近所に喫茶店が新しくできました。
コーヒーは私は自分で入れたコーヒーが一番旨いとかってに思っていますが、時々はこの喫茶店に行っています。
若い店主であまりコーヒーのことを知らないのに喫茶店が好きと言うだけで始めたお店なので、コーヒーの蘊蓄を一席ぶつのに丁度良い相手なのです。
しかも、所謂余所者なのでこの街のことも詳しくないし、町の役員としてはこの街のことを教えると言う名目もあるのです。
それに、マスターの奥さんがちょっと感じの良い子なので、その面でも応援のつもりで通ってます。
「暑くなりましたね、金魚さん」といつものように奥さんと挨拶してから「マスター、今日は眠気覚ましにカフェインの多い濃いコーヒーをお願いします」と言ったのです。
コーヒーを知ってる人だと、嫌な注文する客だなぁとお思いでしょうが、これもマスターへの愛のムチ。
案の定マスターはエスプレッソ コーヒーを出してきました。
はい、もう、うれしくなる展開です。
「マスター、俺が注文したのはカフェインの多い濃いコーヒーだ」
「ええ、ですからエスプレッソのコーヒーを時間をかけて抽出して」と言うのです。
「もう、だから素人は困るんだよ」うれしい、まんまと罠に嵌まったのです
実はカフェインの量を比べるとエスプレッソは少ないんです。
味は確かにエスプレッソが濃いですよ。
ですが、コーヒーのカフェインの量で比べると、アメリカンコーヒーの方が多いんです。
それは、豆の焙煎によって変わるからなのです。
コーヒー豆は、焙煎時間が長ければ、カフェインは少なくなります。
エスプレッソは、時間をかけて豆を焙煎する深煎りの豆を使うため、カフェインは少なくなるんです。
逆に、アメリカンコーヒーは、焙煎時間が短い浅煎りの豆を使うため、その分カフェインが多くなるんです。
「もう少し勉強してね、喫茶店の店主なんだから」と言ってあげるのです。
うれしいですね、若い人に一席ぶち上げられるなんて、年寄りの楽しみ。
もちろん、この街のことも教えてあげてますよ。
あの「腐る鴨」とか、「マスカットシャンデリア」とか色々面白い人の話も教えてあげました。
暑い時期だと、アイスコーヒーも飲みますけど、私はやっぱり夏でも熱いコーヒー党です。
今日も若いマスターをちよっと虐めて楽しもうかと思って、喫茶店に行ったのです。
「マスター、濃いコーヒーが欲しいな」と注文したのです。
「濃いコーヒーですね。分かりました」
マスターがうれしそうにコーヒーを入れています。
どんなコーヒーを持ってくるのかなと、ワクワクして待っていたら私にアイスコーヒーを持ってきました。
「マスター、私はアイスは飲まないの知ってるだろう」と言ったのです。
「濃いコーヒーと言われたので、これはホットでは難しくて」と言って私の前にタンブラーでアイスコーヒーを出したのです。
「でも、アイスは」と言いながら、タンブラーを見たのです。
濃茶色の液体の中に魚が泳いでいました。
「これは」
「ご注文の鯉コーヒーですよ。腐る鴨の人に特別に鯉を小さくして貰ったのです。金魚さんに出すと言ったら喜んで作ってくれました。金魚さん、人気あるのですね」と言われてしまいました。
チクショー