つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

イメージ、ぜんぜんちゃうんですけど

2006-10-27 20:07:51 | ミステリ
さて、表紙よりもずっとかわいく見えるぞの第696回は、

タイトル:妖怪探偵犬姫
著者:前田朋子
出版社:彩図社 ぶんりき文庫(初版:H12)

であります。

たまには、加納朋子以外のふつうのミステリでも読もうかと思い、手に取ってみた。
とは言え、「○○殺人事件」とか、そういうのでないところが私らしいのかもしれないけど。

さて、本書は第一章から第三章の3編が収録されたミステリの連作短編集。
主人公は安倍俊明。浄念寺と言う寺の明恵和尚に何故か気に入られているふつうの高校生だが、ある日、浄念寺の裏手にある通学路の通称「かまいたちの道」を帰宅途中、1匹の犬に出会う。
首に数珠をかけたその犬は、あろうことかひとの言葉を話し始め、俊明を「しゅんめい」と呼ぶ。この犬は、鎌倉の世、人魚の肉を食べて不老長寿を得た八百比丘尼犬姫いぬきと言う人物が、俊明しゅんめいと言う修行僧によって姿を変えられた女性だった。

そんなふたりが町で起きる事件を解決するミステリ、と言うわけ。

「第一章 火車」
犬姫とともに帰る道すがら、ある公園で起きた殺人事件。すでに警察で隔離されたそこで犬姫は、被害者のいた場所にある何本ものタバコの吸い殻に疑念を抱く。

「第二章 かまいたち」
クラスメイトの由紀子から、友人の谷本リサが「三光天の会」という宗教団体に傾倒していることを相談された俊明は、犬姫とともに三光天の会を探っていた。
そのさなか、ある神社の駐車場で、そして被害者の家で、老人が殺される事件が起きる。三光天の会が用いる各種の宝珠、方角などから犬姫はあることに気付く。

「べとべとさん」
立ち直ったリサを慰める意味もかねて、近隣の大学の学生と合コンをすることになった由紀子は、合コンの場の流れで、同席した大学生の友人で料理の得意な青年の家で鍋パーティをすることになる。
しかし、合コン以来、由紀子は誰かにストーキングされている気配を感じるようになり、さらに鍋パーティの料理を担当する青年が卓上コンロのボンベが原因で焼死、また合コンに来たひとりも殺されてしまう。
殺されたひとりに渡されていた手紙……そこに残る違和感に、犬姫は何かを感じ取る。

各編とも、寸評はなし。
だって、構成はほとんど一緒だもん。
第一章は、犬姫と俊明の出会い部分があるものの、ストーリー展開は、

「事件」→「現場に残された遺留品や謎を解く小道具を見つける」→「犬姫が推理」(読者にヒントを与える)→「ネタばらし」

まぁ、短編なので大がかりなトリックを仕掛けるのが無理なのはわかるが、推理からネタばらしまでが短く、またネタばらしに視点が犯人などに変わる、など、いまいち主人公の俊明や犬姫が解決に関わった、と言う印象が希薄。
ネタを読者に提供し、さぁ推理してくれ、と言って、その後すぐに答え合わせをするような感覚で、おもしろみがない。

それに、トリックがどんなものであろうと、「このストーリーや登場人物だと、たいてい犯人はこいつだよな」と思ったら3編ともビンゴ。
半分も読まないうちに、トリック以前に犯人が割れてしまう設定などの安易さも、トリックに頭を捻る気になれない要因。

全体的にミステリとしてのおもしろさは、かなりいまいちではないかと思う。
ただ、第一章の中で出てきたネタを第二章の前ふりに用いるなど、連作としての繋がりは悪くない。
もっとも、それくらいしかいいところがない、と言えるのだが……。

それにしても、この作品、表紙はすごいリアルな犬の正面からの絵が描いてあるのだが、中身の犬姫はライトノベルに出ても通用するのではないかと思えるくらい、かわいらしい面を見せたりして、表紙と中身のギャップが激しい。
もっとも、中身の軽さはどちらかと言うとライトノベル向きかもしれない。

総評、落第。