Senboうそ本当

広東省恵州市→宮崎県に転居。
話題は波乗り、流木、温泉、里山、農耕、
撮影、中国語、タクシー乗務、アルトサックス。

中国映画 『活きる』

2017年03月27日 | 中国語のこころ(宮崎)

日本では2002年に公開。いつもは中国語のリスニング力を鍛えるというのが狙いで私のお気に入りの映画を取り上げてますが、今回は別の意味が。この作品を見ると中国の近代史を庶民の目線から疑似体験できます。時代に弄ばれボロ雑巾のごとく成り果て、それでも歯をくいしばって生き抜いてきた家族の生き様、圧倒的なリアリティーを感じます。文化大革命が時代背景ではありますが、政治批判というよりはむしろそれを司る生身の人間の愚かさを描いた作品。張芸謀(チャン、イーモー)監督作品の中では私のイチ押しで、10回以上はDVDで鑑賞してます。

中国語の原題は「活着」です。同名小説を原作として映画化されました。原作者は余華。映画化に際して脚本執筆に参加しています。張芸謀の作品が最初に日本で紹介されたのは1989年の『紅いコーリャン』です。『活きる』は1993年に製作されていますが日本での公開は2002年まで待たねばなりませんでした。第47回 カンヌ国際映画祭(1994年)でグランプリを獲得していますが文化大革命という地味な題材では観客動員が見込めなかったからだと思います。これより後に製作された『あの子を探して』『初恋のきた道』が2000年に日本で公開されヒットしたので、その勢いを借りてやっと日本での公開が実現しています。

文化大革命の時代が描かれた映画と言えば監督:陳凱歌(チェン・カイコー)主演:張國榮(レスリー・チャン)の『さらば、わが愛/覇王別姫』が有名ですが、実はこの映画とほぼ同時期に製作されています。こっちは香港・中国の共同製作で1994年に日本で公開されヒット。日本でも不動の人気を誇っていたレスリー・チャンが女形を演じたという話題性だけでなく、中国の伝統文化「京劇」と近代史の悲劇「文化大革命」を真正面から描いた堂々たる演出で、チェン・カイコー監督の代表作です。この映画が日本でヒットしていなければ『活きる』の日本公開は実現してなかったかもしれませんね。

映画の冒頭は1940年代、賭博上でサイコロ博打に溺れる20代の若旦那「福貴(フーグイ)」。眼は虚ろで、退廃的な空気をまとっています。芸事には通じており、影絵芝居の弾き語りをさせたら玄人並みの腕前。奥さんの「家珍(ジァチェン)」が何度も懇願して博打から足を洗わせようとしますが聞く耳を持ちません。2人の服装や装飾品はきらびやか、裕福な家柄です。博打仲間の「龍二(ロンアル)」に毎晩負け続け、借金台帳への書き込みが山のように堆積していきます。そのあげく先祖代々のお屋敷を借金のかたで取り上げられ、一家は路頭に迷うことに。そんな人としてまるでいいところ無しの男が主人公ですから、感情移入しようがない。むしろ不快に感じる観客がほとんどだと思います。
でもストーリーを追っていくうちにこのだめ亭主の違う面が見えてきます。「福貴」と同じ目線で時代に翻弄され、気が付けば「福貴が家族の元へ帰れること」を一緒に願う心境に。内戦に飲み込まれ 「国民党軍に参加」→「共産党軍に参加」 と話の展開もめまぐるしく、そのあたりは中国近代史の予備知識がないとちょっと分かりにくいかも。

1940年代: 国共内戦 及び 三反五反運動
1950年代: 大躍進(毛沢東の時代)
1960年代: 文化大革命(権力のバランスが崩れ、政治は迷走)

張芸謀監督はその後も文化大革命を題材にした映画を2本作っています。
2010年 『サンザシの樹の下で』(原題:山楂樹之恋)
2014年 『妻への家路』(原題:帰来)

なぜなら監督の生まれは1951年。最も多感な10代に文化大革命(1966年~)の洗礼を受けています。15歳の時に文化大革命が起こり下放され農民として3年間、工場労働者として7年間働き、25歳になってようやく北京電影学院撮影学科に入学を許可されています。ただしこの題材は下手に扱うと現政権(共産党)への批判ととられかねません。この『活きる』も、しばらく中国国内で上映禁止となっていました。

 

皮影戏

だめ亭主「福貴」が生まれ変わっていく過程で大きな役割を果たす影絵芝居ですが、中国では「皮影戏」と言い、2000年以上の歴史があります。豚の皮を薄くなめして乾燥させると半透明のシートになるのですが、これを登場人物の型に切り取って、彩色して、可動部の関節などを加え白いスクリーンに投影させます。こうすれば黒のシルエットではなく天然色の影絵が楽しめます。人気演目の一つに「西遊記」があります。筋斗雲(きんとうん)に乗った孫悟空が暴れ回わる「西遊記」はまさにハリウッド製SFX映画の元祖。こんなぶっ飛んだイメージが500年も昔に登場していたなんて驚きです。「皮影戏」という大衆娯楽から受けた影響も少なくないと思います。


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