキャピトル盤やクリス・コナーのアトランティック盤の内の何枚か)は苦手なので滅多に聴かない。大好きなアップテンポのものでも、どちらかというとビッグ・バンドを従えてバックの大音量に負けないようにダイナミックな歌唱を聴かせるタイプよりも、スモール・コンボをバックにジャジーにスイングするタイプの盤の方が好きで、そんな “クールに、軽やかに、粋にスイング” するジャズ・ヴォーカル愛聴盤の1枚がイギリスの美人ヴォーカリスト、クレア・マーティンの「オールド・ボーイフレンズ」だ。
 彼女は1992年にイギリスのリン・レーベルから「ザ・ウエイティング・ゲーム」でデビュー、いきなりザ・タイムズ誌から “レコード・オブ・ザ・イヤー” の1枚に選ばれ、翌93年リリースの 2nd アルバム「デヴィル・メイ・ケアー」で早くも “ファースト・レディ・オブ・UKジャズ” の地位を確立、その勢いに乗って94年にリリースしたのがこの「オールド・ボーイフレンズ」なのだ。
 このアルバムの一番の魅力はその圧倒的なスイング感にある。トロンボーンをフィーチャーしたカルテットが弾むようにスイングし、ハスキーな彼女のヴォーカルが冴えわたるという理想的な展開に涙ちょちょぎれる。美人女性ヴォーカル盤の鑑のようなジャケットも雰囲気抜群だ。しかもレーベルはイギリスの超高級オーディオ・メーカーのリンである。そうそう、リンと言えば忘れもしない280万円(!)のCDプレイヤー CD-12を聴かせてもらったことがあるのだが、全く不純物ゼロというか、それはもうどこまでも透明感溢れる美しい音だった。演奏の隅々まで透けて見えそうなそのサウンドはオーディオ的には究極と言えそうな感じ(←私的には同時に聴かせてもらったスチューダーのガッツ溢れる音の方が数段好きだが...)で、リンの音の魅力にハマった人は中々抜け出せないとのことで、オーディオ・マニアの間では “リン病” と呼ばれているらしい(笑) アカン、話がオゲレツな方へと逸れてしまった(>_<) 私はこのアルバムが大好きなので LP と CD の両方持っており、CD のカッティング・レベルがちょっと低いように思うけど、どちらもリンらしい整然としたサウンドだ。
 私がこのアルバムで断トツに好きなのが⑤「ムーン・レイ」だ。スイング時代にベニー・グッドマンと張り合うほどの人気を誇ったクラリネット奏者アーティー・ショウが作曲した心の琴線を揺さぶるマイナー調のメロディーを持った名曲だが、名花ヘレン・フォレストが歌ったこのスローなナンバーを大胆不敵なアレンジでオキテ破りの高速化、実にカッコ良いモダン・ジャズに仕上げているのだ。ワインディングを軽快に飛ばしていく小粋なフランス車(ルノー・アルピーヌとか...)を想わせるその疾走感溢れる演奏は圧巻で、フィリー・ジョーのような瀟洒なブラッシュが炸裂し、ポール・チェンバースみたいによく歌うベースがブンブン唸り、ウイントン・ケリーみたいなピアノが弾けまくり、モダンなジャズ・ヴォーカルの王道と言えるハスキー・ヴォイスが縦横無尽にスイングするという、まさに言うことナシのキラー・チューン。これ以上の名演があったら教えを乞いたいくらいだ。
 ⑤以外ではギターが加わったクインテットでゆったりとスイングする③「パートナーズ・イン・クライム」や歌心溢れるボントロ(←初心者の頃、すしネタのことやと思ってた...笑)とミディアムでスイングするピアノに心を奪われる④「チェイスド・アウト」、モダンなジャズ・ヴォーカルの醍醐味が楽しめる急速調ナンバー⑦「アウト・オブ・コンチネンタル・マインド」、彼女のハスキーな声質が曲想とベストなマッチングを見せる⑨「ザ・ホイーラーズ・アンド・ディーラーズ」,ガーシュウィンの「我が恋はここに」を裏返しにしたような旋律をイギリス流に料理した⑪「ジェントルマン・フレンド」など、聴き所も満載だ。
 クレア・マーティンの数多いアルバムの中でも最もスインギーでジャジーなこのアルバムはバックのインストと彼女のヴォーカルが実に高い次元でバランスされており、彼女の一番の魅力であるリズムへの抜群なノリやドライヴ感溢れるモダンな歌い方が堪能できる、90年代ジャズ・ヴォーカルを代表する1枚だ。

ムーン・レイ

Love Me Tender / Elvis & Linda

2010-05-11 | Oldies (50's & 60's)
 2月にやった “勝手にリンロン祭り” で彼女の「リヴィング・イン・ザ・ USA」を取り上げた時に、エルヴィスとリンロンの “「ラヴ・ミー・テンダー」幻のデュエット盤” をついに eBay でゲット!と書いたのだが、その後色々とあって、今日やっとのことで欲しかった盤が届いたのだ。何じゃい、3ヶ月もかかったんかいな、と思われるかもしれないが、別に郵便屋がサボッていたワケでも、セラーが出し忘れていたワケでもない。2月に落としたブツはとんでもないニセモノだったのだ(泣) ということで今日はホンモノ・ゲットに至る紆余曲折を書いてみたい。
 状況を整理すると、まずリンロンがアルバム「リヴィング・イン・ザ・ USA」(1978年)でエルヴィス・プレスリー1956年のヒット曲「ラヴ・ミー・テンダー」をカヴァー、それをアメリカのラジオ局 WCBM の DJ レイ・クウィンがエルヴィスの未発表ラジオ・テープと合成し、20年の時を超えてデュエットさせ、リスナーの大反響を呼んだという。私は「アメリカン・トップ40」の「ロング・ディスタンス・デディケーション」のコーナーでコレを耳にして鳥肌が立つほどゾクゾクしたのを覚えている。何とかして手に入れたかったが、当時の私には非売品のDJ用プロモーショナル・コピーを入手することなど到底不可能だった。
 それから約20年が経ち、ネットで海外オークションをやるようになって様々なレア盤の入手に成功してきたが、この盤だけは滅多に出てこず、たまに見つけても£40~£50というエゲツナイ値段が付いており、さすがの私も手を出せなかった。そんな中、リンロン祭りで盛り上がっていた折りも折り、$10で出品されているのを発見して有頂天になりよく調べもせずに落札(←アホや...)、あれほど入手困難を極めた盤が格安無競争で手に入り、何か拍子抜けしながらもブツが届くのを楽しみに待っていた。
 1週間ほどで届いた盤は白いレーベルに男女のヘタクソな似顔絵とDUETという赤い文字(←コレがレーベル名か?)、下の方には ELVIS AND LINDA 101 と書いてある。はやる心を抑えて盤に針を落とすと聞こえてきたのはまるで錆びた釘をレコード針に使ってるんちゃうかと思うぐらいの歪んだ音で、私は “何じゃこりゃぁ~!!” の松田優作状態に陥った。これまでの音楽人生で多くの海賊盤をも含めて色々なレコードを聴いてきたが、これほど酷い音はちょっと記憶にない。その場でブチ割ったろかとも思ったが、安物買いの銭失いの教訓として取っておくことにした。まぁ送料込みで千円ちょっとですんだのが不幸中の幸いだったが、このアホバカ盤、今では “鍋しき” として使っている(笑)
 私は “やっぱり激レア盤だけあってそう簡単には手に入らんわ...(>_<)” と心が折れかけたが、3月4月とその後もしつこく eBay で網を張っていた。そして5月の連休に入って時間と気持ちに余裕の出来た私はふと閃いて検索ワードを “Love Me Tender Elvis Linda” から “Love Me Tender Elvis duet” に変えてみた。するとイギリスのセラーから SUN レーベル盤(!)が£9スタートで出品されているのを発見!エルヴィスに関する限り SUN レーベルなら信頼できそうだし、アップされたレーベル写真には “NOT FOR SALE” の文字が見て取れる。コレは間違いないと直感した私は連休中に早朝スナイプを敢行、£13で首尾よく手に入れることができた(^o^)丿
 届いた盤は今度こそ正真正銘の本物で、まさに私が30年前に聴いて感激したあのデュエットだ。う~ん、まさに黄金のデュエットと言えるこのハモり、タマランなぁ... (≧▽≦) このブログを読んで下さってるみなさん用にこっそりアップして貼り付けときましたので、興味のある方はゲシュタポ・ユーチューブに削除される前にご一聴を(^.^)

リンロンのプロモ盤
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Retouch / Martin Haak Kwartet

2010-05-09 | Jazz
 私の人生の大きな喜びの一つは未知の名曲・名盤との出会いである。今でこそレコードや CD は殆どネットで買っているが、ヤフオクや eBay を知る8年前までは週に1回は必ず大阪・京都・神戸のレコード屋を回っていた。ハッキリ言って交通費もバカにならないし、よくもまあ飽きもせず毎週毎週出かけていったものだと思うが、奈良に住む私にとって当時はそれしかレコードを買う手段がなかったし、足を棒にして歩いた分、掘り出し物に出会えた時の喜びは何よりも大きかった。
 大阪の中古レコード屋で当時私が贔屓にしていた良心的なお店の殆どが今では閉店してしまったが、そんな中でも私が一番好きだったのが大阪日本橋にあった EAST というお店である。店主の佐藤さんご自身が年に何度かヨーロッパへ買い付けに行かれることもあって他店とは一味も二味も違う品揃え、しかもめっちゃ良心的な値付けがされていたこともあって私は足繁くお店に通い、そのうち顔や名前も覚えていただいて親しくお話を伺うようになった。
 佐藤さんにススメていただいた盤は100%ハズレ無しで、イザベル・オーブレのフレンチ・ボッサ盤やギュンター・ノリスのビートルズ・カヴァー盤、ペトゥラ・クラークのジャズ・スタンダード盤にジリオラ・チンクエッティのディズニー曲集など、そのどれもが私の嗜好のスイートスポットを直撃する好盤だった。そんなある時、レコード買い付けから帰ってこられたばかりの佐藤さんが “shiotch7さん、こんなん好きちゃう?” と言ってかけて下さったのがマルティン・ハークという未知のオランダ人ピアニストのアルバム「レタッチ」に入っている「アローン・アゲイン」だった。弾むようなパーカッションが刻むウキウキするようなリズムに乗って、ゴキゲンにスイングするピアノがギルバート・オサリヴァン一世一代の名曲を軽快に奏でていく。原曲の素朴な旋律の最もオイシイ部分を抽出してスインギーなジャズに仕上げているところが何とも痛快で、私は即座に “コレ下さいっ!!” とコーフン気味に(笑)叫んでいた。
 ライナーが英語じゃない(オランダ語?)のでこのピアニストのことは何も分からないが、収録曲はジャズの有名スタンダードからポップスの名曲に至るまでヴァラエティーに富んでいて、そのメロディー重視の選曲基準は実に分かりやすい。サウンドの一番の特徴はやはりパーカッション入りのピアノ・カルテットという一点に尽きるだろう。小賢しいことを一切考えず、ポップなメロディーを心躍るようなリズムに乗せてスインギーに演奏することに徹しているのが何よりも素晴らしい(^o^)丿
 まずは A面のアタマからいきなり歯切れの良いパーカッションの乱れ打ちで始まるガーシュウィンの A-①「ザ・マン・アイ・ラヴ」、もうノリノリである(^o^)丿 ギルバート・オサリヴァンの A-③「アローン・アゲイン」といい、スティーヴィー・ワンダーの B-①「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」といい、パーカッションが入ったことによってウキウキワクワク感が増強され、聴いてて思わず身体が揺れるような強烈なスイングが生み出されている。又、デューク・ジョーダンの B-②「ジョードゥ」やジェローム・カーンの B-④「イエスタデイズ」といったジャズの定番曲でも跳ねるようなピアノを中心としたカルテットが生み出すグルーヴが絶品で、サバービアな雰囲気横溢のサウンドが耳に心地良い。
 ミディアム・スローから始まって徐々に盛り上がっていくビートルズ・カヴァー A-②「フォー・ノー・ワン」も品格滴り落ちるエレガントなピアノがエエ感じで、その絵に描いたような小粋で歌心溢れるプレイはこのピアニストが只者ではないことを物語っている。アントニオ・カルロス・ジョビンの B-③「ワンス・アイ・ラヴド」ではヴァイブの洗練されたサウンドが楽しめて、アルバムの絶妙なアクセントになっているように思う。
 確かにネットのワン・クリックで欲しい盤が自宅に届くという便利な時代になったが、その裏では信頼できるレコード店がどんどん姿を消していっている。 EAST も、 VIC も、しゃきぺしゅも閉店し、関西では神戸のハックルベリー以外はもうロクな店は残っていないので、今更レコード屋巡りを再開する気にもなれないが、お世話になったお店のご主人たちとの楽しいやり取りを経て買ったレコードを見るたびに、猟盤ツアーに熱中していた当時を懐かしく思い出す今日この頃だ。

マルティン・ハーク

Living Without Friday / 山中千尋

2010-05-08 | Jazz
 ジャズの曲というのは殆どがスタンダード・ナンバーかジャズメン・オリジナルである。スタンダードの素晴らしさは今更言うまでもないが、かと言ってその数にも限りがあり、毎回毎回同じようなスタンダードばかり演るわけにもいかない。そこでオリジナル曲の登場となるのだが、正直言って心に残るようなメロディーは10曲中に1曲あれば良い方で、先日取り上げたミシェル・サダビィ盤のような超名曲に出会える確率は極端に低い。ジャズのオリジナル曲で多いのが、その場でテキトーにデッチ上げたようなテーマから各プレイヤー任せの一発勝負!みたいなノリでソロを回し、最後に又テーマに戻って終り、みたいなパターンだ。もしベニー・ゴルソン級の作曲家があと10人ぐらいいたら(←テナーはやめてね...笑)、ジャズはもっと親しみやすい音楽になっていただろう。
 スタンダードにも限度がある、オリジナルはハズレが多い、となると残るは他ジャンル曲のジャズ化しかない。以前このブログでも取り上げたアイク・ケベックやジョン・ピザレリなど掘り出し物も結構多く、クラシックやポップス、歌謡曲などの必殺のメロディーをジャズ・フォーマットで聴けるのが実に新鮮で面白い。そういえば「ジャズ代官」とか「ルパン・ジャズ」なんていうのもあったなぁ...(笑) これからもこの分野はライフワークの一つにしていきたいと思っているが、そんな私が目からウロコというか、思わず唸ってしまった屈指の名演が山中千尋のデビュー・アルバム「リヴィング・ウイズアウト・フライデイ」に収められた③「ア・サンド・シップ(砂の船)」だった。
 中島みゆきが'82年にリリースした傑作アルバム「寒水魚」に収められていた知る人ぞ知る隠れ名曲を見つけてくる彼女のセンスにも脱帽だが、何よりも感銘を受けたのは、潤んだようなピアノの音色でこの曲の髄を見事に引き出し、オリジナルとは又違った彼女独自の哀愁舞い散る世界を作り出していること。そのメロディーの歌わせ方は聴く者の心の琴線をビンビン震わせる絶妙なもので、原曲を知っていてもまるで彼女のオリジナル曲のように聞こえるところが本当に凄い。私の中ではレイ・ブライアント・トリオの「ゴールデン・イヤリングス」やミシェル・サダビィの「ブルー・サンセット」のような大名演と並んで “哀愁のピアノトリオ” の殿堂入りしているキラー・チューンだ。
 私的にはこの1曲だけでも “買い” なのだが、それ以外のトラックもハンパなく素晴らしい。アルバム冒頭を飾る①「ビヴァリー」は彼女のオリジナルだが、大海原の上をゆったりと飛ぶカモメのイラストが印象的なジャケットのイメージそのもののオープニングで、陽光降り注ぐ地中海の海辺のテラスで聴いているかのような開放的なサウンドが耳に心地良い。ブリリアントな午後(笑)にピッタリの “時が止まった感” が味わえる爽やかなナンバーだ。
 アントニオ・カルロス・ジョビンのボッサ・スタンダード②「イパネマの娘」はノーテンキな原曲を換骨堕胎したかのような大胆なアレンジがめちゃくちゃカッコ良く、音の粒立ちのハッキリしたメリハリの効いたピアノに緩急自在なドラムス(←女性です!)と骨太なベースが絡んでいくという硬派な演奏が楽しめる。こんなカッコ良い「イパネマ」には他ではちょっとお目にかかれない。
 アルバム・タイトル曲の④「リヴィング・ウイズアウト・フライデイ」は哀調の③から一転してスピード感抜群の現代的なピアノトリオ・ジャズが展開されており、トリオが一体となって疾走するようなガッツ溢れるダイナミックな演奏は実にスリリング。小柄で可愛らしい外見からは想像もつかないような彼女のハードボイルドな一面が窺い知れる1曲だ。
 リズム・セクションのレベルの高さが分かる⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」、軽やかなリズムに乗ってメロディアスにスイングする⑥「パブロズ・ワルツ」(←これ大好き!)、エキゾチックなメロディーに涙ちょちょぎれる⑦「バルカン・テイル」、静謐な空間で繰り広げられるインタープレイに聴き入ってしまう⑧「ステラ・バイ・スターライト」、テナーのプレイは苦手やけど作曲家としては素晴らしいウエイン・ショーターの曲をピアノトリオ・フォーマットで魅力的にスイングさせる⑨「ブラック・ナイル」、そしてラース・ヤンソンの⑩「インヴィジブル・フレンズ」でアルバムのクロージングを爽やかにキメるという、今時珍しい(←といってももう9年前の録音だが...)捨て曲ナシのアルバムなのだ。
 彼女はこのデビュー盤を含め、ピアノトリオに定評のある大阪のマイナー・レーベル澤野公房から3枚のアルバムを出した後、大メジャーのユニバーサルへと移籍して6枚のアルバムを出しているが、個人的にはノビノビしたスイング感が感じられる澤野時代の盤の方を愛聴している。特にこのデビュー・アルバムは “山中千尋を聴くならまずはこの1枚から” と自信を持ってオススメできる “メロディー良し、リズム良し、スイング良し” と、まさに言うことナシの1枚なのだ。

ア・サンド・シップ


中島みゆき「砂の船」

Spanish Steps / Hampton Hawes

2010-05-06 | Jazz
 5月に入ってからというもの、大西順子に始まりキョロシー、コスタ、ジュディベリ、サダビィと、愛聴ピアノトリオ盤を取り上げてきたが、一見何の脈絡もなさそうでいて実は一つの共通点がある。どれもみなベースがブンブン唸り、ドラムス(特にブラッシュ!)がビシバシ躍動感溢れるリズムを叩き出し、その音の洪水の中からスインギーでグルーヴィーなピアノが聞こえてくるという、剛力リズム・セクション盤ばかりである。逆にリズム隊が脆弱でピアノばかりが突出したようなピアノトリオはソロ・ピアノを聴いてるみたいで全然面白くない。ということで今日は、弾けるようなリズムで “連休の谷間疲れ” を吹き飛ばしてくれるような元気が出るピアノトリオでいきたい(^o^)丿
 ハンプトン・ホーズと言えばドライヴの効いた快適なスイング感が身上のピアニストで、アップテンポの曲で聴かせる軽快でメリハリのあるフレーズは唯一無比の素晴らしさである。そんなホーズの代表作と言えば何故か世間では判で押したようにコンテンポラリー・レーベルの「トリオVol. 1」(1955年)ということになっているが、本当にみんながみんなそう思っているのだろうか?確かに良い盤には違いないが、他にもっと凄い演奏はいくらでもゴロゴロしているように思う。
 ホーズの全盛期は1952年の「ピアノ・イースト・ピアノ・ウエスト」から58年の「フォー」あたりまでで、その直後に麻薬所持で5年の刑を打たれ、復帰した時にはあのインスピレーションが迸る様なプレイはすっかり影を潜めていた。まぁ麻薬が切れたらこんなモンなのかもしれないが、シャバへ復帰後の諸作は駄演凡演の連続で、ホーズは50年代で終わったと思っていた。
 そんな彼がヨーロッパへの旅行中にドイツのSABA レーベルに世評も高い「ハンプス・ピアノ」を録音したのが1967年のこと。確かに新天地の空気を吸ってリフレッシュしたのかホーズもかなり好調なプレイを聴かせているが、収録曲の半分がベースとのデュオという眠たいフォーマットのせいでリズム派の私にはいまいちピンとこなかった。もちろん残り半分のピアノトリオではクラウス・ワイスのブラッシュがスルスル滑って気持ち良いことこの上ない「枯葉」のような名演もあるにはあったが、SABA/MPS 録音ということで音質が良すぎるせいか、アルバム全体を通して私がジャズに求めるガッツに乏しいように思えた。901さん流に言えばガツン!とこないのである。
 で、その翌年に英ポリドール傘下のブラックライオン・レーベルから出たのが何を隠そう私がホーズの最高傑作と信じて疑わない「スパニッシュ・ステップス」。このアルバムの何がそんなに凄いのかと言うと、ドラムスのアート・テイラーとベースのジミー・ウッディという2人のリズム隊が獅子奮迅の活躍で、出がらし状態(笑)だったホーズを奮い立たせ、奇跡的な名演を生み出したこと。アルバム冒頭の①「ブルース・イナフ」からもうアクセル全開状態でスリリングなピアノトリオ・ジャズが展開されるのだが、アルバム中最高のトラックはやはり必殺の③「ブラック・フォレスト」だろう。テイラーのブラッシュとウッディのベースが生み出す原始的ともいえる凄まじいエネルギーが圧巻で、私に言わせればこれこそまさにピアノトリオの理想形なのだ。
 このアート・テイラーと言う人は様々なセッションに引っ張りダコな割にはこれぞ!と言える名演がなかったように思う(←目立たないからこそフロントマンにとっては都合がよかったのかも...)のだが、この曲の後半部のドラムソロにおける狂喜乱舞の体はまさに “太鼓の乱れ打ち” という感じで、彼の一世一代の名演だ。尚、この曲は前作「ハンプス・ピアノ」の1曲目に「ハンプス・ブルース」というタイトルで収められているので、この2つのヴァージョンを聴き比べてもらえれば私の言わんとするところがわかってもらえると思う。
 このアルバムのもう一つの目玉は絶世の名曲②「ソノーラ」が収録されていること。実は前作「ハンプス・ピアノ」にも同名のジャズ・ボッサが入っており、てっきり再演かと思っていたがいざ聴いてみると全く違う曲で、こちらは哀愁舞い散るジャズ・ワルツに仕上がっているのだ。クレジットを見るとどちらもハンプトン・ホーズ作となっている。何で自分の作った2つの違う曲に同じタイトルを付けたんやろ?その辺の事情はよくわからないが、どちらも名曲名演であることに変わりはない。特にこのワルツ版「ソノーラ」は他のピアニスト達もカヴァーしているキラー・チューンだ。
 全盛期を過ぎてもう終わったと思われていたハンプトン・ホーズがヨーロッパの地で作り上げた起死回生の一発と言えるこのアルバム、大音量でかければ自宅が一瞬にしてジャズ喫茶に早変わりする必殺盤だ。

ブラック・フォレスト
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Blue Sunset / Michel Sardaby

2010-05-05 | Jazz
 お気楽三昧でグダグダ過ごしたゴールデン・ウイークも今日で終わり、明日からまた早起きして仕事に行かなければならない。もう気分はブルーそのものだ。ということで今日はそんなムードを反映してミシェル・サダビィの「ブルー・サンセット」でいこう。
 サダビィはカリブ海の西インド諸島にあるフランス領、マルティニーク島出身で、活動の中心をパリにおいている黒人ピアニスト。1970年代に仏デブス・レーベルから数枚のリーダー作を出し、CD時代に入ってからも日本のDIWレーベルなどから何枚ものCDをリリースしているが、彼の最高傑作と言えばやはり1970年にリリースした2枚、「ナイト・キャップ」とこの「ブルー・サンセット」に尽きるだろう。
 彼の一番の魅力はピアノのプレイ云々以前にそのオリジナル曲にある。ジャズ・ミュージシャンの書くオリジナル曲と言うのは大抵の場合、器楽的というか、まず第一に演奏ありきといった感じの無機的な、分かりにくいものが多いのだが、この人の作る曲は違う。日本人好みのマイナー・チューンが多く、それが聴く者の胸を締め付けるのだ。私は彼をベニー・ゴルソンやナット・アダレイと同じく、数少ないジャズの名作曲家だと思っている。
 このアルバムの魅力は何と言ってもタイトル曲①「ブルー・サンセット」に尽きるだろう。 “哀愁のピアノトリオ” なんていう副題が似合いそうな極め付きのマイナー・チューンで、フランス系の黒人という彼のルーツのせいか、独特の間が醸し出す不思議な哀感が胸に迫ってくるのだ。彼のタッチはピアニスティックな美しさを持っており、前半部は一聴白人ピアノ風にシングルトーンでやるせなくも美しい旋律を奏でながらも、その一方でブルージーなフレーズを繰り返しながら徐々に盛り上げていき、臨界点に達したところで一気にブロック・コードの連打でたたみかけ、ラストで又何事もなかったかのように淡々としたテーマに戻るという、実に心憎い構成になっている。低~く伸びるベースも気持ち良く、プレスティッジの「レイ・ブライアント・トリオ」あたりが好きな人は絶対にハマること間違いなしの、哀愁舞い散るスーパー・ウルトラ・キラー・チューン(笑)だ。
 タイトル曲以外も聴き応え十分で、ヨーロッパ臭さを感じさせないグルーヴィーなプレイがたまらない②「オールウェイズ・ルーム・フォー・ワン・モア」(←コレ名曲!)、カリブ直系のファンキーなプレイが面白い③「エンプティ・ルーム」、弾むようにスイングするサダビィにウキウキさせられる④「ウエンディ」、スロー・バラッドを切々と弾き切る⑤「ラメント・フォー・ビリー」、一転ジャズ・ボッサのリズムに乗って気持ち良さそうにスイングする⑥「カム・フロム・ノーウェア」と、サダビィの魅力がギュッと凝縮されたような1枚に仕上がっている。
 尚、このアルバムは写真のゴールド・カヴァーが 1st プレスで海外オークションでも滅多に出てこない激レア盤(デブス・レーベルやから “金パロ” ならぬ “金デブ” やね...笑)なのだが、LP1枚に $900 も出す気などサラサラない私は、ボートラとして同時期のアルバム「コン・アルマ」を1枚丸ごと追加収録した超お徳用日本盤CD で聴いている。アナログLPでよく見かけるジャケ違いの青文字タイトル盤は 2nd プレスで、センター・ラベルがAB面逆に貼ってあるというエエ加減な作り(私の所有している1枚だけでなく全ての盤がそうらしい...)なのだが、タイトル曲①が CD に入っているの(5:35)とは完全な別テイク(4:26)なので要注意。私はより洗練された感じがする CD ヴァージョンの方を愛聴している。

ブルー・サンセット